風雲の如く   作:楠乃

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 タイトル 『見た目と能力と性格の差』




紅魔館・冬の陣 その4

 

 

 

「《神鬼『レミリアストーカー』》!!」

「ッッいきなりですか!!」

 

 ……レミリアのスペルカードの名前がレミリアのストーカーって、どういう事?

 いや、まぁ、何かしらの意味があるのかも知れないけどさ。

 それにしてもいきなりの技か。弾幕をまず張ってからかと思ってたけど、そうでもない場合もあるのか。

 

 

 

 スペルを掲げて宣言したレミリアは、身体が浮上して二m位まで飛び始めた。

 ……いやいや、

 

「……空は飛ばないんじゃありませんでしたか?」

「この高さ位、飛んだ内には入らないだろう? おっと、貴様は飛べないんだったか?」

 

 ……見下されてんなぁ……。

 

 まぁ、あの高さなら攻撃も届くし、叩き落とせるけど……それはやっちゃ駄目だ。

 

 

 

「喰らえッ!!」

 

 レミリアが何か紅い霧のようなモノを集め始めた。

 その間に、彼女からランダムにクナイのような小型のナイフが撃ち出されている。正確には霧の中から生み出されているようだ。

 

 それほど早いって訳でもないけど、その量が尋常じゃない。

 ……まぁ、その量も避けきれないって訳じゃないけど……ッッ!

 

 

 

「ゆけッ!!」

「痛うッ!」

 

 ……ッ、脇腹を抉られた……!

 

「どうした? やはり貴様はそんなものなのか?」

「……へっ……まだまだ、ですよ」

 

 左手で右脇腹を抑える。

 それで出血が止まるって訳でもないけど、ね……。

 

 赤くて凄い細いレーザーが私の方に飛んできたのは見えた。見えたその細いレーザーが身体に直撃して、思わず硬直してしまった。

 ……まぁ、その細いレーザーは私に当たったけれどもダメージはなかった。それでも動きはたまらず止まってしまった。

 その硬直を見抜かれ、光線をなぞるように巨大な極太レーザーが発射された。

 

 何とかそれでも身体を動かして直撃は避けれたけど……こりゃまともに当たったらヤバい。

 肉と骨を抉るって……人間相手だったら即死するでしょ、これ。

 

 

 

「ほら、まだまだ続くぞ!!」

「くっ!」

 

 第二波は、なんとか避けれた。

 飛んで来るナイフの量も増え、巨大レーザーの間隔も狭くなっていく。

 それでも、あの細いレーザーそのものに攻撃力がないと分かれば対処は出来る。あの細い光線は言うなれば動線な訳だ。

 ……ふむ。

 

 回避し続けている内に、何となくこのスペルが分かってきた。

 全方位に常時ナイフを発射し続け、レーザーは一度力を集めないと発射出来ない。

 力を集め終わると、巨大レーザーを射出する前にそれを撃ち出す方向へ小さなレーザーを発射する。

 レミリアが一気に力を解放すると、その小さなレーザーの上を通るように波が走っていく。

 

 私はそれを巨大なレーザーと勘違いし、脇腹を抉られたのだ。

 

 ハズレたレーザーは壁や床、天井にぶつかって爆発。穴を開けるという凄い威力。

 絶対に当たりたくないね。あれは。

 と言うか、どう考えても弾幕ごっこで使用されるような威力ではない。

 

 ……それほど怒らせたって事かね。ま、当たり前か。

 

「ほらほら、逃げるだけか?」

「ッ、それしか能がないのでねッ!!」

 

 ナイフとレーザーでレミリアには迂闊に近付けないし、攻撃は出来ないし……。

 

 

 

 ……何これ、詰みゲー? いやまぁ、何度も言う通り自業自得なんだけど

 

 まぁ、回避は一応出来るから良いんだけど……。

 ……問題は、私の体力と出血かな?

 割と傷口デカイぞこれ……。

 

 

 

 

 

 

「……チッ。逃げ切ったか」

「ふぅ……っ」

 

 レミリアの持つスペルカードの制限時間が切れ、周囲に拡散していた紅い霧がスッと消えていく。

 

 巨大レーザーは最初の一回しか当たらなかったけど、ナイフは何回か当たってしまった。

 服は右脇腹の肉まで大きく焼けているし、ナイフで所々斬れてしまっている。

 やれやれ、また修復に力を込めないとダメかね。

 

 

 

 回避し続けている内に壁や天井がレーザーによって崩落し、外に逃げれる道が出来た。

 あんな狭い通路じゃ避けれるモノも避けれやしない。だから外に逃げ出させて貰った。

 

 だから今、私達が居るのは満月の下である。

 

 ……障害物、というか足場が無さすぎる屋外は、私にとっては不利なんだけどね……。

 

 

 

「……どうやら、それなりの実力はあるらしいな」

「これでも長く生きていますから」

「まだその戯言を続けるのか?」

「……そちらこそ、いい加減に認めたらどうですか?」

 

 

 

 気に入らない奴と、親しい友達が付き合っている。そういう現実を。

 

 

 

「う、うるさいッ!! 《紅蝙蝠『ヴァンピリッシュナイト』》!!」

「スペルカード二枚目、ね」

 

 レミリアがスペルカードを使った。すると彼女から大量の蝙蝠(コウモリ)が放たれた。

 

 血吸いコウモリ、かしら?

 ……とまぁ、そんなどうでもいい事を考える暇なんてのも本当は無いのだけれども……。

 

「これを避けられるかな!!」

 

 放たれたコウモリは私の元に近付き、裏へと回る。

 つい釣られてレミリアに背中を向ける形になり、コウモリに注目していると、いきなり目の前でナイフを放ち始めた。

 

「うわっ!?」

 

 すぐさま地面を蹴り、衝撃で一気に距離を取る。

 コウモリはしばらくその場でナイフを数本放ち、そして霧になって消え去ってしまった。

 

「のんびり眺めている暇があるのか?」

「ッ!!」

 

 レミリアの声に振り返ると、そこには数十のコウモリと、そこから放たれた数百のナイフが、私の視界を埋め尽くしている。

 

「何じゃそりゃ!?」

「ふん、ようやく貴様も化けの皮を剥がしたようだな?」

 

 こ、これが『数の暴力』って奴か……!

 

 コウモリとナイフは兎に角ランダムに飛び交っていて、こちらからはコウモリを放っている筈のレミリアを見る事すら出来ない状態になっている程だ。

 

「くっ……! 仕方ないですね!」

「ん? ようやく貴様もスペルカードか」

 

 

 

 当然だけども、レミリアに当てる気なんかは更々無い。

 これは、あのコウモリとナイフをどうにかする為だけの、そういうスペルカードだ。

 

 

 

 ……あんまり使いたくなかったけど。

 

 地面を蹴ってナイフの弾幕とレミリアから距離を取り、辺りにコウモリが寄ってきてナイフを撃って来る前に、スペルカードの宣言をする。

 

「《心技『ザムクレート』》!!」

 

 全てを切り裂く、チャクラムのような形状をした風の刃、十五個の刃を発生させる。

 始めに五個一気に発射して、私とレミリアの間にあった弾幕とコウモリを全て消し去り、それから一個を撃って消滅したらまた一個、という風に対抗する。

 円形のカッターはコウモリを八つ裂きにし、ナイフを粉微塵に砕き、虚空に消えていく。

 

 

 

 レミリアを避けて、彼女には決して危害を与えぬように設定したのだけれども……、

 

「……貴様……ッ!!」

 

 向こうからすれば、それは完全になめられていると察せられる簡単な動向な訳である。

 

 

 

 

 

 

 全てのチャクラムを放ち終わり、こちらのスペルカードが消え去ると同時に、向こうのスペルカードも溶けるように消え去っていった。

 

 さっきのスペルカードで私にダメージはなかった。全て避けきったからね。

 

 しかし、あの『攻撃をしない』っていうのは相手の矜恃(プライド)を酷く傷付けてしまったようだ。

 

 ……まぁ、そりゃそうだよね……。

 

 

 

「……《神槍『スピア・ザ・グングニル』》」

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 詩菜は、紅い閃光が突き抜けて行くのを、ただ見ている事しか出来なかった。

 

「……ご、ほっ!」

 

 真っ赤な槍が腹を貫通して、巨大な穴が自分の身体に出来てしまっているのを、ぼんやりと眺める詩菜。

 

 人間であれば、明らかに致命傷。

 

「……貴様の負けだ。いや……そもそもお前は戦ってすらいなかった」

「……」

「よっぽど死にたいらしい。ならば殺してやろう。それが本望なのだろう?」

 

 巨大な紅い槍を手に取り、ゆっくりとした歩調で詩菜に近付くレミリア。

 先程のスペルカード《神槍『スピア・ザ・グングニル』》と似たような形状の槍。

 しかしそれは、スペルカードという『遊び』ではなく、本気の攻撃だ。

 

 

 

 それをのんびりと眺めている詩菜。

 

 

 

「……ふふ、死にたい?」

「……?」

「そんな訳、ないじゃん……死に抗うのは……私の専売特許さ……」

「……何を言っている?」

 

 訳の分からない事を呟き始める詩菜。

 

「……約束は、約束」

 

 

 

 詩菜の身体は穴が開いている為に、バランスが取れずにぐらぐら揺れている。

 

 そんな状態で両手を広げ、柏手を打つ様に閉じる。

 衝撃を操り、合掌した両手で空間を圧縮する。

 

 

 

「……空間圧縮、緋色玉!!」

 

 両手を開き、挟まれていた赤黒い玉を右手で掴み取り、真上に放り投げる。

 レミリアがそれに気を取られている間に、詩菜は彼女に見えないようにスキマを開く。

 

 緋色玉の上昇が停まり、重力に引かれてゆっくりと墜ちてくる。

 

 

 

 そして、いきなり爆発する。

 

「ぐっ!?」

 

 恐ろしい程の爆風がレミリアに直撃した。

 小さな身体が吹き飛び、壁や地面に叩き付けられる前に空を飛ぶ。

 

 

 

「ッッ、何処に行った!?」

 

 体勢を立て直して数秒経った所でようやく爆風による紅い土煙が晴れ、辺りを見渡し詩菜を探す。

 しかし彼女の姿は何処にもあらず、隠れる事が出来そうな場所もない。

 

 それもその筈。詩菜は既にスキマに引っ込み、紅魔館から逃げ出したからだ。

 

「……逃げたか。くそ」

 

 

 

 辺りにあるのは、二人の妖怪が暴れたために荒れ果てた大地と一部崩れた洋館だけだ。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 スキマを通り抜け、自宅に帰ってきた。というか落ちた。

 

 

 

 

 

 

「……あぁ……こりゃあヤバい、な」

 

 現状把握。

 一番大きいのは腹部貫通の傷か……あー、くっそ。砲撃系に見える技はトラウマ思い出しちゃうな。この癖は直さねば。

 (へそ)の左、大腸もやられてるかな……。

 右脇腹は……大丈夫でもないかな。骨も微妙に歪んでいるかも。

 

 あとはまぁ……それほど問題はないかな?

 

 

 

「……ふ、ううぅぅぅ……」

 

 妖力を傷に溜め、修復に当てる。

 居間じゃなくて、私の部屋に転移しておいて良かった。

 

 彩目とか文とかに心配かけたくないしね。ま、血飛沫を何とかしないと、だけど。

 

 壁に掛けてある時計で時間を確認する。

 ……深夜零時……案外、時間も経ってない……な……。

 これなら朝までに回復も出来る。

 

 

 

 ……あ~……疲れた。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 傷も治り、服の修繕も完了した。

 

 

 

 ……でもまぁ、やっぱり辺りに飛び散った血痕はどうしようもない。

 

「……どうしたんだこれ」

「やぁ、彩目さん。おはようございます」

「……紅魔館で何があった?」

 

 ……誤魔化そうとしても無理みたいだ。

 まぁ、布団は真っ赤だし、落下の勢いで襖に血が跳び跳ねてるからね。

 

「レミリアにやられたのさ。怒らせちゃったからね」

「……だとしても、この血の量は……」

「一面血の海。いやはや我ながら酷い」

 

 他人事のように呟いてみる。

 ……あとで頑張って掃除しないとなぁ……。

 

 

 

 

 

 

「……お前はいつもそうだ」

「え?」

「……自分の事を低く見て、自分を(ないがし)ろにする」

 

 振り向くと彩目はじっとこっちを見ている。

 その表情は、怒っているようにも見えて、泣きそうにも見えた。

 

 

 

「……頼むから、自分以外にも周りの事も考えてくれ……心配する身にもなってくれ……」

「……ごめん」

 

 

 

 けど、私はこれで反省しても、また同じ(あやま)ちって物を繰り返すのだろう。

 

 ……もう、分かってる。

 自分はどうしようもなく、中途半端なヒトだ。

 

 

 


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