風雲の如く   作:楠乃

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 連続投稿。その一。


お戯れ

 

 

 

「詩菜、『スペルカード』という決闘方式が今の幻想郷では流行っているのよ。知ってるかしら?」

「スペルカード?」

「そう♪ 貴女の苦手な弾幕で勝敗を決めて、勝者は敗者に命令を一つ下す事が出来るのよ。今じゃあ人間も妖怪も亡霊も神様も、この勝負で物事の決着を着けているのよ?」

「へぇ……弾幕ね。そいつは面白そうだね」

「ルールは簡単だし、種類によって決着も変わってくるわ。体力が尽きるか、たとえ余力が残っていても提示した全ての符を攻略されたら、負けを認めなくてはならないの」

「成る程」

「とりあえず……白紙の符を三枚渡すわ。念じれば絵柄が浮き出てスペルカードの完成よ。設定を細かくすれば全ての弾幕を非殺傷にも出来るわ」

「そいつは嬉しいねぇ、わたしゃどうも威力の調節が出来ないからさぁ……念じれば良いの?」

「ちゃんと明確にイメージすればの話よ?」

「オッケー、術式の統一もいつの間にやら出来ていたのか」

「力を通せば出来るように作られているのよ。それと使用時にはスペルカードの名前を読み上げないと負け。これは不意打ちを禁止する為にね」

「チッ」

「……ま、とりあえず体力の続く限り、やってみましょうか♪」

「そんな余裕、いつまで続くかな?」

「ふふふ……互いにスペルカードは三枚、残機は無制限で力尽きるまで。準備は良いかしら?」

 

 

 

 

 

 

 スペルカード、と言うらしい札のような符のような物を貰う。

 ……ペルソナのカードみたいなものかね。

 

 ま、とりあえず適当に創りますかね……戦闘中に創る余裕はないと思うし。

 名前の付け方も紫に習い、さっさと三つの符を創ってしまおう。

 《暴風『踵落とし』》

 《疾風『マハガルダイン』》

 《圧縮『ベクターキャノン』》

 ……って所かな。

 三つの内二つがパクりって所が凄い悲しいけど……まぁ、良いか。

 こんなの、ぶっつけ本番でオリジナルが出来る方がおかしい。と思う。

 

 

 

 

 

 

「準備、出来たよ」

「よろしい。ではやりましょうか♪」

 

 洋傘を開き扇子で口許を隠しながら、フフフと笑う紫。

 

 そんな笑い方も、すぐに出来なくしてやるよ。

 頭の中がどんどん黒くなっていく気がする。

 ……どす黒い、気分になりそう。

 

「行くよ」

「ええ♪」

 

 

 

 先攻は譲ってくれるみたいなので、私は兎に角ダッシュして紫に近付く。

 ここはスキマの中だ。広さなんて無限大だし、床は能力のお陰か物凄い強度を誇っている。

 これで地面が砕けないように配慮しなくても良くなった。

 

 そもそもこのスキマは私が開いたスキマでもあるのだ。操れるのは当然の事。

 ……けどまぁ、紫がこのスキマを完全に制御すれば、私は使用・操作なんて出来る訳ないんだけどね。

 

 

 

 彼女()は言った。

 このスペルカード方式による戦いは、あくまで『殺し合い』ではなく『遊び』である。と。

 『遊び』? ふぅん、良いじゃないの。

 遊びで相手に絶対的な命令を下せるんだからね。残酷なルールだよ。

 

 

 

「シッ!」

「おっと!」

 

 音速すらも恐らく超えて、それこそ瞬間移動のような速度で近付いて拳を振るっても、彼女は素早く動いて避けていく。

 息も尽かせぬ猛攻、ラッシュを紫に当てようとしても、スキマを開いて避けられたり、スキマから飛び出してきた標識でガードされてしまう。

 

 無論、そんな金属なんて凹ませ(ひしゃ)げて圧縮してやるけれども、やはり攻撃はワンテンポ遅れて彼女へ攻撃が届かなくなる。

 

 そんな攻防が何十回か続く。流石私の主人という訳か、こっちの危険な所を良く理解している。

 私の能力は『衝撃を操る程度の能力』だ。

 故に、固体と固体がぶつかる際に起きる『衝撃』を操る事が出来る。

 例えばもし紫が、扇子や洋傘で私の打撃をガードしても、完全な受け止め方をしなければ『衝撃』を喰らってしまうのだ。

 

 その点を良く理解して、紫は私の攻撃のほとんどを避けている。

 彼女の使う道具に当たったとしても、その瞬間には既に彼女の持つ物ではなくなり、伝わろうとする道すらもなくなっている。

 ふっ飛ばして当てようとしても、それこそ弾幕のように避けられる。

 

 

 

「ッ! 幽香ですら避けきる事は出来なかったのにッ!!」

「ふふふ、そんなに私も余裕がある訳じゃなくてよ?」

「笑いながら良く言う、ッよ!」

 

 扇子で勢い良く凪いで、弾幕モドキの風圧カッターを起こしてみても、紫には容易く避けられてしまう。

 どうしてこうも当たらないのかしら……?

 

 

 

「そろそろ私も攻撃させて貰うわよ」

「ッッ!!」

 

 そう宣言され、彼女が持つ扇子が口元に引き上げられただけで、一気に私の中に警笛が鳴り出す。

 単なる勘にすぎないと言われればその通りなんだけど、それでも私にとっては結構な距離を取る理由には成り得る。

 攻撃を止めて一気に跳び退る。それこそ本気で跳ぶ。

 そして、まだスキマの地面に着地していない私に向かって、紫が扇子で煽ぐように動かすとその先から寒色系の色合いの苦無(クナイ)のような弾幕が私に向かってきた。

 

 距離だけは先んじて稼げたので、飛んでくる間に十分観察し、そして突っ込む。

 攻撃するには、懐に潜り込まないとね。

 

 弾幕の間は空いているものの、第一陣はゆっくり進み、第二陣は一陣の真ん中を素早く通り抜け、その二つの波が連続して私に襲いに掛かってきた。

 一段目だけが私狙い。だけども放射状に且つかなり広範囲に撃って来ているから、迂闊にダッシュで避けるのは危ない。

 

 反復横跳びの要領で弾幕を避けていき彼女へと近づくと、懐から何かを取り出すのが見えた。

 

 

 

 ……スペルカードか。

 この距離なら一気に跳んで近付くのも可能だけど……ここは様子見。

 ひとまず最後に避けた苦無の後ろを付いていくように後退する。

 

「《幻巣『飛光虫ネスト』》!!」

 

 お手本らしく、紫がスペルカードの宣言をすると、紫の目の前に幾つものスキマが開き、中からレーザーが私の方へと飛んできた。

 開かれたスキマは、レーザーを発射すると閉じて消え去り、また違った位置にスキマが開いてレーザーを撃ってくる。

 

 真っ直ぐ飛んでくるレーザーは、単体であれば簡単に避けれる。

 けどそれが何十個もあると、動きが制限されてしまって思うように動けない。

 

 ……これが彼女の使う弾幕ごっこの技?

 

 けどこうして避け続けていると、このスペルは横移動だけが拘束されるだけで、案外紫には簡単に近付けるような気がする。

 レーザーを撃ってくるスキマは、紫の前に横一列となって出たり消えたりしていて、その『線』を越えれれば案外攻撃は簡単に出来そうに見える。

 

「それなら……ホッ!!」

「……」

 

 地面を蹴り、一気に紫へと突撃する。

 この間にもレーザーはスキマから次々と速射されて、私の真横を通り過ぎていく。

 

 

 

「……ほんと、単純ね」

 

 紫が、そう呟いた。

 直後にまた、勘が『即座に下がれ』と言ってくる。

 けれどもまだ私の足は地面に付いていない。衝撃はまだ使えない。

 

 紫は呟いた瞬間に、私とは『正反対』の方向に弾幕を放射状に放った。

 ……正反対?

 

「搦め手も含めて弾幕よ? 貴女みたいな単純なヒトにはこんなのが効果的ね」

「単純って……ッおわっ!?」

 

 正反対の方向に放たれた弾幕は、ある一定の距離まで進むと突然方向を変えて、全ての弾が私へ一挙に襲い掛かってきた。

 単調なレーザーで相手の動きを束縛し、動きが止まった所を狙い撃ちって訳かい!

 

 パァン!! と先頭の一発が頭を守るために交差した腕に当たる。

 それだけの衝撃があれば十分。自身に掛かる圧力を操ってあらぬ方向へ自分を吹き飛ばす。そうする事で残りのレーザーと弾幕を避ける。

 

 ……幾ら『衝撃』を排除出来るとは言え、ダメージは残る。自分を吹き飛ばす圧力もダメージになる。

 右手首には真っ赤な痣が出来てる。痛いったらありゃしない……。

 

 

 

 痛む右手をぶらぶらと振りつつ紫を睨む。攻撃は何も来ていない。

 どうやら私が攻撃に当たったから、彼女はスペルカードを取り止めたようだ。

 残りの使用時間もあるし余力も十分にある。止めないとどうにもならない状況でもないのに、彼女はスペルカードをわざと終わらせた。打ち切った。

 

「弱いわねぇ詩菜……もしかしたら幻想郷の人間よりも弱いかも知れないわよ?」

「……冗談。まだまだ私はカードを使ってないよ?」

 

 そう言いつつ、また弾幕を放ってくる紫。呆れらたのかどうかは知らないけど、その弾幕も何処か意思の込められていない弾に見える気もする。

 懐からさっき仕舞ったスペルカードを取り出し、符名を叫ぶ。

 

「《暴風『踵落とし』》!!」

 

 カードが光り、ある程度の力が札から私へと供給される。まぁ、この符を作った時に吸われた力を返してるだけなんだろうけど。

 この戻ってきた力を使い、技を決めろと、そういう事なのだろう。何となく使える力の量も分かる。

 

 ……この弾幕ごっこには、華麗さやどう綺麗に魅せるか。という精神的な部分での戦いでもある。って紫が言っていたけど……。

 まぁ……正直に言ってそんな余裕もないし、不細工で勝つ為のスペルカードでも使わせて頂こう。

 

 

 

 跳びはねて着地する。それだけなんだけど、着地の際には勢い良く足を地面に叩き付ける。

 ここは大地のような脆い地盤ではなく、境界という恐ろしい程の強度を持つあり得ない素材で出来ている。それが幸いした。

 叩き付けた両足から暴風が吹き溢れて、周りに迫っていた弾幕を打ち消していく。

 突風はある程度進むとその場で竜巻と変化して留まり続ける。視界と弾幕を防ぐ二重の壁だ。

 

「んー……美しくないわね」

「そりゃあね」

 

 また同じように跳ぶ。そしてまた同じように足を叩き付ける。

 けれども今度の暴風は、竜巻とは成らずにそのまま直進し、紫へと迫る。いわゆる衝撃波だ。

 

「ふっ!」

 

 此方からも向こうからも、互いの存在は見えないから被弾したのかどうかは分からないけど……どうやら避けられたみたいだ。床と空気中を伝わる衝撃と声でそう判断する。

 

 まだまだ私のスペルは終わらない。彼女のように手加減はしない。

 手加減をする本気のゲームなんか、しるか。

 

「もういっちょ!!」

「くっ!」

 

 素早く衝撃波を出す為に、どんどん早く飛び跳ねていく。

 地面を踏み締める度に発生する暴風と竜巻は、じわじわと紫を追い詰める。

 彼女は反撃もせず、ただ私の攻撃を全て避けきろうとしている。

 

 ……恐らくは、楽しんでいるのだろう。

 額を汗が伝って激しく動いているにも関わらず、それでも笑って回避し続けている紫の姿が、何となく想像できる。

 ……まぁ、床を伝う足音からも、中々楽しげなステップを踏んでいるというのが分かるけど。

 

 まぁどうでもいいかとばかりに私は、ジャンプする速度を上げて暴風の速度を上げていく。

 その内めんどくさくなってきたので衝撃で私自身を押し出すようにセットしたので完全オートになった。まぁ、それこそどうでもいい。

 竜巻が出て紫の所に飛んで行く頃には既に五つぐらい出ているけど、実にどうでもいい。むしろ『ざまぁ』である。

 どんどん突風の速度は跳ね上がり、遂に紫を捉えて弾き飛ばす。

 

「ぐうっ!?」

 

 ……やれやれ、ようやく当てれたよ。

 

 弾き飛ばされ、紫が地面に叩き付けられた瞬間に此方のスペルカードも時間切れ。

 案外設定したのより短かったなぁ……『愉しい事とは早く過ぎ去る物』って奴かね……。

 

 スペルカードは二人とも残り二つ。

 ダメージは……紫の方が大きいかな? 見た目的には。

 私は右手の袖が破れて、そこから見える部分は既に黒い痣になりつつある。

 紫は……竜巻に巻き込まれて更にそこから弾かれたのか、服はところどころ切れているし、露出している顔や腕には赤い線が出来ている。

 

「……ッ……中々の威力のスペルカードね。非殺傷ではない辺り、中々に怒っているのかしら?」

「さぁね? ……二枚目、いくよ」

「フフ、今度は貴女から。という訳かしら?」

「……先攻後攻とか、考えてる暇なんて起こさせてあげないよ」

 

 

 

 

 

 

「《疾風『マハガルダイン』》!!」

 

 

 

 スペルカードの宣言をして、自身を中心に風を集める。

 吹き荒れ始めた風は弾幕ほどの威力は無くとも、弾幕を在らぬ方向へ曲げる事は出来る。

 これは昔、文と共にエレボスと戦った時に合体技と称して使った『エアロジャ』と効果はほぼ同じ。

 気象を操作する、天候変化のスペルカードだ。

 

 ぶっちゃけ、このスペルカード自体に攻撃力はない。全くもって無い。

 しかし、そこらに転がる石や家具などを風で吹き飛ばして弾幕とするのが、このスペルカードの効果。

 効果は設置物以外にも、弾幕や敵にすらも発揮される。

 

 迂闊に飛ぶと、風に流されてしまうこの状況。紫はどう出るかな……?

 

 

 

「天候操作……まぁ、この境界の中ではそれほど意味のないものみたいだけれども、ね」

「そりゃあねぇ」

 

 さてさて、ここからが本題。

 風が私の下に集まり、私自身を上へと押し上げる。身体が一気に軽くなる。

 

「『弾幕が飛び交っていない限り』、スキマの中で天候を操作する事に意味はないだろうねぇ」

「……」

「……ふん、来ないのならコッチから行くよ!!」

 

 幾ら暴風が吹き荒れているとは言え、それを起こしているのは私のスペルカードによる効果だ。

 私が進む上で障害物となりえるモノなど、このスペルカードの効果範囲内にありはしない。

 

「はじけろッ!!」

「ッツ!?」

 

 先程よりも素早く紫に近付き、今度こそぶちのめす為に扇子も持つ左手とは反対の右手を握り締めて、思いっきり奮う。痛みなんで無視だ。

 紫は私の攻撃を避ける為に移動しようとする。

 

 だがしかし、符が起こす突風は紫の行動を阻害し……遂に紫を、私の右手が捉えて弾き飛ばした。

 

「つうッ!?」

「……ガードしただけで『私の衝撃』を封じ込めれるとでも思ってるの?」

 

 そうだとしたら……それは私が相当ナメられているという証拠だ。

 ……ふん。

 

 腕を振り抜いた姿勢で一旦止まる。

 数メートルほど後ろへと飛んだ紫は姿勢を制御してスタッと着地した。

 そこまで経って、再び場を風が荒らし始める。

 

「スペルカードを使いなよ。まだ二枚残っている筈でしょ?」

「ふふ……良いでしょう。のってあげるわよ! 《境符『波と粒の境界』》!!」

「っと!!」

 

 紫がスペルカードを宣言しながら、持っていた洋傘を開いて上へと向けた。

 札が一瞬光り、傘の骨の先から連続して細かい弾幕が連射され始めた。

 紫がそのまま傘をクルクルと回すと弾幕は《線》から《波》、《波》は《粒》へと変わり、私へと飛んできた。

 

 

 

 ……けど、私の耐久スペルはまだ終わっちゃいない。寧ろ私のスペルはこれからだ。

 

 私の体を中心に旋風が渦巻き、嵐に近付く弾幕は次々とランダムの方向、ランダムの速度の弾に変換されて飛んでいく。

 急激に加速してとんでもない方向へ弾け飛んでいく弾幕や、ほぼその場に停止する弾幕まで、完全なランダム弾へと移り変わる。

 無論、それは私にも飛んでくるし、紫にも飛んでいく。

 

 避けるために傘を閉じ、動いても弾幕の発射点が解除されていないのには驚いたけど。

 どうやら元から設置タイプだったのか、それとも耐久型で設定しておけば後は自動なのか……どうでもいいか。

 

 

 

「ふっ! ホッ! ヨっ!」

「くっ……ッ!」

 

 我ながら、嫌なスペルカードを創ったものだ。

 私は全ての弾幕を、風によって軽くなった身体で素早く通り抜け、

 紫は自身で発動したスペルカード・弾幕を弾き返され、弾幕を撃ちながら身体を軸がぶれる暴風の中で必死に避け続けなければならない。

 

 ……ま、私狙いの弾幕じゃないから、そこまで集中しないと撃てないって訳じゃなさそうだけどね。

 そうだったら散漫な集中力にしてやったのにねぇ。

 

 

 

 しかし、この状態だと決着が着かない。

 攻撃しようにも、紫は傘から延々と弾幕を速射し続けていて、私が近付けるような抜け道がないからだ。

 幾ら私のスペルカードが弾幕をそらす効果を持っているとしても、発射直後の力強い弾幕を急激に変化させる程の力はない。

 故に、紫に近付いても弾幕を避ける術は、今の所はない。発射点の真下で、細かく動いて避け続ける彼女に近付く方法は無い。

 そして私も、この完全ランダム弾の中を切り抜けていく。危なげもなく、余裕を持って。

 

 

 

 

 

 

「チッ!」

「危ないスペルカードね。貴女らしいと言えば貴女らしいのだけど、自爆技は危険よ?」

「うるさいな」

 

 まぁ、私の方が先にスペルカードを発動したから、制限時間が先にきれるのは私だよね……。

 符が砂のように消えていき、私の手元のスペルカードは残り一枚となった。

 

 

 

 嵐が静まり、紫の弾幕は天候に左右されずに、真っ直ぐ飛んでくるようになってしまった。

 もともと結構な速度で連射される弾幕だ。避けるのは結構大変になる。

 

 しかもこの《波と粒の境界》という弾幕は、波のように連続した弾幕と粒が全方位に乱射される弾幕が、不規則に回転速度が変わって入り乱れる弾幕だ。

 

「っ、ッと!」

 

 さっきよりは格段に弾幕の密度は上がって避け辛くなっている。

 ……けど、まぁ、それはそれまでである。

 

 紫の持つスペルカードの制限時間が尽き、弾幕が消え失せる。

 そして彼女の手からスペルカードがサラサラと消えていく。

 

 

 

「二枚目は引き分け、と言った所かしらね」

「……だね」

 

 さて、ラストだ。

 もしかすると、こう言うのかな?

 さぁさ、ラストスペルだ。

 

 

 

 

 

 

「これで終わりよ!! 《『深弾幕結界 夢幻泡影』》!!」

「名前ながっ」

 

 ……と、まぁ、そんな心底どうでもいいツッコミしてしまったのは放っておいて。

 

 

 

 紫の、最後のスペルカードが発動し、辺り一帯に紫の刺すような妖力が充満し始めた。

 私の妖力など比較対象にすらならない程の質と量の差。

 私のような生半可な存在ではなく、強大な大妖怪がそこには、居た。

 

 

 

 彼女が持つスペルカードから生き物のように飛ぶ謎の物体が飛び出し、術者の紫を中心にグルグルと回り始めた。

 回転速度は中々に速く、ぶち当たったらかなり痛いかなぁと思っていた。

 

 けれどもだんだんと大きく回り始めた謎の物体は『見えているのに触れない』という、特殊な式神のようなモノらしく、モロに直撃していても何の変化もない。

 竜巻を起こして進行を邪魔してやろうとしてもすり抜け、何でも切り裂く衝撃波を当てても何も起きない。

 

 なら正面衝突で事故る事もないか……と、安心しかけて注意を外した瞬間。

 

 

 

「詩菜、こういうスペルこそ、『耐久スペル』というのよ?」

「……え?」

 

 声を掛けられて、グルグル動き続ける物体から眼を離し、紫の方へと顔を向けると。

 

 そこには、半透明の紫が優雅にスキマに腰掛けて、手にした扇子でゆったりと自分を扇いでいる。

 

「え、ッ!?」

「ほらほら♪ 私なんかを見ている暇なんて、あるのかしら?」

「ッツってぇ!?」

 

 呆然としている間に、紫の弾幕が始まっていた。

 弾幕は全て空をグルグルと飛ぶ謎の物体から出て襲ってきている。

 一番身近な弾から避けようとすると、必然的に紫に近付く事になる。

 そんな状態で、もし紫が弾幕を撃って来るとなると……。

 

 ……というか、あの『半透明』の状態の紫に攻撃を当てれるのかな?

 さっきのグルグル飛んでる弾幕発射装置に触れる事は出来ないみたいだし……案外、半透明の奴に弾幕は意味無かったりするのかな?

 

 

 

 物は試し。

 一気に紫へと猛ダッシュし、扇子で刃のように切り裂く。

 

 ……けど、風の刃は紫の肉体をすり抜けるだけで、紫自身はニタニタと笑ったまま。効果は無いみたいだ……。

 

「残念ね♪」

「っ!? ッ!」

 

 紫に直接攻撃を仕掛けても意味がないという事が解ったので、紫の幻影をそのまま通り過ぎ、真後ろに迫っていた弾幕を避ける。

 

 ……なるへそ。これが『耐久スペル』って訳ね。

 

 紫に攻撃を当てる事が出来ないから、私から紫に対する攻撃手段はほぼない。

 弾幕はあの式神らしき物体から飛んでくる。

 しかも一定量の弾幕を打ち出した後、消え去っては紫がまた懐から式神を取り出すというエンドレス。

 

 

 

 

 

 

 ……今の私に、このスペルカードを攻略する程の力はない。

 バン! と弾が私の腕に直撃し身体が痛みで硬直した瞬間、私は遂に観念してしまった。

 紫も今度は弾幕を止める気がないらしく、そのまま冷ややかな目で私の方を見ている。

 

 やはり『弾幕ごっこ』で、私は紫に勝てない。

 硬直した私に次々と襲い掛かる弾幕。

 

 

 

 こうなりゃもう……破れかぶれだ。

 

 

 

「《圧縮『ベクターキャノン』》!!」

「……でしょうね」

 

 カチリ、カチリ、カチリと空中に次々に術式が現れ、私の妖力が定められた(ライン)を通って流れていく。

 その間にも私にはガンガン弾幕がぶち当たり、ダメージが蓄積していく。

 優雅にこちらへと見ている紫も、私が最後の悪足掻きとしてスペルカードを使う事を見通していたらしく、それほど慌てた様子もない。

 攻撃は絶対に喰らわないと予測しているのか、それとも……。

 

 まぁ、そんな事は良い。

 

 六つの空に浮かぶ術式に妖力が溜まり、次の段階へと進む。

 それ即ち、────『圧縮』

 

 私は能力で術式を全て圧縮し、

 

 

 

 紫に向けて、解き放つ。

 

「……。……ッ!?」

「いっ、ッけぇぇーッッ!!」

 

 

 


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