風雲の如く   作:楠乃

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 さてさて、ようやくの正統派主人公の登場(?)



普通と意味不明の差

 

 

 

 さてさて、(ようや)く『香霖堂』に到着。

 周囲には嫌な感じの森が見えている。恐らくこれが『魔法の森』って奴だろうなぁ。

 

 ……しかしまぁ、本当に森の入り口に建っているとは……。

 近くまで来たから分かったけど、森が発する瘴気が酷いったらありゃしない。

 禍々しいというか、なんというか……兎に角、イヤな気配のする森だ。

 

 そんな森の入り口に、ちょこんと建つ古道具屋。

 ……良くもまぁ、こんな辺鄙(へんぴ)な所でやるよ。

 昔からへき地が好きで良く彷徨いていた自分が言える事ではないかもしれんが。

 

 

 

 

 

 

 まぁ……そんな事を考えながら、両替をしに来る客も客だがな。

 

 チリンチリンと、ドアベルを鳴らして店内に入る。

 中には文字通り『色々な物』が棚を埋め尽くしている。

 ……それどころか床にまで転がっているものもある。

 掃除しろや。とか思った。

 決して言わないがな。客だし、馴染みでもないし。

 

 

 

「いらっしゃい」

「……どうも」

 

 奥から店主と思われる男性が出てきた。

 銀髪に眼鏡、寒色系の色彩をした民族風の衣装。

 

「此処らじゃあ見ない顔だね? 何か香霖堂にご用かな?」

「……外のお金と幻想郷のお金の換金をしたい」

「へぇ……っていう事は君は外の世界に居たのかい?」

「……まぁ」

 

 ……なんだろう。この店主。

 外の世界、っていう単語を俺が喋った途端に、眼が輝いたんだが……?

 やっぱり『内側』に居る奴は『外側』に興味を持つ、ってのが普通なのかね。

 

「じゃあさ、今この店内にある道具の使い方とか、分かるかい?」

「……まぁ、分かると思うが……」

 

 前世も入れるならば、俺は一年先の未来の道具も分かる。

 ……とかまぁ、そんな自慢はさておき。

 

 

 

 一通り店内をグルリと見渡す。

 無茶苦茶古い鳩時計。デジタルカメラ。シャーペン。ドラム缶。ドライヤー。キセル。ブラウン管型テレビ。錆び付いたリボルバー。某ツンデレの制服コスチューム。ノートパソコン。歩数計。刀。信号機。一両小判。スタンドライト。車の鍵。電動鉛筆削り機。小学生用の小さな椅子。弦のないギター。湯呑み。電子レンジ。炊飯器。昔の漫画。セガ○ターン。ビデオデッキ。コーヒーメーカー。ファックス……。

 

 ……なんだこの混沌とした空間。

 ん……あれ、あの刀……。

 

 

 

「何か使い方が分かる物、あるかい?」

「……一応分からないのは、ない……」

「本当かい!?」

 

 分からないのはないが……。

 

「……どれもこれも使用出来ない奴ばかりだ」

「……」

 

 俺が馴染み深い物、それは電化製品を指す。

 幽々子の所で一日泊まった時から気付いていたけど、幻想郷には電気がない。

 電線などがないから、現代人に必要な電気で動く物が何一つ使用出来ない。

 ノートパソコンやデジタルカメラならバッテリーがあれば動かせられるだろうが、この様子だとそれも無いだろう。充電すら出来ない。

 そもそも液晶が割れてるからな。修理でもしない限り無理だ。そんな技術を持つ人間なんて幻想郷には居ないだろう。山の妖怪は別として。

 他に説明出来そうなのは……せいぜいシャーペンか信号機か車の鍵か、刀か……。

 

 ……つーか、ロクな物がないな。

 何で○○ヒの制服があるんだよ……なんで新品で上下揃ってるんだよ……。

 

「……そうか」

「すまんね」

「いや良いよ。どうせ売らないしね。ちょっと両替してくるよ」

「あー、お願いします」

 

 そう言って店主は奥の方へと消えていった。

 ……売るつもり、無いのか。別に何も言わないけど、それどうなんだよ……。

 

 

 

 ……しかし、なんでまたセガ○ターン……?

 ソフト、ソフト……何かないかな~っと。懐かしの名作ソフト。パンドラやりたい。ビクシオマ撃ちたい。

 ラ○ェクラ、そりゃ○S2だ。

 X○、これはP○1かP○P。

 ポ○○ン赤(初代)、論外。

 ○ー○ースタリオン(○ーファミ)、これも論外……。

 

 あ、そっかゲームじゃなくても良いのか。

 音楽でも良い訳だから……ウン○ャマ・○ミー、音楽だけど……ちげぇよ。

 

 ……ま、無いなら無いで、○Iでも再生しますか。確かこれは音楽が聴けた筈。

 そんなに俺の好みの曲じゃなかったような気もするけどな─。

 

 

 

 見事な程に箱型のテレビ。その画面の真後ろにある差し込み孔にコードを繋げてセ○にCDをセットする。

 ……はてさて、今更ながら、起動させようにも電源がどうしようもない訳なのだが……あれ? これ新品じゃね? まぁ、ハードだけあっても意味は無い。

 無念。根本的な物が無いため何も出来やしない。

 

 

 

「……やっぱり使えないのかい?」

「ん~、俺は別に専門家でも無いから何とも言い難いたいが……電気があればなぁ……」

 

 ……まぁ、幻想郷にそんな科学的なモノを求めたら駄目か。

 非常識の集まる世界、ねぇ……。

 常識の世界に永い事住んでいると、こういう所で不便に感じるもんだなぁ。

 慣れていくしかないってのは理解しているが……。

 

 まぁ、起動は無理だと諦めて店主に話し掛ける。

 

「……それで、両替は出来たかい?」

「ん? ああ。ほら」

 

 革袋に入れられた小銭を受け取り、それをスキマに投げ入れる。

 懐に入れておくよりもよっぽど安全だ。紫に掠め盗られない限り。

 

 

 

 ……ん?

 

「……君……今、『あの娘』の能力を使わなかったかい……?」

「……」

 

 あ……。

 ……そういえば、紫は一応『妖怪側の調停』をしているんだった。

 それなりに有名なアイツの力を普通に俺が使ったら、そりゃ怪しまれるに決まってら。

 

 

 

 ……早速怪しまれちまった!?

 

 

 

「……そういえば、君の名前も訊いていなかったね。何て言うんだい?」

「……」

 

 そんな笑顔なのに眼は明らかに警戒された状態で質問されても困る。

 ……はぁ。

 早速何やってんだか……久々に志鳴徒に変化した所為かね?

 

「……『志鳴徒』……一昨日ここに来た新参者だ」

「志鳴徒……ふむ、姓はないのかい?」

 

 ……あー! もうッ、めんどくせぇ!!

 もう隠し通すのすらめんどくさい!!

 

「ない。紫とは式の関係。俺の能力は『衝撃を操る程度の能力』! 年齢1445歳!!」

「……いや、そんな叫ばれても困るし、聞いてもいない事を答えられても……」

 

 ……ですよねー。

 

「……八雲さんと式の関係って……もう一人居たのかい?」

「藍の事か? アイツはどっちかっていうと後輩に当たるな」

 

 霊力・妖力から見れば、藍の方が何倍もあるがな。

 ……そういや、藍にも幻想郷に来てから一回も会ってないな……。

 まぁ、また逢ったとしてもイヤな雰囲気になるだろうけど。あー、ヤダヤダ。

 どうせなら仲良くしたいよなぁ。傾国の美女。いや、美女じゃなくても同僚なんだし。

 

「後輩に……え?」

「……俺は妖力が元々少ない質なんだ。そこらは察してくれ」

「あっ、ああ……すまない……」

 

 しかも今は、右手の回復に使ったり戦闘で消費したりして、いつもよりかなり少ない方だからなぁ……。

 ……しっかし、なんでこんなにも少ないのかねぇ……?

 

 ……まぁ、どうでもいいっちゃあどうでもいいけどな。

 

 

 

「ま……両替ありがとうな」

「あ、ああ、また来てくれ」

 

 

 

 あっ、っとぉ。

 この店主の名前を訊くのを忘れてたや。

 

「そうそう、店主」

「? ……なんだい?」

「いや、アンタの名前を訊いてなかった」

 

 俺だけ自己紹介、っていうのは、何か不公平だからなぁ。

 

「……『森近(もりちか) 霖之助(りんのすけ)』だ」

「そうか。じゃあ森近、また今度寄るよ」

「ああ、その時は是非何か買っていってくれ」

「そうする」

 

 

 

 ……なんだろうな。

 あの店主とは、仲良くやれそうな気がするよ。

 多分。恐らく。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を考えながら、ドアを開こうとする。

 

 いきなり『何か』に轢かれる。

 

 撥ね飛ばされて俺はガラクタに突っ込む。

 

 ドンガラガッシャン。

 

 

 

「あれ? 何か来てたのか?」

「……魔理沙、箒に乗りながら店に突っ込まないでくれ……非常に迷惑だ」

「気にしちゃダメだぜ」

「気にしろ!!」

 

 ガラクタを吹き飛ばしながら叫んでみる。

 

 轢かれたこっちの身にもなりやがれッ!! 痛いんだからな!?

 幾ら『衝撃』を操れても、発動する暇すらなかったら喰らうわ!!

 大体室内に飛んで入ってくるな! 足音というか衝撃音を発しろ! 妖怪だろうが人間だろうが動いてるのなら生きてるだろ生きてるなら衝撃を出せよ無茶苦茶論法!!

 

 

 

 と、そこまで叫んだ所でようやく俺を轢いた奴を見る。

 

 魔法使いのような黒い帽子。

 黒系の服に白いエプロンという、白黒の衣装。古びた感じの箒。

 金髪に波立ったロングの髪型。女性。

 

 

 

「「……誰だこいつ?」」

 

 ……ハモった。

 同時に森近の方を見て、相手の方を指差すという無駄な所までシンクロである。何だコレ腹立つ。

 

 

 

「……こちら、幻想郷に来たばかりの『志鳴徒』」

「……よろしく」

「こちら、魔理沙。『霧雨(きりさめ) 魔理沙(まりさ)』と言う、まぁ、この店の常連客だ」

「へぇ、珍しい事もあるんだな。真っ当な妖怪が外から来るなんて」

 

 真っ当……か?

 

 ……いかん、自分の事を『真っ当な生き方をしていない』と考えている自分が居る……!

 

「……それで、魔理沙、何の用だい?」

「いや、ただ寄ってみただけだぜ」

「……それなら、いちいち扉を壊すような勢いで入って来ないでくれ……」

 

 

 

 ……ガラクタからようやく抜け出し、身体の埃を払い落とす。

 俺が激突した所為、というかのしかかった時の重さでぶっ壊れた物が幾つかあったが、それは断じて俺の所為ではない。寧ろぶつかる瞬間に衝撃を操らなかったらあのブラウン管は全て粉々になっていたに違いない。

 そこの霧雨とかが突進してきた所為である。ウム。

 

「ふぅ……」

「……なんだよ、そのワザとらしい溜め息は」

「いやぁ……謝ってくれても良いんじゃないかな? 轢かれたんだよ? 俺」

「……すまん」

「ん」

 

 

 

 まぁ、そこまで意地汚くも無いので、これくらいで水に流すとしよう。

 ……でもこんな事を考えている辺り、既に意地汚いと断言できそうな気もする。

 

 ……う~ん、とことん酷い奴だな俺……。

 

 

 

 

 

 

「……ま、客が居るのなら私は出て行くとするぜ。じゃあな」

 

 

 

 そう言って、霧雨はそのまま香霖堂を出て行った。

 

 箒に乗って、荒々しく扉を蹴飛ばしながら。

 

 ヂリヂリンチリン……。

 

「……」

「……俺の所為?」

「他に誰が居る」

「………」

 

 もうやだ……泣きたい……。

 ……この性格が恨めしい……どうしてこうもヒトと仲良く出来ないものか……。

 

 頭をガシガシ掻きつつ、もう一度身体のホコリを払いつつ出口に向かう。

 いかんいかん。妖怪側の精神に近くなってるのか、嫌な輩になりつつある。

 

「……ちょっと、謝ってくる」

 

 ヒトを小馬鹿にしたような態度、ひねくれた性格、ついつい意地悪する自分。

 こういった性格を否定するつもりは更々無いが、ヒトに嫌われるのは嫌だ。

 そんな事を考えていてもこんな態度だから、嫌われているのは承知だけども……。

 ……もうトラウマは御免である。

 

 

 

「……君とはほんの十数分しか話していないが、まさか謝りに行くとは思わなかったよ」

 

 扉から出ようとしてドアノブに手を掛け、まさに今出て行こうとする俺に声が掛かる。

 後ろへと振り返り、椅子に座って本を読んでいる森近店主を睨む。

 

「……そんな簡単に理解してもらっても困るね。俺や『私』の事をさ」

「(私?) ……まぁ急ぐんだね。彼女は逃げ足が速いから」

「言われなくても、そうするさ」

 

 今度こそ扉を完全に開き、霧雨を追う。

 後味の悪い最期なんて、真っ平御免なんだ。

 

 

 

「うまくやって、彼女と仲良くしてやってくれ」

 

 

 

 後ろ手で締めたドアノブに、森近の声が『衝撃』として伝わり、能力が俺に伝える。

 

 まぁ……うまくやれたらな。

 そう簡単に上手く出来たら、世の中喧嘩や争いはなくならないだろうよ、とも思いつつ、衝撃を操り一気に跳び出す。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、彼女自身を探さねば。

 魔法使いのような格好をしていて、尚且つ幻想郷の住人だ。

 陸路を取るとは思えない。

 大体箒に乗って飛んでいたしな。ああ羨ましい。

 

 まぁ、それなら、

 

 

 

 変化、鎌鼬。

 

 

 

 それなら、こっちの方が早い。例えこの姿が危険だったとしても、ハイリスクハイリターンを所望する。

 風状態になって、上空へと舞い上がる。

 

 360度全てを見渡して、『それ』は簡単に見付けれた。

 箒に乗って、結構なスピードで此方から離れて行っている。

 

「……」

 

 追い着くのは、然程難しくは無い。

 

 

 

 ……けど、追い着いて、私はどうすれば良いのだろう……?

 

「ああ、もうッ! クソッ!!」

 

 ろくに謝りの言葉も思い付かない、自分が歯痒くて仕方が無い。

 ……それでも私は、霧雨の下へと行く。

 

 

 

 

 

 

「霧雨ッ!!」

「っ!? 誰だ!?」

 

 ……結局、何も思い浮かばずに追い着いてしまった。

 霧雨は、顔を鎌鼬状態の私に向けたけど、その眼は明らかに私を捉えてはいなさそうだ。

 

「わた……俺だ。志鳴徒だ」

「……姿が見えないが、何かの術でも使っているのか?」

「いや、単に変化しているだけ……じゃなくて」

「?」

「……あ~……その……すまん。意固地になり過ぎた……悪い」

 

 正直に、謝る。

 俺は、はっきり言えば謝った事が殆ど無い。

 だから、謝り方、仲直りの仕方がうまく分からない。

 ……『だから』なんて……言い訳にしかならないよね……。

 

 

「……何だ、たかがそんな事で私に謝りに来たのか?」

「……何が『たかがそんな事』だよ。明らかに口調が怒ってる癖に……」

「うるさいな。撃つぞ」

「横暴すぎる……分かった分かった。撃つな頼むから。死ぬ」

「大袈裟だな。妖怪がそんなので良いのか?」

「生憎、今のこの状態は脆いんでね。過剰反応しないと簡単に死ねる」

「へぇ? 試しに撃ってみてもいいか?」

「……それでお前の気が済むなら。どうぞ御自由に」

 

 そう返されて、霧雨の顔が疑惑から驚愕の色に、そしてまた困惑の色に染まる。

 この件について―――『件』と言うのも何かおかしい気がするけども―――この件について、私は真摯に真面目に謝るつもりだ。

 

 ……『真摯に』『真面目に』っていうのも、何だか言い訳というか言い逃れというか……そんな感じになるけど……。

 ああ、言い訳って感じ、嫌ね。

 

 

 

「……何なんだお前。馬鹿にしてきたかと思ってたら、いきなり謝ってきて……」

「……俺は険悪な雰囲気が嫌いなんだよ」

 

 嫌われるのは、ある意味仕方ない。

 好まれて怨まれるのも、仕方ないと言えばそれまでになる。

 

 だからって、周りの皆を巻き込んで喧嘩のような事をするのは、何か間違っていると思う。

 ……単なる自論だけど……さ。

 

 

 

 ……正直に言えば『香霖堂』の森近と、彼女が去った雰囲気でそのまま話し合ったり、逃げるような感じで店を出て行くのが嫌だった、ってのもある。

 だから本音をぶちまけると、実は霧雨に謝るのは二の次なのかも知れない。

 

 ……だから私は、

 

「……だから私は最低なのさ」

「……『私』?」

「おっと……失礼」

 

 いかん、また口調が詩菜になってる。

 ……う~ん……どうも思考が暗い方になると、詩菜の方が出るのかねぇ……?

 

 まぁ……今は鎌鼬なんだから、口調なんて関係ないんだけど。

 色々と楽なのは詩菜だしね。何がとは言わないけど。

 

 

 

 

 

 

「……まぁ、別に気にしちゃいないさ。悪いのは元々私だったしな」

「……そっか」

 

 それでも、『気にしてない』という言葉だけでも、なんとなく救われる。

 ちゃんと言えば済む話……ってのは、色々と昔から経験してきた事、か。

 

 

 

「ところで、まだお前はついて来るのか?」

「……そもそも、何処に向かってるの?」

「……ちょっと待て。お前『男』だよな?」

「キニシナーイ、キニシナーイ」

「………お前、謝ったら途端に態度変わるよな」

 

 ……。

 ……。

 

 

 

 ………………。

 

「……頑張って、性格、直すよ。うん……」

「いや別にそんな修正しろとまでは言ってないんだが……」

「……で、何処に向かってるの?」

「なぁ……なんか、声質も変わってないか?」

 

 

 

 ……ハイハイ、分かりましたよ……。

 

「……ちょいと、箒の後ろ、失礼するよ」

「へ? 何をする気だ?」

「乗る」

「おい!?」

 

 姿を現すのさ。

 ……というか昔から、志鳴徒から口調の変化で詩菜になっているような気がする……。

 そしてその逆のパターンがないような気が……まぁ、今は置いとこう。どうでもよくはないけど、置いておこう。

 

 

 

 変化、詩菜。

 

 

 

 箒の上に腰を下ろす。

 実体化した状態でこんな高い所に居るのは、文に抱えられた状態での旅以来かな?

 後は……妖怪の山でも鬼との決戦とか?

 あ、妖夢と一緒に冥界を出た時もこんな感じの風景だったな。あれは鎌鼬状態だったけど。

 

 

 

「っ誰だお前!?」

「さっきまで喋ってたじゃん……おっとぉ」

 

 動揺した霧雨に合わせてか、箒が揺れる揺れる。

 落ちたらまた変化しなくちゃいけない。そしてまた辺りを警戒しないといけない。

 それは疲れるから嫌だ。

 

 という訳で、箒に横乗りしてみる。

 これで運転している霧雨が男子だったら完全にカップル。という下らない話。

 

 

 

「……志鳴徒……なのか?」

「正確に言うならば、私の名前は『詩菜(しな)』。『志鳴徒(しなと)』は男性の身体。私は女性の身体。簡単に言えば両性具有って奴かな? 私はそんなの意識したつもりでも無いんけどね」

「……」

 

 ようやく落ち着いたのか、箒がさっきのような安定した動きに戻る。

 

「……なんだか、さっきまで考えていたお前の性格が一気に崩れていくぜ……結局お前は何なんだ?」

「私は私さ。それ以上でもそれ以下でも、それそのものでしかないの、ってね」

「……めんどくさい奴」

「褒め言葉として受け取ろう」

「貶してんだよ」

「……真正面からそんな事を言う?」

「言うぜ」

「……ひねくれた奴」

「褒め言葉だよな? ありがたく受け取っておくぜ」

「……ハァ……」

 

 どうやら、私達は似たような性格らしい。

 ひねくれて、迷惑がられる性格だ。

 

 

 

 

 

 

「ほら、見えてきたぜ」

 

 と、霧雨が前方を指差す。

 どうやら、香霖堂での一件は完全に水に流れたのかな? それはそれで嬉しいけど。

 

 ……いや、まぁ……どうでもいい事ではないけど……ちょっとさ?

 

「……行き先をそもそも聴いてないんだけど?」

「博麗神社だぜ」

 

 神社、博麗。

 

 

 

 ああ………………八雲一家と、最後に別れた所か。

 

 

 


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