風雲の如く   作:楠乃

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After a melancholy festival

 

 

 

 私が起きたと何処かから聴いて、色々とお見舞いの客が来た。

 まぁ、一番始めに紫が来て、いきなり土下座されたのには驚いた。

 

 

 

 

 

 

 あの時、妹紅と輝夜の話が終わり、夜も更けてきた頃合い。

 私は私で、痛み止めの眠気に無駄に打ち勝ちつつ、つらつらと考え事をしていた。

 内容は無論、妹紅の事。

 彼女の事を考えて、昔の事を思い出して、過去の酷く嫌な記憶を引っ張り出して、自己嫌悪。それの繰り返し。

 全くもって、徹夜してまでやる事ではない。

 

 ……けれど、妹紅には逃げずに向かい合うと決めた。

 その為にも、考える。考え続ける。

 

 

 

 紫が来たのは、丁度そんな時だった。

 スキマの開く感覚。そちらへ眼を向けて、数秒経った後に空間に線が引かれ、スキマが開かれる。

 中からは当然、スキマを操る『八雲 紫』が。

 

 

 

 ゆっくりと部屋に降り立ち、そして地面へと降り立って、両手を腹の上で重ね、

 

「ごめんなさい」

 

 と、彼女は私に深々と頭を下げて、謝った。

 帽子から出ていた髪が彼女の顔を隠すほど、私が横になっていても顔が見えない程に低く、頭を下げている。

 

 

 

 まぁ……あの時。

 私を怒らせた、と言うと何だか嫌な響きになるけども、怒らせたのは紫達なのだから、彼女が謝るのは当然なのだろうけど。

 普通に謝って、っていうのが……何だか何処か、気に食わない。

 

「……いいよ。別に」

「……」

 

 私はあの時、能力を使って『わざと』大激怒した。

 言うなれば能力によるモノだ。私の正真正銘の怒りじゃあない。

 だから別に怒ってはいない。例え紫自身が私と紫の繋がりを馬鹿にしたとしても、私は本気では怒らない。

 

 ……というか、怒れない。なのかもね。

 

 まぁ、だから紫に対して、あの話は別に気にしていない……というのが私の答えの筈なんだけれども……。

 

 

 

「……」

 

 ……どうも、私は何かが気に入らないらしい。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 重苦しい沈黙。

 文とか彩目、天魔とかならこの空間も気分良く過ごせるんだろうけど……今は相手と状況が悪すぎた。

 

 夜明けはまだまだだろう。まだ時間はある筈だ。

 

「どうしてああなったのか……説明してくれる?」

「……ええ、分かったわ」

 

 このままではどうしようもない。

 けれども突破口が無い。そんな雰囲気で喋れなかった紫に……まぁ、助け舟を出すつもりじゃないけど、そう訊いてみた。

 ……聞きたかった事だしね。

 

 そう言って、ようやく彼女はずっと下げていた頭を上げて、説明を始めた。

 椅子があるのに座らない所や、いつもの扇子や傘が何処にも無く、手ぶら状態という所が本気で謝ってるんだろうなぁ、と思った。他人事のように。

 酷いなぁ、私は……。

 

「……始めは、そう、魔理沙と霊夢と私で、話していたの」

 

 

 

 彼女から聴いた内容を要約すると、

 

 私が魔理沙宅で彼女に見せた鬱状態を魔理沙が霊夢と紫に話した。

 二人はそれに興味を持ち、じゃあ私が話した通りに一番詳しいらしい文を呼んで、詩菜の事を色々と訊いてみよう。

 そういえば、詩菜っていつも笑ってるわね。

 逆に詩菜が見せない感情ってなんでしょうね。

 怒りじゃね?

 じゃあ怒らせてみましょう。

 

 

 

 ……と、いう事らしい。

 

 全くもって、馬鹿らしい話である。

 見た事がないから見てみようって……アンタ達は子供かっての。

 ましてや妖怪の大賢者ともあろう妖怪が、そんな事で自分の式神を怒らす。

 馬鹿馬鹿しい。ああ馬鹿馬鹿しい。

 

 

 

 ……けれども、

 彼女達の『ノリ』に私が乗ってしまったのも確かな事だ。

 

 紫と霊夢が私を怒らそうとしている事に気付いた時点で、怒りは引いていたのだし、そのまま私はいつも通りにへらへらと捻くれてその場を去ってしまえば良かったのだ。

 ……そうすれば、私も紫も、互いに傷付いたりしなかったのに。

 

 

 

「……何点か。私の勝手な意見を言わせてもらうよ」

「……ええ」

「私は衝撃を使ってブチ切れた。だからあれは……あの件に関してはもう怒ってない。だから霊夢や紫に大怪我をさせた事は謝る。ごめん」

「そんなっ! 私が寧ろ謝ら」

「それから」

 

 無理矢理にでも、紫の言葉を遮る。

 能力を使って、衝撃を発し、私の意見を無理矢理通す。

 

「私と紫は友人、それを守りつつ式神の契約を結んだ筈だよ」

「っ」

 

 そう言って、私は寝返りを打つ。無論、紫とは反対側へ身体を動かす。

 痛みなんて、この際無視だ。こんなのは今どうでもいい。

 

 ……そういえば、あの時も鬼が関連していたっけな。

 

 萃香と勇儀が人間に殺されそうになってて……ハハ、そういえばあの時も鬱の時だっけ。

 

 全く、因縁ってのは何処までも絡み付いてくる。

 

 

 

 式神の能力発動。人間と妖怪の精神の境界を弄り、妖怪側へと引き込む。

 色々と、色々な事を考えすぎて、心の臓が辛い。

 

 ……何でだろうね。現代になって強い力を持った人間と色々触れ合ったからかしらね。精神が引っ張られてるのは。

 紫も、どうせこの能力使用に気付いてるだろうし。

 

 

 

「友人なら喧嘩もするだろうよ……まぁ、それが今回の大喧嘩ってだけ」

「……」

「さぁ、帰った帰った……私は今から色々と忙しいんだ」

「……そう」

 

 

 

 そう言って、またスキマを開いて出ていこうとする紫。

 仮にも私だって彼女の式神だ。それぐらいの気配とスキマが開かれる感覚は分かる。

 境界を越え、そして閉じられかけた時に、また声が聞こえる。

 

「……その大変な事柄、私に手伝える事はあるかしら?」

「無いよ……これは私の問題。友人の手を煩わす事でもない」

「そう」

 

 

 

「……あのお姫様も言っていた事だけれど、死なないで」

「……」

「友人で式神で、大喧嘩をするなら……怒らせた側が言うのもおかしいけど……貴女だって私の家族の一員よ。だから、死なないで」

「……それなら、手伝えないのは今回私を怒らせた事の罰だね。上は下の、個人の問題に手を出しちゃダメってものさ。親は親らしく子供の問題を見守っていて欲しいね」

「……ふふふ、そうね。甘んじてその罰、受けましょう。じゃあね。お大事に」

「うん、じゃ」

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 まぁ、その後色々と見舞い客が来て大変になった。

 自分でもどうしてこんな妖怪に集まるかねぇ、と思うぐらいである。

 白玉楼の主従、天狗一族というか山の妖怪達、霊夢に魔理沙、萃香にアリス、幽香に妖精達、紅魔館の面々。

 無論、霊夢と魔理沙と萃香には謝っておいた。まぁ、彼女等も紫と同じように謝り返してきたけどね。萃香は『私は関係ないよ、アンタを止めるように言われただけ』って言っていたけど。

 いやはや、よくよく考えてみたら幻想郷の強力なモノ共が見舞いに来ているのだ。

 ……私はそんな有名でもないのにねぇ……山は別だけど。

 

 あと萃香、幾ら再会を喜ぼうたって、病人どころか病院で酒はダメでしょ。

 鬼だからって、もうちょっと自重しようよ……まぁ、変わってないみたいで安心したけど。

 シリアスな会話の後に何もなかったかのように酒を飲む所とかな!!

 

 

 

 

 

 

 そしてまた日が落ち、夜が始まろうとしていた頃に、ようやく私の娘が来た。

 そう。彩目である。

 ……まぁ、慧音まで来るとは思わなかったけど。

 

 

 

「遅かったね。案外真っ先に来るかと思ったんだけど」

「……そうだな。すまん」

「まぁ、別にいいよ。それで怒るほどアレでもないし」

 

 つい最近怒ったし。怒ってないけど。怒ったし。

 

 

 

「……さて、何処から話してくれる? と言っても、大体は理解出来てるつもりだけど」

「……彩目」

「ああ、分かってるよ……初めから、全て話す」

「分かった。それなら……私もそれなりに覚悟決めないとね」

 

 そう言って、ベッドから身体を起こす。

 実を言うと今までの見舞い客の相手は全部寝たままでやっていた。

 なので入院してから身体を動かすのはこれが初めてである。

 

 ……約三週間、それが私が寝たきりのまま、動いていない期間だ。当然筋肉も凄い落ちているだろう。

 予想通り、起きるのがやたら辛い。すぐに息が切れる。汗が出始める。

 喧嘩をした時にゃあれだけ動けたってのに……。

 

「大丈夫か……?」

「んんん……長い事動いてない、からね。こればっ、っかりは仕方無い……っと」

 

 そう言うのも、息が切れているから辛い。

 まぁ、そこは何とか起き上がり、ベッドに座る形まで何とか動く。

 

「ふぅ……よし。さぁ準備オッケー。話を聴こうじゃないか」

「……ああ」

 

 

 

 

 

 

 まぁ……ほとんどが大体は予想出来ていた事だった。

 予期していなかったけども、彼女等の性格を考えればまぁ……妥当かといったような物ばかり。

 

「……なるほどね」

「……すまない」

 

 ったく、どいつもこいつも人の顔見ていきなり謝っちゃって。

 

「いいよ。私と妹紅を慮って行動したんでしょ? それならそれを責めるのはダメでしょ」

「……ほんっとうに、すまないッ……!」

 

 感情は、まぁ……やっぱりどうして教えてくれなかったっていう気持ちがない事はないけど。

 仕方無い。彼女達は、優しいのだから。何処までも、優しいのだから。

 

 

 

 そして、彼女達は帰っていった。

 何度も謝るものだから、これからは本人達の問題だからと彼女達を突き放す事を言ってしまった。

 本人達もそれは納得しているようなので、後は任せてと送り出した。

 

 ……ここでも『自殺のような事は決してするな』と言われるとは思わなかったけどさ。

 

 そんなに私は自殺するように見えるのかね……?

 いや……見えるから言われてるのか。

 いかんいかん。向きあうって決めてるのに。

 

 

 

 

 

 

「……結論、出さないとね」

 

 相も変わらず身体は動かないけど、スキマから道具を取り出す事は出来る。

 

 白と黒に塗られた石ころ。流石に取り出しはしないけど、スキマの中でホコリを被っているであろう木製の盤。

 

 ……思い出の品、ってね……。

 

「どうしたもんかなぁ……」

 

 

 


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