風雲の如く   作:楠乃

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 寒くてEnterと押そうとしてDeleteを押してしまうというミスを十二回ほどした。
 四回目辺りで『何で数えてるんだろう私……』と思った。
 一〇回目で『あ、これネタになるな』と思った。
 とか打っていたら一三回目のタイプミスをした。

 どうでもいい話。
 本編はじまるよー。



昔の話と今の話

 

 

 

 宴会とは、

 『酒を酌み交わし、互いに問題があった場合はそれを水に流して、盛大に盛り上がる事』……らしい。

 

 ……はて……私は守矢神社に来て酒を呑み交わすに到るまで、邪魔をしてきた妖怪達を少なくとも十人以上は倒してから此処に来たような気がするのだけれども……果たしてそんな事を水に流して良いのだろうか……?

 いや、まぁ……向こうが気にせずに呑んでいるのなら、それはそれで良いのだとは思うんだけど……なにか釈然としない。

 

 

 

 

 

 

 とか、そんな事を呑みながらグダグダと考えていると、山に棲む妖怪が話し掛けてきた。

 身なりや服装からして、どうやら天狗みたいだ。

 

「……えっと、あの……ほ、本当に貴女が……『あの』詩菜さん、ですか……?」

「? ……あのっていうのは良く知らないけど、私が詩菜だよ?」

 

 微妙に顔を赤らめて女天狗が話し掛けてくる。

 そういえば、私が居なくなった後にも山には妖怪が住み着いたりする訳であって、そうなれば当然見知らぬ妖怪にも今後共親しくなっていかないといけない訳であって、

 

 あぁ、近所付き合いとか面倒臭いなぁ。とか思いながら対応をしていると、

 

 

 

「あ、あのッ!」

「ん~?」

「……む、む、昔……」

「昔?」

 

 ……どうもこの娘は恥ずかしがり屋なのか、会話が進まない。

 別に昔じゃあるまいし、そこまで今の妖怪の山に手を加えようとか、重鎮として再度活躍しようとかは全く考えてないからそういう堅苦しいのはヤメていただきたいかなぁ……。

 

「その……」

「……ああ、もう、まどろっこしいなぁ……ホラ」

 

 何となく面倒臭い物事が起こりそうな気配が既にしているけども、こんなに緊張しながら私に話し掛けてきた彼女を無下にするのも後味が悪い。

 ……あと、彼女にはバレないように文がこの会話を聴こうとしているのも、嫌な予感がする……。

 

 そういう事で、簡単な結界を張ってやる。

 私の能力も使ってやれば、外の音は聴こえるけど中の音は決して聴こえない造りの結界だ。

 

 何だか文が絶望したような顔になっている。ざまーみろである。

 

 

 

「コレで誰にも聴こえないから。ほれ、さっさと言いな」

「あ……ありがとうございますッ!」

「で? 『昔』の続きは何なの?」

「……えっと……ですね……その、ぉ……」

 

 防音してやっているというにも関わらず、今度はモジモジし始める女天狗。

 

 

 

 ……落ち着け私。キレるな。

 

 

 

 自分を戒めている内に、女天狗がようやく口を開いてくれた。

 

「……てっ、天魔様が好きな、その……好物な、とかって……解りますか……?」

 

 

 

 ……。

 

 

 

「……つまり、あれかい? 君が私に相談したいというのは恋愛について。という事?」

「れっ、恋愛だなんて……ッ!?」

 

 ………………キレて、良いかな?

 

 何で……。

 

「なんで私が山に帰ってきて初めての宴会でそんな相談を請け負わないといけないのよッ!?」

「すッ、すみませんんッ!!」

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 さっきの娘には結局、天魔に大好物を渡して気を引きたいなら、普通に告白して『私を貰って下さい……』なんて口説いてやれば一発だからと懇切丁寧に能力を使って洗脳してやり、さっさと宴会から追い出してやった。

 

 ……何故私は帰ってきて早々に、お悩み相談所みたいな事をしてるんだろうか……? いや別にいいのよ? どうせそんな感じの事、何でも屋紛いの事はするつもりだし? なんて言うか、なぁ……? まぁ、いいけど……。

 彼女が初めに言った『昔』ってのも、恐らくは天魔に求婚された時の事だったのかもね。とは言え、それ本当に何千年前の話だよ……?

 

 ……となると、なんで文が覗き込んでいたのかが分からないけど……まぁ、良いや。

 どうせ、ろくな事じゃないだろうし。

 

 

 

 

 

 

 そんな事をお猪口を覗き込みながらつらつらと考えていると、また違う声が聞こえてきた。

 

「やぁやぁ、君が文の言っていた『詩菜』って妖怪?」

「……そういう君は?」

 

 今度は誰よ……と顔をあげると、青い服と髪の毛に緑の帽子とリュックを担いだ少女が一人。

 

「私は『河城(かわしろ) にとり』って言うんだ。河童さ」

「へぇ、河童……」

 

 ……とすると、その帽子の中には果たして皿があったりするのだろうか……?

 

 と、そんな視線に気付いたのか慌てて帽子を抑える彼女。まぁ、にとりと呼ぼうかな。

 

「……見せないからね」

「あらそう。残念」

「……」

 

 まぁ、そんなに見せるのがイヤならば、私だって無理に見ようとはしない。

 『鬼ごろし』とはいえ、私は鬼ではないのである。人ではないが。

 

 

 

 ……そういえば……。

 

「そういえば……鬼が居ないね」

「ああ……」

 

 と、鬼の話を出した途端に顔をしかめるにとり。

 ……ん? イヤな予感。

 

 

 

「鬼は出て行きましたよ」

「……文」

 

 会話を聞き付けたのか、文が近付いてきた。

 一緒に呑んでいた筈の彩目は……あ、早苗を介抱してら……。

 

 ……それにしても、『出ていった』?

 

「人間に愛想を尽かして出て行ったそうですよ。今は地下に潜っているそうです」

「……なんじゃそら」

 

 人間に愛想って……。

 

「まぁ、私達は鬼じゃありませんので詳しい事は知りませんがね」

「……ふぅん」

 

 ……ま、それならいつか地底に行った時にでも訊きますか。

 

 というか、まず幻想郷に地底世界がある事に驚きだよ。

 

 この世界に普通の常識は通用しないというのは、この三日間で理解した事だけれども……。

 あぁ……確かに常識に囚われてはならないとは言うけれども、それにしても酷いような気がする……。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅん? 聴いていたのよりも随分と話しやすいヒトなんだね」

「……そうかな?」

「いや、誉めているみたいですからそこは素直に認めましょうよ……」

 

 話しやすい……話しやすいだと……?

 魔理沙や森近があれだけ面倒な性格だとか言っていたのに……ねぇ?

 

「いやぁ、文から聴いていた性格はめんどくさい性格だって言うからさ……」

「……あ~やちゃ〜ん?」

「それでは私はこれで!!」

「……」

 

 目にも留まらぬ早さで何処かへと飛んでいった天狗。追おうと思ったら出来るだろうけど……まぁ、良いや。

 どうせ自宅に帰ってきたらいつの間にか居るだろうし。

 

 

 

「ま……何はともあれ、今は宴会宴会」

「……良いのかい? 喋った私が言うのもアレだけどさ。追わなくても」

「良いの良いの。どうせ後で逢うだろうし」

「……流石は長年の付き合いって奴かね」

「ん?」

「いんや……あ、椛! 椛!」

 

 にとりが誰かを招く先には、私が山に侵入した時に初めて逢った天狗が。

 

 あ……これまた不仲な予感……。

 

 

 

 でもそんな予感は当たらず、近寄ってきた彼女は深々と頭を下げてきた。

 

「……先程は申し訳ございませんでした。『妖怪の山』の裏方総大将だとは知らずに……」

「……」

 

 ……わざわざこちらまで来て、頭を下げてくれた彼女には悪いけども……。

 

 だから……どうして……私がそんな大将になっているのよ……!?

 

「……そんな役職についた覚えなんてないんだけどなぁ……」

「? ……昔は鬼や天狗を教育なされていたと聞きましたが?」

「いや、まぁ、していたけど……さぁ?」

 

 そんな大将と言われるような事はしていない筈……なんだけどなぁ……。

 

 まぁ、私も私で、何やかんや言いながらそれ(教育)を楽しんでやっていたから、あんまり文句とか兎や角言える立場でもないけどさ……。

 

 

 

「あっ、すみません! まだ自己紹介をしていませんでしたね。私は『犬走(いぬばしり) (もみじ)』と言います。椛と、御呼びください」

「私は……まぁ、知っているだろうけど、『詩菜』ね。私も呼び捨てで良いよ」

「え……い、いえ! 上司のヒトを呼び捨てなんて出来ませんよ!」

「……あっそ」

 

 

 

 ……そんな呼び方とか役職とか、それ以前に彼女に謝らないとね。

 

「いやぁ、ごめんね。幾ら侵入する為とはいえ、散々吹き飛ばしたり当てちゃったりして」

「いっ、いえいえ! そんな……私の方こそ、貴女の事を知らないばっかりにあんな事をやってしまって……すみません……」

 

 尻尾がへたりと床に落ちる。

 視線を動かせば、頭についている耳も何となく垂れている。

 

 

 

 ……いかん……!

 犬っ娘マジ可愛す……!!

 

 

 

「……詩菜」

「いッ……!?」

 

 にとりに脇腹をつねられる事で意識が戻る。

 ……危ない所だった……!

 

「いっ、いやいや! それも仕方がなかった事さ!」

「し、しかし……」

 

 そんな感じで、謝りの連鎖となる所でにとりが会話に入ってきた。

 

「まぁまぁ、二人とも仕方がなくやっちゃった事なんだし、謝るのはやめて酒呑も酒! ね?」

「……そうだね。せっかくの宴会なんだし、こんな会話はやめやめ!」

 

 椛の杯に酒を注ぐ。

 そしてそれを躊躇わず一気飲みして、そして何も影響がなかったかのように話す椛とにとり。

 

 ……うん。にとりも何も感じてないようだから、その酒を普通に呑んでいるんだろうね。そのペースで。

 さっきから呑んでいる私だけども、やっぱ鬼・天狗の酒は異常な強さだと思った。

 

 ……まぁ、妖怪の山の住民は全員がそれくらい強いか。寧ろ私や来てばかりの守矢神社の神々がまだ弱いだけなのかしら。

 それなら、諏訪子が潰れてないのはおかし……くもないか。蛙とミシャクジ様だし。

 

 

 

「ありがとうございます」

「ふふ。ま、今後ともヨロシク、ってね」

「はい!!」

「……いや、そんなに気張らなくても……」

「椛は兎に角真面目だからねぇ」

「そんな事を言ってるにとりもね。ヨロシク」

「あっ、そっかそっか。いやぁありがと」

 

 

 

 そんな感じ、こんな感じで宴会の夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 いや、翌日っていうか……翌朝? まぁ、変わらないけど。

 

 

 

 宴会は自然消滅し、神々やら妖怪共が各々の住処へと帰っていく。

 

 私は彩目と共に、実に百数年振りの我が家へと帰る訳だ。

 

 

 

「……とりあえず、帰ったらまず風呂だな」

「まぁ、所々に血がついてるしね」

 

 血だらけというか、傷だらけというか。

 着物の汚れは妖力による再生効果で何とか出来るし、斬り裂かれた痕も妖力を込めれば再生していく。

 そして天然の紅いお化粧は、あらまあっさりと鎌鼬に変化する事で雲散霧消してくれる。

 

 とは言え、完全に消える訳でもないから感覚としてはやはりまだ残っているような気がするし、匂いもまだ残っている。

 慣れちゃっているから、特段血の臭いとかは気にならないけども、ベタベタ感だけはどーしても気になってしまう。

 

 しっかしまぁ、こんな状態で普通に酒を酌み交わしてくれた椛やにとりは凄いよねぇ……。

 いやはや、良い娘達である。もったいないね!

 

 

 

 そういう訳で、飛べない私に付き合って彩目と一緒に山を下りていく。

 私達の家は、妖怪の山とその他を分ける、丁度境界線上に建っている。

 

 いつから境界線が引かれたかは覚えてない。

 けどいつの間にか私の家が丁度良いだろう。と天魔が決めていたような気がする。

 

 ……ま、主人公体質な天魔だし、作戦やら何かしらの防衛戦の為かしらね。

 逆に私達の事を考えて、部下達を出し抜いたって事も考えられるっちゃあ考えられる。

 ……まぁまぁ、どちらにせよ私には関係ない話である。

 頼んでないし? ……っていう天の邪鬼な私。いい加減にしろよ。

 

 

 

 

 

 

 木立を抜け、ようやく自宅に到着。

 守矢神社から徒歩で数時間。ふむ……結構遠いな。

 

「いや~……本ッ当に久々に帰ってきたって感じだね」

「そりゃそうだろ」

「……冷たいなぁ。久々にお母たまが帰ってきたんだよ?」

「そんな事を言うから冷たくなるんだと、頼むから理解してくれ……」

「理解してッ! やってるんだよ彩目ちゃん」

「……いつまで経っても、母親殿は私の予想の千里先を行っているな」

「いや、そんなに圧倒的な先へは行ってないと思うけど……」

「じゃあ予想の90度上だ」

「それはもう直角で良くない? あ、90度曲がって更に上に曲がるって事? 結局何度なのそれ?」

「いや……そこまでは考えてない」

「何だ、つまんないの」

「……」

 

 

 

 そんな心底どうでもいいと断言出来る会話をしつつ、自宅の戸を開ける。

 玄関には、不思議な形の一本歯の下駄靴。

 

 ……予想的中。これから宴会の二次会かな……?

 

「……文……勝手に入るなよ」

「鍵を掛けない彩目さんが悪いんですよ」

「だからと言って、普通勝手に入って酒を呑むか……?」

 

 予想通り、居間にはコタツに半分入ってグデンと文が転がっている。

 ……自由過ぎる。

 

 

 

 

 

 

 結局、魔理沙や霊夢に献上した時の余った分の酒を文と彩目、三人で呑み干す事になった。

 

 まぁ……普通の酒なんだし、いつでも現世に行けば買えるから、無くなっても別に良いのよね。

 消費して使いきっても、また手に入れれば良い。みたいな?

 

 ……まぁ、どうでもいい事か。

 

 

 

 とは言え、その前に風呂で身体を洗ってからだ。何で山にある家は暖房というか湯沸し器が常備してあるのに巫女の神社はそうでないのか……そんな事をシャワーを浴びつつ考えるも答えは出ない。当然か。

 

 それから数十分後、自宅にて再度宴会である。

 

「……外の世界だからと言って、特別美味いという訳でも無いんですね……」

「ま、そんなもんだよ。『外の世界』なんて」

「……そんなもの、なのか?」

「そうそう。向こうが幻想郷に勝っているのは科学、物理に対しての知識位なもんだって」

「……で、旅はどうだったんだ?」

「ん、まぁまぁ有意義なものだったよ」

「そうか……」

「……良いですねぇ。私も一度外の世界というのを見てみたいものです」

「ろくな世界じゃないよ? 私的にはそれが面白いんだけどね」

「……お前がろくな世界じゃないって言うのなら、相当酷いんだろうな」

「ちょっと待ってよそれどういう意味?」

「詩菜さんがそもそもろくな性格じゃない。という事ですよね」

「酷すぎない!? 否定しないけどさ!!」

「いや、しろよ……」

 

 

 

 そんなこんなで、

 

 私は妖怪の山に帰ってきたのである。まる。

 

 


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