感想で少しネタバレらしきものをしてしまいましたが……大体の謎の説明会です。
恐らくこれが今年最後の投稿ですね。
真っ暗で何もない世界が、地平線の向こうまで広がっている。
私はその中で、ポツンと意味もなく立っている。
「……何処よ、ここ……?」
疑問を発しても、その問いに答えてくれそうな生物は虫一匹居らず、質問は虚空に吸い込まれて行くだけだったのである。まる。
……いや、真面目にナニコレ? 一体どういう状況なの?
辺りを見回しても地平線がぼんやりと見えるだけで、真っ黒な背景が何処までも続いている。
スキマみたいな閉塞感は感じられず、ただただ無限に地面が広がっている。
わーい、広いなー!!
よし………………落ち着こうか。
……とりあえず、どうしてここに私は居るのかを思い出そう。
私は、守矢神社の移転と『それ』について記憶を持っている人々の移動を、八雲一家と協力して術式を発動させて頑張っていた。
守矢神社を移転させて、結界を張って、私が衝撃を飛ばして、紫と藍が巨大なスキマを展開して、私は……。
私は『彼』の所へ行って、別れの挨拶みたいな事をしようと思っていたら、スキマの向こうに……?
「……自分自身、ドッペルゲンガーと戦うっていうのは、どんな気持ちだったよ?」
「……お兄ちゃん……?」
声に反応して振り返るとお兄ちゃんが居た。
……いや、私の事、『詩菜』を知っているって事は、『彼』のじゃなくて、私のお兄ちゃんなのかな……?
……って事は……?
「……また、夢で出逢った。って事?」
「よくある夢落ちです。ざーんねーんでーした♪」
「いや……何でいきなりそんなハイテンションなのよ……?」
相変わらず、ワケわからない人だよ……。
まぁ……《いつも通り》の兄貴の行動に何処か安心感を感じていると、お兄ちゃんはとんでもない事を言った。
「お前の肉体は、お前の上司が開いたスキマで療養中だよ」
「……何で知っているのよ。本体の私が知らないのにさ」
「お前とは『ここ』が違うんです~♪」
と、言って頭の中身を示すようにこめかみをトントン、と叩く兄。
正直に言って、凄くムカつく。
……ま、だからと言って殴りかかるような真似はしない。
妖怪になって、能力を持って、
……それでも、勝てる気がしない。それがこのお兄ちゃんだ。
そんな感想をつらつらと考えている間に、お兄ちゃんは自分勝手に解説を始めた。
この人に流されるのはいつもの事。
「お前は上司の開く境界により、最期の別れとなる《自分》とのお別れをする為に、生前の家と変わらない、《自分》の家にいる《自分》の元へとやって来ていた」
「……《自分》ってのは、『彼』の事?」
「それ以外に誰がいるんだよ」
「……まぁ、そうだけどさ……」
「続けるぞ。自分の衝撃によって昏倒している《自分》に、一方的な別れの挨拶をして、果てにはポケットの中に手紙なんか入れて……厨二かお前は?」
「う、うるさいな! 妖怪なんて厨二のなりたい職業No.1なんだから、厨二でも良いじゃん」
「ああ、情けなや詩菜よ。自らモンスターになり厨二病になるとは」
「いや、だからそんなドラクエ風に言われても」
ああ、もう調子が狂うなぁ。
……でも、それと同時に、懐かしさも感じている私がいる。
……最後に話したの、輝夜の時以来かな?
「八雲紫と八雲藍。その二人がこの世界と繋げた次元……お前はもうわかっているよな?」
「……あの境界の先にあった世界は、《生前の私が生きていた世界》」
「そうそう。詩菜じゃあない、生きている人間のお前が居た世界だったんだ。いや、『人間として生きていた』お前がな」
ドッペルゲンガーは、互いを喰い殺す。
自分と完全に同じ存在が目の前に顕れると、生物は自分のアイデンティティーを守る為に、相手を殺そうとしてしまう。
《自分》というモノは、一つしかないから《自分》だと認識している訳であって、
自分を自分と認識出来なくなる。そういう状況になってしまうと、生物はどうしようもなく混乱してしまう。
「じゃあ、どうしてお前は自分の過去の存在とは反応して、お前の言う『彼』には反応しなかったのか? その答えはなんだ?」
「……それは……」
『彼』は……私を『転生し、既に魂すらも妖怪と化したモノ』と認識していて、言葉では同じだと言っていても他人、自分とは違う道を歩んだモノと認識しているから……?
「惜しいなぁ。零点だ」
「それ惜しいってレベルじゃないから。完全敗北してるから」
「やれやれ。俺の弟は転生して妹になっても、馬鹿は馬鹿のままか」
「……」
ここでもし反論でもしようものなら、二倍どころか五倍返しで返ってくる。あな恐ろしや。
「アイツはお前を『女性』と認識し、お前はお前で異次元に住んでいた過去の自分を、妖怪の身体を通して直に視てしまった。自分自身をな」
「……自分自身だから。って事?」
「同じ魂を持っている詩菜と『アイツ』が拒否反応を起こさないのは簡単な事だ。東風谷早苗という存在が居ない歴史を歩んだから。それだけだ」
「……それだけ?」
「それだけだ」
……誰かが居ないだけで、おんなじ起源を持つ生き物は全く違う存在となる……?
「……理解出来ないアホは置いといて、先に進みまーす」
「……アホって……」
まぁ……よく分からないのは事実だけどさ……。
「向こうの世界の自分自身もこちらに気付き、お前と過去のお前は出逢い、殺し合いを始めた」
「……」
「その時にお前は《自分自身の由来》に気付いた筈だ。そうだろ?」
「……そうだよ」
何故私は妖怪となって転生したのかだって?
そんなの……《私》が私を妖怪にしたからに、決まっているじゃないか……。
「未来の自分が、過去の自分自身に妖怪の血《鎌鼬の力》を与えたから、今の『詩菜・志鳴徒』がいる」
「……私は《私》という今をつくる為に過去の《私》を妖怪にして、スキマを開いて過去に送り出した……」
「そういう事だ。思い出したか?」
……ええ、嫌な気分になるほど、ね……。
……全く、馬鹿馬鹿しいにも程がある。
そんなの……ここ一ヶ月の生活は全部無駄だって事じゃないのよ……。
……ああ……馬鹿らしい……。
「しっかしまぁ、幾ら不安定な境界の間の『海』に居たとは言え、よく過去に繋がるスキマを見付けて開けるもんだよなぁ」
「……」
……そんなお兄ちゃんの戯れ言に、何かしら反応する気分じゃない。
「おい、聴いているのか?」
「……聴いてるよ」
「なら、ちったぁ反応しやがれ」
「へいへい……」
大の字に倒れ、寝そべって上を見上げる。
幾ら頭上を見上げていても、太陽やら星やらが見えたりはしないんだけどね。
照明やら白熱灯とかがある訳でもないのに、互いの姿だけはハッキリと認識出来る、謎の世界。
……いや、謎ではないか。
この世界が夢であるという事は解ってるんだし。
「……無事に、《私》は妖怪になってるかね?」
「さぁ? とりあえずお前に異変が起きなけりゃ、何も変わらないだろ。大体そんな感じだ」
「……大体そんな感じ……ねぇ……」
「ま、不安ならまた八雲紫にでも境界を弄って貰うんだな。効果があるかは分からないが」
「分からないのかよ」
そんな風に駄弁る私達。
出逢いはいきなりに、そして別れもいきなりに。
空から割れるように日差しが注ぎ込んでくる。電灯か何かついたのかな?
「お別れ、って奴だな」
「……目覚め、の間違いじゃない?」
「さぁな」
兄貴と別れ、私は現世に戻るとしよう。
「どうせ俺は《夢》だ。また逢いたいとお前が願うならば、また逢う事が出来るだろう」
……《夢》なのに、その《夢》自体が自分の事を幻だと理解しているって、それはそれでどうなのよ……?
……まぁ、どうでもいいっちゃあ、どうでもいいんだけどね。
「……じゃあね。お兄ちゃん」
「ああ、また来るが良い」
「何でそう強キャラっぽい喋り方なのさ……」
身体が浮上する感覚。
もうすぐ私は起きるのだろう。
そうだなぁ……とりあえず、
とりあえず『彼』には、ちゃんと挨拶をしてから、幻想郷に行こう。
手紙なんて、私らしくない。
私は私らしく不格好に激突して、衝撃やらを操って何とか生きていくのだ。
私は私。詩菜は志鳴徒。志鳴徒は詩菜。
誰が私を妖怪にしたとか、どうして転生したのかとか、そんな事はもう関係ない。
私はここに生きている。それだけだ。
そうでしょ? ……お兄ちゃん?
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「厳密に言えば、妖怪は生きてないけどな」
「せっかくの雰囲気が台無しだよバカヤロウ」
それでは皆様、良いお年を。