風雲の如く   作:楠乃

12 / 267
天狗一族

 

 

「…うはぁ~……バッタリ……」

 

 自分で効果音を発しながら地面に倒れ込む。

 草原に倒れ込む。わしゃわしゃと草が鬱陶しい。

 顔に張り付いたりして煩わしいけども、払ったりする元気は無い。というか動きたくない。

 

 精神的に今日は疲れた…。

 動きたくない…けど、せめて現在地だけでも調べなくて、宿を確保せねば……。

 

 顔だけを動かし、辺りを見回す。

 ……が、草が高すぎて見渡せないので身体を起こして、座りながら辺りを見渡す。

 

 幽香の家から…どれだけ移動した?

 向日葵、山、集落、海岸、集落、草原、樹海、砂浜、現在地の特に何もなさそうな平原。

 

 ……ん、んー? ここって……天狗の里の近くかな? 近くの見た事がある山があるし……。

 なんていう幸運。そしてなんていう御都合主義。

 オッケー、ならここから叫べばあのエロ親爺は飛んで来てくれるかな。

 活用出来る物はちゃんと活用する、それが私!!

 

 ハイ、息を吸って~!

 天魔と戦った時の最後の技なんて目じゃない程吸って~!!

 

 

 

「天魔!!」

 

 

 

 私を中心に声が衝撃となって草木を揺らす。

 因みに残り少ない妖力も乗せて飛ばしたから、まぁ、覚えてくれてるだろうし、来てくれるでしょ?

 

 …来てくれる、よね…?

 ……う、うん。天魔を信じよう……。

 

 まぁ……ぶっちゃけ、妖力も今のですっからかんだし、今の私に出来る事なんて殆ど無い。

 出来る事があるとしたら、今の大声で襲いに来た妖怪から逃げるぐらいと、その為に動かない身体に鞭打って動く事ぐらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五分後。

 正直に言って、結構諦めかけてた。

 

「なんじゃ!? いきなりワシの事を大声で呼びよって!! 大事な会合だったんじゃぞ!?」

「…ふふふ…でも、来てくれたよね…」

「? ……そりゃお主、声に妖力を乗せてワシの名を呼ぶという事は、それだけ危ない事になっておったんじゃろ?」

「まぁね……天魔」

「なんじゃ?」

「私を家まで運んで頂戴……」

「…何があったんじゃ……?」

「八雲っていう大妖怪に追われたんだよ……あ~、ゴメン…寝る……」

「そりゃまたとんでもない奴に目を付けられとるな……何があった?」

「あと、で……任せた……」

 

 

 

 意識及び五感がフェードアゥウトォ~ォ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眠ってしまった詩菜を抱え、天狗の里の近くにある詩菜の家に向かう。

 寝顔は何処までも無防備じゃ。無警戒にも程がある。

 

 全く、いきなり叫んだと思って心配してみればこのザマ。

 ……一体何がしたいのやら……。

 

 

 

 家に到着した。

 だが、何かで封じたのか戸は開かない。

 ……起こすのは可哀想じゃが、致し方無い。

 

「オイ…詩菜」

「……んぅ、着いた?」

「…いや、戸が開かんのじゃが?」

「……ああ、りょーかい。解錠するからちょい降ろして……お姫様抱っこはもう結構だから、降ろして」

 

 言われて素直に降ろす。多少まだふらついているようなので、肩を支えながら。

 

 ……『オヒメサマダッコ』とは何なんじゃ?

 単に両腕に抱える事を指す言葉なのかの?

 …全くもってこいつはワケわからん。

 

「ホイ、開けたよ…って何笑ってんの?」

「いやいや、何でもないわい」

「? ……まぁ、どうでもいいか…ただいま~」

 

 

 

 玄関を上がり、ワシにとっては狭い家にお邪魔させて頂く。

 

 …埃が酷い。

 

「……詩菜よ、掃除せねばいかんのでは?」

「……そうだね…出来る?」

「フム…まぁ、ワシの団扇で十分じゃろ」

 

 懐から出した葉団扇を一閃。

 強烈な疾風が部屋の淀んだ空気を入れ換え、積もった埃共を転がし野外へ追い出してやる。

 

「…お見事」

「ふん、これくらい出来て当然!」

「そしておやすみ」

「切り替え早すぎじゃろお主!? ってもう寝とる!?」

「五月蝿いぞ天魔~…お土産は無いけどお話なら明日にでもするから…今は妖力の回復及び精神的に休ま~……zzz」

「話の途中なのに落ちよった!?」

「…zzz…zzz」

 

 …まったく……面白い奴じゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目……じゃないや、瞼を開く。

 …うむ、天狗の里にある我が家だ。

 

 時計は無いけど、切り抜かれた窓から見える外の明るさ及び太陽の位置で……恐らく朝、かな? あれは東の方向だった筈だし…。

 

 幽香との戦いで、無理矢理に治した左手を天井に伸ばし、グーパーと動かしてみる。

 ……そういえば、幽香と戦ってから身体洗ってない。服や身体のあちこちに血がこびり着いてる……洗わないとな……。

 

 まぁ、後でも出来るし、今は身体がちゃんと普通に動くかどうか。

 …無理矢理再生した左腕。

 幽香の家でも動かしたり試したりしてみたけど……。

 

「……うし、大丈夫かな」

「お、起きたか」

「……天魔」

「うむ?」

「…いや、なんでもない。お早う」

「うむ」

 

 …壁寄りかかってずっと見てたのかこのエロ親爺……。

 

 身体を起こし自身の調子を確かめる。

 身体的機能。筋肉痛等も無し、異常無し。左腕も異常なし。

 妖力。全快時の三割程の量。

 神力。皆無。無い。

 

 ……まぁ、それなりにそれなりの状態、かな?

 

 

 

「お主、大丈夫か?」

「ん。まぁまぁ…かな」

「……そういえば『八雲』に遭ったと言っておったな?」

「ああ。うん、協力しろだってさ」

 

 まだ決着ついてないのがなぁ……。

 

「協力とは…例の人間と妖怪の……?」

「うん。まぁ…ね」

「…お主が勧誘されるという事は、噂は本当なのか……?」

「噂…って、私が人間も妖怪も助けている事?」

「……その様子じゃと、本当なのじゃな…」

「なんで知ってんの!?」

「風の噂じゃ。それに天狗をあまり舐めるでない」

「……ハァ……どいつもこいつも噂、大好きなんだね」

「…まぁ、ワシは悪いとは言っておらんが…そんな事をしておるから、目を付けられるのじゃろう?」

「そうなんだろうだけどさぁ…」

 

 天狗達の間でも色々と話が飛び交っているんだろうなぁ……情報収集だけは得意だからな、天狗っていう種族は。

 ……舐めてるつもりはなかったけど、ここまで話が拡がっているとは。

 

 

 

「……まぁ、お主が嫌なら、この話はこれで終いにするかの」

「流石てんちゃん」

「誰がてんちゃんじゃ。そうじゃなぁ…お土産、旅のお話でも訊かせてくれ」

「ん、じゃ何処から話そうか 「「「師匠!!」」」 …コイツらも居たんだっけか」

 

 戸を蹴破るようにして、私の家に入ってきた不埒者の三人組。いつぞやのぶっ飛ばした天狗で…私の弟子を自称する三妖怪だ。

 

「師匠!「『八雲』という奴は一体ご無事「なんで旅に何なんですか!?」いきなりですか!?」出たのですか!?」「「それだ!!」」

「一気に喋るな!! ていうか何が『それだ!!』なのよ!?」

 

 だからコイツら嫌なんだけど……せめてリーダー的な奴を決めてくれ…。

 

 まぁ、簡単に紹介しようか。

 顔が四角くゴツいのが『弥野(やの)』細長いのが『縞(しま)』丸っこくて一番のチビが『作久(きゅう)』だ。

 因みにABC順にちゃんと説明したからね?

 

 って誰に説明してんだ私……。

 ハッ!? まさか電波!?

 

 

 

「オイ、そんなに入ろうとしてもこれ以上は入れぬぞ?」

「ハッ!? 天魔様!? いつの間に!? これは失礼しました!!」

「「申し訳ございません!!」」

「……気付かれぬと言うものも何やら胸に来るものがあるな」

「…御愁傷様?」

 

 気付かれ無かった天魔は…まぁ、そこら辺に置いといて。

 確かにこれ以上、私の家に誰も入らない。

 …というか、扉にぎゅうぎゅう詰めで……壊す気か?

 

 私、天魔、あと入れて一人か二人が恐らく限度。

 作久と縞なら入れると思うけど、縞と弥野だと無理だろうなぁ…。

 

「……いっその事、三人でリー…じゃないや、長みたいなのを決めれば良いのに…」

「いえ!! 我々三人は全員が一番弟子!!」

「誰がなんと言おうと!! それは変わらず!!」

「我等は!! 切磋琢磨しあい!!」

「「「師匠について行きま 『ウルセェェ!!!』 「耳がァァ!!」」」」

 

 あ、衝撃使って叫んだは良いけど天魔の耳を守るの、忘れてた。

 まぁ、どうでもいいか♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん。最初からこうすれば良かったんじゃない?」

「自分の家に運べ、と言ったのは誰じゃ」

「ハイハイ。私が悪ぅ御座いました」

 

 河岸を変えて、場所は天魔の家。

 つまりは『天狗の長』の自宅。

 ここなら私と天魔は人目とか(妖怪だけど)を気にせず話せる。

 

 いやはや、旅に出て久し振りに戻ったなぁ。懐かしや懐かしや。

 

 ……が、天狗の社会での落ちこぼれ三人にとっては、緊張する場面のようでガッチガチに固まってしまっている。

 

「「「……」」」

「…天魔、コイツらが居る理由ってあるの?」

「ない」

「ん、了解。弥野・縞・作久、空中へ持久走しに行きな、太陽が頂点にいくまで」

「「「へイ!!」」」

 

 ……我先に飛び出していったな…。

 よっぽどこの空間が辛かったのかね…?

 

「……なんやかんや言いおって、普通に面倒を見ておるようじゃな…」

「放っておくのも悪いかなって、ね……ふぅ、やっと落ち着けた」

「…流れでここまで移動したが、身体の方は大丈夫なのか?」

「ん。まぁ、大体は」

「……相変わらずの回復力じゃな」

 

 ? ……そうかな?

 イマイチそこら辺が分からないんだけど……まぁ、いっか。

 

「…さて、旅の話を訊こうではないか」

「……身体の心配した後にそれ?」

「大丈夫なのじゃろ?」

「…まぁ、良いけどさ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは…そうだね。知り合った神様の事を」

「……始めからとんでもない話が聞こえたんじゃが…」

「彼処の神社の二柱は好い人、というか好い神様でさー?」

「……妖怪と神様が仲良く暮らす。という物も凄い情景じゃな…」

「そういえば私も神様に昇格したんだよね~」

「ハァッ!?」

「人間助けてたらこうなったwwワロス」

「……」

「まぁ、今は使っちゃったから、皆無なんだけどね」

「…人間だった妖怪で神様のお主が妖怪と人間を助ける。か……」

「まぁ…なんか凄い噂になっちゃったから、暫くはのんびりしようと思ってるけどね」

「噂も七十五日。暫くすれば消えるわい」

「……だと良いんだけどねぇ」

「…そういえば、その神力は何に使ったんじゃ?」

「ん、回復に使ったよ。片手丸々一本」

「…なんかもう…お主の話は、どれもこれもが信じ難い話ばかりなんじゃが……?」

「いやいや、事実しか話してないから。お陰でこの通り左腕は生えております故に」

「いや、無い状態を見ておらぬし…」

「んな事言ったら永久に証明出来ないよ」

「…では、そのお主の左腕を千切ったのは誰なんじゃ?」

「んあ~……聞いても怒らないで、ね?」

「ワシが怒るとは…どういう状況なんじゃ…?」

「…う~、あー……」

「……まさか、ワシの配下の天狗がやったとかじゃ……なかろうな?」

「う……スミマセン! 自分で千切りましたぁ!!」

「なんじゃそりゃあぁ!?」

「ひやぁあ!すいません!!」

「お主は阿呆か!? なんで自力で自然治癒出来ぬ程の傷を自分につけとるんじゃ!?」

「…ハイ……心底後悔は微妙にしておりません」

「後悔をしろっ!!」

「いだぁ!? ちょ! 刀でチクチク刺すなッ!?」

「……はぁ、全く…何がやりたいのやら」

「イテッ! だから刺すのをッッ! やめろッ!! 溜め息つきながら楽し気に刺すなッ!?」

 

 

 

「フゥ……それで? わざわざ千切る程の何かがお主に起きたのか?」

「……ん~…ゴメン、その辺りは色々あるから言えない」

 

 自分の血肉を人間に食べさせてみました。なんて言ったらコイツは何しでかすかわからん……。

 ……いや、これは向こうの台詞か…?

 

「……まぁ、お主がそこまで言うなら強制はせんよ。ちゃんと治っとるようじゃし」

「神力妖力殆ど注ぎ込んだからね。治らなかったら詐欺だよ」

 

 誰がどう詐欺なのかは分からないし、知らないけどね。

 

「神力か……今は無いんじゃろ?」

「うん、妖力みたいには回復しないからね」

「……どういう事じゃ?」

「えーっとだね…神力はまぁ、人から貰い受けるような感じで溜まっていくんだよ」

 

 詳細は違うけど、イメージとしては合ってる…筈。

 

「…何やら複雑じゃな。その内に妖力よりも神力の方が増すのか?」

「わたしゃまだまだ新米の未熟神様さ…それに妖怪は妖怪だよ」

 

 妖怪は妖怪。

 人間との共存の望む八雲は、それをどう変えてみせるのかね。

 

「……そういえば、なんで天魔は八雲の事を知ってたの?」

「…どうやら実力のある妖怪に色々と接触しておるようじゃ。ワシの所にも来たんじゃよ」

「へぇ。それで? 天魔は賛成? それとも反対?」

「……お主は人間だった時の性格と今を比べて、お主は変わっておるか?」

「? 多分変わってないと思うよ? …当時を知る人が居ないけどね」

「…フム。なら人間にも妖怪と仲良くしようとする奴は居るかも知れんな……」

「なにそれ……結局、その時に出した結論は?」

「『嫁と相談するから時間を来れ』」

「…まさか私の名前を出してないよね?」

「それは無論」

「うん、良し。なら喰らえぇ!!」

「ふぎゃあ!!?」

「テメェ誰がお前の嫁じゃあぁ!!」

「ケブッ!? 肉弾戦はお主卑怯じゃろ!?」

「問・答・無・用!!」

「のわぁー!!?」

 

 

 

 今日も天狗の里は平和である。まる。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。