風雲の如く   作:楠乃

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 休日丸々使って7778文字。
 作業用BGMに集中してなかったら三時間ぐらい早く投稿出来ていただろうになぁ……。

 あ、ちょっとだけグロい表現あります。ご注意を。



対抗する仲間

 

 

 

 もうすぐ四月になろうとしている、三月の終わり頃。

 

 

 

 いつものように、縁側に座っていてボーッとしていると猫がやってきた。

 茶色と黒の縞模様……虎柄の猫? と言うべきなのかな? トラ猫?

 

 何やらこんなへき地に生息している割には人に慣れているようで、先程から私の下駄と足の匂いを嗅いできている。やめい、指の間とか。

 

「こらこら、そんな所の匂いを嗅いじゃいけませんよ……まぁ、一部の人は好きかもしれないけど」

 

 そんな事を一人で喋りつつ、前足の両脇を掴んで持ち上げる。と、どうやらその体勢がイヤなのかやたらと暴れ始める。

 イヤか、イヤなのか。

 別に後ろ足の猫キックは別に届かないし見ていて幸せだけど、その前足で私の腕を引っ掻くのは止めてくれないかな。地味に痛い。

 ほら、血が出てるしさ。義手の方は出ないし感覚としても痛くないから良いんだけどさ。いや、道具だから良くはないんだけど。

 

 仕方ないので空中でいきなり手を離してやる。おお、ナイス着地。

 猫のその身軽さは羨ましいよね─。私なんかはただ単に早いだけで着地に優雅さなんて欠片の一つもありゃしないからさー。

 

 ……なんて事をそんな猫に一人喋ってみる。

 誰かに見られたら恥ずかしさで一杯になるのは間違いないだろうけど、幸いにして文も彩目も今は家に居ない。

 ……まぁ、監視役っぽい奴は相変わらず居るけど、どうせ音までは聴こえまい。防音の結界あるし。

 

 

 

 しばらくの間、猫は私の愚痴のようなものを座って聴いていたかと思うと、いきなり縁側に飛び乗って私の膝に乗ってきた。

 ……お前、抱っこはさせてくれないのに膝には乗るのか。ありがとうございます。

 

 膝の上で座る猫を撫でながら、これまたボーッとする時間。

 いいねぇ。特に春の日差しを感じるこの日光が最高。いや、この脚の上の適度な重さも心地良いなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 とか、そんなほんわかとした気分の時に邪魔されるのが私の人生。

 

『おい、詩菜』

『……珍しいね。藍から念話って』

『紫様が寝ておられるからな、今は私が八雲家の代役だ』

『なるほど』

 

 私を嫌う『八雲(やくも) (らん)』からの念話とは、本当に珍しい。

 私が幻想郷に来てから逢った事は殆ど無い。というか最後に『彼』に逢うために喧嘩したのが最後かも。

 ……今、思い出した事があるけど、今更掘り返すのもアレだし、黙っておくか。

 

『それで、何か用? お仕事のお話?』

『ああ、幻想郷に住む妖怪の為に餌を用意するのを手伝って欲しい』

 

 ふぅん……『餌』ね。

 妖怪の、餌。

 

『外の世界に行くの?』

『それしかないだろう。それに……』

『それに?』

『貴様、この前吸血鬼との大喧嘩があっただろう』

『……あったね』

『形だけでも、一応は詫びという事で供給してやれ』

『へいへい』

 

 

 

 一瞬で念話が終わり、猫を膝から退かす。

 あからさまに『何よ?』みたいな顔をしてくるけれど、こちとら今から仕事なのである。

 

「……ま、どうやらその内妖怪に変化しそうな感じだし、君がこの家に住みたいっていうのならわたしゃ止めないよ」

 

 この言葉も認識出来るかどうか、だけどね。

 地面に座って不満気な顔をしている猫を尻目に、スキマを通って藍の下へ行くとしよう。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 とある街中。

 具体的な地名は避けるが、具象的に言うと都心部。

 人がまさしく蟻か群れを成す生き物のように動いている中、私達二人は一応は変装して歩いていた。

 

 ……一応の、変装をして。

 

「その金髪を何とかすれば人目も集まらないんじゃない? 耳と尻尾を隠すのは当然としてさ」

「お前こそ、その格好を何とかしろ。眼を黒にするのは当たり前で眼帯も仕方ないとして、マフラーだけ巻いた着物姿だからか余計に寒そげに見えるぞ」

「下に何枚も着てるから暖かいんですぅ。藍こそスーツ似合うけど、もうちょい何か平時の服とか無いの?」

「向こうの服を着る訳にもいくまい。お前こそこちらに馴染むような普通の服を……くそ、お前はこちらでも通用する服だったか。一応は」

「一応はって酷くない? まぁ、いいさ。何処か店に寄って新しい服を買おう。それで一度は人の目も途切れるだろうし」

「これ紫様が用意した服なのだが……」

「時には主に反抗する事も必要だよ」

「いや、それはお前は特殊な契約をしたから良いのかもしれないが、そう言われるとますます私は反故にする訳にはいかない」

「分かった。じゃあ私の作戦でもうちょい人に慣れたような服装を買ったって事にしよう」

「いや、しようって言っている時点で既に……」

「ほらほら、お姉ちゃん入った入った」

「お、お姉!?」

(見た目考えろよ真面目狐?)

(貴様後で殴るぞ捻くれ鼬)

 

 

 

 まぁ、何やかんやあって、服を取り揃えた。

 藍は白シャツに黒のフード付きコート、青のジーンズ。

 対して私は真っ赤な革製のブルゾンを狙って買った。これでブーツと枯葉色の着物があれば完璧である。いやもう既に完璧に近いのかもしれない。来ているのは紺色だけど。いやでも見た目の年齢がなぁ……。

 

「……確かに私は寒そうだと言ったが、変えろといったのはその着物だ。何とかしろ」

「ええ〜?」

「もう完全にコスプレじゃないか。歳相応の見た目は違うんだから諦めて普通の格好をしろ」

「あ、藍知ってるんだ。じゃあカソックでも探して着ようかな……」

「やめろ。余計に目立つ気か?」

 

 真剣に怒られたので、普通通りの服に着替えるとする。

 だいぶ前、八雲一家や幻想郷から逃げ出してから着ていた。現代風ファッション再来、である。

 まぁ、動きやすい黒系のズボンにだぼだぼの灰色パーカーという、一枚って感じの上下セットだけど。

 

「服のセンスなんて分かりゃせんよ。特に幻想郷の人達はハイカラすぎてついていけん。まぁ、現代の人間にもついていけないけど」

「誰に喋ってるんだ?」

「電波」

「……行くぞ」

「あいさー」

 

 

 

 

 

 

 まぁ、お仕事だ。久々の八雲一家としての仕事。任務だ。

 

 

 

 

 

 

 簡単に言ってしまえば、妖怪の餌となる『人間』をとっ捕まえて幻想郷へ仕入れよう。という話。

 社会的に必要とされていなさそうな人間や極悪人、死んでも良いような人間などを選別し、必要ならばその場で肉塊に変え、必要ならば意識を落としてスキマに落とす。

 まぁ、抵抗手段が彼等にある訳でもなく、単調なお仕事は次々と進んでいく。

 

「こうも順調だとつまんないよね」

「これも仕事だ。命令に面白いも面白くもないだろう」

「そうなんだけどさぁ」

「お、おまえ、ら、こんな事して」

「はい、また来世─」

 

 両手両足を狐火で焼かれた人間の首を、私がそっと義手の指でなぞれば首が『ゴトン』と床に落ちる。

 血飛沫に関しては仕事の早い藍先生がパパっとやってくれました。具体的には呪符を投げて物体の凍結保存という形で。

 

 路地裏で日中堂々とそんな事がされているとは誰も思わず、肉をスキマに落として出てきた私達に向けられる視線は、そのほとんどが何故そんな所からという疑問の視線か見惚れているかのどちらか。

 こういう時は少女に生まれてきてよかったとは思っちゃうね。

 

「殺り甲斐がある人間ってのは居ないものかしら」

「楽しみに来てるんじゃないぞ」

「それはそうなんだけどね。今何体目?」

「さっきので十七人目だ。ノルマとしてはあと十三人って所だな」

「ようやく半分か。先は長いねぇ」

 

 紙のリストを見ながら隣を歩く藍に、その横で袖をぶらぶらさせながら歩く私。

 

 まぁ、身長差で親子か何かと考えたのか、それとも単純にスカウトしたいのか。

 

「な、なぁ! 君達雑誌デビューとかしてみない!?」

 

 とか、そんな事を言ってくる奴等も居る。

 当然のように藍は居ない者として完全に無視するし、私もさほど興味はないので藍の後ろからペコリと頭を下げてから素通りする。鬱陶しく付き纏う場合は衝撃当てて呆然として貰うけど。

 

 

 

「……藍ももうちょっと可愛げがあれば大人気だろうに」

「お前こそ、もう少し感情の起伏が穏やかであれば、周りとも衝突しないのにな」

「まぁ、この癖はね……」

 

 そんな事をスクランブル交差点で呟くと、藍から耳が痛くなるようなお言葉が飛んでくる。

 やっぱり嫌われてるなぁ。

 

 

 

 それにしても、こんな事を私が手伝うべきなのだろうか?

 確かに私の爪は人間を解体するのには便利だろうけど、それは藍だって獣の爪があるから左程変わらないと思う。実際に切れ味がどのくらいか比べた事はないけど。

 

 

 

「……ねぇ、藍」

「何だ」

「私をこの仕事に誘った理由の本音は? 先輩式神の命令として早急に述べよ」

「……冬にいきなり紫様が起きたと思ったら、その原因がお前だと言う。折角の余暇だったのに仕事が増えた。腹が立った。だから巻き込んだ。以上だ」

「ヤダ! この子、割と根に持つタイプ!」

 

 そんな事を言っておどけながら、藍の左手を掴む。

 まぁ、いわゆる子供の手を引っ張るお母さんの図、と言った所か。今の私達は。

 

 それどころじゃあ、ないんだけどね。

 この行動も誤解を招くのが目的だ。

 

『20mほど後ろ。さっきの奴の仲間かな。携帯で連絡取ってる。妖怪だってバレてる。もっと人が来るね。増援を呼んでる』

『……こういう時、お前の音を拾う能力は便利だな。怪しい会話かどうかすぐに分かる』

『私に聞き取れぬ音などない、ってね』

 

 とは言え、始末した時に誰も近くに居ないのを確認したし、監視の目もなかった筈なんだけどなぁ。

 奴の身体に何か仕掛けられていたのかな? そんな技術力が外の世界にあるとは思えないんだけどなぁ……あったとしても、私達に繋げるのも難しいと思うんだけど……。

 

『どう思う? あいつら、どうやって私達を認識したと思う?』

『……単純に考えるなら私達が罠に掛かったという可能性もあるな。奴は囮で、私達異形を捕まえるための人間が使う人間の囮』

『ああ、なるほど。そっちもあるか』

 

 幻想郷に慣れすぎて、と言うか外の世界で神様やっていたのに慣れすぎて、外の世界での悪魔退治の人間が居る事、すっかり忘れてたや。

 仲間の囮、ね。

 

『そういう事がないように身辺調査して、その紙のリストを作っていたんじゃないの?』

『だから、奴等も全然関係ない奴を囮にしたのだろう。向こうもこちらも考えている事は同じさ。使えないであろう奴はこちらの都合に使う。それだけだ』

『なるへそ』

 

 どいつもこいつも酷い奴だねぇ。と考えるも、言葉には出さない。

 私も同じ穴のムジナだしね。

 

 後ろから会話が聞こえる。

 ……どうやらこのまま追跡して、次の仕事現場を抑えて捕獲するようだ。

 会話丸聞こえだし、暗号を使っても向こうの携帯の声も聞こえるのだから、何もかもが丸分かりである。無駄無駄♪

 

『どうする?』

『何も問題はないさ。次の場所へ行こう。どうせ餌が増えるだけさ』

『あいつらの後ろ、電話の向こうの奴等は?』

『……』

 

 後ろを振り向き、またすぐ前を向く藍。

 一連の動作に怪しさを感じる者はほぼ居ないだろう。それどころか私もちょっと見とれるぐらいだった。

 美人が振り返る瞬間って、色々と卑怯だな。と思った。

 今度この話を『彼』と議論してみようかしら。

 

 

 

 とか、そんなどうでもいい事を考えている間に、藍はちゃんと作戦を練っていたようだ。

 これが優等生と捻くれ者の違いである。

 

『さほど気にしないでも良いだろう。私達を物理で倒そうとしている奴等だ。手を抜いても幻想郷が危機に陥る可能性はごく僅かだ』

『……それもそうか』

 

 私も確認してみると、何の力も彼等から感じられない。

 そういった畏れのある武器を持っている様子もない。追跡はすでに十数分ぐらいされていて、後から合流した奴も居るけど、そいつらにも何の力も感じない。

 ちょっと衝撃で確認してみれば、持っているのはほとんどが銃器。アンタらは妖怪を何か勘違いしてないかと言いたい。言わないけど。

 

 

 

『それじゃあ、間合いの中に入ったら結界で封じ込めて逃げれなくすれば良い?』

『そうだな。私はリストの方をやるからお前は』

『追ってきた奴等の処分、と。適当にスキマに封じ込めればオッケー?』

『ああ、最終的な処分は後で決めよう』

『了解』

 

 まぁ、そんな銃しか持っていない奴に手こずる訳もなく、片目片手だけだと言うのに何一つ相手が障害となる事もなく。

 あっさりと仕事は終わった。一人だけ見せしめに粉々にしたけど、まぁ、藍も『そうか。特に問題はないぞ』と言ってくれたので良しとする。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、ようやく幻想郷に戻ってきた。

 あ〜、久々に人間殺した。妖力を抑えていたけど、やっぱり外の世界は居るだけでも疲れる。あんな環境に百数年も居たとか、自分でもよくやったと思っちゃうわ。

 

「……そういえば、初めてお前の家に来たな」

「そう、だね。何ならお茶していく? どうせ誰も居ないし」

「……そうだな。少しばかり休憩していこう」

 

 ………………おや?

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 穏やかな夕方。ん? 夕方に穏やかは合わないか。

 じゃあ、カラスが鳴き始める、寂寥を感じる夕方。

 

 私は結局まだ残っていたらしい猫を膝に抱えて撫でている。服に関してはもうスキマに仕舞ってあり、いつもの格好だ。

 彩目や文はまだ帰ってきていないらしく────代わりに隣で藍がお茶を啜っている。

 

 

 

「……その猫は、どうしたんだ?」

「いや、藍から連絡がある直前ぐらいに私に懐いてきてね。どうせすぐに飽きて何処かへ行くだろうと思っていたら、案外しぶとく残ってた」

 

 猫なら猫らしく、いつの間にか消えてたりすれば良いのに。

 

 とか、そんな事を考えながら撫でていると隣から藍が手を伸ばして撫でてきた。

 撫でてくれるなら誰でも良いらしく、トラ猫は一度目を開けて藍を見て、また目を閉じて喉を鳴らし始めた。それで良いのかお前。

 

 まぁ、それなら藍の膝元で撫でられた方が良いだろうと思い立ち、これまた丸ごと抱えて藍に手渡す。

 珍しく慌てて湯呑みを置いて受け取る彼女の姿を見て、ああ素顔はこんな風なんだな。と思った。言わないけど。

 尻尾、結構揺れてますよ? 藍さん。

 あと耳とか、普段動かないのにピクピク動いてますよ? それ、割と可愛いですよ?

 

 

 

「……猫は、やはり、良いものだな」

「だねぇ。その生き方は凄い憧れるね」

 

 まぁ、結果私の生き方は風のように動くという形になっているけどね。

 

 やはり珍しく、私の前でゆるい顔をしている藍を見ないようにしつつ、台所へと向かって新たなお茶を出す。

 

 

 

 急須と私の分の湯呑みをお盆に載せ、縁側に戻ってくる。

 まだ笑いながら猫を撫でている。凄い愛情である。後で紫に猫でも買ってあげたらとか言ってみようかしら。

 

「ほい、お茶のお代わり」

「ひえっ!? あ、ああ、ありがとう」

「……んな驚かなくても。どれだけ自分の世界に入っているのさ」

 

 呆れつつも、湯呑みにお茶を入れていく。

 うむ、味は……まぁまぁの出来。

 

 

 

 

 

 

「……単純に」

「ん?」

 

 湯呑みを握りながら、藍がいきなり喋りかけてきた。

 猫は既に縁側で丸くなって寝ている。位置的にはちょうど私達の中間。

 太陽はもう山の向こうに消えてしまいそうだ。そろそろ照明点けないとな。

 

 まぁ、その前に藍の話を聴いてからか。

 

「単純にお前が分からない」

「……そんな事を言われてもねぇ」

「これほど私はお前を嫌っているというのに、どうしてお前は反発しない? 何故泰然として受け入れている?」

 

 何だ、いきなり何か質問かと思ったら、そんな事?

 

「私が嫌ってないから。以上、証明終わり」

「……いや、何一つとして証明出来てないだろ?」

「相手が嫌っても私が好きだから良いんだよ。前にも言わなかった?

 『好ましいね。私の(しょう)には合わないだろうけど』って」

 

 そう言ってやると、藍は少しの間黙った。

 

 

 

 何も言わないのなら、こちらから言ってやろう。

 中間にいつも居た紫が居ないから、ある意味好きなだけ好きな事を言える。

 

「……私はね、こうして時たま狂っちゃあいるけどさ。

 真面目な奴は好ましく見えるし、誠実な人には誠実に答えたいヒトさ。

 ただ変な所で捻くれちゃって、変な場所に着地しちゃうんだ」

「……」

 

「だから、主のために尽くす藍の姿はとても綺麗だ。素晴らしいね。

 いや、別に僻みとか嫌味とかじゃないよ?」

「……随分と、恥ずかしい事を、真顔で言ってくれる」

 

「へへ、今だけね。だから私にとっちゃ藍が羨ましいね。

 私に出来ない事をしてくれる。まぁ、そういう意味じゃあ妬みもあるのかもね」

「……」

 

 だから、私はこうも言ってしまう。

 天邪鬼な私だ。

 

「藍は真面目だね。扱いやすい。でも、それが私にとって好印象になるのさ」

「……」

 

 また、藍は少しの間黙った。

 

 

 

 数分程黙り、それから湯呑みにあったお茶を一気に飲み干して、それをお盆に置いてからサッと立ち上がった。

 帰るつもりかと一瞬考えたが、彼女は複雑な顔をして、何か言おうとしている。

 今日は、アレだな……珍しく藍の色んな顔を見れるようだ。

 

 

 

「……私は、やはりお前が嫌いだ。捻くれ過ぎていると言っても良い。

 お前の言う事は大半が意味もなく、場を引っ掻き回す。理解不能だ」

「だね。私はそういう奴さ」

 

「お前の……その無駄に自虐的な所も、私は嫌いだ。

 何千年も生きている癖に、技術だけなら優れている方なのに。

 それを自慢する事もなく、寧ろいつも自分を卑下している」

「事実として妖力がないから、それを扱う技術があってもね、自慢にならないかなって」

 

 

 

「────私は、お前が」

 

 藍が、物凄く躊躇いつつも何かを言おうとした時に、空から何かが来た。

 

「おや、珍しい組み合わせ……でもないのかしら?」

「たまたま八雲から仕事が来てね。それのお話中」

「へぇ。あ、お邪魔してますね」

「ハイハイ」

 

 まぁ、いつものように文だった。

 ある意味、雰囲気はぶち壊しである。

 

 

 

 文が玄関を通り、縁側が丸見えな居間を通り抜け、客間へと入ったのを見てから再度藍へと視線を向ける。

 その顔は……まぁ、何と言うべきか、兎も角言葉では表現出来ないような、そんな顔をしていた。

 

「……で、何だって? 聴かれたくないなら結界を張るけど」

 

 ちょっとニヤニヤしつつ、頬杖を突きながら藍に尋ねる。

 表現しづらい顔だったのが、私の言葉で若干怒った顔に変わった。

 

「…………私は、お前のそういう全てを知った上で知らない振りをして、相手の選択に全てを委ねようとするのが嫌いだ」

「あら、そう。じゃあそういう事にしておきましょうか」

「……そういうのが大嫌いだと言っている」

 

 そう言い切って、藍は振り返ってスキマを開いた。

 今度こそ帰るつもりなのだろう。

 

「じゃあね。またおいでよ。お茶ならいつでもごちそうする」

「ふん。その時には私が言った部分を直しておくんだな。直さないなら今度こそお前を倒すぞ」

「おお怖い。んじゃあ今度は私から逢いに行こう。それなら問題ないでしょ?」

「大有りだ。……じゃあな」

「ん、またね」

 

 

 

 見ていないだろうけど、手を振って見送る。

 和解出来たかな? いやぁ、出来てないかな?

 

 

 

 さて、と……。

 仕事も終わった。別に人間から恐怖を得られたから妖怪的には疲れてないけど、精神的には少しばかり疲れた。

 

 これはもう、何か甘いモノでも食べなければやってられないね。

 

 

 

「……ってコラァ! 何また私のカステラ食べてんの!?」

「あれっ!? んぐっ! し、仕事の話があったんじゃないの!?」

「もう終わったわよ!! カステラ返せ!! 吐いて返せ!!」

「無茶苦茶な!? やっ、その左手を腰に溜めるの止めてくれません!? 本気で腹パンする気ですか!?」

「とある先人はこう言いました。『衝撃を使えばどーにかなるって』」

「一体誰ですかそんな嘘を言った先人は!?」

 

 

 







 書いてて思った。
 あれ? 藍様普通に可愛いな?



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