風雲の如く   作:楠乃

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 寒くなるとね……手の指がね……かじかんでキーが打てないの……(´・ω・`)





説明

 

 

 

 さてさて、自宅に到着した。

 ……自宅っていうか、まぁ、『私』の家なんだけどね。

 

「……で、お前はどうするんだ?」

「ん? 何が?」

「だから……俺の家に『そのまま』の状態で押し入る気か?」

「あ、そういう事ね」

 

 変化、鎌鼬。

 

 

 

 これで姿は見えなくなった。

 私も何も触れなくなるけど、ちょっとした隙間があれば入り込めるし、突風を起こせば物を押す位は出来る。

 まぁ、逆に移動する時も周りに風が流れたりしちゃうんだけどね。東風谷にバレたのもそれが原因だし。

 これはまぁ、仕方ない。うむ。

 

「ホイ! これでオッケーでしょ。まぁ、話し掛ける時は誰にも聴こえない所でやるよ」

「ああ……是非そうしてくれ」

 

 瞬時に私が透明になったのを見て、『私』から私へと妖力が流れ込むのを感じる。

 目の前で恐怖っていう感情が発生した訳だ。どうやら私の事、『存在』もキチンと認識しているらしい。

 喜ぶべきか、それともそういった非日常的な事柄を識っている事を、嘆くべきか……。

 

 

 

 『私』がポケットから鍵を取り出し、玄関の錠を開く。

 少しばかり手間取ったりもしたが、ようやく解錠して、『私』の我が家へと、帰ってきた。

 自転車を玄関に押し入れ、荷物を籠から取り出して、靴を脱ぐ。

 

「……ふぅ……ただいまー」

 

 ……私も、何か言うべきなのかな?

 この家は私の家ではなく、『私』の家だ。

 でも……『お邪魔します』は、何か違うような気がする。

 

 やっぱり、私の家じゃないけど、こう言うのが一番しっくり来る。

 

 ………………ただいま。ってね。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 ……あぁ……物凄く懐かしい……。

 この窓を開いているにも関わらず、無駄にくそ暑いこの家。

 

 私は、帰ってきた………。

 どんどん……昔の事を思い出してきた……千年も、昔なのにね。

 

 

 

 『私』は学校の荷物を置く為や着替える為に、居間へ寄らずにそのまま自分の部屋へと向かった。

 狭い廊下を曲がり、時たまコオロギが潜んでいる物置の上にある、階段を登って二階に向かう。

 冬物が床に散らばったり洗濯物が干されていたりする部屋を素通りして、自身の部屋へと入っていく。

 

 そう、私はここでゴロゴロしながらウトウト微睡んでいて、気付いたら大空の下に居たんだ。

 この……『私』の部屋で。

 

 覚えてる。あの四角い卓袱台も、ライトノベルで半分も埋め尽くされている本棚も、寝汗を吸い込みまくったベッドも、親戚から譲り受けた勉強机も、学校の授業で造ったウクレレ、映らない古いテレビ、あの時の、読み掛けだった本……。

 

 ……ッッ、いかん。涙出てきた……!

 懐かしすぎるし……猛烈に、あの頃に戻りたい!

 

 でもっ……ここは私の家じゃない………………私の部屋じゃないッ!

 

 

 

「……なぁ?」

 

 ちょっと……今話し掛けないでよ。涙声なんだから……。

 今絶対に声を出したら嗚咽が出てくる。悔しさとか、よく分からない感情と一緒になった声が、出てきちゃう。

 

 ホント、鎌鼬で良かったよ……衝撃を操れる能力があって良かった。

 『自分』に自分の泣き顔を見せちゃうなんてさ……嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前、俺の着替えまで覗く気なのか?」

 

 

 

 ………………。

 

 ……開かれていた襖を突風で思いっきり閉める。

 うっかり風の刃で服を切り裂いてやろうかとも思ったけど、何とかそれは自制してやろう。

 

 バンッ!!

 

「うおっ!?」

「……早く着替えな」

「りょ、了解……」

 

 ……はぁ……。

 何と言うか……雰囲気が台無しだよ。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 ……『私』の家は、実に蒸し暑い家だ。

 

 陽の当たり方や時期によっては、外の気温よりも中の気温の方が高い。という事もあり得る。

 しかも『私』の部屋は、家を真上から見下ろすと南東の位置にある。

 朝から直射日光が当たり、真昼にも太陽光が降り注ぐという、ある意味で最悪な位置にあるのだ。

 

 朝のニュース番組で、『快晴・最高気温は30℃』なんて表示が出れば、この家は確実に34℃まで行くであろう。

 それほどの家なのだ。私の母親なんかは『40℃を指す温度計を幾つか見た』なんて言うほどである。

 おかしいよ……この家は建築基準法とかそこら辺を違反してるって。絶対に。

 この言葉はあの時の私、私達家族が出した結論でもある。

 

 とか、そんな事を考えている間にスーッと襖が開き、私服姿になった『私』が出てきた。

 涙? 何それ? 美味しいの?

 

 

 

 しっかし……うむ……やはり、服のセンスは私とそれほど変わらないなぁ……。

 言いたくはないけど………………今も『昔』も変わらんね。服の選び方、着こなし方は。

 

 

 

 そのまま『私』は下に降りていこうとしたので、追い付いて声を掛ける。

 

「しばらくウロウロしてるから。私の事は御構い無く」

「御自由に……迷惑は掛けんなよ」

「善処するよ」

「オイ」

「んじゃ」

「……はぁ」

 

 そのまま『私』は階段を降りていった。

 大方、喉が渇いて水でも飲もうとしようとしているのかね。

 ま、とんでもない程の汗が滲み出るからなぁ。この家。鎌鼬状態の私でも汗を掻いてしまうのではないだろうか。

 

 

 

 さてさて、

 『私』の部屋と同じ階にある、私の兄と同じ苗字を持つ『私』の兄の部屋へと向かう。

 

 この廊下も変わらないねぇ……相も変わらず汚い廊下だ。ホコリが四隅どころか、壁の真下に溜まっている。

 『昔』も今も、兄弟は掃除をするのがめんどくさいようである。

 

 

 

 何はともあれ、隅に溜まった埃を動かさぬよう、空中をフワフワ浮いて廊下を進む。

 薄暗い廊下を渡り角を曲がれば、兄の部屋に到着。

 

 衝撃音の確認はしていたから推測は出来ていたけれど……どうやらまだ兄は帰ってきていないようだ。

 整理整頓された部屋。

 コンセントに繋がれ充電している携帯ゲーム機。

 壁に貼られた達筆な謎の文字。

 その隣に飾ってあるのは、何故か骸骨。

 

 ……相変わらず、変な御仁だ。

 完璧カリスマゲーマーとは、過去の私も巧い事を言った物である。

 

 機械によく分からん所で詳しいわ、相手によって一人称がコロコロ変わるわ、ネット用語やネタには詳しいわ、三流高校から県内トップの大学に一発で合格するわ、歴代RPG最強ボスに攻略情報無しで自力で倒すわ、何でもアリだったなぁ、あの人。

 あの骸骨も、照明としても使えるぞと過去の私に自慢してきて、紫色の蛍光色に光る骸骨を見せ付け顔に押し付けられて涙目になったのも、今となっては良い思い出……うん……? いや、良くないわ。うん、良くない思い出……。

 

 ……今だから言えるけど、実は人じゃないのでは……?

 こんな世の中……というか妖怪や神様が存在するんだし。

 いかん……そう思うとそんな気しかしてこなくなってきた……。

 

 

 

 

 

 

 そんな暢気な事(?)を考えながら捜索している内に、辺りはもう真っ暗になってきた。

 壁に掛かったアナログ時計を見ると、既に七時半。もう御飯時かな?

 

 ……お、噂をすれば良い香りが漂ってきた。

 今日のご飯はなんだろなっ♪

 

 まぁ……私は食えないけどなチクショウ!!

 

 

 

 

 

 

 階段を降り、居間へ入り込む。

 お、今日は鮭ですか。

 つまり私の記憶通りなら、いつも通りですかそうですか。

 

 ……『私』の母親は、私の母親と良く似た人だった。

 名前は違っても、顔や性格に差はないみたいだ。昔の私と同じ事を『私』が注意されてる。確かに(ようかい)となっては既に直した癖ではあるけど、猫背過ぎだぞ私。

 

 どうやら父親はまだ帰ってきていないみたいで、机には二人分のご飯とお味噌汁しかない。

 まぁ、これも私は衝撃音を確認していないし、寧ろ居たら居たでかなり私は驚く。能力で驚かないけど、驚く。

 

 

 

「お兄ちゃんは?」

「バイト。帰ってくるのは夜遅くになるんじゃない?」

「ふーん……」

 

 『私』よ。ナイス。

 さて、これであの兄者が帰ってくる時間帯が分かった。

 後は、待つだけか。

 

 

 

 ……しかし……。

 

 待って、逢って……どうするのかね……私は……。

 『私』と私が出逢ってしまったように、また話し合ったりする気……とか?

 

 ……いや、そんな気は……ない。筈……。

 『私』に姿を現してしまったのだって、あの祓魔師(こちやさなえ)のせいなんだし、私に『今の私』に接触する気はなかった筈なんだ。

 それが……まぁ、こんな事になってるんだけどね。

 

 ……多分、私はこんな事を言っていても、結局あのお兄ちゃんに話し掛けてしまうのだろう。

 それが幻想に引き込んじゃう、タブーのような行動であったとしても。

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 ハッ、として顔をあげると、既に母親や『私』は食事を終えていた。

 母親はそのまま食器を洗う為にキッチンに向かい、『私』は着替えを持って風呂場へと向かった。

 

 

 

 ……ちょっと覗いてみようかな♪

 

 引戸と壁の隙間に身体を通し、脱衣場に潜入。

 しかし残念! 既に『私』は服を脱いで浴室に入っていた!

 

 ……ま、実際に志鳴徒と『私』の体格の差なんて、無いに等しいんだけどねぇ……? ふふふあははは♪

 前からも言っているが、空気が通り抜けれる程の隙間があれば、問題なく私もすり抜けれるのである。

 

「お邪魔しまーす♪」

「……お前には『恥じらい』というモノがないのか……? 一応は女だろ?」

「一応は失礼すぎない? というかそんなの、長生きしている間に萎えちゃったよ」

「萎える言うなし」

「まぁ、私が姿を現さなきゃオッケーっしょ?」

「……振りじゃないよな? よくあるパターンの全裸の幼女とか」

「そんなアホな自爆なんてしないわよ……大体、私は幼女じゃない」

「小学生が何を言う。あの姿は小学生だろ」

「中学生ですぅ」

「変わらんだろ」

「失礼な。全国の中二に謝りなさい」

「何故そんな限定的な」

「てけとーに」

「そっか。じゃあ仕方無いな」

「でしょ?」

「うむ。俺が悪かった、スマソ」

「謝る気ないよコイツ」

「何故分かったし」

 

 

 

 ……そんな軽い(?)言い合いをしつつ、出窓に腰掛ける。

 

 温泉に浸かって私も久々に身体を洗いたいな─。

 ゆっくりと身体を伸ばしたい。長い間旅も続けてきたしなぁ。

 ……とか、『私』がゆっくり浸かっているのを見て考えた所で、はたと気付く。

 

 身体の調子が、今日の朝から格段に良い。

 

 まぁ、恐らくは『私』のクラスメイトからの恐怖のお蔭なんだろうね。

 私は鎌鼬だという『証拠』である能力や爪を魅せずして、妖怪の源である『畏怖』を簡単に集める事が出来たという事だ。やったね。

 

 

 

 

 

 

「……何で、お前は俺に、憑き纏うんだ?」

 

 唐突に『私』が質問してきた。

 それも……かなり本題へと踏み込むような、質問を。

 

「……何でだと思う?」

「分かんねぇから訊いてんだ」

 

 ……うん、この辺りが実に私らしいって思うね。

 今も『昔』も、私は変わらないって実感がどんどんと湧いてくるね。ありがたい。

 

 

 

 さて……何で、自分に憑き纏うか…… ねぇ……。

 

「……ふむ……『ある所に、一人の学生が居ました』」

「は?」

「『学生はオタクでした』」

「まぁ……良くあるパターンだな」

「『学生はライトノベルを読んでいると、だんだんと眠くなり、遂に寝落ちしてしまいました』」

「……それで?」

 

 だんだんと話が見えてきたみたいだねぇ。

 

「『学生が起きてみると、周りには愛読していた本も漫画もなく、それどころか自分の部屋さえなく、そこにはただ青い大空が拡がるだけでした』」

 

「『その学生は必死に考えました。自分の状況が一体どうなっているのか、どうしてこうなったのか。けれども幾ら考えてみても分かりませんでした」

 

「『そうして考えていく内に、自分がどうして生きているのか? 自分とは何者なのか? という無駄な問答に辿り着いてしまったので、そのうち学生は考えるのをやめた』」

「何処のカーズ様だ。それは」

「はは、冗談冗談♪」

 

 

 

 でもまぁ……あながち間違いだとも言えないと思うけどねぇ。

 

「『学生は、過去を振り返るのを止めて、自分という今を改めて生きてみよう。と思いました。するとどうでしょう。良く自分の身体を見てみると、過去の自分とは似ても似つかない奇妙でおぞましい生き物に、学生はなっていました』」

 

「……」

 

「『学生は、それでもこれが今の自分なのだから、自分を否定せず強く生きようと心に決め、新たに歩き出したのでした』……おしまい」

 

 ……さて、脚色した部分も色々あったけど……、

 

 

 

 変化、詩菜。

 

 

 

「感想を、聴かせて欲しいな♪」

 

 ────────────ねぇ、『私』?

 

 

 


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