風雲の如く   作:楠乃

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再会

 

 

 はてさて、八雲や幽香に言われて無謀な断食の旅(?)を止めて、適度に妖力を養い、適度に神力を溜めていく生活。

 バランスが大事なのはいつの時代でも同じって事だね、うん。

 

 

 

 そして今回のお話。

 変な断食を止めてから五年程、月日が流れた。

 

 妖怪が揃いに揃って、とある場所を集団で襲うらしい、との事。

 どうやら相手側に対する不満感が妖怪内で爆発したようで、血気盛んな連中がわらわらと集まっている。

 私? 私は今回辞退する。

 中立妖怪なんて来たらフルボッコにされちゃうしね。もしかしたら不満がこっちに来るかもしれないからパス。

 という訳で、上空にていつものステルス迷彩で観察中です。

 

 しかしまぁ……血気盛ん過ぎる。

 …仲間内でケンカ始まってるし……あ、でもすぐに終わっちゃった。

 ……目的達成の為に今は引いてやるよ…って感じかな? どんだけ相手嫌われてんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 集団が動き始めた。

 先頭に居るのはさして強くも無さそうな中型の妖怪。リーダーにしては、周りの奴等の方が強そうだ。

 私も行進(?)に合わしながら、上空からの覗きを継続する。

 

 何となくと観察しているのもつまらないので、集団にちょいと近付いて、会話を盗聴する事にする。

 

「んでよ! アイツらでもこれだけいりゃあ無理だろうよ!」

「ガハハハ!! あの二人も尻尾巻いて逃げ出すんじゃねぇか!?」

 

 相手は二人か。

 ……二人を相手にこれだけ必要って…。

 

「神だかなんだか知らねぇけどよ! ブッ飛ばしてやろうぜ!!」

 

 神様か、相手は。

 成る程ね。それでこの集団な訳か。

 神妖大戦争ですか?

 

「…おらぁ、ミシャクジやオンバシラが怖ぇよ……大丈夫かなぁ?」

 

 ……ミシャクジ? オンバシラ?

 

「ハッハッハ!! そんなもん、俺が踏み砕いてやるよ!!」

「おうッ!! あのガキンチョを踏み潰してまえ!! ガハハ!」

 

 ……。

 二人。神様。ミシャクジ。オンバシラ……幼児?

 

 それって……完璧に守矢の神社が標的になってるじゃん!?

 

 ……どうする…? ……知らせるか?

 こんな大集団。気付かない方がおかしいと思うけど…妖力で丸わかりだし…。

 …けどこれだけ集まられたら、彼女逹に勝機はあるかな…?

 多分こっちも対策か何かしてるだろうし…。

 でも…諏訪子にはあれだけあった後で逢いにくい……。

 ああー! もう!! …ええい! 南無三!!

 

 急いで伝えよ!

 知ってたら知ってたで、私にも何か出来る筈!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッあった!!」

 

 いまいち守矢の場所を覚えていなかったので、集団を先回りする事で神社を見付けた。

 暴風と化して大空を駈けていく。

 

 

 

 とりあえず、彼女らのテリトリー外から中の様子を観察。

 特段慌ててる様子もない……やっぱ知らないのか!?

 

 

 

 神社に近付く。完全に境界の内部に入った。

 と、神奈子が私という妖怪の存在に気付いたのか、縁側に出てきてこちらを睨み付けている。

 

 

 

 鎌鼬のままじゃあ都合が悪い。詩菜の身体に変化する。

 

 

 

「神奈子ッ!!」

「うおっ!? 詩菜じゃないかい! どうしたんだ!?」

「今から妖怪の集団が襲ってくる!!」

「……落ち着きな。頭は…なんか強くも無さそうな中型の奴かい?」

「うん! ……ん? なんで知ってるの?」

「なんだ、奴等か? 大丈夫だよ。アイツらは中に入ろうとすらしないからね」

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 フリーズ中。

 

 

 

「目的は分からないけど、ああやって集団で此方に向かっては途中でいつも内部分裂して消滅していくのさ」

 

 ……なんじゃそら。

 

「……マジ? じゃあなに? 私の完璧な骨折り損…って訳?」

「…まぁ……そういう事になるね」

 

 チクショー……。

 何の為に…私はここまでやって来たというのだ……。

 

「そ、そんな落ち込まなくても……」

「かなこぉ~…酒を……酒を持ってこーい!!」

「やけ酒!? と、とりあえず中に入りな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久し振りの再会という物は、どんな時、どんなヒトでも緊張するもんだ。

 神奈子は、私が必死になって勘違いを伝えようと頑張っていたのと、彼女自身が私に対して優しかった、という事もあった。

 所が諏訪子は、別れ際があまり気持ちの良い物では無かった。あれでは私も何となくギクシャクしてしまう。

 

 だから、打ち解けるような何か切っ掛けが欲しい。

 約束は守るけど、仲の良い状態を続けていきたかった。

 

 

 

 閑話休題。

 そんな事を願っちゃったりしていたけど。

 

「……」

「……」

「……」

「……誰か説明してよ…」

「…えーと、そこに座っているのが諏訪子」

「うん……で?」

 

 諏訪子は分かるよ? そりゃあ。

 私が言いたいのは……その諏訪子が抱えてる『子供』だ。

 

「……えー、諏訪子が抱いてるのが……娘」

「……」

「…私の娘だよ! 悪いか!!」

「アンタ何しちゃってんの!?」

「ちょっと気に入っちゃっんだもん!! 可愛くて毎日お参りに来てくれる娘なんだよ!? 可愛いのに手を出しちゃ悪いのか!!」

「しかも相手は女かい!? 神奈子! どうしたらこうなった!?」

「あー……神力で相手に自分の子供を身籠らせたのさ。ちゃんと事前に確認もとったそうだよ」

「当たり前じゃボケェ!!」

「おお…詩菜が常識を喋った……!」

 

 何なんだよ!? この世界は!?

 何でもありにしてもやりすぎだろ!!

 

 

 

 ……もう、いい。

 転生先が理不尽な世界ってのは良くある話……そう、よくある…ハハハ…。

 

「…ハァ、まぁ良いや……で? 結果、半人半神の子供だと? この子が?」

「そういう事だよ。ね! 可愛いでしょ~♪」

「……性格変わってない?」で

「…気のせい、だと言いたいな……」

 

 子供を産むと性格が変わる。っていうのはよく聴くけど……ここまで変わる物なの…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、久し振りの挨拶もなくギクシャクせずに何だかんだで普通に話せている事に安心している所に、いきなりの乱入者。

 

「諏訪子様! 今の大声は!? よ、妖怪!?」

 

 あ。妖力も隠してないし眼の色も変えてなかった。

 怒鳴るのに必死で忘れてたや。

 

「ほい。どう神奈子?」

「うん? 何が?」

「人間っぽい? 雰囲気変えてみたんだけど」

「…あ~……人間と変わらないように見えるよ? 多分」

 

 妖力を抑えて微妙に神力出して、眼の色を黒にしただけなんだけどね。

 

「よし……ええっと、旅をしながら妖怪退治をやっております『詩菜』と申します。ここの二柱には以前お世話になったのでこうしてご挨拶に参りました」

「よくもまぁそんな白々しい嘘を並べ立てれますね!!」

「あれ、バレちゃった」

「何してんだか……あー、こちらの言っている事は概ね正しいから大丈夫だよ」

「……本当ですか?」

 

 うーん、疑惑の目線。

 それからさっきから構えてる御札を抑えてくれないかな?

 いくら神力溜まってても、元は妖怪だからね?

 

「諏訪子からも何か言ってよ~?」

「…うーん、詩菜は妖怪だけど妖怪だからねぇ」

「……それ、助け船になってるの?」

「さぁ?」

「……」

「ま、まあ! こいつは大丈夫だから! ね?」

「…分かりました」

 

 構えた御札を懐にしまい、この部屋から出ていく。

 

 ……はて? 私がここに住んでいた時の人達の中に、あんな人は居なかったような?

 私がここに住んでいたのはたった五年程前なので、人々の入れ換わりはほとんど無いと思うんだけど……。

 

 それを隣で苦笑いしている神奈子に訊くと、

 

「ああ。彼女は最近入ったばっかりの新人さ……そこの神様のせいでね」

「……成る程」

 

 彼女が、まぁ…その、母親(?)な訳だ。

 

 ……それにしても、凄い力を持っている母親だ。

 注視しなくても霊力が見えてた。というか凄い怖かった。

 

「子を身籠ったせいか霊力が異常に高くなっちゃってね…」

「……神様の所為、か」

 

 確かに私に向けられていた敵意と、それと共に見えた霊力は物凄い量だった。

 もしかすると、今まで見た中で最大だったかも知れない。それほどまでに強大な力の持ち主。

 絶対に戦いたくない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、夕食にお呼ばれしたので、遠慮なく頂く。

 諏訪子と結んだ約束は『守矢の神社に二度と住まない』という物。

 食事ぐらいなら約束の許容範囲内、と認識をしている私と諏訪子。果たしてソレでいいのだろうか。良いんだろうなあ……。

 

 けれど、此処の神社の巫女や風祝からしてみれば、神力を少なからず持つとはいえ、妖怪の私は討つべき存在な訳だ。

 知り合いにはなれても、馴れ合うつもりはない。

 

 

 

 まぁ、その知り合いである風祝とは普通に話したりはするんだけど、

 

「そういえばキミの名前を訊いて無かったね。何て言うの?」

「……」

 

 ……こんな訳なんだな~…。

 何一つ喋ってくれない。寂しい。実に寂しい。

 

「…諏訪子か誰か、通訳ちょうだい」

「んあ~…詩菜は色々と規格外だからねぇ」

「どういう意味よ」

「ああ、妖怪らしくないっていう意味だよ」

「あ~……そっちね」

「……なんで、諏訪子様神奈子様はこんな妖怪を目の前にして、平然としていられるんですか?」

「こんな、って」

 

 顔を見合わせて、同時に首を傾げる二柱。

 …やっぱ妖怪らしくないかね?

 

「何でだろうね?」

「やっぱ妖怪らしくないからじゃない? 初めて逢った時も噂通りだったし」

「うぅ、噂は勘弁してよ……」

「……その噂とは?」

「『妖怪なのに妖怪を倒し、人間を助ける』」

「『と思えば妖怪の手助けをする』」

「好き勝手やっただけなのに……」

「好きで人間を助けてる。って事が妖怪らしく無いって言われるんだよ」

「……」

「そうそう」

「…好きに生きる事の何が悪いと言うんだぁ…」

「そういう所は妖怪っぽいのにねえ」

 

 ぼろくそ言われて卓袱台に頭を倒す私。

 八雲の『中立妖怪』とかがここまで届いてなくて良かったよ……。

 

 

 

「…ま、そういう訳だよ。こいつは気に入ったら攻撃しない」

「……まぁ、気に入ったらね?」

「後は狂ったりしなきゃね」

「いや、あの時も攻撃しなかったじゃん!?」

「あの人間は?」

「あ、あああれは例外!! ちょっと黒歴史だからほっといてよ!?」

「ええ~? どうしよっかな~?」

「お願いします!!」

「ほら、諏訪子。もう涙目になってるから許してやりなよ」

「仕方ないなぁ~?」

「くそぅ…」

「……」

 

 更に私の心身に多大なダメージちくしょう。

 あれは……無いわ。

 

 

 

 それを多少引きつつも、会話を聴いていた、未だに名前を訊けていない母親さん。

 

「……本当に危険は無さそうですね」

「…ようやく信頼してくれた?」

「信頼は出来ません。ただ『こんな妖怪』は訂正します」

「充分充分♪ それで、キミの名は?」

 

 そう訊くと苦笑いだけど、笑ってくれた。

 おお、やっぱ笑ってくれた方が可愛いよね。苦笑だけど。

 

「東風谷。東風谷(こちや) 紗英(さえ)と言います」

「んじゃ、私も改めて。詩菜と言います。以後良しなに」

 

 

 

 ……うん、大人数で食べる夕食は美味。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、夕食も終わり、某旅番組になぞらえて言うならば『お別れの時』という奴だ。

 

「さて、行くとするかね……」

「ん、また放浪の旅かい?」

「まぁね。いつも通りに助けたり襲ったりするよ……あ、そうだ」

「? どうしたの?」

 

 元はと言えば、私の勘違いで此処に来れた訳だ。

 あんな不快な別れをした後だと、どうも自分からは近付きにくい。

 勘違いだとはいえ、この早い内に間柄が戻った事は良い事である。

 結果としては、今回の事は良かったのだ。

 

 …でも、

 

「…私に恥ずかしい勘違いをさせた事を後悔させてやろうかとね♪」

 

 後悔さえさせる気も無いけどね?

 

 ……幽香の性格、移ったかな?

 

「……ああ、あの連中かい。良いんだよ? 別に無理しなくたって」

「私の気が済まないからダメ。んじゃ! 行ってくるよ」

「行ってらっしゃい」

「気を付けなよ~!」

 

 気まずい見送られ方なんて真っ平ゴメン。

 やっぱこんな感じが一番だよね。

 

 

 

 さぁて妖怪ども。私の速度に追い付いてこれるかな?

 

 

 


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