私は……私の名前は『
種族は《死神》、能力は《記録を再生する程度の能力》を持っています。
……え~と、私は元々《人間》でした。
周りに居る《大切な人々》のお蔭で、今の私があると思う。
「おや牡丹、アンタも仕事かい?」
「……うん」
同僚が私の隣で仕事の準備をしている。
……でも彼女はこの後寝るんだろうな。周期的に考えて。
……今日も私は、罪人の罪を数える。
うってつけの能力を持つ私に、うってつけの職場が私を待っている。
一言で『死神』……って言っても、様々な種類・役職がある。
魂をあの世へ導く『お迎え』……それらを彼岸へと運ぶ『船頭』……。
地獄の裁判で罪を書き記す『冥官』……地獄で罪人を取り締まる『獄卒』……。
私は『冥官』の役職に着いた死神。
閻魔の隣で、魂達がどういう生き方をして、どのような罪を重ね、そして彼等は天国行きか地獄行きかを閻魔帳に書き記す、地獄の役人。
……こうやって、罪を数え始めて、既に700年が過ぎた。
あの時、彼女に話した夢は……今はもう、夢じゃない。
こうして過ごしていく内に、現実が漸く視えてきた。
『完全な相互理解の出来る関係』など、有り得ないって。
「牡丹、次、お願いします」
「……はい」
今、私に次の魂を呼ばさせたヒトが、私の上司の『
彼女は『閻魔』で、能力の『白黒はっきりつける程度の能力』を使って、死者を裁いている。
友達の上司、そのヒトの交遊関係を伝って、私は映姫さんの下で働く事になった。
あっ……別に私は今の環境を悪くは思ってないよ? ……寧ろこのヒトの下で働けて、本当に良かったと思う。
自分の間違いが正せたと思うし、気軽に話せる友人も出来た。
……自分がこんなに変われたのは、映姫さんや同僚のお陰。
無論、切っ掛けを造ってくれたあのヒトも。
詩菜さんや皆に、お礼を言いたい。
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……私は、ここ『あの世』に来て、『死神』となって彼岸に住み始めて、見る事やる事、そのどれもこれもが始めて知る事ばかりだった。
簡単な力で跳びはねれる身体の使い方、意識せずとも自由に空を飛ぶ術……魂の行方、罪人や天界に行く魂について、死神としての魂の刈り方など、色々教えてもらった。
役職に就く事が出来る、一人前の死神として、私は私の鎌を手にする事が出来た。
今までは単なる『保護者』だった映姫さんが……私が冥官になった事で『上司』にもなった。
「これで貴女も一人前です。前のように優しい態度では接しません。『一人の上司』として、貴女と接しますからね?」
……なんて、厳しい事を言いながら、目元にうっすら涙を浮かべてたのはよく覚えてる。
……本当、あのヒトは素直じゃない。
映姫さんの下で働き始めて、同僚も何人か居た。
……何でも話す事が出来る同僚、『
私達は性格も体格も正反対で……なのにすぐに意気投合した。
私は無口無表情で真面目な性格なのに、小町はマイペースで良く仕事を放棄して休もうとしちゃうヒトだった。
映姫さんは『小町も貴女のようにしっかりしてくれれば……』なんて度々愚痴ったりしている。
……ほら、また怒られてるし。
「小町っ!!」
「ひゃあっ!? えーき様!?」
ふふふ、なんやかんやでこれが日常になってる私。
なんだ……いつの間にか、夢は夢じゃなくなって、夢は現実になってる。
……楽しい……。
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映姫さん、小町、私は八雲紫という妖怪が創った《幻想郷》という場所を担当する事となった。
それも……つい最近の話。
私達は休憩の時間がちょうど重なり、一緒にお茶を飲んでいた。
「八雲さん、という方はどのような妖怪なんですか?」
「そうですね……彼女は《境界を操る程度の能力》を持ち、万物の創造と破壊をも司る事の出来る、神のような能力を持った妖怪です」
「……凄いですね」
「……胡散臭い、底知れない妖怪だった……」
「え、牡丹も遭った事あるのかい?」
「……ここに連れてきてくれたヒトが……八雲さんだったよ……?」
「あれ? 詩菜って妖怪が連れてきたんじゃないのかい?」
「……あのヒトは、八雲さんを紹介した……してくれたヒトだよ……?」
「そう、だったっけ?」
「……そうだよ……」
小町に何回も話したと思うんだけどな……?
……それとも……話す度に忘れちゃっているのかな……?
「その詩菜さんは逢ってみないと分かりませんが……八雲さんには充分に注意しなさい」
「……やっぱり、危険なんですか?」
「危険、という訳ではありませんが、些か面倒な事になるやも知れませんよ」
でも、そんなヒトの部下である詩菜さんは、そんな面倒な顔をしてなかったような気がする。
胡散臭い笑みを浮かべていた八雲さんを、更に煙に巻いていたからかな……?
「……さて、休憩もそろそろ終わりにしましょうか」
「えぇー……」
「……ほら、小町……行こう?」
「やる気出ないわよ~……わぁ、分かりました分かりました!! 分かりましたから映姫様!? 懺悔棒振りかぶらないで下さい!?」
「貴女はさっさと仕事をっ、しなさいっ!!」
「あいったぁー!?」
『怠惰』と『サボリ』といった文字で真っ黒になった懺悔棒で、小町が思い切り叩かれる。かなり良い音が辺りに響く。
……うわ……痛そう……。
「懺悔滅罪!! 反省しなさい!!」
「……はい……」
……とか言って、結局小町は明後日辺りには、性懲りもなく休んじゃうヒトだ。
そこが小町らしいんだけどね。
さ、仕事仕事。
「はぁ……牡丹、行きましょうか」
「はい」
「……どうかしましたか?」
「え……?」
「何やら面白い事でもあったのですか? 笑ってますよ?」
……自分の顔を触ってみるも、特に歪んでたり笑ったような形にはなっていない。
「ああ、いえ。表情ではなく、楽しげな雰囲気が出ていましたよ? と言いたかったのです」
「……私が、ですか……?」
「……何百年付き合っていると思っているのですか……それくらい、視ずにでも分かりますよ」
「……」
ふふ……なんだろ、この気持ち。
笑い合える友達、通じ合える……家族。
温かく、とても嬉しい気持ち。
「……私は……いえ、私にとって映姫さんは……母のような存在です……」
「なっ……!?」
「……でも私には、親殺しの罪があるから……迂闊にそういう事を言うのは、罪かも知れません……」
「……」
「でも……」
でも、ここまで親身になってくれた保護者の映姫さんには、本当、感謝し尽くせない程の感情を私は抱いている。
けどそれを誤魔化そうとするのは、私の能力が許してくれない。
全てを再生するには、一度記憶しないといけないのだから。
だけど私は……、
「……映姫さん……急がないと、遅れますよ……!」
「えっ……? あっ、そうでした! 急がなくては!」
……単なる上司だけど、単なる保護者だけど、親殺しの罪がある私だけど、血の繋がりも魂も関係無い、本当に赤の他人なんだけども、
だけど私は、私の中でだけで良いから映姫さん、貴女の事をこう呼ばさせてください。
『お母さん』……と。