と、言う訳で(?)
本編を(ゲームという意味で)進ませず、閑話を挟む事にしました。
さて、何話で終わるかな……今回は文字数少ないけど、どこまで伸びるやら……。
「そうそう、お弟子さんとはどのような話を?」
「うん、やっぱり、出処はアンタか」
木々を蹴って跳んでいく私の横から、さも当然のように手帳を取り出して取材モードの射命丸文が、悠々と木々を避けながら飛んでいる。
何をしているのかと言うと、今日も今日とて失った右手の感覚を掴むための訓練である。具体的に言うと天狗の訓練に混ざりこんで行っている。
とは言え、やっている事は簡単だ。
妖怪の山の中を、ある一定のルートで通り抜ける。途中木に掛かっている板に自分の傷跡だと分かるような印をつけて、全108箇所のポイントに印をつけて、ゴールを目指す。
審判役は後で回収しなければならない、って言うのが面倒な所だけど、まぁ、そこは監督役の仕事だ。
一箇所でも印付け忘れがあれば減点、無論素早く終わらせなければならないので、順位が低ければ低いほど減点。
天狗のプライドをくすぐりつつ、彼らの能力アップをどうすれば上げることが出来るか、という難点を良く私はこうして克服したと思う。
……ま、監督役の看板回収だけは未だに批判が来るけどね。
そんな説明は置いといて、私はその天狗の修業に紛れ込んで自身の微調整をしているという訳だ。
木々の幹へと両手を突いて、自身が跳んでいく方向へと変換させながら木々をすり抜けていく。
まぁ、私の腕・技術が落ちているというのは自明の理だけど、まさかここまで落ちているとは思わなかった。
いやぁ、わりかし本気のスピードで樹海の隙間を抜けているんだけどね。文に余裕で抜かれそうな感じなんだよね。向こうは相変わらず手帳片手にメモしながらだしね。
それでいて看板に近付いて傷を付ける時になるとほぼ同時に傷が付くっていうね。
ん〜、早いところ感覚を戻さないとなぁ。いや、別にそこまで急ぐ必要もないんだけどね。
と、まぁ、そんな感じで文と連れ立ってコースがガンガン飛ばしている時に、『お弟子さんとはどのような話を?』という事を訊かれた。
因みにこの修業。十人での競争なのだが私達トップが早すぎて、コース開始直後から誰も見ていない。
「……妹紅から聞いたの?」
「ええ、まさか逆に私が取材されるとは思いませんでしたよ」
「ああ、そうかい……」
となると、妹紅は……永琳輝夜から彩目慧音、文とかそこら辺の私に詳しい人……って感じに調べて行ったのかな?
やれやれ……私と彼女の関係が色々と周囲にバレちゃったかなぁ、こりゃあ……。
ま……しょうがない事なんだろうけど。
「話に聴いていたお弟子さん。藤原妹紅さんだったんですねぇ」
「……まぁね。まさか生きてるとは思わなかったよ」
「そりゃあそうでしょう。話に聞いた時から死亡扱いしてましたし、今回の話を聞かなければ私も思い出しませんでしたよ」
「あぁ〜あ、そのまま思い出さなければ……いや、おんなじ事か」
「まぁ、何にせよ千年も経ってから再び出逢ってしまったのですし、これからどうするべきなのかを考えるべきでしょう。二時の方向に看板ありますよ」
「……そうだね。ありがと」
「果たしてその感謝の言葉はどちらの意味なんでしょうね」
「それは言わないお約束」
「あややや、なるほど」
だからその『あややや』は本当に口癖なのかと問い詰めたい以下略。
言われた方向を見てみれば、木々の隙間から看板がチラリと見えた。私も話し掛けられていなければ発見出来たとは思うが、先に文に見付けられたとなると少しばかり悔しく思う。
まぁ、だからと言って何か行動する訳でもないんだけど。
▼▼▼▼▼▼
そんなこんなで特訓終了。
順番に関しては最後の最後で何とか文を抜く事が出来、順位としては私が一位、文が二位、三位以下との差が一五分ほどあった。ちなみに私と文のタイムは五十六分三十四秒ほどだった。
看板に関してもすべて見つけるのが基本・当然だったので見落としもなかった。三位以下は知らないけどね。
修行に混ぜてくれた天狗たちに礼を言って、自宅へ帰る事にした。
そして私について来る文。どうやら今日も夕食を食べていくらしい。まぁ、別に良いけど。
それにしても、
「本気出せば簡単に私を抜かして一位を取れただろうに……」
「ん〜、幻想郷一の速さを持つ私が本気を出してしまってもねぇ?」
「……とうとうその台詞に『それは違うよ!』って言える立場でもなくなったかぁ……残念」
「そんなしょげる事?」
どう考えても、どう振り返っても今日の特訓で文は私をいつでも抜く事が出来たはずだ。
逆に、抜かないように手加減された事が少しばかり……いや、少しばかりじゃないか。かなり悔しい。
そんなどうでもいい事を話しながら文と二人で自宅へと帰ってきた。
どうやら彩目は……居ないらしい。
……まぁ、書き置きはないけど、慧音か妹紅の所かな。
「何か食べたいものある?」
「何でも良いわよ」
「んじゃ蕎麦」
「ほう……ん? 幻想郷の蕎麦?」
「時期じゃないじゃん。あれって確か夏秋ごろでしょ? 初夏にすらなってない今の季節、蕎麦を用意出来るのはスキマ経由のコンビニお蕎麦だけです」
「うぇ……美味しいところの『こんびに』とやらのお蕎麦をお願いします」
「○ブ○○○○○が良いともっぱらの噂」
「危ないので伏せておきました」
「流石お早いお仕事」
「天狗ですから」
「折りたい」
「何をです!?」
「鼻」
「恐っ!?」
「はい、出来たよー」
「……恐ろしいのはここまでの技術を持った外の世界だと思うのよね」
「(河童の技術があれば、即席飯とかを幻想郷でも再現出来ると思うんだけどなぁ……)」
とか、どうでもいい会話をしながらお蕎麦を食べる。
時期じゃないし、今日もそれほど暑いという訳でもない。何故食べたくなったのかは私にも謎である。
まぁ、何処かのプラスチックのお弁当を開けて、つゆとかネギとかノリとかを出して、それらを開封して麺の上へと流し込んでいく。
文の方は手間取っていたものの、私がどういう風にパックを開いているかを見ながらやっていった。
何故か私の方が遅く出来てしまったのがちょっとよくわかんないです。
いやまぁ、右手の力加減が上手く出来ないからだろうけど。割り箸を割るのも失敗したし。くそう。爪で綺麗に整えてやる。無駄技術。
「うん、まぁまぁ」
「そう? うーん……」
まぁ、やっぱりと言うか何と言うか、彼女にとってはコンビニ飯というのは美味しくないという印象らしい。
ヒトによっては変わるという意見もあるだろうけど、まぁ、否定出来ないかな、と思わなくもない。
とは言え、久々に『ある物』を食べると『ある物』は途端に美味しく感じる。という理論はこういう時こそ脱帽して賛成したくなる。
うぬ、わさびが欲しくなる。という訳でスキマからチューブ式のわさびを持ってきた。
何と言うか……あれなんだろうね。
私は甘党とか辛党というか味音痴というか、極端な味が好きなんだろうね。
こう、わさびを異常なほど蕎麦のつゆに入れている私を見てドン引きしている文の視線を感じつつ、そう思った。
ま、いつものようにこういう所を治す気はないんだけどね。
夕食が終わり、彩目も帰ってこないみたいなのでいつもの様に晩酌が始まる。
ま、それほど強くもないお酒である。ほろ酔い気分で今日は寝よう。
そんな感じで、大体ダラダラと喋っていると急に、思い付いたかのように文が話し始めた。
「あー……ああ! そうそう、思い出した」
「なにがー?」
「妹紅さんの事で思い出した事があるのよ」
「……まーだその話蒸し返すの─? もうやめてよねー、そういうのさー……」
「いえ、彼女には関係ないの。ほら、昔したじゃない。何だっけ……お、お、おすろ?」
「んー……オセロの事?」
「そうそれ。あの時スキマの中だったけど、何でそのスキマの中に居たか思い出せる?」
「え? あー……」
えーっと、あの時は……いかん、酔いのせいか上手く思い出せないぞ。
んーと、文と旅をしている時でしょ? って事はジャスト千年前、いや、プラス一〇年位前の話かな?
で、えー……妖怪寺の事があって、紫と逢って、幽々子……じゃない、その前だ。
そう……誰かに襲われて、スキマに避難したんだった。ん、んー? スキマに逃げ込むほど強い敵……?
「あー……ダメだ。思い出せない」
「……珍しいわね。そんなに酔ったの?」
「分かんない。何か思い出せないや」
「あっそ。んじゃ私から言うけど」
「『アルシエル』、って言ったら思い出す?」
右手が、ピクリと動いた。
ハハハハハ、こういう所まで素直になっちゃってるから、この再生したての右手は困ったもんだ。
「……で?」
「『で?』とは?」
「おや珍しい。文の方から誘導していくとは」
「たまには下克上というモノを試してみようと思いまして」
「そういうのは昼の修行の時にでもしてなさい」
「あややや」
「で?」
「今回の騒動で、様々な種族・実力のある一派が動いたのですよ。情報もすぐに広まりました」
「『彼女』が逢いたいそうですよ? 逢ってみません?」