風雲の如く   作:楠乃

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因縁浅からぬ友(姉?)

 

 

 

「……さて、と……着いたぜ」

「ああ、ありがと。それから……」

「……それから?」

「巻き込んじまった。ごめんな♪」

「なッ!?」

「ほら、来たぜ!! 《四季のフラワーマスター》がな!!」

「ッおわっとお!?」

 

 

 

 

 

 

 箒の上に立ち上がり、魔理沙の肩を引いて箒を移動させる。

 そのすぐ横に巨大な砲撃のようなレーザーが過ぎていく。

 いや〜、あいっかわらず恐ろしい攻撃を飛ばしてくる。

 

 

 

「……結局、こんな事になるのか……」

「いやぁ……ほら、ごめんって」

「……はぁ……」

 

 等と会話を交わしているが、俺等の乗せた箒は物凄い量の弾幕を潜り抜けている真っ只中だ。

 

 それでもしばらく躱し続けていく内に、遠距離から数の暴力とも言える程の弾幕を撃ち続けていた幽香に近付く事が出来た。

 ようやくハッキリとした姿が見えてきたという、そんな距離から精密な弾幕を仕掛けてくる辺り、やはりお姉ちゃん方は強すぎると思わざるをえない。

 

「ヤッホー! 幽香さんお久し振り~♪」

 

 明らかに怒ったような表情の幽香に、能天気な声を掛けてみる。

 魔理沙が思わず振り返って『お前は何を言い出してるんだ!?』と驚愕の表情でこっちを見てくるが、まぁ、それはどうでもいい事なのである。まる。

 

 幽香もその声を聴いた途端、攻撃の手を止めて疲れたような表情になる。

 

「……久々ね、志鳴徒。詩菜の格好じゃあ無いのはどうしてかしら? それに、どうして魔理沙の後ろに乗っているのかしら? 出来てるの?」

「「誰がこんな奴と」!?」

「……違うのは確からしいわね」

 

 怒りの表情、次に疲れた顔、その次には呆れたような表情。

 まさに百面相。実にお疲れ様である。

 

「……ま、変わってないわね。貴方も」

「そりゃあ勿論。ヒトはそんな簡単に変わらないし、変われないよ?」

「……」

 

 ……これもまぁ、単なる俺の持論なんだけどな。

 魔理沙の箒から飛び降り、地面に着地してゆっくりと幽香に近付く。

 

 ヒトがそんなに変われない存在なのだとしたら、初めて出逢った時のバトルジャンキーだった幽香は、今も変わらないという結論になる。

 そして俺も、特段腹が減っている訳でも気分がやけに高揚していたり底辺に落ちている訳でもないが、それなりに戦いが好きな性格でもあった。

 

 そんな二人が出逢えばどうなるか。

 当然、戦が始まるのである。当然至極真っ当に真剣勝負が始まる。

 

 いやまぁ、勝負を楽しむのだから真剣ではないのかもしれない。真剣なのは楽しむ事であって、勝負を真剣にやるのではないかもしれない。

 まぁ、どちらにせよ、真剣に戦うという事だ。

 

 

 

 俺は幽香との距離がおおよそ十mという所で止まり、声を掛ける。

 

「さてさて……久々にこうして相対する事になった訳だが」

「……そうね。最後にこうして戦ったのはいつかしら?」

「さぁ? 少なくとも、数百年以上も昔じゃねぇかな?」

「随分長かったわね」

「そうだな……でも、まぁ、幻想郷に帰ってきたって事で……御手合わせ願いますかねッ!」

 

 スキマを開き、武器を取り出す。

 

 幽香が傘。

 魔理沙が箒。

 文が羽団扇。

 霊夢がお祓い棒。

 諏訪子が鉄の輪。

 紫が傘と扇子。

 ……それなら俺は──────詩菜・志鳴徒は扇子である。

 

 

 

 バッと扇子を開き、全身に妖力を込めていく。

 幽香も空に飛び、傘を閉じて臨戦態勢になる。

 

「あら。そういえば貴方は飛べないんだったかしら?」

「……残念ながら、ね」

「そう。行けッ!!」

「聞く耳なしですか!?」

 

 傘を大きく薙いで弾幕を展開し、即座に俺へと発射する。

 それほど速くもなく、距離もある単調な弾幕は簡単に回避する事が出来る。

 だが、幽香がそんな簡単にこちらが入り込めるような弾幕ごっこをする訳がない。

 

 地面を踏み締めて跳びだし、幽香の放つ弾幕を次々と躱していく。

 こちらもただ逃げるだけではない。

 ダッシュしながら扇子で虚空を斬り裂き、斬撃を幽香へ送り付ける。花を傷付けるつもりはないが、多少土石を弾幕として活用しないと勝ち目がなさすぎる。

 

「チッ!!」

「そろそろ降りてきたらどーだ?」

 

 幽香が俺の風を避ける為に、一度弾幕を撃つのを止める。

 その隙に扇子を振って一回転する。その回転に合わせて竜巻が出来上がる。

 

 この竜巻は、空を飛ぶモノを地に落とす技だ。

 上空の気流を掻き乱し、空を飛べなくするという……まぁまぁ、彼女等にとってはとても嫌な技である。名付けるなら『ダウンバースト』かね? 単なる下降流だけど。

 

「飛ばされない内に、お早く着陸する事をお勧めするぜ」

「ッ……そうね。流石にッ、この風は強烈すぎるわ」

 

 幽香はそもそも空を飛ぶのがそれほど巧くない。

 いやまぁ、飛べない俺が言える事ではないが……ぶっちゃけ幽香は飛翔が下手だ。

 空を飛ぶスピードは結構な遅さだし、肉弾戦は確かに強いけども、格闘だけだったら弾幕ごっこにはあまり関係がないからな。

 

 

 

「うわッわっわわわッ!?」

 

 遥か後方で魔理沙が風に煽られて吹き飛ばされたような音が聴こえたが、気のせいだろう。

 気のせい、気のせい♪

 

 

 

 幽香が地面に降り立ち、即座にこちらへ突っ込んでくる。

 ……明らかにこっちの方が速いのは何でかね? ま、ヒトには得意不得意があって言うけれどッ!

 

「ふッ!!」

「とっ!」

 

 傘が物凄い速さで顔面に迫ってくる。

 それは上体を反らして回避し、同時に左足首に巻かれていた蔦を爪で切り裂く。

 身体を反らした勢い右足で幽香を蹴り至近距離から脱出、後ろに跳びながら扇子で風の刃を造り出す。

 まぁ、人間相手なら一撃死だろうが、幽香相手ならそんな気苦労もしないでいいから楽といえば楽かね。

 

 衝撃で思い切り吹き飛ばした筈なのに、幽香はすぐに身体を立て直し、風の刃を相殺する弾幕を放ち、更に俺を狙った弾幕を撃ってくる。

 彼女の周囲に異常な急成長を遂げた花が咲き、その見事に咲いた花の中心部分から綺麗な弾幕が飛んでくる。花の形になっていても弾幕の威力は恐ろしいのだが。

 

 焦らず慌てず回避しながらそれを避けていき、幽香に近付く。

 衝撃波は放てても弾幕は造れない俺は、遠距離になればなるほど不利になる。

 

「オラァ!!」

「くっ!!」

 

 幽香には手を伸ばしても届かない位の距離まで近付いた所で、地面に拳を叩き付ける。

 大地に衝撃が響き、振動を彼女を止め、全方位に広がった疾風が花を散らしていく。

 その隙に彼女に近付き、渾身の一発、拳を腹に打ち込む。

 

「ぐうぅっ!?」

 

 それでもあと少しの所で傘と蔦で防御されて貫通する筈の衝撃は半分ぐらいが受け流された。そうして吹っ飛んでいる間にも彼女は、能力で蔦を伸ばして攻撃した右腕を拘束してくる。よくやるよ。

 

 まぁ、感覚としては半分受け流されたとは言っても、間に挟み込んだ傘が自分を殴った位の衝撃は喰らった筈だ。

 いつ立て直されて植物が襲ってくるか分からないので、とりあえず即座に蔦を切り裂いて後ろに跳ぶ。

 

 

 

 ドスッ

 

 

 

「ッ!?」

「……ふふ、ようやく喰らってくれたわね……」

 

 後ろに手を伸ばし、首に突き刺さった棘を(むし)り取る。

 毒々しい色合いの、薔薇のトゲにも似た巨大な針。

 

 ……首から何かが広がっていく。

 

「筋弛緩系の毒を持った植物の針よ。音を立てずに忍び寄らせるには苦労したわ。自ら囮になるのも良いものかもしれないわね」

「……ッ、毒……か……」

「ふふふ……大丈夫よ。致死量には達していないし、丈夫な貴方の事だから死にはしないわ」

 

 首の後ろから血が垂れていくのが分かる。わりと大きな穴が空いたなこりゃ。

 筋肉が使い物にならないからか、いつもならすぐに止まる筈の傷も全く止まらない。

 

「……こんのッ、ドSめッ!」

「ありがとう、最高の誉め言葉ね」

「……ッ? チッ……」

 

 

 

 歯を喰い縛り、全力を込めてその針を握り潰そうとする。

 が、それだけ力を籠めないと粉砕出来ないほどに、身体に力が入らない。

 

 バキンと砕く事に成功したは良い物の、既に耳鳴りは止まらず、目は霞み、足の先は感覚が無い。

 力を込めて粉砕したのは逆効果か、とぼんやりし始めた裏の脳が考えている。

 

「……くそっ、たれ」

「あらあら、そんな汚い言葉を使っちゃって……駄目な子には罰が必要かしら……?」

「……おいおい……無慈悲にも程があるんじゃねぇか……?」

 

 幽香が傘の先に、妖力を集めていく。

 既にぼんやりとしか見えないが、気配だけで鳥肌が立っている。例の砲撃かね。

 だんだんと周囲の音が聞き取りづらくなってきている。ノイズというよりも、音量が小さすぎる感覚。イヤホンでもしているような感じだ。

 

 ……やれやれ……。

 

 

 

 神力展開。

 

「……そうよね。こんな簡単にくたばる貴……じゃなぃ……よね……」

「へっ……お褒めに預かり、至極光栄……ってか……?」

 

 身体中に滾らせた神力で、とりあえず肉体の回復速度は急激に速くなった筈だ。

 それでもそんな簡単に毒が治る訳もなく、立っているのも辛い。

 

 このざまじゃあ、せいぜいが見栄を張れる程度。

 腕を挙げて防御、術式の作動ぐらいなら出来そうが、逃走や走り回るのは無理そうだ……。

 何mか先に居る筈の幽香すらぼんやりと見え始めている。

 

 

 

「……ぉ……、志鳴……。ぁき……め……か……?」

「……」

 

 後ろから魔理沙の声が微かに聴こえる。

 ……でもこれは、案外耳は既に使えない状況で、俺の単なる幻聴かもしれない。

 

 ……いや、それはないか。

 

 俺は、聴覚だけは確かな筈だ。

 なにせ能力で補える事が出来るだから。

 

 『衝撃音を拾え』

 

「……見えんが、そこに居るのか?」

「……ああ、居るぜ」

 

 足音を拾う。

 案の定、魔理沙は真後ろに立っていた。

 

 能力は離れた所の音も拾う。

 そしてそれは幽香が、更に前へ一歩踏み出した音も拾ってくれる。

 

 

 

「離れなさい魔理沙。巻き込まれたくなければ、の話だけれども」

「……だとよ。どうする? 手助けしてやってもいいぜ?」

 

 ……お前、それは俺の性格を考えた上で言ってるのか?

 

「……だが、断るッつってなぁ!!」

 

 懐からスペルカードを取り出す。

 今の状態じゃあ、術式の起動から立ち上げ、発動まで全てを自力で行うのは無理だ。

 

 だから、せめて『非殺傷設定』をオフにした簡易版の全力砲撃をぶちかましてやる。

 

「とっとと片付けてやるよ!! 《圧縮『ベクターキャノン』》!!」

「フフフ、それを待っていたのよ!! 《マスタースパーク》!!」

 

 俺のこのスペルカードの欠点は、それは『発動までのタイムロスが大きい』という事。

 つまり宣言から発射までがどうしても遅い。

 

 この技を確実に当てる為には、相手よりも必ず早く宣言する他に無い。

 

 簡易版の為に手早く圧縮が終わり、それが放たれると同時に幽香からも砲撃が放たれる。

 ちょうど中間でぶつかり、周りに盛大な被害が出始める。

 ……ちょうど中間でぶつかったのは、幽香がこっちの出方を窺って、俺が放つ砲撃に合わせてくれたに他ならないんだがな……。

 

 

 

「……ぐ、ギギ……!!」

 

 砲撃を照射し続けている内に、俺の脚の踏ん張りが効かずにどんどん後ろへと押し出されていく。

 ……毒の影響だろうねぇ。この技、自分を固定しないと自分自身が吹き飛ばされるっていうのに、何で使っちゃったかね自分は。

 まぁ……幽香と出遭ったらコレしか無い、って考えているからだとは思うが。

 

 ドッ、と遂に膝をつき、それでも踏ん張る。着いた両膝が地面に跡を残すぐらい後ろへと圧されているが、まだ前に出した手は下ろしてない。

 ……一時は回復した身体だったが、視界や足先指先の感覚がまた失われていく。色々と力を使い過ぎだ。

 圧縮砲撃を撃ちだしている手を幽香の方、レーザーに向けて伸ばして対抗しているが、その腕を挙げたままという姿勢も、かなり辛くなってきている。

 

 

 

 ……結局、幽香には勝てないか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やれやれ……いいか志鳴徒? 『弾幕はパワー』だぜ!!」

 

 

 

 ……顔のすぐ横に、後ろから何かが突き出されている……。

 

 はは……例の『ミニ八卦炉』だ。

 

「《恋符『マスタースパーク』》!!」

「なッ!?」

 

 二つの巨大レーザーが混ざり合って、幽香のレーザーを押し返していく。

 

 幽香がその事に驚き、避ける暇もなくレーザーの奔流に呑み込まれて行くのを『音』で聴きながら、

 

「……おい!? 志鳴徒!?」

「……あと……よろしく……」

 

 

 

 俺は、そのまま意識を失った。

 

 

 


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