風雲の如く   作:楠乃

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 タイトル 『再会、遭遇』



 レミリアの話を書くと無性に爪が切りたくなった。(意味不明)
 結果、深爪になった。(自業自得)



紅魔館・冬の陣 その3

 

 

 

「やぁ、久し振りだね」

「……どうして……貴女がここに……?」

 

 まぁ、私もどうして美鈴がここに居るのか訊きたいけど……。

 

 それは後かな?

 

「……貴女達、知り合いなの?」

「まぁねぇ」

「……」

 

 

 

 ……それよりも、詩菜と志鳴徒が同一人物だって言わないで欲しいって事を伝えるのが先かな?

 まぁ……咲夜が居ると、迂闊に話し掛けれないけど。

 

『詩菜と志鳴徒が同一って事は言わないでね』

 

 能力の衝撃を使えば何とかなるのさ。

 

 咲夜が美鈴に向いている間に、声という衝撃を地面を伝って美鈴に伝える。

 この時に咲夜さんに伝わらせないようにするのが一番大変だ。

 

 

 

「……何故?」

「……美鈴……?」

「何故って、ここは幻想郷でしょ? 私も妖怪だし、そりゃ来るでしょ」

『ちょっとしたルールが出来ちゃってね。それを守りたいの』

 

 

 

 ……二重の会話って、無茶苦茶疲れるな……。

 まぁ、自業自得。

 

 

 

「……」

「けど、まさか美鈴がこの屋敷の門番をしているとはねぇ。予想外だよ」

『まぁ、ここの主人に呼ばれて争う事になったら手荒な事をしようかとも考えていたけど、美鈴がいるんじゃ出来ないか』

「……本当ですか?」

 

 

 

 ……ややこしすぎる。

 言葉に出す方もちゃんと考えないし、衝撃の能力の制御もしないといけない……。

 

「あの時に聞いてたでしょ? 『妖怪の山』に棲んでるって……まぁ、最近になってようやく帰ってきたんだけど……」

『約束する。殺し合いになったとしても此方から主人に攻撃しない。美鈴が良いと言うまで、私からは攻撃しない……私は、約束は守る』

 

 

 

 私は、出来ない約束や守れない約束はしない。

 出来るかどうか分からない約束もしない。

 それは、私の信条だ。

 

 

 

『だから……美鈴も、約束して欲しい。私の事を……喋らないで』

 

 こんな下らない事を、必死になってお願いする私は、途方もなくアホなのかも知れない。

 

 矛盾。

 私は、どうしようもなく矛盾している。

 

 

 

「……咲夜さん」

「ん? 何かしら?」

「……いえ、何でもありません」

「……? まぁ、通るわよ? 積もる話はまた後で」

「ええ、分かりました」

「じゃ、また後でね」

「……ええ。また、後ほど」

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 門を潜り抜け、全てが紅く染まったような屋敷の内部に入る。

 

 その名も、紅魔館。前も言ったがキラキラネーム以下略。

 

 内部は非常に入り組んでいて、とても逃走経路を考える暇もなさそうだ。

 ……というか、明らかに外から見た大きさと、内部の広さが一致してないような……?

 

 

 

「……美鈴とは何処で?」

「ん? とある里での警護かな。里はもう消えているだろうけどね」

 

 考え事をしていたら、咲夜が話し掛けてきた。

 ……向こうから普通に話し掛けてきたのは、初めてかな?

 

 ま、三船村はもう消えている。名前が消えてその場に街は存在しているけど。わざわざ確認したからね。

 

「……先程の様子ですと、普通の知り合いという間柄には見えませんでしたが……」

「ああ、それ?」

 

 ……美鈴が果たして、黙っているかどうか。

 私には分からないけど、あの三船村で過ごした二年間。

 その間に出来た『絆』って奴を信じる事にしよう。

 

「……うーん、何て言うか、仕事仲間『だった』んだよ」

「……だった、ですか?」

「ちょっとした事で……いや、ちょっとした事でもないか、問題があって対立しちゃったのさ。だから私が彼女から逃げた」

「……逃げた?」

「まぁ……あんまり言いたくないんでね。美鈴に直接訊いてみたら? 同じ職場みたいだし、時間はあるでしょ」

「……『時間』ね」

「ん?」

「いいえ……到着しました」

 

 お? 遂にご対面ですか?

 

 吸血鬼……さてさて、どうなりますかねぇ……?

 

 

 

 

 

 

 大きな扉が開き、部屋に入る。

 

 部屋には誰も居らず、バルコニーに出る扉が開いている。

 後ろのドアの横に咲夜が居るけど、彼女が動く気配はない。

 

「主人はバルコニーにおります。どうぞ」

 

 動く気配はなくとも、喋る事はあるみたいで。

 

 まぁ、そんな戯れ言は兎も角として、バルコニーに出てみるとしよう。

 

 

 

 ……さっきから、鳥肌が止まらない。

 バルコニーまでの距離さえも遠く感じる。能力とかダッシュとかをすれば一瞬で辿り着けれる筈の距離が、遠い。それすらも恐ろしい。

 この感覚は、初めて幽香とあった時と全く同じだ。

 

 強大な存在へ、真っ正面に向き合った時の感覚。

 

 

 

「お前が噂の詩菜か?」

「ッ……ええ。私が詩菜です」

 

 つい言葉遣いが丁寧になる。

 

 バルコニーで椅子に腰掛けて、満月を見上げている女の子がいる。

 身長で言えば私よりも小さく、まさしく幼女と言っても過言じゃあないけど……。

 

 ……レベルが違い過ぎるでしょ……。

 

 ……美鈴にあんな事を言っておいて、対面したらこれだ。

 私は、随分とまぁ、(おご)っていたらしい。

 

 ……ハハハ、世界は広いなぁ全くもう!

 

 

 

「……お前、随分と珍しい運命を持っているな」

「はあ……それは一体どんなもので?」

「……言葉にはしにくいが……2つの運命が螺旋状に絡まっている。そんな感じだ」

 

 恐らく……『詩菜』っていう運命と『志鳴徒』っていう運命かな?

 

 ……というか、吸血鬼ってそんな運命に関係する妖怪だっけ?

 そんな記憶はないけど……まぁ、能力とかかな?

 

 

 

「まぁいい……お前、あの天狗と親しいんだって?」

「……あの天狗?」

「あの『射命丸(しゃめいまる) (あや)』とだよ」

「ああ……まぁ、多少……」

 

 ……話が見えてこないな。

 まさか、紫に次ぐ胡散臭い二号か……?

 

 

 

「数日前に配られた新聞にお前の事が書かれていてな?」

「……」

 

 何してくれちゃってんのアイツ。

 道理で先週は怪しい行動が多かった訳だ……。

 

「咲夜に攫わせて見てみようと思ったが……こんなショボい奴とは」

「……まぁ、空も飛べないクズ妖怪ですので」

「……随分と簡単に認めるんだな? プライドはないのか?」

「ありませんね。そうでもしないと死ぬので」

「……ふん。妖怪の端くれにも置けない奴だな」

「こんな性分ですので」

 

 苦笑いを適当に浮かべとく。笑い逃れは日本人の技。悲しい事に。

 

 まだ鳥肌は収まらない。

 

「……そういえば、貴女のお名前は……?」

「私は『Remilia(レミリア) ()Scarlet(スカーレット)』だ」

「はあ……えっと、どう呼べば……?」

「レミリアで良い」

「……では、レミリアさんと」

「好きにしろ」

 

 

 

 ……まぁ、互いに名乗りあったは良いとして……これからどうすれば良いの……?

 

 くそぅ……この私がどうすれば良いのか分かんないなんて……!

 何たる無様な姿……いやまぁ、こんな冗談を頭の中だけでも言ってないと落ち着いてなれないんだけど……。

 

 

 

「……しかしまぁ、これだとこの新聞に書いてある事はデタラメか……」

「……何が、そこには書いてあるんですか?」

 

 よくよく見れば、レミリアさんの視線の先、机の上には新聞が置いてある。そういや最近のは読んでなかったな……。

 ……何か、猛烈に嫌な予感がする、けど……。

 

「ん? 『幻想郷に《鬼ごろし》が帰ってきた』と書いてある」

「……文……」

「ふむ……その様子だとこの二つ名は本当か?」

「……本当ですよ」

「嘘を付くな」

「ッ……!」

 

 全く、一息を吐く間も無く、『嘘を付くな』と言われてしまった。

 

 断言され、更にじわりと殺気が辺りに漂い始める。

 

 

 

「……あの天狗とは結構親しい間柄だ。アイツが新聞に掛ける熱意も、知っているつもりだ」

「……」

「だが、アイツがお前の事をその新聞に書く理由が分からない。最近幻想郷に来たと言うのに、それほど信頼される事が分からない。お前はどう見ても、実力のない弱小妖怪にしか見えない。それなのに、この新聞に書かれている事は全てお前を持ち上げようとしている物だ。これはおかしすぎる」

 

 

 

「……お前、アイツに何をした?」

 

 

 

 

 

 

 ……ク、クックッ。

 い、いかん……笑いが止まらん……クク。

 

 

 

「……何がおかしい?」

「クスクス……いいえ、何も」

 

 ようやく分かったよ。レミリアの事が。

 性格も大体分かった。面白いヒトだ。

 

 仲間思いだ。

 周囲には冷たく振る舞うけど、心の底から信頼している相手には必ず力になってあげる。

 ……そこから、ちょっと背伸びをしちゃう性格もね。

 

 分かったよ。

 今の私に、もう鳥肌はおきない。

 アンタの事は、大体理解したからね。

 

 ……まぁ、結局は勝てないだろうけど。

 

 

 

「いえいえ。私は文に何もしていませんよ? 単に長年の友人というだけですから」

「……この、千年以上生きているという、この虚言か?」

「正確には1445歳ですね。産まれたのは562年の4月14日なので」

「……」

 

 まぁ、年数も誕生日も、現代になって日付が分かってから引き算して求めたんだけどね。

 

 文に誕生した年を訊かれた事はなかったと思うけど、日付は書かれてある筈。

 何回も巻き込んでやったもんね。誕生パーティー的な奴に。

 

 

 

「……貴様」

「おやおや、遂にお前から貴様に格下げですか」

「……ふざけるな」

「ふざけてませんよ?」

 

 

 

「なめているだけですから♪」

 

 

 

「ッふざけんじゃないわよ!!」

「ようやく化けの皮を剥がしましたか。お疲れ様で~す」

 

 レミリアが激昂し、次々と弾幕を放ってくる。

 まっ、全部避けきるけどね!

 

 

 

 

 

 

 今回の事件について。

 まぁ、私の単なる予想でしかないけど。

 

 彼女、『レミリア・スカーレット』は、友人である『射命丸 文』を心配していた。

 いきなり新聞に二人の兄妹を、しかもかなりの評価をして掲載したからだ。

 最近になって幻想郷に入ってきた奴が、何故そう評価を獲られるのか。

 レミリアはそれを『能力か何かで文を騙した』と考えたのだ。

 

 まぁ、文とレミリアが親しいらしいのは本当なのだろう。

 文自身も、そんな感じの雰囲気を匂わせていたからね。

 ……にも関わらず文がこの友人が怒るという事を予想出来なかった、というのも何やらおかしいような気もしないでもないけど。

 

 まず始めに、彼女は私等に咲夜を向かわせ、相手の様子を調べさせた。

 弱ければ、即座に捕獲して私の元に連れてこい、とね。

 咲夜は人里で『詩菜』を見付け、脅して力量を測ろうとした。

 彼女が詩菜の実力をどう判断したかは分からないけど、大方、弱いと判断したんだろう。

 

 それは、間違ってはいない。

 その時咲夜が本気で殺そうとすれば私は殺せた筈だ。眼の前とか頭の周囲にナイフを出現させれば良かった。

 向こうも私を捕らえる為に手加減していたって事だろう。逆に私に捕らえられてしまった訳だが。

 

 結果的には、詩菜はあっさりとは行かなかったけれども、咲夜を迎撃して倒した。

 彼女は倒されて、そこから目覚めて今度は『志鳴徒』を発見した。

 しかし詩菜に負けてしまった以上、志鳴徒も弱いと決めて掛かるのは危ないと考えて、彼女は一度主人に相談した方が良いと考えた訳だ。

 それを知らずに志鳴徒は普通に帰してしまい、彼女は紅魔館の主に報告をした。

 

 どんな報告を聴いたのか知らないけど、多分それはレミリアの考える予想とは正反対だった。

 『本当に、彼等は仲が良いのかも知れません』って感じかね?

 

 レミリアはとりあえず、私と接触する事にした。

 詩菜は咲夜を倒せる実力はある事が既に実証されている。

 自分を世話する咲夜を倒した奴と戦いたいって感じで私を呼び出したんだと思う。

 

 

 

 彼女は既に、自分のしている事が間違いかも知れないって事は分かっている。

 けれども、自身の性格とプライドがそれを認めるのを良しとしない。

 咲夜などの手前、認めてしまうのは主人として失格だととかね。

 

 だから今、こうなっている。

 

 

 

「逃がすかッ!!」

「逃げまーす♪」

 

 建物内を縦横無尽に跳ね回り、弾幕を回避し続けていく。

 

 レミリアに怒らせたのは、そうした方が簡単に終わるから、というのもある。

 あの雰囲気を変えるってのもあったし、素顔を見たいってのもあった。実に可愛らしい性格じゃないの。

 いやはや、こうしてみると年相応の性格って感じかな?

 

 逃げ回りながら、今更ながらレミリアを観察する。

 さっきは鳥肌と殺気で観察する暇がなかったからねぇ。

 

 

 

 外の世界では全く見ない珍しい帽子。例えるなら……ドアカバー? そういや似たようなのを幽々子とか紫が被ってたな……何? 幻想郷で流行ってるの?

 とか、そんなツッコミは置いといて、

 

 灰色に近い青の髪の毛。

 紅い眼に、時折見える吸血鬼の八重歯。

 全体的に薄いピンク色の服装。

 飛ぶ時に使う、コウモリのような羽。

 

「待ちなさいッ!!」

「待てと言われて待つ奴が居ますか? 居ませんよねぇ♪」

 

 ……我ながら、嫌な奴である。

 まぁ……今更何を、って感じだけど。

 

 

 

 壁を蹴り、床を蹴り、天井を蹴り、弾幕を避ける。

 ナイフがコウモリから飛んできたり、巨大なレーザーがいきなり飛んできたり、色々と大変だ。ここは手品の世界一を決める大会の会場かっての。

 

 私からは勿論、攻撃は決してしない。

 美鈴と約束したからね。

 

 

 

 でも……まぁ、そろそろコウモリがうざくなってきたなぁ……。

 ……というか、吸血鬼にコウモリって……ねぇ……?

 なんか……違わない?

 吸血鬼と言ったら、『無駄無駄』でしょ、とか思わなくもない。というか思う。

 

 

 

 そんな事を考えて飛び回っていると、遂に行き止まりまで来てしまった。

 ……つーか……ここ、広すぎでしょ……。

 

「……行き止まり。追い詰めたわよ」

「……」

「スペルカードは持っているわよね? 勝負よ」

「……ハァ……持ってはいますが、私は空を飛べないのですけども?」

「そう。なら空を飛ばずに勝負してあげましょう」

 

 そう言って、レミリアが降りてくる。

 

 ……手には一枚のカードが握られている。

 

「……あくまで平等に、ですか?」

「ええ。貴女には好都合でしょう?」

「そうですね。そのプライドはめんどくさいとは思いますが」

「……」

 

 空対地でさっさと圧倒しないから、やられてしまうんだよ。

 相手を見下したい為だけに手加減するなんて、勝負をなめているとしか思えない。

 

 まぁ、どうせ私がやられるけど。

 

「良いですよ。やりましょう。どうせ負けますがね」

「……ふん。そのへたれた根性。叩き直してあげるわ!!」

 

 

 

 さてさて……何処まで持つかな……。

 

 

 


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