ふっきー、フッキー、復帰ー。
遅れた理由は活動報告にあります(宣伝)。
申し訳ございません。m(_ _)m
魔法の森なう。
まぁ、正確には魔理沙宅に向かっているだけなんだけどね。
陰鬱とした森の中をただ真っ直ぐ進む。
森の中で迷ってしまうのは、目印となるものが木々で遮られ、しかも延々と同じような木々が続いているせいで何処から来たのか進行方向がわからなくなってしまうからそうなるのだとか。
でもこれは私が考えただけで、実はもっと他にも説はあるんだろうけどさ。
瘴気が私の視界を遮り、目標の魔理沙の家はまだ見えない。
それどころか、木々の隙間からチラチラと此処一帯に住む茸オバケが見えている。
……まぁ、襲ってこない限り、こっちからは手出しするつもりはないけどね。
さて、朝から魔理沙宅に向かう為にスキマを使わずに徒歩で私の家から出発した訳だけど、これが中々に遠い。まぁ、当たり前だけど。
衝撃を使って木々を飛び跳ねても良いけど、そんな気分でもないのでパス。
「……」
で、まぁ、どうして魔理沙宅に向かっているのかと言うと、この前使ったスペルカードの報告及び調整の為である。
名無しの反則スペルカード。卑怯なラストワード。
一応身体の調子は元に戻って今では普通に生活出来るけども、この状態まで回復するのに一週間も掛かるのは正直に言って、使えないと言うよりかは使い所が難しすぎると言った方が正しいような気がする。
まぁ……条件というか、状態が重なっちゃったからああなったんだけどね。
そんな事をぼんやりと考えていると、真後ろからトレントのような妖怪が襲ってきたので、後ろ回し蹴りで魔法の森から出て行って貰う事にした。
「……はぁ」
何だか、酷く気分が乗らない。
感覚的に鬱という感じでは無いんだけれども、どうしてか身体が重く感じる。
いや、実際にはさっきみたいに身体が重いというのは無いんだけども、何というか動かしづらいというか……。
疲れていると言っても昨日は普通に全快した感じがしてたし、その昨日は別に疲れるような事をしたつもりはないし……全く以てわからん。
ようやく魔理沙の家に到着。
相も変わらず散らかった感じがする家である。
という訳で、普通に扉をノックする。
Knock、Knock。
「はいはい、ちょっと待ってくれー」
「……」
「お待ちどうさ……」
「やっほ。どうしたの? そんな驚天動地の顔をして」
「……いや、お前が普通に訪れたから……」
「酷いなぁ……ま、入れてよ」
「あ、ああ」
そうして入れてもらう。
中身も相変わらず散らかっている。驚くべきとこは前回とは全く持って違う物で散らかっている事で、前回と同じ物が一つも落ちていない事である。魔理沙、恐るべし。
「……で、何の用なんだ?」
「ん、お茶どうも。前に作ってもらったスペルカードの報告」
「へぇ! 使ったのか! どうだった?」
「使った途端に気絶したから分かんない」
「お、おお?」
「……って言う設定」
「……おい」
「『嘘』だよ。『嘘』」
『嘘』って事が嘘。何つってね。
「まぁ、使った直後どうなったのか分からないってのは本当。使った後は疲労困憊で死にかけだったって」
「へぇ……しっかし、そこまでの死闘だったのか?」
「……」
魔理沙と戦った後のチルノがあれほどの実力を持ったと聞いたら、この魔理沙はどう思うんだろうね。
「まぁ、ね」
「ふぅん? ……で、調整する為に来たのか?」
「うん。それもある」
「オッケー」
袂からそのカードを取り出す。
結局チルノの前で符名を言わなかったから、どちらにしても反則だったなぁとか思いつつ、カードの絵柄を眺める。
描かれているのは、紅葉した山の絵と、何処かの橋の絵が半分ずつ。
……ふぅん。なるほどね。
「と、なるとどう改良するんだ? 気絶しないようにって言われても条件と状態が分からないんじゃどうしようもないぜ?」
「何とかして対策したいんだけどねぇ……」
「ん〜……一体何処を削るべきやら……」
「……」
術の発動中は下からでは見ている限りでは、真っ黒な竜巻が球体になって強く吹雪いているだけで内側の様子は分からなかったそうだ。
このスペルカードを使い終わった後の様子も、チルノや落下した私を下敷きになりつつも助けてくれたネリアが話してくれた。
全身から薄く神力を発し、全身切り傷だらけで何処も彼処も血塗れ状態。更に右手もない。
まぁ、それらを治してくれたのが紅魔館の皆なのだけれど……それは酷い状態だったと皆が口を揃えて言うものだから、本当に酷かったのだろう。
「……ぉい」
「……」
「おーい?」
「んぁっ!? 何!?」
「……お前、本当に大丈夫か? 凄い体調悪そうだぜ?」
「いや、そんな筈はないんだけど……」
体調悪くするような事をした覚えはないし、やる気もないんだけど……。
……思考が何だか飛び飛びだな。いかん。能力も上手く働いてないし。
「まぁ、気分がちょっと塞いでるのは確かかな」
「……珍しい事もあるもんだな。いつも飛び跳ねまわってそうなのに」
「……それ、文に言ったら『とんでもない』とか言いそうだなぁ」
「? 何で文が出てくるんだ?」
「文が一番私を知ってるだろうから」
一番知り合ってからの期間が長いのは天魔だけど、一緒に過ごした期間が一番長いのは文だからね。
……問題は、どうしていきなり文が出てきたのかだけど……まぁ、いっか。
「あ〜……駄目だ。自覚したら一気に鬱に入った……」
「鬱? いつもは正反対なのに?」
「……私だって憂鬱な時があるわよ」
「こりゃ本当に躁鬱病だな。医者にでも行ったらどうだ? 永琳のとことか」
「……あ〜、そういえば逢いに行ってなかったな〜……」
すっかり忘れてた。いかんいかん。
折角スキマで永琳達が幻想郷に来ているのを知ったのに、今に至るまで忘れてるなんて……依頼人を忘れるとは何たる失態。
椅子の背もたれに深く腰掛け、首を曲げて上を見る。
天井は……特に何もない。なかった。つまらぬ。
「……永琳と知り合いなのか?」
「ん。元は輝夜を護衛してたんだけどね」
「って事は、かぐや姫伝説を実際に体験した妖怪なのか?」
「うん……まぁ、あの事件を一緒に見聞きした妖怪はもう居ないけどね」
全員相討ちになって、死んじゃったからね。
人間は兎も角として、妖怪も皆月の奴等にやられちゃったし、月の奴等も私の全力の緋色玉で吹っ飛んじゃったし。
「前から思ってたんだが……実はお前、何気に凄い奴なんじゃないか?」
「そうでもないよ……? 一昨日には初めて逢った橙に『誰なんですか? この妖力のない妖怪は』なんて言われたしね」
「……お前、それが原因で凹んでいるんじゃないよな?」
「まさか。大体一昨日の出来事だし、そこまで引きずらないよ。それに言われるのは慣れてるし」
実際に魔理沙に似たような事を言われたしね。今更魔理沙にそれを指摘されなくても、ちゃんと自覚してる。
「……まぁ、そうだよな。さっきの話から考えるに千年以上は生きてるのに、妖力は明らかに……おっと」
「少ないって言いたいんでしょ。どうも体質的に多く持てないみたい……って、調べたの魔理沙でしょ」
「そうだった、すまんすまん」
「……やれやれ」
少ないならば技術やなんとかしてその欠点を他の何かで補えば良い。
実際に私は基本的に能力を使って、あんまり妖力を使わず抑えて生きてきたしね。私なりの処世術って奴だね。
まぁ、既にこの妖力の少なさを嘆いても仕方無い。別に不自由は感じてないしね。
……そりゃあ紫や幽香と逢った時に多少劣等感は感じる事もあるっちゃあるけど……それも慣れた。慣れたらいけない気もするけど時既に遅し。
「……で、スペカの事なんだけどさ?」
「あ、ああ。なんだ?」
「やっぱ、調整はいいよ。このままで使ってく」
「……は?」
▼▼▼▼▼▼
「……料理、出来たんだな」
「そりゃ長く生きてれば出来るよ。寧ろ出来ない方がおかしいのよ」
紫とか、紫とか、紫とか。
「はい。あった食材で作ったから、そんな新鮮味はないと思うけど……」
「いやいや。誰かの料理なんて霊夢以外では結構久し振りなんだぜ」
「ふぅん……」
「……料理作っても欝とか、暗いのは変わらないんだな」
「そんな簡単に元に戻らないよ……無理矢理にでもしない限り」
一宿一飯の恩義という感じで、今日の夕飯を作り終わった。
あった食材はやはりと言うか何と言うか、キノコ類がやっぱり多かった。まぁ、別に良いんだけどさ。
結局スペルカードの調整云々は、魔理沙が渋ったけれども御蔵入りという形で落ち着いた。
ヒトから頼まれて作る初めてのスペルカードという事で、かなり力を込めて作りたかったらしいけど……そこら辺は私には分からんね。
……まぁ、頼んどいてこんな事を言うのはあれだけど、私的にはこれで満足したのである。
……鬱状態での判断だから、平常時に戻った時に『調整してもらえば良かった……』なんて後悔するかも知れないけどね。
しかし一度自分で決めた事である。
ほらファルロスも言ってるでしょう。『自分の決めた事に責任を取ってもらうよ』だとか何とか。
「……うん、うまい」
「そりゃ良かった」
……正直言うと、キノコは苦手なんだけどね。柔らかすぎるあの食感がそれほど好きじゃない。
人間時代からだけど……好き嫌いというのは出来れば無くしたいものである。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
食事が終わり、台所へと食器を持っていく。
魔理沙よりも身長の低い私は、台がないと料理が出来なかった。つまりはそれだけ台所が高いという事である。誰かまともな建築家呼んで来いチクショウ。
……あぁ、どうもネガティブな思考に染まっていくなぁ……。
「流石に洗うのは私がやるぜ。そこまでされたら私の面目が丸潰れだしな」
「……そう。なら……お願いっていうのも何かおかしいと思うけど、お願い」
「おう。任されたぜ」
そう言って、魔理沙は調理台へ。私は居間へと戻る。
ちなみにテーブルの上は食事の為に片付けられました。実に綺麗である。うむ。
「……ふぅ……」
何だか溜め息が多いような気がする。これでは一昨日に彩目に言った事がそのまま返って来ているみたいだ。
幸せが逃げるから溜め息を吐くのか、溜め息を吐くから幸せが逃げるのか。
……まぁ、いつもの事である。つまり、『どうでもいい』だ。
天井を見上げ、やはり室内とは打って変わって綺麗な木の板を見て、何だか自分を見下されているように感じて、でもってそれも仕方無いかななんて考えている自分も居て、それを客観的に見ている自分も居て、どれが本当の自分なのだろうかとか格好良い事を考えている自分も居て、それを嘲笑うかのように厨ニ乙みたいに冷めた自分も居る。
でも、そのどれもが多分、心の底にある本心はおんなじなのだろう。
『ああ、馬鹿らしい』と。
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「……んん……ん?」
どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
身体を起こして周囲を見渡してみれば、食卓として使われていたテーブルに魔理沙が突っ伏して寝ている。
壁に掛かっている時計を見れば、もうすぐ日の出という所。
どうやら椅子に座って寝ていた私をソファに移動してくれたのだろう。わざわざ毛布まで掛けてくれて。
ふかふかのソファに横たわり、頭を動かして魔理沙を見る。
……私が眠った後にも実験をしていたのだろう。ほっぺには見覚えのない煤が付いている。
私が無駄に考え込んでいる間に、彼女は少しづつ進んでいるのだろう。地道に、こつこつと。
努力家だなぁ、と考えると、何だか余計に自分が小さく感じる。
「……情けないなぁ……はぁ……」
そう呟いた瞬間、いつぞやの言葉が脳裏をよぎる。
『妖怪様なんだから、シャキッとしやがれ』
……そういえば、今頃『彼』は何をしているだろうか。
守矢神社がこっちに来てそろそろ一年。正確には二〇〇八年の六月後半。
二年生になって、進学の為に忙しく動き回っているのだろうか。
……『彼』も頑張ってるんだし、私も頑張らないとね。
「……ふふっ、しゃきっとしないと」
いつまでもウジウジしているなんて私らしくないや。
うし。
さて、と! そこで寝ている魔理沙の為にも、なんか滋養の有りそうな朝食でも作りますか!