風雲の如く   作:楠乃

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ハプニング

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ……ッ……!

 

 

 

「ゴホッ!! ゲホッゲホッ!?」

「……よ、ようやく呼吸しだしたか……」

 

 気が付いたら、縁側に仰向けにされていて、心臓マッサージを魔理沙にされていた。

 

 ……どうやら、私は溺れたらしい。

 

「げほこほっ! ……うぅ、気持ちわる……」

「吐きたいなら吐いた方が良いぜ……水を多少飲んだみたいだからな……」

「うぇ……魔理沙が助けてくれたの……?」

 

 身体を起こすと、庭に例の風呂があるのが見える。

 まだお湯から湯気があがっている辺り、溺れたのはついさっきなのかな?

 ……いや、そんな長い間も意識がなかったら死んでいるか。

 

「……いきなり湯船の中に沈んだんだぜ? 本当にビックリしたぜ……」

「あ、あははは……」

 

 まぁ、何にせよ、魔理沙は助けてくれたみたいだ。

 

 気分は悪いものの、

 それほど吐き気も起きず、

 

 身体を休める為に入ったというのに、

 溺れた事で物凄い倦怠感が身体を襲っている。

 

 ……なんという自爆。

 

 

 

 

 

 

 というか……何ゆえに私は全裸。

 いや、分かるよ?

 

 私を助けようと、急いで畳みにあげようとしたのも、この床の濡れ具合で分かるし?

 う……うん……いや、ありがたいですけど……。

 

 

 

 ……とりあえず、手に握っていたタオルで出来うる限り身体を隠しつつ、

 

「……魔理沙さん」

「……なんだ……? 私は色々と疲れているんだぜ……?」

 

 ……うん。

 畳みに大の字になって寝そべっているから、それは簡単に推し測れるけども……。

 

「……服、取ってきてくれないかな……?」

「はぁ? 自分で取りに行けよ……」

「……この格好で動くのは……その……」

「……ったく。わかったよ……変な所で恥ずかしがってんな……」

 

 魔理沙がゆっくりと立ち上がり、服を取りに行ってくれた。

 ……本当に良い娘だ。

 

 ……あ、でも駄目だ。

 身体を起こしただけでも気持ち悪くなってくる……うげ……

 

 

 

「ほらよ」

「や、本当にごめんなさい。ありがとうございます……」

「さっさと着替えて、霊夢の所に行くぜ」

「了解……」

 

 ……あれ? いつの間に霊夢と紫の所に行く事になってるんだろ……?

 まぁ……別にいいけど……う、辛……。

 

 

 

 

 

 

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 微妙にふらつく身体を魔理沙に時々支えて貰う事で、何とか元のお茶を飲んでいた場所に戻る。

 

「……とと」

「おいおい……本当に大丈夫かよ?」

「正直に言ってビミョー……」

「……はぁ」

 

 

 

「おかえりなさい……どうしたのよ?」

「……霊夢聞いてくれよ。こいつ風呂で溺れたんだぜ?」

「ええー……」

「ハハハ……面目無い……」

「久々のお風呂で、そんなにリラックスしちゃったのかしら?」

「……まぁ、そんな感じだよ」

 

 当然のように、紫が霊夢と共に御茶を啜っているが、そんな事はどうでもいいのである。

 

「……やぁ紫、えーと……十二時間ぶり?」

「そうね。大体それぐらいですわね」

 

 紫の口調が微妙に変わっている事など、実にどうでもいいのである。

 そう……何もかもがどうでもいいのである!!

 ……嘘である。辛い。

 

 

 

 覚束無い足取りのまま、ちゃぶ台の近くにある座布団に座る。

 位置的には右に霊夢、左に紫、対面に魔理沙。

 

 座ってなんとか人心地をつける事が出来た私を、霊夢がじろじろ見ながら呟き始めた。

 そんなジロジロ見てるとお茶こぼしますよ。更に二人分注いでくれるのはありがたいけど。

 

「……こんなのが、ねぇ……?」

「ん? 何の話だ?」

「紫の式神らしいわよ? 彼女」

「なにぃ!?」

「……えへへへ……」

 

 ……紫、やっぱり話しちゃったか……。

 面倒な事にならないと良いんだけどなぁ……。

 

 まぁ……無理な相談か。

 

「じゃ、じゃあ藍と同じって事か!? お前が!?」

「……そんな驚く事?」

「ああ!! それは当然驚く事だろ!?」

「……そうかい」

 

 ……まぁ……日頃からひねくれてるからか……こんな驚かれてるのは……。

 

 自業自得か……あれ? さっきのこの四字熟語使ったような気が……?

 

 

「藍よりも早い内に私の式になったの。かれこれ千年以上の付き合いですわ」

「……因みに始めての弾幕ごっこの相手が紫だよ。負けたけど」

「……なるほどねぇ」

「ん? お前最近幻想郷に来たんじゃないのか?」

「? ……来たよ?」

「……紫から外の世界に居ろ、とか言われたのか?」

 

 ……ああ、そういう事ね。

 最近幻想郷に来たのに、紫の式神である筈の私がずっと『外』に居たのは何故か。って訳ね。

 

「紫から……うぷっ……ずっと逃げていたからね」

「はぁ?」「はい?」

「……本当に参ったものよね……飼い犬に噛まれるとはこの事かしら……」

「犬はやだなぁ……どうせなら猫が良い」

「……そうね。決して従わないっていう事なら、貴女は猫が正しい気がするわね……」

 

 やだなぁ、ルールに縛られないと言って欲しいね♪

 

 

 

「……初めてこんな疲れた顔の紫を見たぜ」

「……私も」

 

 いつもの事……いや、これこそ私だけかしら。

 

 

 

 

 

 

 

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 何故か今度は霊夢宅に泊まる事になり、食事を頂く事になった。

 ……どうしてこうなったし……。

 

「迂闊に歩けないお前がそれを言うのか?」

「……ごもっともです、はい……」

 

 

 

 料理の出来ない紫は(会話から察するに、出来ない事を隠しているみたいだ。無駄な事を)卓袱台に大人しく座って待ち、

 私は溺れてから数時間経っても未だに酷い体調なので大人しく待ち続け、

 家主である霊夢は簡単に鍋でも作りましょうかと言って台所へ向かい、

 何気に面倒見が良い魔理沙は手伝うぜと言って同じく台所に向かったのであった。

 

 

 

「……にしても、どうやったらあのお風呂で溺れるのよ?」

「……紫さん、どうして口調、変えてるんですか?」

「「……」」

 

 睨み合う私達。

 ……何だろう、端から見たら凄い幼稚な喧嘩に見えるんじゃなかろうか……?

 

「それにしても、相変わらず泳げないのね」

「それにしても、相変わらず料理が出来ないんですね」

「「ぐぬぬ……」」

 

 ……幼稚というか、もはやガキの喧嘩じゃね?

 

 

 

「ふぅ……そんな言い合いは置いといて……どうかしら、『幻想郷』は?」

「それは、私が脱走した時の『アレ』も含めて?」

「面白くない、って言ったのは貴女じゃないの」

「まぁ、そうだけどさ……」

 

 そんな取っ組み合いまで起こりそうな、両手を上げて今すぐにでも襲いそうな二人は何の脈絡もなく、先程と同じように姿勢を崩して何事もなかったかのように世間話をし始める。

 決して家の奥から魔理沙の声が聞こえたからとかではない。

 

 けれども世間話としてはそれは、いささかギリギリな会話じゃなかろうか……?

 

「……逆に、貴女があの時言ってくれた言葉で、弾幕ごっこが出来たものなのよ?」

「え? そうなの?」

「『弾幕ごっこ』自体の発案者は霊夢なのだけれどね」

「じゃあ違うじゃん……」

 

 霊夢に逢ったのが今日初めてなのに……私の言葉が何かを決めた訳でもあるまいに……。

 

「……ま、面白そうだね。異変とかは特に」

「そう♪ それなら良かったわ」

 

 とは言え、弾幕ごっこに勝つ見込みのない私がどう楽しむのか、という問題があるけど。

 

 

 

 

 

 

 そんな会話をしている内に、どうやら料理が出来たみたいだ。

 

「出来たぜ♪」

「待ってました」

 

 卓袱台の中央に土鍋をドンッ、と置く魔理沙。

 その後ろから小皿や取り箸を運んでくる霊夢。

 

 鍋からは良い匂いが漂ってきている。

 いや、さぁ? 良く良く考えたら朝に白玉楼でご飯を食べてから今の夕食に到るまで、何一つ食べてなかったんだよねぇ。

 お腹が鳴るわ鳴るわ。溺れた時の悪影響なんて忘れちゃうね! でも忘れて酷い目に合うのはお酒で酔いつぶれた時とおんなじだから注意しようね!

 

「はい。じゃ、いただきます」

「いただきます」

「いただきますわ」

「いっただーきまーす」

 

 ……うむ、美味い♪

 

 こうなると、自分でも料理が作りたくなる。

 でも、まぁ、とりあえずは境界線上の自宅に帰るまでは、当分の間はお預けかな?

 

 ……というかこの調子だと、山の家に帰るのはいつになる事やら……。

 まぁ……彩目にとか文に逢うのが怖いっていうのもあるけどね……。

 

「ん? どうした?」

「ああ、いや。考え事」

「そうか、てっきり溺れた影響であんまり食えないのかと」

「……いや、食えないと思うよ?」

「そこは疑問形なの?」

「疑問形でしょ」

「ああ、そうかい……」

「疑問形でしょ?」

「そこも疑問形なのか?」

「どうでもいいわよ……」

 

 

 

 

 

 

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 夕食も終わり、晩酌の時間である。

 

 ……と言うか……普通に未成年が酒を呑んでいるけども、良いのだろうか……?

 霊夢や魔理沙は人間だっていうから、見た目通りの年齢とするならば未成年だと思うんだけどなぁ?

 まだ妖夢とかは半人半霊って言うから良いとしよう。見た目的にはアウト……ってそう言えば萃香もそうだった……。

 ……それで良いのか。幻想郷よ。

 

 

 

「『外の世界』の法なんて知らないわよ。幻想郷では問題となってないのよ」

「……そんなので良いのかねぇ……?」

「う〜む、詩菜が持ってきた外の酒って奴も、案外幻想郷と変わらないもんなんだな……」

「まぁ……どうでもいいのか」

 

 全員で呑んでいる酒は、私が外の世界で手に入れた……まぁ、安物の酒である。

 酒というか、焼酎というか、○樹○というか……まぁ、そこらの酒屋で買えるものだ。

 これで変わらないとは……案外、幻想郷の技術は現代と変わらないのかしらねぇ……?

 

 

 

 

 

 

 閑話休題。というか、閑話しかない今後のお話。

 

 

 

 私達は全員、居間で卓袱台を囲み細々と私の持ち込んだ酒を呑んでいる。

 随分とちまちまとした宴会である。

 もうちょっと季節が良ければ、縁側に出て月見酒と洒落込む所だけど……。

 残念ながら今の季節は秋真っ只中。ちょいと夜は寒い。

 

 そういう訳で、屋内で言葉を酌み交わしながらの宴会という訳である。

 

 あゞ、酒とは素晴らしきもの也。

 まぁ、体調は悪いままなのであまり呑まないけど。

 

 

 

 

 

 

「……何て言うか、紫から聞いた感じだと随分とひねくれた性格らしいわね、詩菜って」

「……だからさぁ、なんで君達は真っ正面から陰口を言うのかな?」

「それを陰口とは言わないぜ」

「じゃあ何さ。悪口?」

「悪口って言うんだぜ」

「変わらないじゃないのよさ……」

「フフ、結構仲が良いのね。魔理沙と貴女」

「「コイツと?」」

「息ピッタリね」

「「……」」

「あらあら、そんな見つめ合わなくても」

「こんな面倒な奴はお断りだぜ」

「そりゃこっちの台詞だよ。こんなひねくれた奴なんて」

「でも貴女を溺れたのから助けてくれたのは魔理沙よ?」

「くっ……宣言通りにあのまま放っておいて、普通に霊夢の所にいきゃあ良かったぜ」

「いや、それは酷すぎない……?」

「まぁ……二人とも性格が近いわよね」

「そうね。二人とも《ひねくれている》性格だわ」

「……まぁ、その性格は私も自認してるし?」

「そんなネガティブな性格を認めるのか……」

「わたしゃ性格を決定付けるのは他人、っていう持論の持ち主なんでね」

「ひねくれてんなぁ……」

「詩菜も魔理沙には言われたくないでしょうね」

「オイオイ。霊夢までそんな事を言うのかよ」

「さぁ、おいで。一緒にひねくれた世界へ……」

「紫ぃ、式神の手綱はちゃんと捕っておけよ」

「……その子の手綱……? ……フッ……」

「あ……言わなかった方が良かったみたいだな……」

「どうだい!!」

「自慢するのね……こんな事を……」

「操作出来ないなんて、契約をした時から既に確信が出来ていたんですもの……」

「あっはっはっはっは」

「笑うような事じゃないと思うんだがな……」

「ひねくれているというか、正体不明というか……」

「……詩菜を四字熟語で表すなら、【理解不能】よ」

「良いねぇそれ。二つ名にでもしようかしら」

「……まぁ、似合うよな」

「ピッタリね」

「……なんだかなぁ……全員から認められていると、あんまり使う気も起きなくなるなぁ……」

「……それをひねくれているって言うんだぜ」

「まぁね」

「認めてるし……」

「詩菜だもの……」

「ああ……なるほどね……」

「納得しちまったぜ……」

「まぁ、そんな事はどうでもいいのよ」

「良いのか!?」

「良いの良いの♪ どうせこの性格を1400年も続けていたから変えようがないし?」

「……閻魔に叱られれば良いのよ。むしろ生贄にしようかしら……?」

「……オイオイ……主人である紫までもがこんな事を言い出したぞ……?」

「それだけ手に負えないのね……この詩菜って娘は……」

「いんやぁ、照れるなぁ♪」

「……処置無し。どうしようもないな」

「以下同文よ。紫すら手に負えないんじゃ、私達に扱えそうもないわ」

「良いぞ良いぞ! くふふ、もっと褒め称えてくれ!!」

「「「……はぁ……」」」

「……あれ? 私、完全にアウェー?」

「今更過ぎるぜ」

「……あれー?」

「案外周りが見えてないのよね……この娘は……」

「胡散臭い紫を超える胡散臭さって奴ね……」

「まぁね。でもって弾幕は撃てないという謎」

「撃てないのか?」

「さっきの弾幕ごっこ覚えてないの? 私、スペル以外に弾を撃ってないでしょ?」

「……そういえば撃ってなかったわね。石を蹴飛ばしていただけで。速さにだけ眼がいっていたわ」

「撃たなかったの?」

「いや、撃ったら……斬れるじゃん」

「……ああ、そういう事ね……」

「? ……どういう事よ?」

「いやぁ、私は巧く弾幕の威力を調整出来なくてね……どうも必殺の威力になっちゃうのさ」

「必殺……か」

「再生が早い妖怪ならまだしも、人間に撃つのわね……ダメかなぁって」

「どれだけ威力が高いのよ……」

「そこの樹なら一秒も掛からずに全部薪に出来るよ?」

「「……」」

「……あんまり、詩菜を理解しようとしちゃダメよ。頭が痛くなるわよ」

「既に痛いぜ……(おとこ)(おんな)と言い、性格と言い……まさしく『理解不能』だぜ……」

「いつもの事でしょ?」

「……ええ。確かにそうだけどもね……」

「諦めた紫なんて……今日は一日中、ずっと珍しい物を見続けているみたいだわ……」

「……はぁ……」

「おや、紫様。お疲れですか?」

「……誰かさんのお蔭でね……」

「あらそうですか。ではもう一杯♪」

「あらありがとう。でも気分的にはあまり呑みたくもないんだけども」

「じゃ、今日はこの辺りでお開きにしましょうか」

「おー♪ ……霊夢さん霊夢さん、今日はここに泊まらせてもらっても……?」

「……ま、私に迷惑掛けなければ良いわよ」

「や、ありがとうございます」

「……調子良いなぁ」

「……どうせ魔理沙も泊まる気でしょ」

「ありゃ、バレてたか」

「分かるわよ」

「じゃあ私も……」

「……紫も……?」

「……なんで私の時はそんな嫌な顔をするのよ……」

「紫は胡散臭すぎだからだよ」

貴女(しな)に言われたくないわよ……」

「……でもまぁ、全員で雑魚寝になるわね。四人になると」

「おぉおぉ。修学旅行みたいだね」

「詩菜、それは多分二人には分からないわよ」

「ありゃ」

「「?」」

「まぁ、寝よ寝よ♪ 皆で寝ながら会話よ!」

「……なぁ、なんでこんなテンションが急に高くなったんだ?」

「「……さぁ?」」

「いやっふーい!」

 

 


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