さてさて、前回の紅魔館での戦闘のお蔭で右手と左目がロストしてしまい、未だに不自由な生活を強いられている
……まぁ、自業自得だし、仕方ないっちゃあ仕方ない。
そして私は『この程度の事』で生活態度を改めるような人種でもないのでさぁ困った物だ。
主に彩目が。
というか彩目が。
寧ろ、彩目だけが。
「そう思うんだったら改めてくれよ……」
だが断る。
私が最も楽しいと思える事の一つに、相手が懇願している事に『NO』と言ってやる事もたまに入ったり入っていなかったりしている。
「どっちだよ……」
「いや、もしかしたら『NO』じゃなくて『know』かも知れない」
「どうでもいいだろその情報は」
「でも意味は通じるんじゃない? 『実はこれこれこうなんだよ。頼むから何々をしてくれないか?』『知ってる。で?』みたいな」
「どちらにせよ意地が悪いじゃないか……」
「ま、そういう事だから。ちょっと出掛けてくるね~」
「……ハァ……言っても無駄だとは思うが、怪我人なんだから無理するなよ」
「Aye, ma'am!」
「……」
▼▼▼▼▼▼
人里にて、とある喫茶店のような店で一服中。
一服とは言っても、単にココアを飲んでいるだけだけどね。
「……なぁ、嬢ちゃん……」
「ん~?」
「嬢ちゃんのココアはもう、うちの商品であるココアとは違う代物になってると思うんだ……」
「ああ、砂糖が入っているからねぇ」
「……入れ過ぎだろ……」
私は甘党である以下省略。
甘いものに罪はない。
さてさて、ここのおっちゃんとはこういう風に普通に話しているが、これも数日前は大騒ぎになっていた。
何故かというと、私が大怪我をしているようにしか見えないにも関わらず、普通に店に来て注文をしたからだ。
……まぁ、そりゃあつい最近まで五体満足だったのがいきなり片手と片目が無い状態で入店して、しかも普段通りの行動をしたら驚くよね。
いやはや、私も迂闊過ぎた。
「……しっかし、長年店を構えているがよ。そんな大怪我をした妖怪なんて初めて見たぜ」
「ふぅん? ……まぁ、大抵再生しちゃうからか、もしくは死ぬからじゃない?」
「そうなんだろうけどな……まぁ、そこらをさっぱりした感じで言う辺りが妖怪だよな」
「まーねー」
う~ん、甘くて美味しい♪
そんな午後のゆったりした時間をおっちゃんと時たま駄弁りながら過ごしてみる。
話している事は割りかしグロい事だと思うけどね。
人里でも時たま妖怪に襲われて死ぬ人間とか出るって話だし、こういう話は本当はアウトなんじゃないかと思うけど、おっちゃんは冷静に受け止めているようにみえる。何回か経験があるのかしらね?
まぁ……私には関係ない。まだ、関係ない。
カランカラン♪
「おや、先生。いらっしゃい。休憩かい?」
「ああ。と、君は……詩菜……なの、か……?」
「ん……? って、慧音じゃん」
後ろを振り返って見れば、驚愕の表情を浮かべた慧音先生が。
……ああ、私の怪我で驚いたのか。
「どうしたんだその怪我は!? 右腕が……ッ!?」
「まぁね。ちょいと戦ったらこうなった。紫曰く、九か月位で治るやらどうたらだってさ」
「……左目も失ったのか」
「うん。普通に生活出来るし、そんな不便って訳でもないけどね」
確かに遠近感は微妙に狂っているけど、それはそれで慣れで解決出来るしね。
右手は……まぁ、スイッチハンド・両利きが鍛えられるとポジティブに考えるとしましょう。
「ま、日常生活は普通に送れるから、そんな心配しなくても大丈夫だよ」
「……それなら良いんだが……」
「それより、何か飲みに来たんじゃないの? この雪の中」
この大雪の中、わざわざ人里の店に来てまで何か飲むという酔狂な奴は、せいぜいが私くらいだろうと思っていたけど、どうやらそうでもないようで。
……偏見かな?
……偏見か。
「……そうだな。店主、私にもホットココアを頼む」
「……嬢ちゃん、『普通は』そのまま飲むものなんだぜ?」
「しつこいな。私はちゃんと代金も払っているし、ヒトに『コレ』を勧めたりはしないよ」
「……何の話なんだ?」
「ん、甘党かそうじゃないか、ってだけの下らない話。大体おっちゃんもそんなにしつこいと女性に嫌われるよ?」
「ぐっ……」
そう言ってやるとおっちゃんも観念したのか、それ以上は言ってこようとはせずに慧音の分のココアを作り始めた。
……うむ、やっぱり甘いものはとことん甘いものじゃないとね♪
「……そんなに甘いのか?」
「飲んでみる? 前に彩目が飲んだ時は全て吐き出しちゃったけど」
「……いや、いい……結末が見えてきたからな……」
「ん、それが良いかもね」
「……おいよ。ホットココア」
「うん、ありがとう」
そうして慧音と半時ぐらい、他愛もない話をして彼女は帰って行った。
何でも寺子屋のテストのようなものの採点があるのだとか。
……う~む、大変そうだ。
手伝ってみようかとも思ったけれども、自分は一応高校生一年ぐらいまでしかちゃんとした授業を受けていないから教えれないかな?
いやでも、寺子屋自体のレベルを知らないと意味ないしな……。
……まぁ、慧音がもう行ってしまった以上、もうどうしようもないけどね。
「……さて、私も行くか」
「おや、珍しいな。いつもなら閉店時間まで残るのに」
「ちょいと知り合いの所にでも行ってみようかなってね」
腕の有様でも見せ付けてやろうかなって、ね♪
「……(捻くれてるなぁ……)……」
「わたしゃ一応音に関しては専門家といえる妖怪だからね?」
「……そんなわざわざ遠回しに言うのが捻くれてるって言うんだよ」
「ん、よろしい♪」
私にとって『捻くれている』は褒め言葉。
異論は受け付けない。
「うわぁ……」
店主のおっちゃんが引く声を背中で聴きながら、喫茶店を出る。
行先は、魔法の森!!
▼▼▼▼▼▼
魔法の森・入口に到着、っと!
目の前に香霖堂が建っているけど、今は詩菜だからお邪魔するのはよしておく。
考えてみてもらいたい。
志鳴徒に変化したら肉体はそのままだから、右手左目のない志鳴徒になる。
紅魔館でやられたのは詩菜なのに、志鳴徒も怪我をしているのはおかしい。
『詩菜・志鳴徒が同じ怪我をしている=同一人物』っていう話が出てきてしまう。
それはひじょ~にめんどくさくなる。のでパス。
詩菜の姿で森近に逢ったらどうなるかっていうのも、まぁ、割と気にならなくもないけど、それは今この時期にやるべき事じゃないかなぁ、ってね。
そういう訳で、香霖堂は無視して魔法の森に直行。
さ~てさて、魔理沙宅はどの辺にあるかな~?
うむ、やはり瘴気がきつい。
とりあえず、新鮮な空気を集めて顔に着け、嫌な空気を吸うのを防いでみる。
しかし……行けども行けども、辺りは木々しか見えやしない。
まぁ、ある意味当たり前だけども。
……ああ、もう、めんどくさい。
「ほっ!」
木の幹を蹴り、衝撃を操ってベクトル変換。有り得ない方向に飛び出す。
その方向は、無論、真上。
「ッ、ふうっ!」
木のてっぺんに立って、辺りを見渡す。
こうやって上空から探した方が早いに決まっているよね。
いや、まぁ、鎌鼬状態になるっていう案もあったはあったんだけども、流石に瘴気が漂う中に紙装甲で突っ込む気にはならなかった。なるかコノヤロー。
さて、大体の位置も分かったし、木々を飛んで向かいますか。
こうしていると、初めて『この世界』に出てきた時の事を思い出す。
あの時は、自分にこんな能力がある事を知って大はしゃぎしていたなぁ。
某忍者漫画みたいに、木々の枝を蹴って移動して、その内どんどん楽しくなってスピードを上げていって、あまりにも上げ過ぎて自分じゃ判別出来ない程のスピードに結局なって、そしてそのまま大木に衝突したんだっけ。
……あれから一四〇〇年とちょっと。随分と遠い所まで来たものである。
……と、まぁ、我ながら感傷的みたいになってみる。
雪が何気に顔にぶつかってうざいけども、対して気にせず飛びまくる。
べちゃべちゃになったこの服も、肉体の一部と考えられているからか、一度変化すれば渇いちゃうしね。凄いものだよ。ホント。
▼▼▼▼▼▼
魔理沙宅に到着!!
所要時間は一時間ってところかな? まぁ、迷わなければ、だけど。
しっかしまぁ、相も変わらず散らかっている家である。
中身は外からじゃ分からないけど、家の外にまでガラクタが転がっていると、大体は予想出来る。
ああ、中も汚いんだろうな、と。それは本当にどうかと思うんだけどなぁ……本当に、根本的に物を集めて捨てられない体質なんだろうね。
……まぁ、私は前のスペルカード作成でお邪魔しているから知っているけどね。
閑話休題。
……なんか、久々にこの単語使ったような……ゴホン。
「ま~りささんッ! あ~そび~ましょ!!」
「のわッ!? いてぇ!? って、うわわわわわっわわ!?」
……どうやら、
私が声を掛けた事により、なにやら何かが落ちた様子。
それも結構大事そうなのが。
箪笥か何かかな?
……そんな衝撃は操ってないんだけどなぁ。
「……お前なぁ、家の前でいきなり大声を出す……な……」
「やっほ~、お久し振り~♪」
……いい加減この右手と左目に関していちいち反応するのもめんどくさくなってきた。
なのでいっその事スルーしてみる。意味は特にない。説明しろと言われたら説明するけど。
「お、おう……なんだ、どうしたんだ?」
「ん~? 暇だから来てみた。それだけ」
「そ……そうか……まぁ、散らかっているが、それでも良いなら別に構わないぜ?」
「んじゃ、おっ邪魔しま~す♪」
という訳で、魔理沙邸内部へ。
「お茶しか出せないが、まぁ、ゆっくりしていけ」
「やや、どうも」
相変わらずの散らかり様。
まぁ、別に散らかっていても本人がそれで良いと言うのなら、別に私は片付けろとは言わない。
え? いや、別に私の家は散らかっていないっすよ。
散らかしちゃう程に荷物があるって訳でもないしね。散らかすヒトならたまに来るけど。私達家族は散らかしちゃう体質でもないしね。
それに収納スペースならスキマっていうチートがあるんだし。
「……それで、結局何の用なんだよ?」
「はて? 何の用でしょうか?」
「……大方、その傷について訊かれたくて来たんだろ」
「わたしゃそこまで寂しがり屋じゃないさぁ。紫じゃあるまいし……ま、否定はしないけどね」
「だろうな。どうせそんな所だと思ったよ」
むぅ、なんか見抜かれてしまった。詰まらぬ。
「ちょっと紅魔館のヒト達とドンパチやってきました」
「ふぅん。その目と手をレミリアがやったとは考えにくいから、妹か?」
「例の妹様ですよ。いやぁ、怖いね、あの能力」
「……まぁ、そうだな。人間にとっちゃあ一番脅威となる能力だろうな」
「腕とか無くなっても生やせる妖怪ならまだしも、人間だとねぇ」
「でも、回復出来るのかそれ? 単なる『破壊』って訳じゃないだろ? フランの能力は?」
「ん、大賢者曰く、半年もあれば回復するでしょう。だって」
「紫も何してるんだか……ほら、お茶」
「やや、どうも」
ズズー……。
……うん、普通のお茶。強いて言うなら、市販じゃなさそうなお茶。
まぁ、私が最後に現代の市販のインスタントのお茶を飲んだのは、『彼』の家が最後なんだけどね。
となると、半年ぐらい前の話になるのかな?
幻想郷に来て半年かぁ……。
……うん、特に思う事も、ないかな? そんな長期間って訳でもないし。
「……そういえば、あの吸血鬼と戦ってって事は『あのスペルカード』を使ったのか?」
「いや、使ってないよ。使う暇がなかったと言うべきかな」
「なんだ。実戦で使った感想を訊きたかったんだが……」
「デメリット多過ぎ。使える条件がシビア過ぎ」
「そして流行に乗り遅れた『ラストワード』だぜ」
「……何でそんな感じなのを作っちゃったかなぁ……?」
「お前が言い出したんだろ。『スペルカードを作るのを手伝え』って」
「いや、まぁ、そりゃあそうなんだけど……」
魔理沙の目線から逃げる様に湯呑でお茶を飲んで誤魔化す。
因みに今、私達はテーブルで椅子に座ってお茶を飲んでいる訳なのだけど、テーブルの上があまりにも散らかり過ぎて湯呑を置けないという惨状。
……あれ? これ単に私に現実逃避しているだけだな。
湯呑を下げると相変わらずに魔理沙がこっちを見ている。
……うう、なんだろう。気まずい……。
「自業自得だぜ」
「……私、別に何かやらかしてないよね?」
「自業自得だぜ」
「……」