風雲の如く   作:楠乃

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優雅で怠惰な帰り道

 

 

 

 今日も夜更かししたというのに、癖で朝早くに起きてしまう。

 ……まぁ、今日はアリスの家に泊まり込んでいる身なんだし、その方が心証は良くなるに違いない。うむ。

 

 ベッドから身体を起こし、ぐぐ~っと背伸びをする。

 相も変わらず周囲には人形がフワフワと動いている。軽くホラーだ。

 そういえば、義肢を着けたまま寝てしまったのだけど、良いのかな? そのままにしたら鬱血とかしないのかな? 只でさえ傷は完全には塞がってないんだし……。

 

 そう考えて右腕を動かしてみても、何も違和感はない。

 ……魔法か。魔法の力か。願えば何でも叶えてくれる不思議な力ですか。

 まぁ……上手く出来ているのだろう。多分。

 

 

 

 とりあえず、身嗜みをちゃんと整えて居間へと向かう。

 ……予想通りというか、何というか、やっぱりアリスはまだ起きていないみたいで。

 いやまぁ、流石に彼女の部屋に入って確認した訳ではない。音や衝撃で確認しただけです。そんな寝顔を見てニヤニヤとかしてないです。

 実際そんな事をしたら間違いなくあの武装した人形が飛んでくるに違いない。と思う。

 

 まぁ、そんな意味不明な言い訳をしている間にも、人形はまだ動いている。

 でもでも、私を何だか監視しているような感じで動いているから、まぁ、やっぱり私に対して用心はちゃんとしているんだな、とも思う。

 

 あぁ……暇だな……。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 私が起きてから一時間ぐらい経ってから、ようやくアリスが起きてきた。

 

「お早う」

「おはよう……随分と早いわね?」

「こうでもしないと旅で何かを盗まれるからね」

「……神なのに旅をするの?」

「そういう神様だから」

 

 多分、逆だけど。

 旅をしていたからこういう神様になっただけだろうけど。

 

「ふぅん……?」

「まぁ、そんなものだよ。多分」

「そう……朝食、食べていく?」

「良いの? 遠慮しないけど」

「別にいいわよ。私としても面白い体験が出来たし」

「そっか。ならお言葉に甘えようかな」

 

 

 

 

 

 

 そうして出てきた料理は、実に至って普通の料理。

 ……うん、まぁ、魔理沙の料理のあの茸の量がおかしかったんだろうね。あれは。

 てっきり魔女の伝統スープ的な料理かと思っていたよ。

 

 

 

 そうしている内にあっさりとやってきた別れの時。

 ……いや、某番組風にやってみたけど、どうせその内逢えるし、悲しいとかも何とも思わないなぁ……。

 

 ……あ、そうそう。

 

「そういえば、料金とかはどうすればいい? 義手というか、義肢の作製代」

「……そうねぇ。今度私が困った時に協力してくれればいいわ」

「協力、って?」

「私の人形のお相手とか、かしら」

「……ああ、なるほど」

 

 それぐらいで済むなら……安いかな?

 まぁ、ビジネスって事で納得しますか。

 

 

 

「何かあったら人里の喫茶店にどうぞ。多分居ると思うし」

「……あくまで多分なのね」

「多分だよ。さっき言ったように、私はふらふら彷徨う妖怪兼神様だからね」

「そ、そう」

「んじゃ。また逢おう」

「ええ、じゃあ」

 

 そう言って真っ直ぐ歩き始める私。

 

 さて……帰りますか。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人里に到着。

 誰が彩目の待つ自宅に帰ると言った。

 

 

 

 まぁ、そんな戯言は置いといて、

 

 カランカラーン、と扉の呼び鈴を鳴らしつつ、いつもの店内に入る。

 

「いらっしゃい……って嬢ちゃんかい」

「何さその言い方は」

「いんや、何も」

「あっそ。緑茶一つ」

「……」

「……何よ。その信じられないモノを見るような目付きは」

「ど、どうした嬢ちゃん。遂に太り始めたか?」

「……そんな事を言うから娘に『お父さんなんて大嫌い!』って言われるんじゃない?」

「……」

「単に気分よ。気分」

 

 今は甘くないものが飲みたいだけよ。

 珈琲を注文したら癖で砂糖を淹れちゃいそうだしね。

 

 ……まぁ、微妙に気分は鬱傾向だけど。

 

 いつものカウンターの定位置に着き、テーブルの端に置いてあった新聞を取る。

 例の如く『文々。新聞』か……暇潰しにはなるかな。

 

 

 

「……いつまで衝撃で意識が吹っ飛んでるのよ。戻りなさい」

「ハッ!?」

 

 

 

 

 

 

 緑茶を飲みながら、心底どうでもよさそうな事しか書かれていなかった新聞を畳む。

 いや、まぁ、面白いっちゃあ面白いけど……ふーん、で終わるような内容ばっかりだった。

 

 ……ホント、何したいんだか。

 いや、まぁ……私もヒトの事は言えないか。

 

 

 

「そういや嬢ちゃん、右腕はいつの間に再生したんだ?」

「ん? いや、これ義手」

「……マジか」

「マジっす。触ればわかると思うよ」

 

 触れば一目瞭然……いや、触っているんだから一目瞭然はおかしいか。

 中身として妖力が詰まっているから、何となく触られている感覚はあるけども、やはりというかどうも反応が鈍い。

 傍から見ているとプニプニという効果音が聴こえそうな感じなのに、本人からしてみれば何か触ってきている。触れているという感触しかない。

 分身体が中に通っているなら、私が得られる感触も違ってくるんだろうけどね。

 

 ……それからこのおっちゃんは真面目な顔で触ってきているけど、傍から見て今のおっちゃんは変質者に限りなく近い変態に見えているという事に気付かないのだろうか。

 

「……なるほど」

 

 気付かなかったよこの人。

 ……まぁ、どうでもいいか。

 

「そういう事。お抹茶。ホットで。ちゃんと作法に乗っ取った奴ね」

「……ある訳ねぇだろ」

「あれ? ここのセールスポイントって品揃えじゃなかったっけ? まぁ、無ければ良いけどさ。温かい紅茶で」

「……次からは仕入れとくよ」

「ん、お任せする~」

「ほらよ」

「どうも」

 

 

 

 ティーカップを顔に近付け、香りを味わってみる。

 まぁ、私は甘党で極度の味音痴だし、匂いもそれほど分かるって訳でもないけどね。

 レミリアの所で飲んだ紅茶との差も分かりゃしない。あの時は結構緊張していてそれどころじゃなかった、っていうのもあるけど。

 

 カップに入った紅茶、その水面に私の顔が映る。

 『向こうの私』は右目を包帯で覆い隠し、何だか酷く虚ろな表情をしている。

 

 つまり、『こちらの私』は抉られた左目の傷を包帯で覆っていて、鬱になりかけているという事である。

 

 ……どうでもいい事か。

 鬱なんて、いつもの事だし。

 

 

 

 

 

 

 ぼーっとしている内に、どんどんと時間が過ぎていく。

 

「……」

 

 ただ何をするでもなく、ぼんやりと外を見続ける。

 アリス宅を出た頃は青空すら見えていたのに、今ではまた雪が降っている。

 昨日はほぼずっと雪が降っていたし、雪かきに勤しむ人々もここから見えてきた。

 

 ガラスの向こうでは、人々が実に忙しそうに歩き、行き交っている。

 妖怪や妖精も、その中に時たま混じっている。

 その内の何名かがこの喫茶店に寄って来て、何かしら飲み物や食べ物を注文したり、誰かと待ち合わせている。

 

 

 

 お昼過ぎになって、おっちゃんも目に見えて忙しくなって来ているみたいだ。

 それを私は、それこそアリスの家で見た未完成の人形のように、無味乾燥・無味単調の表情でそれをじっと見ている。

 

 ああ、もう、完全に鬱に入っちゃったじゃないの。

 

 

 

 ……これ以上この店に居ても無意味かな。

 そう思えてきたので、予定を繰り上げてさっさと自宅に帰る事にする。

 

「おっちゃん、ごちそう様。これ料金ね」

「お? お、おう……」

「んじゃ」

 

 

 

「……どうしたんだアイツ……?」

 

 

 

 聴こえてるっつーの。

 返事なんかしないけどね。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

「……ただいま、っと……」

「おかえりなさい」

「あれ、文じゃん……彩目は?」

「慧音さんの所じゃない?」

「ふぅん……」

 

 

 

 家の中に入ると、彩目は居らずに代わりに文がいた。

 

 ……暇なのだろうか。

 ……暇なんだろうなぁ……。

 

 居間の炬燵に入っている文は何をするでもなく、自分でお茶を注いで自分で飲んでいる。

 私もそれに便乗し、自分でお茶を注いで炬燵に入る。

 

 ……こうして飲んでいると、やっぱり喫茶店の飲み物は美味しいなぁ。と思う。

 単純なお茶でも、こうも味が違う。いや、もしかするとお茶自体を単純と考えている私が間違っているのかもしれない。

 プロとアマチュアは違うって奴かね。……当然なのだろうけど。

 

 

 

 

 

 

 そうして何も話さず、何もやらず、何も起きない時間が過ぎていく。

 まだ日は高い。

 

 私は炬燵で横になり、顔を腕で覆っていて、

 文は(自分で持ち込んだ)蜜柑を食べてのんびりしている。

 やっぱり暇なんじゃないの、と思わなくもない。

 

 

 

 日常……日常ねぇ……。

 

 

 

「あやぁ」

「なんです?」

「今から酷い質問するけどさぁ」

「はい?」

「何でそんな私の家に頻繁に来るの?」

「……さぁ? なんででしょうね?」

「分からないの?」

「さぁ? どちらでしょうね?」

「……ふ~ん」

 

 身体をあげ、炬燵の上の蜜柑を一つ取って皮を剥く。

 丁寧に剥いた後、蜜柑の実と一緒に皮も口に放り込む。

 

「……皮ごと食べるものじゃないと思うわよ?」

「この方が美味しいと私は感じているから良いのよ」

「……何? 鬱なの?」

「……まぁね」

 

 普通に行動して、会話出来る辺り、結構な軽度の鬱じゃない?

 感覚的にはまだ言葉の返答の遅延も少ない方だ。

 メタな発言をすれば、三点リーダーもまだ少ない方である。

 

 

 

 上手く動かない右手を必死に動かし、蜜柑の皮を剥いていく。

 まず指を引っ掛けられない。引っ掛けてもそのまま剥く為の指の力の維持が出来ない。実にもどかしい。

 

「……あれ、いつの間に腕を生やしたの?」

「義手だよ? これ」

「へぇ。何処でこのような物を?」

 

 あ、なんか文が取材モードになった。

 

「アリス……って分かる?」

「分かりますよ。当然です」

「あのヒト、人形遣いじゃん」

「あの器用さは凄いですよねぇ」

「だから」

「……はい?」

「いや、さ? 人形遣いなら、そういうのって得意そうじゃない?」

「……そ、そうなんですか?」

「……私だけか」

「ま、まぁ、アリスさんに作ってもらったんですか」

「うん。本人も初めて作ったって言ってたよ」

「やっぱり詩菜さんの偏見だったんじゃないですか……」

 

 いつの間にか取り出したメモ帳────本人曰く『文花帖』だっけ? 手帳の上をシャーペンが走っていく。

 

 ……本当、いつの間にシャープペンシルなんて物を手に入れたのだろうか。

 シャーペンなんて私は持ち込んでないから……香霖堂かな? あそこなら外の世界の物も入って来ていたし。

 

 

 

 ペンが止まり、文花帖にたった今書き込まれた内容を凝視する文。

 私から聴いた事なんてたった二、三行で終わるような内容だろうに、目の動きは明らかに雑誌を読んでいるかのような動きをしている。

 あれだけの会話でそんな量の文章を書いたのか。流石、思考速度は随一だねぇ。

 まぁ、どうでもいいけど。

 

「……今から突撃取材?」

「ん~……いえ、今日は止めておきましょう」

「へぇ」

 

 なんだか珍しい。

 いつもならネタを求めて突っ込むかと考えていたのに。

 

「何かあったの?」

「……貴女には言われたくないわね」

 

 あ、いつものモードに戻った。

 

 しかしまぁ、文に言われた事も確かである。

 理由なんてないもんね。鬱に。私はだけど。

 

 

 

 こうして鬱だ鬱だ。なんて言っているけど、自分はこうして誰かに一緒に居て欲しいだけのわがままな状態だけなのかも知れない。ああ、我ながら、こう考えていてもそれを実行に移す自分が嫌になる。とか言っておきながら止めない辺りが特にうんざりする。

 

 

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 あっと言う間に炬燵の上から、蜜柑は姿を消してしまった。

 私が帰ってきた時には既に数個しかなかったし、あれだけの時間が経っていればそりゃ無くなるか。

 そろそろ暗くなる頃合い。夕食でも作ろうかしら。

 

 

 

「……よいしょ」

 

 義肢を外し、クッションを中から取り出し、そこから包帯が巻かれた肩が出てくる。

 

 ん?

 ……魔理沙とかアリスに肌を見せるのは恥ずかしいのに、文とか彩目には普通に見せているのは何でだろう?

 ………………まぁ、いいや。

 深く考えたらドツボに嵌まりそうだし。

 

 

 

 包帯を手早く剥ぎ取り、新しい包帯を巻く。

 予想通りというか何というか、傷自体は未だに塞がっていなくて、微妙に出血している。

 呪いって怖いね。呪われた部位を切り取ったとしても、呪われたという事実だけでその部位は再生しにくくなる。

 

「巻くの、手伝ってくれる?」

「はいはい」

 

 流石に片手で肩に包帯を巻くのは一人じゃ無理。アリスだって手伝ってくれた。

 いや、まぁ、やり方によっては出来るのかも知れないけれど、今の私はそんな事に挑戦する気分でもないのでパス。

 だってめんどくさそうだもの。

 

 面倒臭い。めんどくさい。果たしてどちらが正しいのか。

 ……まぁ、それぐらいどうでもいい事。

 分かっていても分からないフリをする。それもどうでもいい事。

 

 

 

「それにしても強力な能力よねぇ」

「そうだねぇ……」

 

 人間でもこれだけの時間が経っていれば、どんな傷でも塞がると思うんだけどねぇ。

 

 呪詛というか呪いというか、

 フランの能力が異様に強いだけなのか、

 それとも姉のレミリアを心の底から助けたかったから起きた、天然の呪いなのか。

 

 まぁ、別にこの傷で私は仕返しとかは考えてなんかいない。

 あの時の私は、私じゃなくて『私』だったから。

 ……単なる言い訳だけどね。こんなの『彼』が私でないのに『私』だと扱っているのとおんなじ。意味なんてないけど意味があるとする為に続けている習慣にも似た意地のようなモノだ。

 実に嘆かわしい。

 

 

 

「ほら、出来たわよ」

「ん、ありがとー」

 

 幸いにして、眼の方は既に出血が止まっている。まぁ、包帯は変えるけどね。

 巻かれた包帯の調子を確かめて、義肢を嵌める。

 アリスお手製の魔法が発動し、感覚が擬似的にとは言え復活する。

 

 関節が鳴る事はありえないのだけど、一応いつものように鳴らす感覚で動かしてみて、調子を整える。

 ……よし。

 

 炬燵から抜け出て立ち上がり、調理場へと向かう。

 目的は勿論、今日の晩御飯。

 

 

 

 台所に来た所で、肩までの長さにしていた髪の毛を、神力を使って肩甲骨位までに伸ばす。

 特に意味はない。強いて言うなら気分。

 まぁ、ふぁさっと広がる感覚や、肌の上を髪の毛が滑る時の触感は中々に好きな感触だけどね。

 

 その髪の毛をゴムで縛り、ポニーテールにする。

 慣れない右手を見ずに動かすのは大変だったけども、何とかやり遂げる。

 

 

 

「……うし、やりますかね」

 

 さ~てさて、何からやろっかな。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

「はいよー。おまちどおー」

 

 義肢の右手はあまり使わず、左手で頑張れば料理も案外行けるものだ。という事が分かった。どうでもいいけど。

 本日は山の妖怪達から頂いた野菜のサラダと焼き魚、それに炊き込み御飯と……まぁ、簡単な料理である。

 電気製品が使えるというだけで、幻想郷でも山の生活は素晴らしいものだと評価出来るね。

 

 料理の乗った皿を居間へと運び、私が着席した時に文の視線に気付く。

 視線の先、それすなわち『私の後頭部』。

 というか……髪型。

 

「……どうしたの?」

「ん? いめちぇん」

「……へぇ」

「ま……包帯を巻くのに髪が邪魔そうだし、料理を作るから気分を変えてみようかな。ってね」

「はぁ……分かるような分からないような」

 

 そうかい。

 ……髪を邪魔だから伸ばす、っていう矛盾にこの子は気付かないのだろうか……?

 

 

 

 とまぁ、特に何事もなく夕食の時間が終了。

 前回みたいな苺の事件なんていうのは滅多に起こらない。

 というか毎回そんな事が起きてたら、我が家は戦場になっているよ。多分。

 私が欝だから文もそんな事しないだろうしね。私も無論しない。

 

「ご馳走様でした」

「お粗末様でした」

「洗い物よろしく」

「ハイハイ」

「ハイは一回じゃなくても良いよね」

「いや、私に訊いてどうするのよ……」

「さぁ?」

「……」

 

 でも、まぁ、料理をする事で多少は気分も晴れつつあるかな。

 

 

 

 そのまま炬燵でプチ宴会。

 蜜柑と一緒に文が持って来たらしい一升瓶を二人でチマチマ呑み続ける。

 今度は私がスキマからおつまみを取り出すという訳だ。わぁい、息ピッタリ。

 

 もう既に外は真っ暗。

 行燈に光が灯り、静かに酒を酌み交わす天狗と鎌鼬。

 

 酒の力でヒトは何かが出来たりもするけど、今の私に酒で高揚というのは出来なさそうだ。

 全く持って、気分が乗らない。でもでも、それほど堕ちているという訳でもない。

 

 

 

「……酒を呑んでいるのに、ねぇ……」

「……本当、鬱の時は酷いわね。貴女」

「何でだろうね」

「知らないわよ……」

 

 

 

 まぁ、こんな感じで宴会はまだまだ続く。

 という訳で酒をチビチビ呑みつつ、他愛もない話をする。してみる。

 

 

 

「……『魔法の森』の瘴気って凄いね」

「はい?」

「出来心でちょっと思いっ切り吸ってみたんだけどさ。見事に体調を崩したよ」

「……いつの話よ。それ」

「え~っと……昨日の夜」

「……貴女、それが原因なんじゃない? 鬱の原因」

「それは無いと思う、よ?」

「何故?」

「勘」

「……貴女は何処の紅白巫女よ」

「……そんな霊夢程じゃないけど、私はそれなりに勘は働く方だよ?」

「まぁ、確かに直感は冴えてる方でしょうけど……」

「……というか、霊夢ってそんなに勘が凄いの……? 今まで色んなヒトから『あの巫女は凄い』って聴いていたけど……」

「異変を解決する時はまず勘に従って行動する人よ?」

「……」

「しかも、それでほぼ正解の方向に行っているんだから凄いわよね」

「……いやはや、人間でも凄いのが居るもんだねぇ」

「異変に関わって、尚且つ純粋な人間となると、霊夢と魔理沙と、後は咲夜ぐらいかしら」

「早苗は……現人神だから除外、って事?」

「まぁ、外の世界で彼女は普通に過ごしていたんでしょう? それでも」

「私の見た限りではね。最近になってようやく幻想郷の生活に慣れてきたんだとか」

「後は……まぁ、力が妖怪にすらも勝てそうという話になると、後は氷妖精のその仲間かしら」

「へぇ……チルノがねぇ」

「……妖精とも知り合いだったの……?」

「今更何を言ってるんだか……もしかしたら私達よりも年上かも知れないんだよ?」

「……はい?」

「……少なくとも、私が初めてチルノに逢ったのは……私が五十歳ぐらいかな?」

「それもう完全に私よりも年上じゃない……」

「良いんじゃない? ……文だって初めて紫に逢った時と口調、全然違うじゃない」

「……いや、もう、あの性格が、ねぇ?」

「……ヒトの事を言えないから私はノーコメントって事で」

「ちょっと!?」

「大丈夫だよ……スキマが近くにある感じはしないから」

「……感じ?」

「う~ん……まぁ、勘に似たような雰囲気、とでも言えばいいのかな?」

「……随分とあやふやなのね」

「直感よりは確かだよ? 一応は彼女と繋がっているからね」

「……まぁ、そりゃそうでしょうけど……」

 

 

 

 そんな事を話している内に酒が無くなってしまった。

 まぁ、スキマを経由すればいくらでも貯蓄はある訳だけど、二人共それほど呑む気にはなってない。

 

「……んじゃ、今日はお開きって事で」

「そうね。おやすみなさい」

「……って、炬燵で寝る気なの?」

「……zzz」

 

 狸寝入りだ。絶対。断言出来る。

 

 ……でも、まぁ、今日は特別に見逃してやろう。

 今日の私は『ないーぶ』なので、このまま自室に引っ込むとする。

 

 明日、明朝になったら分からないけどね。

 私が怒るか。それとも帰ってきた彩目が怒るか。

 はてさて、それはそれで見物ではある。

 

 







 現代で市販されている蜜柑の皮と実、一緒に食べるとピリピリして辛くて美味しいです。
 まぁ、恐らくは舌が麻痺してるんでしょうね。科学的な農業のお薬とか何かで。



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