「どう? 着けてみた感想は」
「……ん~……」
義肢、義手を右腕の根元に装着。
流石は人形遣いと言うか何と言うべきか、質感や触感、肌触りが物凄く元々のそれに近い。
……まぁ、近いだけであって、触れば中身が無いのが分かるし、本物ではないというのが分かるんだけど、見た目は物凄く本物だ。返ってそれが気持ち悪いようにも見えてくる。
『不気味の谷』って奴かしらね。どうでもいいけど。
「可動部分の肘・手首・肩の近くは一応全方向に対応しているから、動かす時は不自然にならないように動かしなさい。指は補装具に近い感じを目指した形になっているから、コツが分かれば何かを握り締めたりも出来る筈よ。腕本体の回転が恐らく一番難しい部分だと思うわ……まぁ、後は貴女の努力次第ね」
「そ、そう……有り難う御座います」
……どうやら彼女は熱中したら語り出すタイプのようだ。
ま、まぁ、職人気質というのはいい事、の筈。うん。
一度右腕の傷に包帯を巻き、更にその上からクッションとなるような物を巻く。そしてアリスの作った義手が私の肩に嵌められる。
まぁ、多少は傷に触れてしまうから痛いんだけど、義肢装具士曰く『その内慣れる』だとか。
……そういうのは慣れちゃ駄目なような気がするんだけどなぁ……。
とりあえず、動かしてみる。
私が椅子から立ち上がると、接合した肩に引っ張られて机からズルリと落ちてしまった。
その様は何だか……スライムみたいで、非常に気味が悪い。
考えてみて欲しい。
ベッコベコに凹んだ生身の腕にしか見えないナニカがダラリとしている。
……う~ん……やっぱり気持ち悪い。
「……まぁ、とりあえず妖力から」
妖力を集めて義肢の中に詰め込む。
詰め込む。
詰め込んでみる。
必死に詰め込んでみる。
……。
一向に腕は膨らまない。
「……妖力は駄目みたいね」
「……」
あれか。私の妖力が薄い・総量が少ないからか。
……こんな所にも弊害って出るものなの?
私一応は1000歳も生きた大妖怪ですよ? 『八雲 紫』の式神ですよ?
何でこうなっちゃったかなぁ!?
「はい。次」
「……はい」
……そうですよね。クヨクヨしていてもダメですよね……。
ダメなものはダメ……あれ? 私ダメな存在……?
……まぁ、いいか。
次は風。
……ありゃ? 空気を入れるスペースがない?
「……装着する時にやるべきだったようね」
「……そうですね」
仕方無いので後回し。
次に神力を込めてみる。
一気に腕は膨らみ、ちょっとムチッっとした腕になった。
これはこれで……何と言うか、私の体幹と合わなくなってしまった。要修正、と。
「おぉ」
「……神様だったの貴女?」
「まぁ、一応は」
外の世界じゃ物凄いマイナーな神様となってるけどね。
神力を操り、関節部分を少しずつ曲げていく。
……う、ん。一応は可能……。
「……その顔だと納得してないようね」
「神力は身に纏うモノなんですよ。ですからこの力で何かを動かすというのは……」
有り体に言えば、効率が悪過ぎる。
身体から発するだけでも消費するのに、それで身体の一部を動かすとなると……ねぇ?
「……ふぅん。そんなモノなのかしら」
「まぁ、そんなモノなのですよ」
「……神様なら、もっと堂々としたらどう?」
「はい?」
そう言われて、右腕の義肢を見ていた私は顔を上げてアリスを見る。
机に肘をつき、気だるげにこちらを見ている。
……信仰心なんて一つも感じない。
「別に、敬語を止めたら? っていう話よ」
「……ん、そう。分かった」
……どうやらちょっとだけ近しい間柄になれた様子。
これまた私の勘違いもあるかも知れないけどね。
んじゃあ次、能力。
衝撃を操って、腕を操るとなると……どうするかな。
一気に力が放出。物体に瞬間的に激しい力が加えられる事……う~む。
物体と物体がぶつかる、っていう認識を私がしないとなぁ……。
……ふむ。
「何処かに実験場みたいな場所ってありま……ないかな?」
「……それなら、地下にいらっしゃい」
「了解」
▼▼▼▼▼▼
本来ならば、
魔法使いは自分の研究の成果、秘密を他人に教えてはならないそうだ。
だから自分の工房に誰かを入れるというのは、それは自身の技術・秘匿している術式を盗まれても文句は言えない事をやっているという事らしい。
魔術師の工房に勝手に入るという事は、それをした瞬間にその魔術師に殺されても文句は言えないというか殺されるだとか何だとか。
似たような話を何処か外の世界の小説で読んだ事があるような気もするけど、まぁ、神秘の秘匿は何処の世界でも大切だよね。って事でFinal Answerです。
……まぁ、私はどうせ魔法使いでもないから良いらしい。
良いのか。それで良いのかアリス・マーガトロイド。
「ようこそ。私の工房へ」
「はぁ。し、失礼します?」
……それにしてもこの魔法使い、やけにノリノリである。
一体初期のキャラは何処に行ったのだろうか。
初期っていうか、私を家に招き入れた時の性格は。
「ここなら壁も床も頑丈だし、広さも充分でしょう。好きにやりなさい」
「はぁ……では」
随分と広い部屋である。地下にこんな空間が広がっているとは、というテンプレ台詞を思い付いたけど言わないでおく。
身体の力を抜き、両腕を脱力させる。
そして思いっきり身体を回転し、右腕を鞭のように振るう。
……というか、心材とも言える骨や筋力がなく、この見掛けを支えているだけの腕を振り回したら、それは単に鞭と変わらないよね。
……意味ねー!!
パァンッ、と音がして、目標として立てられていたボロボロの
う~ん、これだったら単に左手の爪で衝撃を放った方が隙がないよなぁ……。
回転するっていう大きな隙がある訳だし……いやまぁ、魔法の森でよく襲ってくるトレントさんのような感じで真似をするっていうのも一つの手ではあるけど……。
「……凄い威力ね」
「鎌鼬ですから」
驚いたような声でそう言うアリスに適当に返事をして、次の準備に移る。
今度は義肢の中に神力を充満させて、ちゃんとした腕の形を取る。
ここに来るまでにパンパンに腫れたりしないように、ちゃんと練習したから今は普通の腕になっている。
指を動かせる程にはまだ慣れていないけど……まぁ、大丈夫かな。
右手を真っ直ぐ前に伸ばし、その状態で案山子に突っ込む。
衝撃を操り、下半身しか残っていなかった案山子が粉砕される。
……案山子ーッ!!
ノリで叫んでみた。意味はない。実際には叫んですらないのだから、本当に意味が無い。
「……う~ん……」
何だか、イメージと合わない。
操作ならやっぱり妖力・風なんだけどねぇ……。
まぁ、最近になってそう言った事柄に関して練習したから、初めから風で義手を操った方が良いような気もするけど。
「ちょっと外すよ」
「ええ。その間に的も入れ替えるわね」
肩の辺りにあるスイッチのようなものを押して義肢を外す。
中に詰まっていた神力が霧散し、一気に腕がゴム手袋のようになる。
まぁ、外すと言っても空気を入れるだけだから、間に挟んだクッションを落とさないように注意しつつ、空気を取り込む。
空気を入れた風船のように、張りぼての腕が膨らむ。
左手で触ってみると、感触は実際の肌に近いのに指を押し込むと不自然に凹む。
ああ、気持ち悪い。
気持ち悪いが、そもそも自身の分身体を風で、凝縮・圧縮・変化させて創り出す事が出来るのだから、こっちの方が明らかに使えている。
そして再び義肢を装着。
元々立っていた位置に戻り、二体目の案山子に向き合う。
「……自分で取り外し装着も出来るみたいね」
「あ、そっか。自分で出来ないと意味ないもんね」
「……一気に口調が変わったわね……」
「そう?」
まぁ、そんなものじゃない? 知らないけど。
さて、と。
まずは、イメージだ。
中に詰められた空気を衝撃によって操る。
妖力を練り込んで凝縮する。これは風そのものを操る私本来の力。イメージとしては腕の中を通る血液、だから紅く染まる。
次にそれらを圧縮する。これは私だけの能力の作用。雰囲気としては筋肉の密度を高めている感じ。
最後に変化させる。これは種族としての私の効果。これまで行ってきた想像を実際に形とする。
義手が取り付けられている肩の小さな隙間から、紅く黒いものが見える。まぁ、見えるだけで溢れてないし、注視しなければ気付けないだろう。
気が付けば義手も、失われた元の腕のようにサイズもぴったりとなっている。
いやぁ、分身を作る技術を覚えていおいて正解だった。なんというフラグ。
「……凄い技術を持っているわね」
「そうかな。技術だけで総合力は大した事はないよ。あたしゃ」
力だけで頭は良くないし、他人に対して不快な思いをさせる事は多々あるし、良くない人物ってのは一番自分がよく分かっている。
まぁ、分かっているだけで理解してないし直そうとも思っていない所がアウトなんだけどね。
「ほい……うん、上出来」
中身に私の分身体が通った事で、義手を動かす事には何も違和感を感じない。
物を握る事も、後ろ手に帯から扇子を取り出すのも簡単……とは言わないが出来ている。
操作性も抜群。けれど……。
「やっぱり燃費の悪さがなぁ……」
「え……?」
……これ、また説明しないとダメかな……?
私はね……力の総量が圧倒的に足りないのだよ……。
▼▼▼▼▼▼
「……むぅ……もうちょっと指の可動を簡単に出来ないかな?」
「その体積に筋肉以外で可動部分を収めただけでも凄いのよ? 分かる?」
「……ハイ、すみませんでした……」
まぁ、色々と説明をした所で本題に戻る。
風を入れれば操作は出来るのだから、何とか分身を使わずに風を操る能力だけで義手の操作を出来ないかと、侃々諤々の議論を交わしている最中です。
……ま、専門家の意見に素人は何も言えないので、怒られてしまったら謝るしか出来ないのだけれど。
「まぁ……努力してみるわ。やっぱり改良が必要ね」
怒ったと思ったけれど、そうでもなかったみたいだ。
……ツンデレ?
まぁ、そんなどうでもいい事は置いといて、
「魔法とかで出来ないの? 肉体との連結運動とかって」
「……今から調べて新たにそういう魔法を作るとなると、貴女の腕が回復して生えている頃にその魔法が出来上がるわよ?」
「あ~……やっぱりそういうのは難しいかぁ……」
糸で筋肉を再現とか?
・出来るけど、神経までそれと連結させるの? とんでもない激痛に苛まれるわよ?
ホムンクルス的な何かで腕ごと再現させるとか?
・違う生物と身体をくっつけると拒否反応が起こるわ。異形になっても良いならやるけど。
じゃあ、魔法で他人を操る感じで操作するとか?
・魔法を習っていない貴女が今から学ぶというの?
以上、議論の簡単な内容。
ほとんどが却下されているけどね!!
「じゃあそこで待ってなさい。今から改良するから」
「りょうか~い」
結果的に居間に戻ってきて、再度私の腕を作ってもらっています。
まぁ、改良するというのは私が義手を取り付けた時点で決めていたみたいだし、別に私としても改悪ならともかく改良なら文句は何一つない。
さっきから言っているようだけど、能力の風を操る操作だけで義手を操れれば、日常生活を過ごす上で何も問題はないのだ。
分身体で操作するというのは、流石に日常を送れないね。半日で私がぶっ倒れる。
そんな事を考えている私は、アリスが改良をしている所を無事な左腕を使って頬杖をつきながら見ていたりする。
傍から見ていると、貴女は何処の天才外科医師ですかと言いたくなるような腕の動くスピード。
あんなに細かい所をあそこまで素早く動かせれるのは、凄い。凄いとしか言えない。
しかしまぁ、相変わらず辺りには人形だらけ。
等身大の大きな人形から、全長が人の顔ぐらいしかない小さな人形まで、様々な種類の人形がある。
壁の時計を見てみれば、既に日付は変わっている。
……まぁ、家主は義肢作りに夢中みたいだし、依頼した身分なんだし私も付き合うとしよう。
「……ハイ、出来たわよ」
「っよいしょ、っと」
出来た腕を右肩に着け、義手を取り付ける。
ん?
……んん!?
「……コレ、なにか……違和感があるんだけど?」
「まぁ、気付くわよね。ちょっと手助けになるように魔法が組み込まれてあるわ」
……やっぱりこの子、ツンデレじゃね?
「指の動きの手助けは出来ないけれど、肘までの動きならスムーズに出来る筈よ」
「……ホントだ」
さっきまで空気で操っていたのに、今じゃあ肩の動きで動くような気がする。
……どういう仕組みになってるんだろう?
肩の筋肉に合わせて動いているのかな? どっか現代でそんな技術があったような……。
「……出来るのならさっさとしてくれれば良かったのに」
「わ、私だってついさっき気付いたのよ」
「……ふぅん」
「何よ、その眼は……折角作ってあげたのに」
やっぱツンデレ以下略。
まぁ、とりあえず指についてはグーパーの入れ替えが瞬時に出来るように練習するとして……後は、関節かな?
手首・肘・肩付近の関節だね。
手首は回転は出来ないけど、角度はまぁ、何とか出来る。
肘はアリスの魔術で何とか出来ているかな? かなり元の動きを再現出来るようにはなっている。
肩付近は……まだちょっと痛いけど、彼女の言う通り慣れるしかないのだろう。
そんなこんなで、何かを握り潰したりは出来ないし、
ちょっと触れられたら偽物の腕だってばれちゃうけど、
これで義肢は完成かな?
本気で戦うのなら分身体を使えって感じかしら。
「……因みに強度は?」
「戦闘に使うなんて無理よ。元々装飾用義手なんだから」
「……当たり前か」
まぁ、別にそこまで便利なモノは望んでいない。
そもそも春まで、と言うか腕が治るまでは大人しくしているつもりなんだし。
とは言え、どうせ私の事だ。
そんな便利なモノが腕にあるとなると、再生させずにこのままの方が良いと考えてそのままにするに違いない。
……言ってて、我ながら悲しくなってきた。
「ふぅ……」
「お疲れ様。ありがとうね」
「そうね……久々にやりがいのある作業だったから、ちょっと疲れたわ」
そう言って、アリスは立ち上がり、自分の部屋へと向かった。
……いやいやいや、泊まりの客よりも早く就寝ですか?
それは寧ろ何かを盗っていけとでも言っているつもりなんですか?
「おやすみなさい」
「……お、おやすみなさい……」
……行っちゃったよ……。
ま、まぁ! 人形がまだ動いているから、当の本人はまだ起きているんだろうね!!
それに人形がなんか私を監視しているしね!!
つーか、盗るつもりなんて最初からなかったし!?
……寝よ。
なんか、凄く虚しくなってきた。
テキトーに思い付いたどうでもいい事。第二弾
《 お題:アナタにとって『怖い・恐ろしい事・物』は何ですか? 》
詩菜
「考えれば考える程にドツボへとはまっていく思考って恐ろしいよね。面白くもあるけど。後は蜘蛛かな。見たら速攻で潰すようにしてる」
志鳴徒
「蜘蛛とホラーだな。昔は驚かす系の物は見たくもなかったが、今は能力あるから驚く事は無くなった。ま……それでも考察して嫌な考えになると眠れなくなるが」
彩目
「そうだな……今ある均衡が崩れる事かな。私は、次の段階へと進んでしまう事が恐ろしい。現状が良いとは言えない状況でも、どうなるか分からない状況になってしまうのが、怖い」
天魔
「ふむ……怖い事。家族に何かあるというのは恐ろしいのう。守るべき存在を守れないというのは怖いものじゃな。無論立ち向かうがの」
牡丹
「……誰にも覚えていてもらえない事かな……そうならないように私達が居るけど」
『彼』
「ホラー系とか蜘蛛とかだな。あの虫を見るぐらいなら蜂とか蛇の方が良い。怖いゲームは大っ嫌いだ。ゲーム売り場の店頭でデモが流れているだけで店を出るぞ、俺は。ふざけんな!」