風雲の如く   作:楠乃

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夢現

 

 

 

 気が付くと、道を歩いていた。

 知らない道だ……と思っていたけど、よく周りを見て確かめてみれば、私の良く知る場所だった。

 

 いや、私というよりも、『彼』の方が良く知っているだろう。

 外の世界の、私がまだ人間だった頃、近くにあった大きな川に架かっていた橋の上に、私は居た。

 

 

 

 どうして自分がここに居るのか。はっきり思い出せない。

 

 ただ、周囲は真っ暗な夜だという事が分かる。

 車や人通りは一切なく、街も動きが無いように見える。

 

 そして何より、私が視界を真上へ上げると雨が顔に当たる。

 けれども、私が踏み締めるコンクリートには雪が積もっており、視界を下げれば下げるほど、上から降ってくる物は雪へと変わっていく。

 

 橋の向こう側を見ているだけなら、どうやら判定は雪となるらしい。

 まぁ、雨よりかは気分的に楽かな……。

 

 

 

 そんな不思議な空間を歩く。

 橋の向こうへ、川の対岸へ行こうと歩く。

 

 けれども、というか、予想通り、いくら歩いても距離は一向に縮まらない。

 

 あぁ、やはりこれは夢だったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、ゆっくり、歩き続ける。

 景色と歩いた距離と動く身体の映像が何一つ一致しない。

 それに気付いてからは、ずっと地面を見て歩いている。

 

 自分のつま先から、およそ1mほど先の地面を見て、歩く。

 

 

 

 今、気付いたのだけれど。

 

 いつも私が着ている服じゃない、和服を着ているのに気付いた。

 私が好んで着ているのは紺色や黒など、暗い感じの服ばかりだ。寧ろそれ以外に持っていない。

 

 けれども、今私が来ているのは白い和服だった。

 薄くピンクが入った白色の着物。帯は蒼い。

 ……私には似合わない、清純な色だ。

 

 どうやら模様は、脚の裾に何かの草が入っているだけで後は単色で染められている。ちなみに花ではなく、草のようだ。

 一体何の草だろう。とは思っても、わざわざ立ち止まって確認する気にはならなかった。

 わざわざ服の模様を着て確かめる者は居ないだろう。手に持った時にそれは確かめる物じゃないか。そんな気がした。

 

 けれども、この格好、何処かで見た事があるような気がする。

 いや、日頃から着物を着ているから当たり前なのかもしれないけど、それにしては先程から何か違和感がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にやら、また景色が変わっていた。

 今度は、周囲が山の中。

 地面には石段がある。どうやら何処かの山道に私は立っているようだ。

 

 そして、雪なのか雨なのかみぞれなのか一切不明な天気は、気付くと消え去っていた。

 代わりに、紅葉した樹木から葉っぱが落ちてきている。

 

 つい立ち止まって、周囲を見渡していると頭の上に枯れ葉が降ってきて乗った。

 手に取って確かめてみると、綺麗なカエデの葉っぱだった。

 大きく、何処か破れた様子もなく、色のグラデーションがとても綺麗だった。

 

 右手の中のカエデと、枯葉色の袖が、実にマッチしているような気がする。

 

 

 

 ……?

 あれ、これも何処かで見た事があるような気がする……。

 

 

 

 思い出そうとした所で、急に強風が来て紅葉した葉っぱを大きく飛ばして行ってしまった。

 ついでとばかりに、私の手の内にあった大きなカエデの葉も、共に飛ばして行ってしまった。

 

 別に手元に実物がなくても、思い出そうと思えば思い出せるかもしれないけど、やっぱりその時の私は思い出そうという気にならず、ただ葉っぱが飛んでいった先を見続けていた。

 

 葉っぱを巻き込んで渦のように動くそれらは、空の方へ飛んでいってそのまた向こうの山と山の間へと、消えていった。

 

 

 

 それを見て、唐突に思い出した。

 ……ああ、此処。

 妖怪の山か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思いだして、石段を一つ登ったら、これまた景色が変わった。

 

 今度は川べりの歩道に、私は立っていた。

 視線を右に動かしてみれば、この夢が始まった時に立っていた橋が見える。

 どうやら、妖怪の山に飛んでいっている間に橋の向こうへと辿り着いていたようだ。

 ……まぁ、山に居た間、一歩も動いてないんだけどね。

 

 それなら、橋から離れるように動くかと考え、川沿いに歩き始める。

 今度は、動く距離とスピードと移ろっていく光景のどれもが一致していて、何もかも綺麗に見える。

 夜で、雪なのか雨なのか分からない天気で、対岸では桜が咲いているという、非日常的すぎる光景でも、何故か綺麗に見える。

 

 

 

 ふと、気付いた。

 

 ああ、そうか。と、気付いてしまった。

 

 

 

 私には、隣に歩く人が居ない。

 

 家族が居る。

 友人が居る。

 弟子が居る。

 敵が居る。

 怨敵と思ってくるヒトが居る。

 愛そうとしてくるヒトが居る。

 殺し合おうと約束したヒトが居る。

 守れるのなら守ろうとしてくれるヒトが居る。

 

 でも、どうしようもなく、一人だ。

 

 私は、孤独だ。

 そして、孤高であろうとしている。

 

 

 

 つまり、矛盾している。

 

 

 

 矛盾の塊だ。

 男だし、女だし、妖怪だし、人間だし、神だし。

 簡単に殺すかと思えば、殺さない時もある。

 偽る時もあるし、騙す時もあるし、正直な時もあるし、愚直な時もある。

 躁であり、かつ鬱だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうか。

 物語は、誰かの手を握って、そしてその繋いだ手を離さなくなったら、お話は終わってしまうというのなら、

 

 

 

 私は一生(物語)を、終える事なんて、ないのだろう。

 

 

 






 意味不明回再び。
 何か、来た。



 追記 2014-04-10 午前4時34分

 ・足りなかった言葉を追加。


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