主人公がやけに強い回。
どうしてこうなった。
夜が明け、朝食を頂いて人里へ向かう。
……やっぱり、幽々子の大食いは食事になるといつでも発揮されるみたいだ……と、幽々子の朝食を食べる姿を見て、そうつくづくと考えさせられた。
だから……何処にそんな量が入るのよ……?
「さ、行きますよ詩菜さん」
「了解っと」
準備も整い、妖夢と共に人里へ向かう事になる。
……準備といっても、荷物となるような物は全部スキマに放り込んであるんだけどね。
いやはや、持ち運べる無限の空間とは何と素晴らしきものなのだろうか。
紫と幽々子に見送られ、屋敷の門をくぐり抜ける。
私はとりあえず人里で、外の世界のお金を幻想郷ででも使えるお金に両替する。
紫に頼めば一発でして貰えそうなものだけど、そこは自分の力でやって自分で記憶せねばなるまい。
妖夢は妖夢で、毎日大量に消費されていく食材を買いに。
まぁ……そりゃあ買わないと駄目だろうね……あれは……。
……というか、買う為のそのお金は一体何処から……?
そんな事をぼんやりと考えつつ、階段を二人して降りていると、
「ほら詩菜さん! 飛びますよ」
……え?
「……飛ぶ?」
「はい」
「……f, fly?」
「は、はい。そうですけど……」
……飛ぶの? マジで?
そう言われて見れば、既に妖夢はフワフワと空に浮いている。
「……もしかしてさ、幻想郷のヒトって……皆飛べるの……?」
「はい? 大体は、そうですけど……え、まさか……」
……飛べるのか……。
……この調子だと、まさか普通の人間も飛べるのか。
何なんだ幻想郷……。
いくら『あり得ない、なんて事はあり得ない』だっていっても、普通の人間が飛んでいいの!?
「……飛べないんですね……」
「……」
……あれ? 何だろう。涙が止まらないや……。
仕方ない……。
危険度はかなり上昇するけど……背に腹は変えられぬ……。
飛ばなければ越えられない壁があるというのなら、リスクを背負ってでもやらなくてはならない!
変化、鎌鼬。
こうでもしないと……飛べない自分って……。
「詩菜さん!?」
「……大丈夫。ここに居るよ」
「い、居るんですか?」
「居る居る。だから触ろうとしないでね。私が弾け飛ぶからね?」
「わっ、わかりました」
今の私、鎌鼬状態の私はまさしく『紙装甲』だ。
妖力とか霊力とか、とりあえず今の私は何かしらの力に触れたら、肉体に当たるその部分が抉り取られたかのように消失してしまうのである。
弾幕の弾が一発でも当たれば、私の胸元にはでっかい風穴が出来ちゃうんだなぁ……。
……あぁ、なんで飛べないんだろう……。
「……と、とりあえず人里に向かいますから……ちゃんと着いてきてますよね?」
「着いてきてるよ。気配とか探れない?」
「探る事は出来ますけど……薄いんですよ。詩菜さんの気配は」
「……薄い、ねぇ……」
やっぱり私は、隠密系が一番性に合っているのかしらね……?
……段ボールを何処からか調達しようかしら……?
走れ、ダンボール箱。
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まぁ、これはこれで宙に浮くという面白い光景が見れるので、個人的には大好きな訳だけどね。
敵に襲われなければ、なんだけどさ。ま、確かに気配はグッと収まるし見付かる事もそんなにない。
等と他愛もない話を妖夢と交わしつつ人里に向かって飛んでいると、
いきなり妖怪達に襲われた。
素晴らしい具合にフラグ回収である。くそぅ。
「ッッ!?」
奇襲のつもりか、真下の雑木林からいきなり弾幕が発射される。
即座に突風を起こし、弾幕の軌道を変える。
あのままだったら私は弾幕で蜂の巣にされていただろう。
文字通り、身体中が穴ぼこだらけになって。
「妖夢! 援護するから攻撃任せた!」
「ッ、どうやってですか?」
「私は風を司る神さ。速度上昇の御利益!!」
微妙に回復していた神力をすぐさま使い切ってしまうのはいささかもったいない気もするけれども、こんな頑張って幻想郷に来たのに自身があっさりと死ぬのはもっと御免である。
私の術により、妖夢の身体に風が渦巻き加護を受ける。
術式自体は簡単なモノだし御利益も単純だからこそ、少ない量の力でも発動出来た。
「行って! 私は大丈夫だから!!」
「……分かりました!」
妖夢は頷くと、昨日よりも確実に素早く動きながら、妖怪へと飛んでいった。
彼女も異変を起こした人物。そこらの妖怪を圧倒する位の実力はある筈だ。
なら、弱い私が囮になり、素早く敵の裏を突いて倒す方が早く終わる。
いやまぁ、気配が薄いと先ほど言われたばかりだけど、目立つ事なら空中に衝撃波でも起こしてやれば注目はすぐに集まる。
問題は、
私が一発でも弾に当たれば終わる。って事ぐらいかな?
「よっ! はっ! って!」
鎌鼬状態になれば、私は空中でもいつも通りに動く事が出来る。
衝撃を操って動く訳じゃないから、いきなりトップスピードっていう訳にはいかないけどね。
眼が痛くなってくる程にカラフルな弾幕が、私の視界を覆い尽くす。
私はその中を潜り抜け、時には自身から風や衝撃を発して避けていく。
身体は風になっているから、身を捩るっていうのはおかしな表現だけど、兎も角回避し続ける。
その内、私に飛んでくる弾幕の数がどんどん減っていく。
……妖夢がちゃんと倒してくれたみたいだ。ありがたい。
「ふぅ……おっと」
つい溜め息を吐いて、気が弛んだ時を狙ったかのように飛んできた弾幕を避ける。
さて、これが最後かな? まだ警戒は解かないけど。
「大丈夫ですか!?」
「なんとかね。そっちは?」
妖夢が刀を納めながら飛んできたから、恐らく全員退治したのかな?
まぁ、多少泥というか土というか、そういう汚れしか妖夢にはついていないから、流石は異変を起こしたヒトというかなんというか……。
「私は大丈夫です。詩菜さんも平気なんですね?」
「大丈夫だよ。全部避けたから」
回避ならお手の物。弾幕なら専門外。そんなのが私だ。
「急ぎましょう。予想以上に時間が掛かりました。こんな所で襲われるなんて……」
「そうだね。行こっか」
「はい」
そう言って、再び人里に向かう私達。
妖夢の言う通りだと、こんな冥界に近い所で妖精が襲ってくるなんて異変の時とかでないとだとか何だとか。
何だ、私を歓迎してくれないってか。それなら寧ろ私は嬉々として乱入するから逆効果ですことよ?
……と言うか、そんな事を考えている場合ではなかった。
さっき回避しまくったせいで、方角が全然分かんなかった。
妖夢が向かっている方向の正反対が、向かうべき方角だと思っていたよ……危ない危ない。
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そんなこんなで何とか人里に到着。
そして、変化、詩菜。
……懐かしいね。約百二十年振りか。
位置も町並みもずいぶんと変わって……規模は更に大きくなったかな?
私が覚えている人里と最も違う点といえば、『妖怪が普通に居る』という所かな。
《人と妖怪の共存》が、ここに完成している。
……凄いね。一瞬鳥肌が立った。
「……変わったねぇ、人里も」
「あれ? 詩菜さんって、初めて幻想郷に来たって……?」
「『幻想郷』にはね。出来る前は妖怪の山に住んでいたさ」
顔をあげれば、必ず目につくでかい山。
間違える筈もない、『妖怪の山』だ。
「……そうだったんですか」
「まぁ……数百年ぐらい外にいたから、地理とか忘れちゃったけどね」
「数百年……? あの、失礼ですけど……詩菜さんって……おいくつなんですか……?」
「ん? 1445歳」
「……え?」
またそんな表情して……。
まぁたアレですか? 妖力と見た目の判断ですか?
「……まぁ、そういう風に見られるのには慣れてるけどさ……」
「ハッ! す、すみません……!」
……慣れてるけどさぁ……。
別にいいけどさぁ……。
「ま、いいや……で、買い物するんでしょ?」
「は、はい。そうでしたね……え? 手伝ってくれるんですか?」
「このままお別れってのもアレだし、幽々子の為に大量に買うんでしょ? スキマで送るし手伝うよ」
「あ……ありがとうございます!」
一宿一飯の恩義ってね。
人里の案内や、妖怪から助けてくれたしね。
「さっ、行こ!」
「はいッ!」
因みに後から聴いた話では、
この光景を見ていた門番には、私達は身長差も特にない為、姉妹のように見えたとかなんとか。
とすると、身長差で言うなら妖夢がお姉ちゃんか?
……年齢差で言うなら、私の方がおおよそ十五倍も年上なのになぁ……。
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「ありがとうございます!」
「いやぁ、御互い様でしょ」
スキマで食材を送り、妖夢を人里の入り口で見送りの最中也。
……スキマで送ろうか? と訊いたけど、頑なに断られた辺り、紫のスキマに突っ込まれた事でもあるのかね? 強制的に落ちた事によるトラウマとか?
ま、どうでもいいけど。
「また今度、暇があったらそっちに行くよ」
「はい。詩菜さんも慣れない事もあると思いますけど、頑張って下さいね」
「ははは、そだね」
「では、これで失礼します」
「じゃあね~」
そんなこんなで、妖夢が飛んでいくのを見送る。
生身で飛ぶ姿を羨ましいなぁ、とか思いながら。
……さて、と……。
とりあえず、お金を両替する為に人里に戻りますかね。
……さっきから微笑ましげに見ている門番の人間がウザいし。
はてさて、両替するには何処に行けば良いのやら。
道行く人やヒトに訊ね歩くと、『香霖堂が良いのでは?』とのお話だった。
香霖堂は人里にはなく、少し離れた所にある『魔法の森』の入り口に建っているとの話。
……めんどくさいなぁ、とか思いつつ、しかし新しい場所に住むには何事にもお金とかが必要かなと考え直して、結局の所、人間の里では何もしなかったなぁ等と考えながら、里の門をくぐり抜ける。
話を訊いたおっちゃんによると、
香霖堂とやらの店までの道は、『幻想郷の中でも比較的マシ』との話だった。
何が比較的マシなのかは訊いてないけど、あのおっちゃんは人間だったから妖怪に襲われるか襲われないかの話だったんだろうね。多分。
はてさて……、
「……なにが『比較的マシ』だよ……」
目の前に、ワラワラと二足歩行の人形の妖怪が数十人。
どいつもこいつも白目を剥いていて、正気を失っているのか、それとも元からそういった理性というのがないのか。
まぁ、要は、私は現在進行形で襲われている。という訳である。
やれやれ……妖夢と移動していた時も襲われたし、こりゃ何かというか誰かの隠謀かね?
でもまぁ、さっきと違うのは、
私が地面に居て、相手も飛ぶ気配がなく、弾幕を使わず肉弾戦を挑もうとしている所かな?
叫び声や唸り声、果てにはアイコンタクトや何かしらの合図が全くなかったにも関わらず、彼等は一斉に襲い掛かってきた。
良いねぇ、一対多数。
『
昔にも何度かやったけど、こういうのはやっぱり弱者が大量にいて、強いのが此方側っていうのじゃないと盛り上がらないよねぇ?
相手の先頭の妖怪が私の所に辿り着くまで、時間的には十秒も無い。
でもこれぐらいなら、余裕で変身出来る。特に意味もなく。
相手も遠距離用の弾幕ぐらい撃てれば、それも変わるだろうにねぇ。
変化、志鳴徒。
両手の親指を除く八本の爪を勢い良く伸ばす。刃渡り30センチの鋭利な刃物だ。
「来いよ。細切れにしてやる!!」
一人目、何も持っておらず俺を抑え込むように突っ込んでくる。
右手で袈裟斬りするように引っ掻き、そのまま胡瓜を切るように斬り裂く。
傷口から白い液体が血液のように吹き出て、俺の顔や服に飛び散る。
二人目、一人目から間髪入れずに飛び込んできた。
こいつも、右手を振り抜いた勢いで回転し、左の爪で薙ぐように斬り裂く。
三人目四人目、二人同時に襲い掛かってきた。
両側から抑え込むようにして来たので、両手でそれぞれを下から斬り上げる。
視界が飛び散った液体で塞がり、その液体の向こうからいきなり五人目が飛び込んできた。
咄嗟の事で攻撃出来ず、そのまま腕を掴まれて地面に押し倒される。
「うっ、ぜぇッ!!」
顔が近付き、ニヤニヤしながら荒い息を吐きやがったので、頭突きを御見舞いしてやる。
衝撃を倍増させた頭と頭がぶつかり、相手の頭が真後ろに折れる。
そのまま脚を相手と自分の間に挟み込み、相手を蹴り跳ばす。
直ぐ様立ち上がり、トドメとして細切れにする。
まだ敵は残っている。
六人目、遂に武器を持って襲ってくる奴が来た。
何処で拾ったのか洋刀を振りかざして斬ろうとしてくる。
その剣と左の爪をぶつけて衝撃を相手の方に全て流し、体勢を崩した所を右手で斬り裂く。
七人目八人目九人目が連続して襲い掛かり、少し間が空いてから十人目十一人目が来ている。
「チッ!」
七人目を爪で串刺し、手を身体から抜きながら七人目を踏み台にする。
殺した妖怪から跳び上がり、樹の枝を掴んで八人目九人目をやり過ごす。
掴んだ枝が生えていた樹の幹を蹴り、素早く十人目十一人目に近付き八つ裂きにする。
八人目九人目とは反対方向から、十二人目十三人目が走ってくる。
もう、多すぎだろ……!
九人目と十二人目を、俺が回転しながら胴を真横に斬り裂く。
踵で地面を叩き、一気に近付いて八人目をサイコロ状にバラバラにする。
白い血液が気持ち悪い。ベタベタする。
十三人目が槍で突進を仕掛けて来たので、裏拳で槍をへし折り、更に顔面に後ろ回し蹴りを叩き込んでやる。
爪先で蹴られて顎が吹き飛び、更に衝撃で吹き飛んで後続として来ていた十四人目と十五人目に十三人目がぶつかる。
転がっているその集団を狙い、爪を振り下ろしたが一人だけが周りの奴等を盾に転がって避けられた。
そいつも即座に立ち上がり、妖力で創ったのか刀のような物を握り、俺に突っ込んでくる。
ヒュンヒュンと妖力刀を振り回し、勢い良く振りかざしたは良いものの、いささか遅すぎる。
刀を振り下ろす前には、既にその肉体はサイコロステーキになっている。
ブシャアァバラバラ、と真っ白な血飛沫をあげながら転がる妖怪共。
顔をあげれば十六人目十七人目十八人目がこちらを睨んでいる。
大方、俺が予想以上に強かったからかねぇ? ははは、あーうっぜ。
十六人目、さっきの奴と同様に妖力刀を創り、突っ込んでくる。
その後ろで十七人目、弾幕を発射している。
更にその後ろ、十八人目が大木を折って、俺にぶん投げようとしている。
十六人目の妖怪が刀を振りかざした瞬間に懐に能力の衝撃で潜り込み、妖力刀を持っている右手を斬り飛ばし、頭も斬り裂き、心臓に爪を刺して、そのまま肉体を掴む。
ダラリと肉体が動かなくなったので、そのまま弾幕に対する壁として使用させてもらう。
パンパンと弾が当たる度に死体がビクビク動くが、それを無視して一気に十七人目に近付く。
十七人目に死体を投げ付け、視界が塞がって攻撃が止まった瞬間に両者とも斬り裂く。
丁度その時に、十八人目が大木を投げた。
まぁ、そういう攻撃なら弾幕よりもはるかに御しやすいので実に助かる。
「ッ、オラァッ!」
その巨木を思い切りぶん殴り、カウンターで跳ね返す。
そのまま自分の投げた大木に轢かれ、十八人目が視界から消え去る。
ズズン! と重い物が着弾した音が辺りに響き、鳥が木々から飛び立つ。
そうやって見ていると、真後ろから誰かに抱き着かれた。
荒い息に臭い息、十九人目か……!
ああもう、数えんのもめんどくさいとか思いつつ、数えずには居られないなぁ!
後頭部による頭突き、頭全体が首からもげた所へ更に右腕で肘鉄砲をぶつけてやる。
拘束が弛んで倒れこむ隙に一気に振り返って両手の爪を一閃。まぁ、無駄な攻撃かもしれんが念の為に。
その向こうで二十人目二十一人目が弾幕を撃っている。
その弾幕を反復横跳びの要領で避けながら、その二人を続けざまに斬り裂いていく。
斬った瞬間に俺の上に影が出来る。
顔をあげれば、二十二人目二十三人目二十四人目二十五人目二十六人目が岩を持ち上げている。
空を飛びながら、何メートルもありそうな大岩を俺に落とそうとしている。
「……さっきのアレで気付かないのかねぇ。この馬鹿共は」
そう呟いた瞬間に、奴等が岩を落とした。
隕石のように落ちてきた岩石を、これまた右手でぶん殴る。
殴った瞬間に罅が入り、岩が砕け散る。
奴等には、岩が砕け散って、更にその向こうに俺が居ないっていう、驚くような光景が広がっているだろうな。
いや、潰されて見えないのだろうと思ってるかも。まぁ、どうでもいいが。
岩石を殴った後に、奴等の真上に俺は跳び上がっていた。
五人がまだ滞空している内に、コイツらを次々と踏みつけ、地面へと墜落させる。
まだ奴等は死んではいない。それぐらいの衝撃の威力にした。
「これでッ、終わりィッ!!」
まだ空中にいる俺は、空間圧縮を始める。
即座に完成させた『緋色玉』を親指で弾き、地面に埋まっている奴等の中央に発射する。
赤黒い球体の炎が広がり、地面を不毛な土地に変える。
そして着地。無駄に格好つけて着地。
……あ~……疲れた……。
見渡してみれば、そこかしこに何かの死体と真っ白な液体が散らばっている。
いやぁ……こんなに暴れたのは久し振りだな、マジで。
ついでに言うなら、志鳴徒の身体も本当に久し振りだ。何年振りだろうか。ほんと。
さて、いつの間にか『魔法の森』らしき森が見えている。
まぁ、良く分からない妖怪に襲われたが、暇を潰せたから良しとしよう。
さーてさてさて、香霖堂へれっつごー♪
……というか、この白い血液を流す為にも……シャワーが浴びたいな……。
つーか風呂に入りたい。『彼』の家に居た時にお邪魔すれば良かったか……。
あー……いや……一度変化して戻れば落ちるか。