妹紅と逢ってから、私は一部の人と微妙な関係になっている。
それは当の本人の妹紅は当然の事、私達の関係性を知っていて黙っていた二人もそうなってしまった。
私の娘である彩目と、人里を守護する半獣である上白沢慧音。
逢った所でどんな顔をして話せばいいのか分からない。と言った表情をしてくるこの二人。
……私としちゃあ、そんな重く受け止めなくていいのに、と思うのだけれど……まぁ、私が軽すぎるか、はたまた重すぎる受け止め方をしているだけなのだろう。
閑話休題。
そういう訳で、個人的にはあまり行きたくなくなった場所である人里の、慧音が教えている寺子屋に来ている。
文と二人、あの闇を操るとか言う、厨二病故にかなり強かった原始の妖怪。
……とは言え、彼女『アルシエル』に逢いに来た筈なのに寺子屋に来ているといった時点で、大体私の勘や考えは答えを出してしまっている訳で。
もう、慧音に説明をする前、顔を合わせる前から既にどんな顔をすればいいのか微妙な表情をしてしまっている私は悪くない筈だ。
複雑な顔をしている私を置いて、文は寺子屋の扉をドンドンと叩いてしまっている。
「すみませーん、慧音さーん!」
「……今授業中じゃないの?」
「授業中だから居る事が確定しているんじゃないですか」
「ああ、そう……」
わたしゃ既に何か疲れてきたよ……。
そう愚痴ってやろうかと思った所で、寺子屋の扉が開いた。
中から出てきた慧音は、怒り心頭に発する。といった表情だったが私の顔を見ると急激にその色を変えた。
「新聞は購読しないと何度も………………詩、菜?」
「やほ」
「ああ慧音さん。今日は新聞は関係ないのですよ。とあるヒトと詩菜さんを逢わせてあげたいのです」
「とある、ヒト……?」
「ええ。ここなら居るだろうと思いまして」
慧音の顔に、どんどん暗い表情が強く出て行く。
……まぁ、どうせわざとやっているようなので、こちらから訂正するように動かねばなるまいだろう。
というかね。そもそも私ってこういうツッコミタイプじゃなかったと思うんだけどなぁ……?
「妹紅に逢いに来たんじゃないよ」
「………………へ?」
「文、言葉をわざと選んでいるでしょ?」
「おや、何の事ですか?」
「言って欲しいの? 『とあるヒト』は彼女の名前を言えば良いでしょ。名前が変わったっぽいけど、その辺りを私に教えてない辺りが用意周到だし、『ここなら居るだろうと思いまして』じゃなくて、『この時間帯なら、ここに居るだろうと思いまして』じゃない?」
「大正解です」
「第五脊椎に
「いだぁ!?」
つい背中に掌打して、能力を使って腰の骨をギシギシ鳴らした私は悪くない筈だ。多分。
……うん、そうだなぁ……右手の使い方にも慣れてきたなぁ、と違う意味で現実逃避をする事にしよう。
「……何をしているんだ? お前たちは……」
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その後、ようやく意識を取り戻した慧音に追い払われ、授業が終わるまで寺子屋のそばにある広場で待つ事にした。
現代で言う、小学校のグラウンドかな? ぶらんこに腰掛ける文と私。
まだ文はまだ大人の雰囲気がまだ若干あるとは言え、(こう言うと怒られるがこう言わねば気が済まない)、私に至っては容姿がまさにこの寺子屋に通うべき年齢なため(あまり言いたくはないが)、通り過ぎの大人たちが何だろうという眼で見てくる。
授業放棄した子供と、その姉……とか?
……やめろ、そんな眼で私を見るな。
と、そんな思いで死んだ眼で見返していると、どうやら隣の烏天狗にその様子がバレたらしく、先程からニヤニヤと笑っている。
もう一度脇腹から骨に
そう思った所で寺子屋の授業が終わったのか、一斉に子供達が部屋から飛び出して来た。
「……で、あの子供達の中に『彼女』が居る、と?」
「私も久々に会った時は心底驚きましたよ」
「はいはい、もう予想出来てるから
そう言っても文は『ふふん』と笑ったまま、何も言わずに誰かを探している。
まぁ、私も探すべきなのかもしれないけど、生憎アルシエルの姿が変わってしまえばもう探しようがない。どんな特徴を引き継いでいるのかも知らないのだから。
ヒト探しは文に任せて、私はユラユラぶらんこに揺られていましょう。
………………ん、どうした散切り頭の坊主。何? ぶらんこに乗りたい?
今私が乗ってるでしょ。君の眼は節穴なのかい?
隣の文から譲ってもらいなさい。私は私が飽きるまで誰に何と言われようが君にぶらんこを譲る気はないよ?
「……大人気ないですよ、詩菜さん」
「文とは違って見た目はまだ大人じゃないもーん」
「酷い反論ですね……当たってる辺りが特に」
「どうせみんな子供さ。だから子供は嫌いだ」
「寺子屋で一番言っちゃいけないセリフですよね、それ。そして極論すぎる……」
そんな会話を泣いて逃げていく坊主を見ながらした。文も文でぶらんこの席を譲らないから、結局はどっこいどっこいだと思わなくもない。
そしていつの間にかぶらんこの周囲数メートルだけ、子供が一切寄りつかない異常な状態になった。まぁ、どうでもいいけど。
そうなってから数分経った後に、数名の女の子寺が子屋から出て来た。
それを見て、私は、何と言うべきか……それで良いのか君達は? と思った。
「あれ、詩菜じゃん。退院したんだ」
「やぁチルノ。永遠亭の技術は凄いね。恐ろしいよ」
チルノに大妖精、ネリアの妖精三人。
それに見知らぬ女の子の妖怪が三人。一緒のグループとして動いている。
一人は黄色の髪で頭に赤いリボンをつけている。可愛らしい白黒の服とロングスカートを履いている。
一人は緑色の髪で触角らしきモノが伸びている。よく見るとマントを付けているようだ。珍しい。
そして最後の一人は、羽根の飾りが付いた帽子に、似たような羽根を実際に背中から生やしている、如何にもといった感じの子供姿の妖怪。
私にチルノが話し掛けたのを見て、緑髮の子は何故か私達二人を怖がっている。
金髪の子はそれほど驚いていない。というか何も考えていないように笑っている。
帽子を被った妖怪の子供も、何故か尻込みしているような表情をしている。
一体何に怯えてるんだろう? ……まぁ、どうでもいいけど。
私にチルノが話しかけたのを見て、
「え、えーっと……だれ?」
「射命丸さんの知り合いですか?」
緑髪の子がそう尋ねてきた。
羽根を生やした子の羽根をしっかと掴んでいて、後ろに隠れているのはある意味微笑ましいように見えるけど、実際に捕まえられているその子は痛そうな顔をしながら文に話し掛けた。何やら苦労人の匂いがする。どうでもいいけど。
「ちょっとした取材ですよ。
詩菜さん、こちらが『
こちらが『
そして彼女が『
「やぁやぁよろしく。最近幻想郷に引っ越してきた『
「あ、ああ、どう、も、よろしく……?」
「最近って、アンタもうすぐ一年ぐらい経つでしょ」
「まぁまぁチルノ。そういうのは言いっこな、し、だ……よ?」
「何よその、疑問系なのが疑問形みたいな言い方」
それぞれ自己紹介……いや、自己紹介じゃないか。文からの紹介を受けてそれぞれの顔を覚えていく。
金髪の子がルーミア。緑色の髪の子がリグル、帽子の子がミスティアね。
ふむ……まぁ、後々逢う事になりそうな予感。
「ちょっとした取材って何なの?」
「ええ、詩菜さんをとあるヒトに紹介するのが今日のお仕事でしたね」
「……って事は、実際に誰かを取材しに来たんじゃないの?」
「そうなりますね」
「良かったー……」
リグルの言い方からすると前回の取材で嫌な思い出もしたのだろうか。
まぁ、私は文の取材というのを受けた事がないので、正直何も言えない。
日頃から見てるお仕事モードの喋り方とか、彼女の性格とかを考えればまぁ、分からなくもないけど。
「それで? その仕事は終わったの?」
「ええ、もう終わりましたよ」
「ふぅん、それじゃあどうして
「それはですね、詩菜さんに因縁のある方と、ここの教師をしている方が詩菜さんの複雑な知り合いという、非常に複雑な関係がここにありましてですね」
「左第十一肋骨にダイレクトアタック!!」
「みぎゃぁ!?」
「ああ、ごめん。今の普通に腹横筋を殴っただけだった」
「あ、謝るとこ、そこじゃない……うぐぐ……!」
ぶらんこに座っていれば攻撃が届くまいと思っていたか。それが大間違いだ。
物理的な威力を持った鋭い空気砲なんて大昔に修得済みである。
「し、詩菜さん!?」
「う、うわぁ……」
「おー、痛そう」
「ア、アハハハハ……」
「射命丸さん!?」
初めの二人が今日初めて逢った二人の反応。最後の三人の反応が昔からの知り合いである妖精三人の反応。
実に分かりやすい反応の差である。
「し、詩菜さん! こ、この人はあの烏天狗の射命丸さんですよ!? 分かってやってます!?」
「分かってるよー?」
「そっ、それならよけいに何をやってるんですか!? 後で何をされるか、何を書かれるか分かったものじゃありませんよ!?」
慌てた様子でリグルは私にそう言ってくる。
私の事を思ってそう言ってくれているのだろうけれど、その声量だと文に丸聞こえだと思う。まぁ、私が防音結界を張っても良いんだけどね。流石に今知り合った相手にそこまでしてやる義理はないかなー、とか思った。
とはいえ、旅をしていた頃を思い返してみれば知り合った、直後の人間を躊躇なく助けたり、不意打ちで崖から突き落としてたりしてたなぁ……。
旅の神は旅人に試練や休息を与える神様なのである。故に善神でもあり悪神でもあるという解釈があってだな……。
ま、私妖怪だけどね。更に言うなら妖怪だけど人間は食べた事がないけどね。
「……詩菜さん? 聴いてます?」
「あ……ごめん。聞こえなかった。何だって?」
「『聞いてなかった』、の間違いでしょ」
チルノの正確なツッコミ! ネリアは乾いた笑い声を唇から漏らした!
そして
まぁ、音は完璧に聴き取れるけどそれを処理する頭が動いてなければ意味がない、ってだけなんだけどねー。
「ああ、うん……大体詩菜さんの性格は把握したわ……」
「えっ!? ミ、ミスチー、どういう事……?」
どうやらミスティアもといミスチーには、私の性格を把握されてしまったらしい。無念。
リグルはまだよく分かってないらしい。フハハ!! さぁ、更に混乱以下略。
「くっぅ……!」
そして文はいつになったら復帰するのだろう。
そう思って更に脇腹を(リグルが慌てる様子をバックグラウンドミュージックにしながら)突っついてみると、彼女はビクンビクンと跳ねる。
どうやら脇腹や背筋、というか私が直接攻撃した所がまとまって同時に攣っていたらしい。
そりゃあ会話どころか思考もまとまらない訳だ。
そういう事で、リグルは何とか窮地を脱したというお話。全然違うけど。
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ま、いつまで立っていても立ち話。何時まで経っても立ち話というのもおかしい話であって。
チルノ達六人は次の授業があるからと言って、寺子屋にまた戻って行った。
その割には、寺子屋に戻らない又は帰っていく子供が半数以上居るなぁ……と思って良く良く見てみれば、その子供達は皆人間だった。
教師になった慧音の姿が未だに見えない所も含めて考えると、妖怪と人間で教える事がそれぞれ違うのかな? とか邪推してみる。
んー、歴史を教えるにしたって、この人里の人間達はあまり興味なさげに見えるし、永い時を生きる妖怪に歴史を教えたって何の意味が、とか言われそうなものだけど……。
……まぁ、信念があって慧音も教えてるんだろうなぁ、とは思った。
「……気付きました?」
そしてその帰り道。
もうそろそろ日が落ちそうな時刻。妖怪の山へと続くあぜ道を文と二人のんびりと歩く。
「そりゃあれだけ笑いかけられたらね。イヤでも気付く」
「おや、彼女の第一印象は悪かったでしたか」
「いやぁ、悪いって訳でもないんだけどさぁ? 何て言うか、変わったけど変わってないって感じだったよ。気付いた瞬間に鳥肌がブワッ、て立ったしさ」
あの時の絶体絶命になった相手、『アルシエル』はもう居ない。という訳だ。
それにしても、あの触りたくもない頭のリボン。何処かで見た事がある術式だったなぁ……いや、実際に触って確かめた訳でもないから、確証はないけどさ。
いつぞや旅をしていた時に見た、雨除けに使った小屋に張ってあった妖怪祓いのお札を思い出したよ。
「……ま、あんな風に笑ってくるって事はその内会いに来るでしょ。恐ろしい事に」
「口調の様子からすると恐ろしいように感じているとは思えないけど?」
「お、ようやくお仕事終了? 堅苦しい口調お疲れ様でした」
「いやだから……ああ、もう良いわよ……」
いやホント、お疲れ様でした。
まぁ、私の勘が上手く働いているなら、今日にでも私の家に来そうな感じがするけどね。ルーミアは。
Q.更新が月一ぐらいのペースになっている理由は?
A.学生だけど、夏休みなんてなかった状態だから。
小説三つも抱えると急に書けなくなる。なんでじゃろ。
ああ、因みにリグルやミスチーとかが怯えてる理由は文花帖の記事から抜粋。
ルーミアとかその他は過去編で登場しちゃったのであまり見ていない(それもそれでどうなんだ)