- STAGE 1 -
『暑中見舞いはまだ早い』
どうしてこうなった。
私に付いて回る竜巻のせいで、辺りの雪が巻き上げられて実に寒い。そんな中。
幽々子と私は、向かい合っていた。
「異変を解決しようと思っているのでしょう? なら私を倒してからにしなさい♪」
「は、はぁ……?」
どうしてそうなるんだろう……。
別に異変を終わらそうだなんて……いや、まぁ、調べようとすると終わらせる事になるのかな……?
「そうだわ。確か色々と新ルールが決められているのよ」
「……はい?」
新ルール、弾幕ごっこの?
何その、完全な予定調和。
この、この日の為にとっておいたのさ! 的な雰囲気を感じる。
というか幽々子がフリーダムすぎる。
戦闘態勢を取ったかと思ったら、いきなり雰囲気が和らいで談笑ムードになってるし……。
ツッコミどころしか無い。どうしよう。
「そうねぇ、地上でも出来る『弾幕ごっこ』って知っているかしら?」
「え? あ、ああ……そんなのがあるの?」
「あるの♪」
初耳である。
私が知っているのは一般的なルールだけって事なのかな?
……けどまぁ、空を飛ばなくても良いって分かったとしても、弾幕ごっこには使えそうにない威力の弾幕しか撃てない私じゃあ、あんまり意味もないんじゃあ……。
「それがね? そのルールの時は格闘もありなのよ」
「……今、何と仰いましたか?」
「だから、格闘もオッケーなのよ」
「何ですと!?」
格闘・物理キタコレ!! これで勝つる!!
……とかまぁ、そんな冗談は置いといて。
「本当に?」
「あら? 信じられないの?」
「都合が良すぎるよ……色々と」
自惚れかもしれないけど、今更になってそんな話が聞けるのは、なんか都合が良すぎるような気がする。
別にこの異変……まぁ、幽々子が異変と言ったから異変と私も言うけど……、
この異変を調査しようとしたこの時に、そんな弾幕ごっこのルール変更、しかもルールの内容が私にうってつけの内容。
寧ろ、仕組んだと言われても納得出来る。言われた方が、かな?
この流れ、仕組まれたと言われた方が納得できちゃう。
「疑心暗鬼ねぇ。もっと楽しく行かないと楽しくないわよ?」
「幽々子は天真爛漫だねぇ。私は疑問に思った事は解決しないとダメなのさ」
「厄介な性格ね。それはそうと、どうするのかしら? 聴く?」
「……聴こうか」
まぁ、誰かが仕組んだとしても、ぶん殴ればいいよね!!
ルール通り、物理で殴ればいいんだよね!! そのルールの説明を今から聴くんだけどね!!
▼▼▼▼▼▼
幽々子から聴いた格闘を用いる『弾幕ごっこ』の、ルール変更部分を要約すると、
・空を常時飛ぶ事は出来ない。
・飛翔は出来るが回数制限と時間制限がある。移動距離と速度は関係ない。
・戦闘開始と共に、両者の身体に結界が張られ、それを破壊した方が勝利とする。
・一定の範囲の結界内で弾幕ごっこを行う事。
・両者共に結界の耐久力は同じにする。
・結界を破壊する場合、弾幕と格闘、定められた攻撃で破壊する事。
・自然災害や両者が意図せずに起きてしまった事故などでは、
相手、又は自身が守られている結界を破壊する事は出来ない。
・一回に使える力、妖力、霊力、魔力、神力は一定量までしか使えない。
・スペルカードは勿論使って良い。枚数は指定してもしなくても良い。
……という感じだそうである。
なるほど、これなら弾幕ごっこを好かなそうな鬼でも出来そうな弾幕ごっこである……ってそういえば、幻想郷に居るのはもう萃香だけなんだっけ。
他の鬼は地下に潜ったって聴いたけど、一体何をしてるんだろうかねぇ……。
っと、いけないいけない。本題からそれちゃった。
「……まぁ、大まかには分かったよ」
「因みに一度だけこの方法で、博麗の巫女は異変を解決したのよ?」
「へぇ、霊夢が。そりゃ凄い」
「その時の話が天狗の新聞に載っていたと思うけど」
「……へぇ」
文も文で何してるんだか。
まぁ、いいや。それなら後で帰ってから、その記事でも探そう。
文の家にでも行けば見付かるだろうし。その時に読みましょ。
「で、やるのかい?」
「勿論♪」
そう訊いて、返って来たのは戦いを了承する返事。
やれやれ……まさか幽々子とも戦う事になるとは。
まぁ、そんな溜め息を吐いていても仕方が無い。
やれやれのポーズ、なんて構えをしてみちゃいるけど、割とやる気なのはお互い様。
やるならやるで、しっかりと。
背中の帯に指していた扇子を抜き取り、幽々子に対して半身になってナイフを向けるように扇子を構える。
当たり前だけども、この扇子に殺傷能力はない。これは単なる私のポージングである。
これから戦闘を行うのだという、ちょっとした私への催眠術だ。
対する幽々子は、自然体のままで少しばかり浮いている。
彼女の周りには薄紫色の霊魂が浮いていて、それがやけに彼女に似合っている。
……ま、彼女は亡霊姫だからかな? 亡霊を操る亡霊ってね。二つ名にもなってるくらいだし。
両者が構えて辺りに結界が張られる。互いの距離は……10mくらい?
幽々子は相変わらず不敵な笑みを見せている。まぁ……そういう私も微妙に笑みを浮かべてるかな?
「私は今からこの気質を使って色々と回るのよ。邪魔しないで」
「いや、邪魔も何も、そっちから何か言ってきたんでしょうに」
……と、まぁ、なんだか酷い始まり方となってしまったけども。
戦闘開始。である。
「行くわよ!」
先手は幽々子。
……まぁ、正直に言えばこの弾幕ごっこで争うのは、本当に合っているのか果たして疑問なんだけど……。
ふよふよと浮いていた幽々子は、その宣言と同時に一気に私の元へとダッシュしてくる。
……が、正直に言って霊夢の方がまだ早い。もしかしたら紫よりも遅いんじゃない?
手元に紫色の蝶のような力を纏って、それを振るってくる。もう明らかに『隙よ。打ってきなさいよ』みたいな雰囲気が溢れ出ている。
どうしよう……罠に見え過ぎて迂闊に手出し出来ない……!!
まぁ、するけどな!!
「……うりゃ」
「あ……ら?」
とりあえず……幽々子を飛び越えて背後を取り、そのまま肘を幽々子に当てる。
衝撃を操り、彼女にはダメージを与えずに結界だけを粉砕する。
ルールに則ったら、これで終わりなんだけど……。
……というか、ねぇ?
ルールそのものに所々『抜け道』があるような気がしてならないんだよねぇ……。
「あらら、負けちゃったわね」
「……えー?」
「勝ったのに、勝利なのが不服なの?」
「いや、そこは不服じゃないんだけどさぁ……」
……それでいいのか亡霊姫。
そんなのでいいのか冥界の管理人。
「ルール上、これで私の負けでしょ?」
「いや、まぁ……そうなんでしょうけど……」
何だろう。勝ったのにこの虚しさ。あれー……?
ま、まぁ……今度からこの方法で戦う時は、今みたいに一撃必殺は使わないようにしよう……。
私としても納得出来ないし、今は幽々子だから許してもらえたようなもので、魔理沙や妖夢だったら絶対今の戦いには納得しないだろうしね……。
アレなんだろう、なにかすごく疲れてきたなぁ……。
▼▼▼▼▼▼
「……それで、どうするの?」
「今から博麗神社に行って、辺り一面銀世界にしてくるわ」
「そ、そう……頑張って?」
結局良く分かっていない内に戦闘が終了し、幽々子は空を飛んで何処かに行ってしまった。
あ、いや、博麗神社に行くんだっけ。
そんな感じで私一人、白玉楼に残された訳だけども……はてさて、どうしたものやら。
当初の目的である筈の、『異常気象を以前起こした白玉楼メンバーに、今回の異常気象について、何かやってないかを調べる』……というミッションはクリアしてしまった訳だけども……なんだろう。やっぱり何か納得出来ない。
それにしても……幽々子が住むこの白玉楼に雪が降っているのは、果たして今回の異常気象と関係があるのやら……って何でそれを訊かなかった私!?
……そういえば、幽々子が戦闘……いや、あれは戦闘と言うよりも茶番と言うべきだと思うけど、茶番劇の前になにか言ってたな。
確か『気質』とか何とか……あ〜、勘で犯人じゃないって断定しちゃったけど、本当に合ってるかどうか不安になってきたなぁ……。
巫女の勘の良さには定評があるみたいだけど、私の勘は外れる時は外れるもんね。当たる時は当たるけど。
実際に幽々子は静観する、っていう勘は外れた訳だしね。
「……はてさて、これからどうしたものやら」
行く当ても特に無い。幽々子に付いて行って博麗神社に行っても良いけど……。
私の頭上には相変わらずの竜巻。今も微妙に地吹雪が起きております。
……こんな状態で霊夢の所なんか行ったら、絶対に揉め事が起きて弾幕ごっこ、私の負けが予想出来る……!
さっき幽々子から教えて貰った弾幕ごっこのルールなら、まぁ、応戦出来ない事もない、っていうか確実に勝てるとは思うけど……それもなんだかなぁ……。
霊夢を怒らせたくはないしなぁ……逆にそれすらも抑えてしまったら今度は紫が怒りそうな気がするし……。
ま……いっか。
今日は帰ろっと。帰って……あ! そうそう、今回のルールで解決したっていう幽々子の話が本当なのか調べなくっちゃね。
という訳で、スキマを開いて帰るべし。
……あ、妖夢に挨拶でもすれば良かったかも。でもまぁ、いいか。
向こうも面倒に思うだろうしね〜。
「さっきまでいきなり嵐になったと思ったら今度は晴れ、その前は雪……もう、一体何なのよ……」
妖夢の愚痴が聴こえてきたような気がする。でも気の所為にしておこう。うん。