風雲の如く   作:楠乃

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 タイトル 『主観と客観』




紅魔館・冬の陣 その5

 

 

 

 とりあえず、一日は完全に休む事にした。

 ……まぁ、別に仕事があるって訳でも無いんだけどね。

 

 縁側からただ何かを考える訳でもなく、空をじっと眺める。

 雲が流れていき、また新たな雲が現れては流れていく。

 

 ……はあ。

 

 ……彩目は人里に行っているし、文も新聞か何かで来る気配もない。

 天魔は守矢との一件でまだ忙しいみたいだし、その相手の神々も忙しいだろう。

 他の天狗達は哨戒任務とかで上空を通っていく事もあるけれど、危険なモノには近付かないのか降りてくる気配もないし、ただやけに遠くから覗き見ているだけ。

 河童はこの家の存在を知っているかどうかも怪しいし、守矢の神々以外の神も来る気配がない。

 

 ……暇だ。

 いや、まぁ、療養なのだから仕方がないのだけれども……。

 

 

 

 

 

 

 太陽が頂点に登った。

 

 真冬であっても、直射日光は本当に身体を暖めてくれる。

 自宅の屋根に登り、雪降ろしをしてから日向ぼっこをしてみたのだけれども、これが中々に気持ち良い。

 

 天気としては雲も結構流れていて、晴天には程遠いんだけどね。

 それでも気温はまだ高い方で、周りを眺めてみれば雪はどんどんと溶けていっている。

 

 

 

 そんな事を考えていると、どうやら我が家に訪問者が現れたようだ。

 地面を踏み締める衝撃音が聴こえてくる。

 

 その何者かは私の家の前で立ち止まり、

 

 

 

「……誰も居ないのかな? 師匠と詩菜さんは一緒に住んでいるって聞いていたんだけど……」

 

 

 

 ……何だ、妖夢か。

 

 とりあえず、何だか起き上がるのもめんどくさいのでスキマを開いて相手をする。

 いやまぁ、身体を起こすぐらいはするけど、室内で対応するのは面倒。実に理解不能。

 

「いらっしゃい妖夢」

「ひゃあっ!? 紫様!? ……って、声は詩菜……さん……?」

「残念ながら師匠、彩目は人里にいるよ~?」

「……そ、そうですか……いや、詩菜さんは今どちらに?」

「ん? 屋根」

「やっ、屋根!?」

 

 ……そんなに驚く事かな?

 

 

 

 すると妖夢が空を飛び上がり、私の姿を発見した。

 ……発見した際に凄く脱力していたのは何故だろうか……。

 

「本当に屋根に居たんですね……」

「まぁね。ほら、座って座って」

「……はぁ……し、失礼します?」

 

 その言葉が疑問系なのは、恐らく座布団がないどころか室内ですらないからだろう。

 

 ……いや、まぁ、客人をこんな風に扱うのは私も些かどうかとは思ってるよ。

 こんな調子じゃなけりゃあね。

 

「まぁ、こんな状態でごめんね。体調が芳しくないもので」

「……大丈夫なんですか? 何処か怪我でも……?」

「ん、傷は一応塞がっているけど、気分的にね」

 

 朝から彩目にも怒られ、昨日は散々恨まれ、気分は既に鬱状態だよ。

 

 うっすらと溜め息を吐くと妖夢に『事故か何かに遭遇したんですか?』と訊かれたので、素直に『喧嘩、というか殺し合い』と答える。

 

「詩菜さんが……一体誰にそんな傷を?」

「……妖夢、私はね? ヒトからどうも嫌われてしまう性格なんだよ」

「は、はぁ……?」

「だから……こんな事になるのさ」

 

 

 

 まだ困惑して言う妖夢を尻目に、さっきから聴こえていた足音の主に声を掛ける。

 二年間も聴いていた足音だし、誰かなんてすぐに分かる。

 

 

 

「美鈴、こっちこっち」

「……屋根ですか」

「ッ美鈴さん!?」

 

 声を掛けるとすぐに彼女は空を飛んで私の元に来てくれた。

 ……まぁ、昔の時もこういう事がたびたびあったしね。

 屋根の上での再会って奴がね。

 

 

 

「……懐かしいですね。こういうのも」

「まぁねぇ」

「妖夢さんもいらしていたんですか。こんにちは」

「ど、どうも」

 

 妖夢と美鈴は知り合いだったりするみたいだ。まぁ、幽々子がメイド長を知っているのだから、当たり前っちゃあ当たり前なのかも。

 ……まぁ、どうでもいい事だけど。

 

「……お嬢様が御呼びです。本日でなくとも良いので、早々に紅魔館へお越し下さい」

「……今度こそ本気で戦えって? それとも確実に殺す気かしら」

「いえ、用があるのは『志鳴徒さん』です」

 

 隣で妖夢が驚く雰囲気がする。

 多分私がレミリアと戦ったって、その事が分かったからだろう。

 

 ……本気で戦え、って言われてもねぇ……。

 それに、『志鳴徒』をか。ふぅん……?

 

 

「……お嬢様や咲夜さんにも色々と話しました。『私が昔に詩菜さんや志鳴徒さんと共に仕事をした関係』だと」

「……そっか」

 

 ……美鈴は、約束を守ってくれたのか。

 詩菜と志鳴徒は別人……こんな馬鹿のために。

 ありがたい。本当に優しいヒトだ、美鈴は。

 

「……明日の夜、志鳴徒が向かうって伝えてくれる……?」

「分かりました……では、志鳴徒さんにももう一つ、言伝を」

「……それは誰の伝言?」

「私からです。『本気でぶつかって下さい』と」

「……」

 

 ……それは、

 

 

 

 それは、本気で攻撃しても良い、という許可と取るよ?

 

 

 

 

 

 

「……では、私はこれで」

「ああ……お茶も酒も出せなくてごめんね」

「いえいえ、一応は勤務中ですので。では失礼します」

 

 そう言って、美鈴は飛び上がって湖の方向へと飛んでいった。

 湖にある、紅魔館に向かったんだろう。

 

 

 

 ……ああ……嫌な気分だ。

 何だか自分の都合で周りが変に畏縮して、自分の思い通りに勝手になっていってる。

 ……そんな変で嫌な感じの気分だよ。

 

 

 

 

 

 

「詩菜さんの相手って、あのレミリアさんだったんですね」

「……まぁね」

 

 美鈴が視界から消え、しばらくしてからぼそっと呟いた妖夢。

 

 ……あ~あ、駄目だな。

 テンションが全くあがらない。

 いつもならもっと戦うんだし、ノリノリでも良いんだけどねぇ……。

 

 

 

 ……鬱だなぁ……。

 重症じゃない欝はやけに清々しくない。もっと酷い症状なら皆そっとしてくれるのに。

 

 

 

「……事情の知らない私が言うのはおかしいですけど、美鈴さんは何とかしたいんだと思います。主人と詩菜さんとの関係を……」

「……」

 

 ……美鈴とは、三船村以来、一度も逢わなかった。

 その最後の別れも、嫌な感じのままで別れてしまった。

 

 ……私は美鈴が嫌いな訳でもないし、美鈴の方もそうだと思う。

 美鈴は私が信頼出来ないだけで、嫌いではない……のだと思う。

 

 だから、まぁ、第三者である妖夢が感じ取った『どうにかしたい』という印象は、まぁ、間違ってはいないのだろうとは思う。

 ……ただ、その当の本人ですら何とかしたいのに、何とか出来ない物事はどうすればいいのよ?

 

 

 

 ……ま、それこそ愚痴にしかならないんだけどね。

 

 

 

 

 

 

「……さぁ、て……とッ!」

 

 反動をつけて、寝そべっている屋根から立ち上がってみる。

 

 まだ空は明るい。

 彩目が帰ってくるのは日没前だった筈だし、まだ時間はあるかな?

 

 

 

「……ま、今更だけどお茶出すよ。上がりなよ」

「……いえ、私も帰ります。師匠が居ないのなら特に私も用はありませんし……」

「そう? それなら止めないけど……伝言とかあるなら伝えるよ?」

「……では、『今度また手合わせをお願いします』、と」

「ん、分かった」

「ありがとうございます。それではお願いします。ではまた」

「あいよ、じゃあね」

 

 

 

 そう言って、妖夢も帰っていった。

 ……幻想郷の皆は、空を飛べる。それを見るのがちょっと悔しいかな。

 

 

 

 ……さて、とりあえず室内に戻りますか。

 曇ってきたし、そろそろ日が傾いて日光に当たらないしね。

 寒いのは苦手です。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 結局彩目は一度帰ってきたけど、今日は人里の慧音宅に泊まるらしい。

 

「ちょっと泊まり込みで仕事をな。手伝わないといけない」

 

 とか何とか。

 

 そういえば、昨日は満月だったっけ……。

 ……慧音さん、溜まった仕事を片付けれなかったのかな……?

 

 妖夢が帰ってから、そのすぐ後に彩目が帰ってきたのには驚いた。

 彼女からの伝言を彩目に伝えると、『……またか』なんて言っていたけど、微妙にそれが嬉しそうな顔に見えたのは、決して見間違いではないのだろう。

 ……母親とは違って、まっすぐな娘である。

 

 

 

 

 

 

「……と、言う訳で、今日は文と二人きりである。まる」

「誰に話してるんですか……」

「電波的な何かに」

「……そういうのはにとりだけで良いわよ……」

「なんと、にとりも同志だと言うのか」

「……」

「……はいはい、分かりました。止めますよ」

 

 睨まれてしまった。まぁ、いつもの事なんだけど。

 

 今日の夕御飯。

 作る気も起きなかったので、今日はスキマで盗んだコンビニ弁当。

 チンして温めれないから、あんまり美味しくない。寧ろ不味い。というか不味い。

 

「うっ!? ……コレ、一体何を入れたらこんな味になるんですか!? この魚なんて何処のドブから捕ってきたのよ!?」

「……」

 

 ……まぁ、物凄い不評である。

 天然で鍛えられた舌に養殖では勝てないとか何とかという話。

 個人的には養殖にも養殖の味ってのがあるんじゃないかとは思う。美味いか不味いかは置いといて。

 

 スキマで現世、《外の世界》に繋ぐのは比較的に簡単だ。

 ただ、あんまり繋いだりするのは止めなさい。って紫から言われてるしね。止めておこうとは思っているんだけども……中々便利でねぇ……。

 

 

 

 ……まぁ、閑話休題。

 

 

 

「どうでした? レミリアさんとは」

「明日、また殺し合いだよ」

「……まぁ、相性が悪そうですしねぇ」

「……はぁ……」

「溜め息を吐くと幸せが逃げますよ」

「現在進行形で不幸だよ、気分的に……」

 

 弁当を半分くらい残して箸を置く。

 いつもならこれぐらい食べても足りない位だけども、今日は食欲もありゃしない。

 

 ……あぁ……酷い気分だ……。

 

「……どうしたのよ一体?」

「……いつもの鬱です。お気になさらず」

「ああ、なるほどね……レミリアさんが?」

「……まぁ、ね……」

 

 ……何であんな喧嘩売っちゃったかなぁ、って後悔する事しきりという奴である。

 いや、どうせもっと別のテンションでも同じ行動をしたような気もしないでもないけど、ね。

 

「……《文々。新聞》に書かれた私の事は全て嘘っぱちで、私が文に何かしたって考えてるみたいだよ? ……文に出鱈目を書かせていたんだってさ」

「はい? 私は正真正銘の真実しか書きませんよ?」

「……」

 

 その怪しい笑顔に隠された、本当の事実はどうなんだろうね。

 って言うか、慧音曰く、あの新聞の内容はかなり怪しいって話なんだけどねぇ……?

 

「……ま、どうやらその辺りがお気に召さないらしくてね、結局殺し合いって訳よ」

「はぁ……何やら迷惑をお掛けしているみたいで……」

「……いや、まぁ、私が適切な態度をしていればあんな事にはならなかっただろうよ」

 

 少なくとも、ちゃんと昔からの知り合いですよと説明すれば、相手方の機嫌を損ねたりはしなかっただろうに。

 

 

 

「……貴女は鬱になると本当に自虐的になりますよね」

「……そうだね。そうでもしないとやっていけそうな気にならないからじゃない?」

「だからそれがそうだと言っているんですが……」

「……」

「……まぁ、明日、貴女の本当の力を、彼女に見せてあげればよろしいと思いますよ?」

「……そうするつもりだよ……」

 

 ……問題としては、

 その時までに、テンション・気分が高揚していると良いんだけどねぇ……。

 こんなテンションじゃあ、またレミリアを失望させるだけだって分かってるんだけど……。

 

 

 

「ここは楽しく、酒でも呑んでパーっと騒ぎましょう!!」

「……まぁ、いっか」

 

 酒を呑んで呑まれて、

 いっちょ吹っ切れてやりますか。

 

 

 





 気を付けようね!
 食べないと治るものも治らないよ!
 今とっさに『食べるものも食べら』ってタイピングした所でようやく間違いに気付けたのも食べてない証拠だからね!
 風邪だから寝てりゃ治るってのは間違いだよ!
 結果私みたいに十日間全てバイト休む羽目になるんだよ! お金ないよ!!
 皆も気を付けようね! 寝汗が出ないやった─はもしかすると脱水かもしれないよ! 馬鹿な私だけだとは思うけどね!!
 小説投稿が遅れたのも48%くらいこれが原因だよ! ごめんね! 実に申し訳ない!!
 皆も身体には気を付けようね!!

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