風雲の如く   作:楠乃

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 途中のまとまりは誤字にあらず。







戦闘訓練?

 

 

 

 ちょっとした広場に私と天魔が、相対して立っている。

 ……まぁ、どうでもいいあの三人組もいるんだけどね……。

 

 

 

 さて、なんでこうなったかと反芻してみればなんの事はない。単なる私の修行みたいな物なのだ。

 

 そもそも妖怪は自分から鍛練などをしようとはしない。

 力が欲しければ人間を頂いて妖力を溜めるか、じっくりと年月が過ぎるのを待てば良いだけだからね。

 

 じゃあなんで私は天魔を付き添ってこんな事をしているのか? 

 ……幽香が怖いかr 「オイ、いつまで考え事をしておるのじゃ?」

「ん? ああ、ごめんごめん」

 

 

 

 イカンイカン。集中せねば……。

 幽香の言った『もっと身体を鍛えて来なさい』というのは『来なければ向かう』という意味もある……と思う。

 ……せめてその前に幽香の技を見切れて、出来れば反撃出来る程の実力が早急に欲しい。

 

 方法としては、さっき挙げた三つ。

 ・鍛錬

 ・人食い

 ・年月の経過

 

 けど、『人間は食べない』が信条の私に、人間を食べる方法は無理。

 年月が過ぎるのを待つのは、『早急に』と言ってる事に対して堂々と立ち向かっちゃうから無理。

 とすると、短い期間で身体を鍛えるには人間のように特訓という物をしなければならない。

 つまり天魔に無理言ってこの特訓、というか試合を頼んだのだ。

 

 

 

「……せっ!!」

 

 瞬時に天魔の懐に飛び込み、奴の腹を掌で打つ。

 が、天魔も高速で動く妖怪『天狗』の一員。私の動きなど簡単に見切る。

 

 前回は木々があり、図体のでかい天魔には不利な状況だった。

 今回はせいぜい周りに木々で出来た土俵があるだけ。

 向こうにも充分に動けるスペースがある。広さも充分にあるステージだ。

 こちらには、不利な地形。選んだのは私だけどね。

 

 背中に生えた巨大な羽根を動かし、私の掌を上空に逃げる事で避ける。

 と同時に手に持った葉団扇で真空刃を放つ。

 私も即座に地面を蹴り、横にダッシュする事で避ける。

 

 ……私の弱点は『相手が上空に居ると攻撃が出来ない』という事だ。

 何分、相性があるのか……分からないけども……何故か私は人化状態の時、空を駆ける事が出来ない。

 私にとって空を駆けるとは、足場を踏み『衝撃』を使って、高速で地面すれすれを移動する事を言う。

 足場が無ければ、私は空中では無力になる。それが弱点。

 

 

 

 ちょこまかと移動しながら腕や脚を振り、此方も真空刃を放つ。

 前に使った竜巻モドキは疲れるし、格上の妖怪には簡単に相殺されるから使うのを控えさせていただいた。

 

「どうやら単に旅をしていた訳でも無さそうじゃな!!」

「あったり前でしょっ!!」

 

 

 

 次の新技(?)である。

 地面を思いっきり踏みつける。衝撃で石や砂、砂利等が空中に浮き上がる。ついでにクレーターも出来たけど気にしない。

 八雲からの逃走で思い付いた技だ。

 空中に浮かんだ『散弾』を纏めて蹴り撃つ!! 

 

「ッ!? フン!!」

「……あらら、巧く行ったと思ったのにな……」

 

 なかなか巧く物事は進まない物で、現実とはまさに無情なり。

 天魔は驚きはしたものの、簡単に葉団扇の一振りで散弾を弾き飛ばしてしまった。

 

「考え方は良いかも知れんが、動作が大きいぞッ!!」

「おっと! りょーかい!!」

 

 妖力の弾を避けつつ、次の手を考える。

 

 

 

 ……よし。纏まった。

 上空には天魔。真空刃や妖力の弾幕を此方に次々と放っている。

 地上には私。攻撃は全て避けきってるけど如何せん、攻撃手段が上空の相手には殆ど無い。

 

 相手が上空に居て攻撃出来ないなら、同じ位置にすれば良いだけ。

 けれど、私には足場が無ければ空に飛べない。

 

 身体中に、妖力を滾らせて更に臨戦態勢へと持っていく。

 

 

 

「何を見せてくれるんじゃ?」

「ハハッ、楽しく行こうじゃないッ!!」

 

 弱点というのは、足場が無い所で私が全く身動き出来ないからだ。

 なら、足場を作れば良いだけの事! 

 

 物凄く微妙に回復した神力を使って、結界を張る!! 

 

「……なるほど。これがお主の言う『力』か」

「まぁね……行くよ!」

 

 ……けど、この結界がどれだけの威力まで耐えられるかが分からない。

 初めて作ったものだから、如何せん限界が分かんない。

 

 ……ま、そこは実践演習って事で。

 追々試していきますかね!! 

 

 地面を思い切り良く踏み締め、衝撃で結界の天井まで一瞬で辿り着く。

 掌を真上に掲げて天井を平手で打つ。その衝撃で一気に天魔へと移動し、蹴り抜く。

 その衝撃で結界の四隅に移動する。天魔は反応こそするものの上手く防御出来ずに地面へと落ちる。

 

 それでも体勢をちゃんと整え、地面に着地して全く私に隙を見せないのが天狗の頭。

 

「……ふん。そういう結界か」

「そういう事……チンタラしてると、置いてくよ?」

 

 天井の四隅から突進。そして右手の掌で左肩狙い、命中。瞬時に飛び退いて両手の爪から真空刃を射出。それを刀で一閃され、ガラス細工のように刃が砕ける。『ARMS』の最強お父さんかアンタ。とすると私は天魔の弟か? 私が殺されるじゃん。天狗の葉団扇を振る事で飛んでくる竜巻を、高速移動で避ける。移動しながらも口から奇声を出して衝撃を与え、吹き飛ばす。うん、奇声出すのは止めよう。喉がものっそい痛い。もっかい突進。真正面から飛び蹴り。あっさり避けられる、当たり前か。そのまま天魔を通り過ぎて壁に到達。高速移動を再開する。天魔が右手に持った刀、左手に持った葉団扇で、無造作かつ的確に私を狙う大量の真空刃。ていうか刀からも発射出来るのか。左右上下に避けつつ撹乱。でも動けば動くほど弾幕がどんどん置かれていく。避けきる事が無理に近くなったので此方も爪の真空刃で応戦。衝突した刃が真ん中で粉々になっていく。目の前の弾幕を斬り裂くだけで精一杯だ。埒が明かないので、大音量の音を出す。私は無論耳を能力でガード。天魔の方は耳を抑えて後退している。再三突進! 壁や天井、地面を次々と蹴っていく事で段階的に加速していく。やっぱり耳は色々と重要なのか、微妙に反応が遅くなっている。まわり込んで背後からの回し蹴り! あっさり命中。むしろ此方がちょっとびっくりして、そのまま地面に落下したほどだ。衝撃もプラスしていたからか面白い程吹っ飛んでいく。が、そこは天狗の長。空中で見事に体勢を整え、再三相対する。今度は天魔から、此方へ突進、やっぱりかなりの速さである。地面へと着地した私は即座に衝撃を操って移動。更に壁を蹴って逃げている私に近付いて刀を振る。斬撃は能力でガード出来ないから避ける。若しくは爪でガード。でもって単純な剣の実力だったら天魔がやっぱり上なので、当然、私の方が切り傷を受ける事になる……誰だよ肉弾戦が得意とか言った奴……私か。移動をしながらも尚も振られ続ける刀。右上、左下、右、左、上……下! 受け止めて白刃取り。そのまま背中で壁に激突。その衝撃を驚愕中の天魔を蹴る事でダメージに変換して、刀を奪う。まぁ、私は刀の使い方など解らんので、あっさり天魔に返す。と言ってもぶん投げて返したんだけど、危険? 知るか。刀もあっさりキャッチされる。けど、その行為が天魔の心に火を着けたのか(?)先程の速度は何? 舐めてんの? みたいな速度で迫ってきた。そちらも高速移動の速度を高めていくけど、あっさりと追い付かれる。刀を居合で振り抜き、私の服を切り裂く。この変態!! 避けてなければ死んじゃう所じゃないか!? ならば私も最高速でお相手致すのみ。と変なテンション。風を巻き上げて自分に対して追い風を立ち上げる。でもってとんでもなく疲れるから短期決戦向き。風ってのは常時操る代物じゃあ無いと思う。その分、加速減速が自由自在に変えれるからやりやすいんだけどね。天魔も私も最高速だ。恐らく下の三人には、はっきり見えないだろう。刀で袈裟斬り、その刀の腹を回転しながらサマーソルトキックで軌道をずらす。今度は頭から壁に激突。痛みはないけどね。衝撃の反射でまた加速しつつ、天魔の下に向かって加速。太腿を右手の爪で斬り裂く。バックされて回避。天魔が後ろに下がりながら羽団扇から真空刃。無論回避。地面を蹴り、その勢いで砂利を天魔の方向へ弾けさせる。竜巻でガードされる。まぁ、予想通り。壁を経由しつつ天魔へ裏拳、というか逆ラリアット? 身体全体で受け止められるも『衝撃』で弾く。吹き飛びながら葉団扇を振る。爪で刃を砕きつつ高速移動で大半は避ける。案外天魔の真似はやれば出来るもんだ。反対側の壁へ辿り着いたので、結界を使って加速しつつ相手へ突進。刀と爪の鍔迫り合い。が、衝突で『衝撃』を操る私は、天魔に瞬時に押し勝った。体勢を崩した天魔、それも即座に建て直し此方を睨む……隙もなくまた私に蹴られる。ざまぁ♪ 私の攻撃に耐えつつ至近距離で刀を振り回す。回避しつつ範囲から逃げ出そうとしても、あっさりと追い付かれる。が、地面で加速する際に弾けた砂利などでそれを阻害する。

 

 

 

 ふぅ……漸く距離を開けられたので、地面へと再び降り立ち、次の新技。

 お手を拝借、某錬金術士じゃないけど、柏手をお一つ。

 

 両手に挟んだ物は『空間』。見えはしないけど、確かにそこにあるモノ。誰もが認識出来ず、誰もがその存在の中にいる。

 衝撃の方向を操り、両手の中に空間を圧縮した。それを妖力で簡単に封じる。

 ラストの一押し、封印が破られた時に、空間が戻ろうとする衝撃を増幅させる、妖術と能力の連立式を埋める。

 両手を開き、出来たのはビー玉位の暗い緋色の小さな玉。

 私の眼の色は能力の色って訳か。

 

 攻撃が止んだのを見て、此方へ攻撃をする天魔。

 真空刃、葉団扇の風圧、どれもが私を切り刻む軌道を描いている。

 左手に玉を握り込み、右手の爪で真空刃を砕く。

 天魔接近。私が左手に何かを隠してるのは既に気付いてる筈だ。

 

 ……ここら辺が年季の違いという奴なんだろうなぁ。

 

 けれど天魔はそれを何かしようとはせず、斬り会いに持ち込む。良い奴だ。

 しかしながら、両手対片手がどれだけキツいか、私は幽香でもう知っている。

 

 ……なら……さっさと終わらそうか? 

 

 

 

 刀が私の脳天に振り下ろされる所を、爪でガードする。能力で弾き返す事はせず、受け止めるように。

 その事に疑問を持ったのか、天魔は攻撃を一時停止してくれた。

 

「天魔」

「なんじゃ」

「最後だ」

「……良いじゃろう……掛かってこい!!」

 

 同時に相手から距離を取る。離れる時に私は静かに左手から親指で玉を弾く。

 それは音もなく飛び、ちょうど私と天魔の中間の地面に突き刺さった。

 彼は気付かず、大技を放つつもりか葉団扇を仕舞い、両手で刀を持っている。

 いや、もしかして気付いて見逃しているのかもしれない。でもまぁ、どちらにせよ行動してくれないのは有難い。

 私もそれらしく大技の術式を組み立てる。

 目指すは『万物流転』!! 

 パクリがどうとかはもう気にしない! 

 

 

 

「おらぁあぁぁ!!」

 

 天魔がなんか若返って月牙天衝っぽいのを撃とうとしてる!? 

 いかん! こっちも本気じゃないとやばい!! 

 

「ッッガル……っ、ダイン!!」

 

 巨大な竜巻を発生させる。結界の中が暴風で荒れ狂う……まぁ、無理やり作ったものだから、術式が消え失せるのもすぐだろう。

 それは天候も悪化させ、風が木々の枝をもぎ取り中へ巻き込み、更に巨大化しようとしている。

 ……私も、伏せないとにならないとすぐさま飛ばされそうだ。

 

 それでも堂々と立ち続ける天魔。

 ……これが、私という妖怪と、天魔という大妖怪の『差』……なんだろうね。

 

 

 

「ゆけぇえぇ!!!」

 

 竜巻目掛けて振り下ろされた天魔の刀。

 天狗の疾風は巨大な斬撃になり……っていうか、あれ色違いなだけじゃね? 

 青とか黒じゃなくて緑色の月牙天衝? 

 あれ? 本当にパクリ? おいおい。

 

「……ゲッ!?」

 

 竜巻と斬撃は、最初は拮抗していた。かのように見えた。

 しかし、あっさりと斬撃は竜巻を削り、竜巻を遂に消し飛ばした。

 それどころかまだまだ威力は衰えず、私に直進してくる。

 ま、まぁ、負けるのは予想していたけど、こんなにあっさり負けちゃうなんて!? 

 

 

 

 ふ、ふふん……ここで大どんでん返しと行こうか! 

 

 天魔の斬撃は竜巻と拮抗している間に形を変え、上下に細長くなっている。

 上は結界の天井ギリギリを通り、下は地面を削っている。

 ……そう、地面を。

 

 ……あの玉が突き刺さった、地面を。

 

 封印は斬撃によりあっさり破られ、中にあった圧縮された空間が元に戻ろうとする。

 

 

 

 ……知ってる? 空間が元に戻ろうとする力って、馬鹿みたいな威力だっていう事を。

 

「「「「「     」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間が戻る際の力。

   + 私の能力。

 それは天魔のあの斬撃をあっさり消し飛ばし、

 それは私がなけなしの神力で作った結界をあっさりと破壊し、

 それを見て、最高速で逃げようとした天魔をこれまたあっさり巻き込み、

 それを見て、結界の外にいて安心しきっていた弥野・縞・作久を普通に弾き飛ばし、

 それを見て、予想以上過ぎる威力に放心していた私を当然のように取り込み、

 

 遂には、此処等一帯の地形を変えた。

 川を巻き込み、崖を作り、地盤隆起を起こし、滝や小型の池を作った。

 

 

 

 次に私が目を覚ましたのは一週間後。

 当然、私を診察した皆は『回復出来たのが凄い』という程。一番近距離で喰らった私は、それはもう酷い有様だったとか。

 ま、まぁ、回復には自信があるしね! 

 

 ……そして、枕元には全身傷だらけの天魔。どう見ても阿修羅です本当にありがとうございました。

 

「ド阿呆ぉ!!!!」

「ぅな!? スミマセンでした!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みに、結界の外にいたあの三人はそれほど重傷ではなかった。

 ……結界の効力に自信を持てばいいのか、それともどうしてアイツらはあんな余裕なのかと逆恨みするべきなのか……。

 むぅ……。

 

 

 

 




 
 2021年6月23日 文章整形

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