風雲の如く   作:楠乃

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お茶をどうぞ?

 

 

 

「まぁ、ゆっくりしていきなさいな」

「はぁ……お、お邪魔します?」

 

 普通に綺麗で掃除も行き届いている明るい家。

 性格が自宅に反映されるとしたら、とてつもない家なんだろうなぁ…という予想はあっさり外れた。

 

 ……まぁ…本人からすりゃ、心外も甚だしいって感じになるのかな?どうでもいいけど。

 

 風見のお家に、お邪魔中。

 どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハイ、Herbal tea」

「あ、どうも…」

 

 …発音凄いなぁ……。

 どうやってあの音を出してるんだろ?とは学生の時の記憶。

 

 椅子に腰掛け、テーブルに出された二人分のティーカップ。

 辺りをどう見渡しても、今の時代には決してそぐわない洋式の数々。

 向かいに風見が座り、両肘を机に着いてこっちを見てくる。

 

 明らかに味の感想を言って欲しそうな雰囲気。

 ……ほんと、どうしてこうなったんだろ…。

 

 恐る恐るカップを持ち上げ、ゆっくりと口をつけて飲んでみる。

 

「……んむ、美味しい…」

「ふふ、そう言ってくれると嬉しいわ」

 

 まぁ、可能性として毒が入っているとかも考えたけど、特に異常も感じられなかったし、どうやら無いようだ。

 私の感想を聞いて、風見も飲み始めたし。

 

 

 

 ……ん?…あれ?

 

「……妖力が回復してる?」

「混ぜ合わせたハーブの効力よ」

「へぇ~、流石というかなんと言いますか…」

 

 妖怪にも効くんだね。

 …ハーブってもともと日本にあるんだっけ……?

 

 ……まぁ、どうせこの人が持ち込んだりしたんだろうな…。

 

 

 

「…ごちそうさまでした」

「どうかしら?身体の調子は?」

 

 一口飲んだだけで自覚出来る程の量を回復したからなぁ……。

 

「ほぼ全快しましたよ。有り難うございます」

「そう、それは良かったわ」

「……?…」

 

 ……この人なら『回復したのならもう一回殺るわよ!』とか言いそうなのにな…?

 

 

 

 等と考えながらじろじろと風見の顔を見ていると、苦笑しつつも答えてくれた。

 

「…そこまでBattle Junkie(バトルジャンキー)じゃないわよ」

「だから人の心を読まないで下さい…」

「読みやす過ぎるからいけないのよ」

「ええー…私が駄目なんですか……?」

 

 練習してみるか?『ポーカーフェイス』…やり方知らないけど。

 ……そんな解りやすいかな……?と顔を撫でてみる。意味が無い事は分かっているけどね…。

 

 

 

「…それに約束もあるし」

「……ん?約束?」

「いいえ……それにそんな固くならなくても良いわよ?呼ぶのも幽香で良いし」

 

 …なんで私が貴女の事を『風見』と呼んでいる事がわかったし。一度も呼んでない筈なのに…。

 ……本当にそういう能力でも持っているのか…?

 …って事は……妖怪『サトリ』?

 

「幽香…で良いんだよ、ね?…で幽香って何の妖怪?」

「妖怪の種族『妖怪』よ。貴女は?」

「私は『鎌鼬』…妖怪の『妖怪』?……つまりサトリとかじゃ無いの?」

「……貴女、もうちょっと自分の顔を意識しなさい。していればそんなバカみたいな発想は出ない筈よ」

「…す、すみません……?」

 

 ……なんで結局私が怒られてる感じになってるの…?

 顔と馬鹿みたいな発想に一体何の関係性が……?

 

 

 

「んじゃ、ハーブティーも御馳走になっちゃったし、そろそろ行くとするよ」

 

 そう言ったのは、私がハーブティを既に三杯も飲み干した後の事。

 妖力もコレで完全回復してしまった。恐るべし幽香のハーブティ。

 

「…ねぇ?貴女。旅をしているのでしょう?」

「ん?うん。ちょいと放浪を」

「そう……まぁ、もっと身体を鍛えて来なさい」

「……そしてまた勝負、って訳?」

「三問目正解♪」

 

 あ、そのネタまだ引っ張ってるんだ……。

 

 ……ん?

 今のは、幽香の声じゃ……無い?

 

 

 

「あら、出てこないつもりじゃなかったの?」

「フフフ、端から見てるだけじゃ面白くないもの」

 

 幽香がいきなり虚空に喋ったかと思うと、それに答える別の声が辺りに響く。

 いきなり空間に線が走った。その線の両端に、これまた可愛らしいリボンみたいなのが結ばれている。

 線が開き中から表れたのは、これまた日本文化じゃなさそうな服装を着込んだ日本人じゃなさそうな人。

 つまり妖怪。人外。恐るべき力を持った者共。

 

 金髪に大きな傘、紫色が強調された服装。その手には意外にも日本の扇子が1つ。

 つまり、大妖怪。災害を引き起こすアヤカシ。

 

 

 

 じろじろと視る必要も無かった。

 

 ……駄目だ…この人にも勝てる気がしない……幽香かそれ以上の妖力を持ってる…?

 神力妖力共に十分で身体が五体満足だとしても……。

 

 今回の幽香も同情票みたいな感じで終わったんだし…。

 いくら何でも今日だけ大妖怪とのエンカウント率が高過ぎる……!?

 

 

 

 思わず彼女の出現と同時に、椅子から飛び降りて臨戦態勢になった私を見てか、胡散臭げな微笑みを魅せる。

 

「そんな警戒しなくても平気よ?」

「……その人が信頼出来るかどうかは、自分が決めるので」

「…まぁ、それが普通の選択かしらね?じゃあ、自己紹介から始めましょうか。私は『八雲 紫』よ」

「……私は」

「『詩菜』ちゃんでしょう?」

「……貴女は一体何なんですか?」

 

 いきなり出てきたと思えば私についてよく知っているようだし、家に勝手に侵入したのかと思えば家の持ち主である幽香は全く動かないし。ていうか優雅にハーブティ飲んでるし。

 

 しかも『ちゃん』付け……。

 

「最近貴女の噂を耳にしたのよ」

「…それが、何か?」

「妖怪と共に暴れたかと思えば、人間と共に妖怪を討つ。人間らし過ぎる妖怪『詩菜』」

「……」

 

 …何が言いたいのか解らない。取り敢えず、じりじりと後退する。

 胡散臭い。何が胡散臭いって自分とおんなじような感じがするから胡散臭い。

 

「解らないって顔ね」

「…いきなりそんな事をペラペラと仰有られても、私にはさっぱり。単刀直入に仰有って下さい」

「つまり、詩菜ちゃんに私の世界を創るのを手伝って欲しいのよ」

「……『私の世界』とは?」

 

 ザ・ワールド!!的な……そんな訳が無いか。

 

 ……おちゃらけて無いで、真面目にやるか。

 幽香が凄い睨んでくるし…。

 

「妖怪と人間が互いに共存する世界よ」

「……はい?」

 

 

 

 …なんじゃそら?

 妖怪は人間を襲うものだし、人間は人間以外を淘汰してしまう生き物だよ?

 今の世の中、丁度人間と妖怪の実力が拮抗しているから言えるかも知れないけど、未来では妖怪が居ないんだし?

 …ていうか私が見たことがないだけかも知れないけど、それでも少ないという事の証明になる。

 21世紀で妖怪は人間の科学で殆ど解析され、恐れる現象では無くなったしまったのだから。

 

 

 

 …まぁ、私がしている『人間と妖怪の中立』紛いの事はこの八雲とやらが言っている世界には、丁度ピッタリだろう。

 

「……その世界の創る為に、私に協力して欲しいと?」

「そう♪……ただ。そうね、一つ訂正して欲しい所があるわ」

「訂正とは?」

 

 八雲は胡散臭い微笑みではなく、綺麗な笑顔を私に魅せて、言った。

 

 

 

「『協力して欲しい』じゃないわ……協力『しなさい』よ?」

「っ!?」

 

 八雲から発せられたのは明らかに私に対する悪意と、比べ物にならない程の妖力。

 

 それらに恐怖を覚え、私は逃げ出した。勝てる訳が無い。逃げれる訳が無い。

 扉を蹴破るに近い状態で飛び出し、地面を踏む度に『衝撃』を操り、どんどんスピードを上げる。がむしゃらに逃げる。

 幸い幽香のハーブティーで妖力は十二分にある。

 けれども逃げ切れる自信が全くもって無い。

 

 天魔の時の追いかけっことは違って、私もあの頃より多少は場数は踏んでいる。

 しかし、結論として明らかに、八雲には勝てない。戦えない。逃げられない。

 けれどそれでも、逃げるしかない。

 

 

 

 向日葵の花畑を越え、森林に入る。樹の幹でジグザグに跳ね飛ぶ。方向は出来るだけ変えつつ、幽香の家から離れる。

 遂に速度が音速の域にまで達したのか、人間状態でしかも爪を出している訳でも無いのに、通り過ぎた樹木に切り傷が出来ている。それに気付けたのは、回りに回って元いた位置をまた通ったからだけど…。

 それでもスピードを下げず、むしろ更に能力を使い跳ねる。

 

 遂に十の山を越える。

 それでも八雲の気配は途絶えず、後ろから追ってくる気配がする。幽香の気配など既に遠すぎて分からないというのに。

 山を越えて人里に突っ込む。速度を落とす訳にはいかないので、台風のように家屋や樹木が弾き飛ばされるが、取り敢えず無視。

 農作物が可哀想な事になっているが謝る時間も無いので、心の中で『ごめんなさ~い!!』と取り敢えず叫んでおく。

 

 いや、ほんとに余裕なんて皆無なんだって。

 ちゃらんぽらんな事を考えちゃってるけど!

 

 

 

「フフ!逃がしはしないわよ!!」

「諦めてよ!?どいつもこいつもさぁ!!」

 

 ヤバッ!もう声が届くのかいっ!?

 音速の衝撃波が出る程の速度なのにッ!!

 

 …音速なのに声が届くってどういう事だよッ!!?

 物理的な法則はこの世界には存在しないの!?

 それとも何!?相も変わらずの妖怪スペック!?

 

 

 

 遂に海に出る。

 海岸線に沿って駆け抜ける。既に方向を変え過ぎてどっちの方向が元の幽香の家か解らなくなってしまっている。

 衝撃を操っている私のせいで、砂が散弾の如く打ち出されている。

 ……八雲に当たれば良いのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア…ハッ………やっとッ、追い付いたわよッ…!!」

「…ハッ…ハッ」

 

 目の前にあの空間移動の術で表れる八雲。

 追いかけっこは一時間にも及び、とうとう先を越されて八雲と相対する事になってしまった。

 海岸を通り過ぎた草原で、息も絶え絶えな女の子が二人、謎である。

 

 私も八雲も息を切らし、全身汗だくだ。

 ……向こうの方が疲労度は無いみたいだけどね…。

 

 それにしても、全身傷だらけだな。傷だらけ、というか、砂だらけ、というか……。

 …ああ!私の衝撃とか木の枝とか弾き飛ばした砂とか石が当たったり掠ったりしたのか。

 

 …やーい!ざまーみろ。

 

 

 

 ……そんな強気な事を考えるも、身体はガクガク震えるし、あれほどハーブティで回復出来た妖力もあっという間に切れかけている。

 まさに、詰み状態。

 

「フゥ…もう逃がしはしないわよ!」

「ハッ、ハッ、ハッ…そこまで、して…ふぅ…私に何を…させたいん、ですか?」

「だから手伝いよ。簡単に言えば詩菜ちゃんには私の『式神』になってもらうわ」

「…貴女の、従者になれ…ッ、と…?」

「契約よ♪」

「……契約、ね……」

 

 うげぇ…ちょっと前の事を思い出しちゃったじゃないか……。

 

 

 

「…なんで、私なんですか?…有名な妖怪で、力のある奴なら…ふぅ、話せば解ってくれるの、では?」

「……」

 

 そこらにいる有名な妖怪の方が、明らかに私よりも力を持っているし。

 小妖精、妖精、妖怪、中級妖怪、大妖怪、歴史的妖怪の順にレベルを着けるならば、せいぜい私は中級妖怪の妖怪より。平均の平均なのだ。

 幾ら私のしている事が、八雲の考えている世界に対してピッタリだったとしても、彼女に協力出来る程の力を私は持っていない。

 

 幽香に『鍛えろ』って言われても、そもそも『格』が違うってのに…。

 

 

 

 …フゥ……ようやく呼吸が普通に戻ったか…。

 

「私は八雲さんのそういう世界、面白いとは思いますし見てみたいとも思います。ですが協力はしても束縛はされたくありません」

「…つまり式神は断るけど協力はする……という訳?」

「ええ…八雲さんの実力ならばもっと強いのを式神に出来るでしょうに…?」

 

 幽香とかを式神にすればいいのに……。

 

「…彼女は強すぎるし、大事な友人よ。そんな事は出来ないし、したくないわよ」

「……また顔に出てたか…」

「幽香に見られていたら、殺られていたわね♪」

 

 ……あ~、無表情で能面とか言われてたあの頃に戻りたい!

 

 

 

「フフフ。まぁ今回は詩菜ちゃんのその詭弁に騙されておきましょう」

「あ、やっぱり駄目?」

「確かに詩菜ちゃんの今の実力はそれほど欲しいという訳でも無いわ」

 

 …率直に言われると傷付くわぁ……。

 

「ただ…そうねぇ、何かの『原石』みたいなものを感じるのよ」

「はぁ…?」

 

 なんじゃそら?

 わたしゃキルアやゴンとかじゃないぞ。

 八雲もビスケみたいな年齢にも見えな……ってあれは念で若くしてるんだっけ…。

 

 なんだろう…この人の年齢を訊いたらとんでもない事になりそうな予感がする……。

 ……そっとしておこう…。

 

「幽香もそうよ?彼女は興味がない物には何もしないから」

「…随分とまぁ、期待をさせちゃってるようで……」

 

 期待されても困るんだけどなぁ……。

 

 

 

「フフフ。じゃあまた、何処かで逢いましょう…」

 

 そう言って八雲は能力か何か解らないけど、空間を扇子で斬り……何て言えば良いんだろ、『窓』?を開いて私の前から去っていった。

 

 

 

 


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