風雲の如く   作:楠乃

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 - STAGE 4 -
  『風花の神社』





東方緋想天 裏 その2  ・風花の神社

 

 

 

 目の前に立っている魔女。パチュリー・ノーレッジ。

 紅魔館の図書館に住んでいて滅多に日向へ出てこない、日影の魔法使い。

 ……その彼女が、何故こんな所に? そして何故霊夢と戦ったのか?

 

「お? 珍しい顔だな」

「あなた達こそ、珍しい組み合わせね」

「動かないお前よりかは珍しくないと思うぜ? いつもの異変解決組さ」

「……」

 

 どうしてこう、魔理沙はいつも喧嘩腰のような感じなのだろうか……。

 ……まぁ、いい。問題は彼女が霊夢を倒したという事だ。

 その本人、霊夢自身は私達に気付く事もなく神社に入っていったが……いや、もしかすると気付いていて反応していないだけなのかもしれないが。

 

 天候は相変わらず霧雨が降っている。

 それをパチュリーが確認するかのように空を仰ぎ見る。釣られて魔理沙も上を見る。

 

「……じとじとした暗い天気ね。果たしてどちらの気質なのかしら」

「気質? 何の話だ? 霊夢が何かやらかしたのか?」

「天候は霧雨、そう、名前の通りという事かしら」

 

 まぁ、概ねというか殆どがパチュリーの言う通りだ。

 私が引き起こしてしまう天候、彼女の言う通りにするならば、私の気質は小さな雪を降らせる物だからだ。晴れているから単純に『雪』ではないと思うが……。

 

「そこの武士は、この変化に気付いているのかしら? 魔理沙よりも、貴女をけしかけた方が良いかも」

「お? なんだ、私を馬鹿にしているのか?」

 

 ああ……だから幻想郷の奴等は全員血気盛んだと言われるのに……。

 

「やれやれ……魔理沙。私は神社に入っているぞ」

「おう。任されたぜ」

 

 ……何も任しては居ないんだがなぁ……。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

「……何だ。やけにまだ表が騒がしいと思ったら、アンタ達だったのね」

「気付いていたように見えたが?」

「そんな訳ないでしょ。私だってそこまで人間離れしてないわよ」

 

 どうだか……。

 少なくとも、今の人間で妖怪退治出来る者なんて居ない、と詩菜からは聴いていたが。

 ……まぁ、恐らく外の世界での話だろうが。

 

 居間に入り、卓袱台の所へと座る。対面には霊夢が肩肘を着いて気怠そうに私を見ている。パチュリー戦で疲れているのだろう。

 外からは弾幕が発生する音と破壊音が立ち続けに鳴っている。たまに打撃音が聴こえたりする。どうやら魔理沙対パチュリーは中々に拮抗しているようだ。

 

 そんな事を考えていると、霊夢から声が掛かる。相変わらずの気怠そうな顔だ。

 

「それで? アンタ達は何しに来たの? まさかパチュリーみたいに喧嘩を売ろうって訳じゃないでしょうね?」

「さてな。私はとりあえず暇だから外出して、そこで魔理沙と逢ったから一緒に来ただけだ」

 

 とりあえず言葉は濁しておく。彼女と戦うかは分からないからな。

 霊夢がこのまま異変に気付かないのならば、私もパチュリーのように彼女をけしかけなければいけない、とは思っているが。

 今でこそ、魔理沙や咲夜、妖夢や妖怪達が異変を解決しようとしているが、元々は調停者である博麗神社の巫女が異変を解決すべきなのだ。

 ……まぁ、私も異変解決をやった事があるので、人の事を言える立場では全くないのだが。

 

「ふぅん……真面目なんだかそうじゃないんだか」

「常識のあると言ってくれ」

「そんな異常な身長の人に言われたくないわよ」

「む……仕方ないだろう。育ってしまったものは」

「……まぁ、いいわ」

 

 そう言って霊夢は立ち上がり、お茶を三人分用意し始めた。

 

「出涸らししか無いけど、仕方ないわよね」

「……それはさっきの仕返しか?」

「そんな事ないわよ」

 

 嘘だろ、絶対……。

 そんな私の呟きを聴こえなかった風に装いながら、霊夢はお茶の準備をしていく。とは言えそこまで大層な準備でもないのだが。

 

「ハイ」

「かたじけない」

 

 卓袱台の上にある、三人目の湯呑み。

 と、言う事は……パチュリーと魔理沙のどちらかがここに座るという事だ。こういう変な所の勘をもっと他の所に使えば良いものを……。

 ……まぁ、大方その席に座るのは魔理沙だろう。パチュリーは異変というか気質について調べているようだし、ここでゆっくりはしていかないだろう。

 

 霊夢と二人、弾幕ごっこの破壊音を聴きながらお茶をゆっくりと飲んでいく。

 午前の一時の休息……としては些か後ろの曲が荒すぎるが。

 

 

 

 そうしてのんびりいる内に、どうやら戦闘が終わったようで破砕音が急に止まった。

 

「どうやら終わったようね」

「みたいだな」

 

 そう言って表へと出ていく霊夢についていく形で、私も立ち上がって魔理沙とパチュリーの所へと向かう。

 神社の参道へと出てみると、そこには負けてしまった魔理沙の姿があった。

 

「あたた……負けちまったぜ」

「貴女は仮にも魔法使いの端くれでしょう。何故気付かない」

「あ〜、結局それは何の話なんだ?」

「はぁ……」

 

 そう溜め息を吐き、パチュリーはある方向へと向いた。

 その先に居るのは、やはりと言うべきか何と言うべきか、私が居る。

 

「で、そこの貴女はどうなのかしら?」

「……どう、とは?」

「気付いているのか、気付いていないのか……知らないのか、それとも」

 

 そう言って、彼女は手に持っていた魔導書を開く。臨戦態勢だ。

 パチュリーに答えるように、私も大太刀を能力で創り出して正眼に構える。

 ……喧嘩っ早いなど、私も人の事を言えたものではないな。

 

「それとも、知らない振りなのか」

「さぁ? どうだろうな」

 

 気質とは、その人が持つ性格の大元。後天的に出来る物が性格だ。

 私の見立て通りなら、今回のは気質により天候が変化する異変。人によって様々な現象が起こる、十人十色の変わった異変だ。

 

 体の奥底から力を捻り出すように、妖力と霊力を同時に噴出する。

 私の理論通りならば、これで天候が変わる。

 そして私の目論見通り、先程まで霧雨を振らせていた雨雲が一気に晴れて、太陽が顔を見せる。

 

 私達の臨戦態勢を見て邪魔にならないようにとでも思ったのか、移動した霊夢と魔理沙が空を見上げる。

 パチュリーはまだ私を見たままだが、意識は天候に向いているのが分かる。

 

「……晴れたな。珍しい」

「いえ、変な天気になったわね」

「……冷たっ! って、雪?」

 

 晴れているのに、雪がチラホラと降る。

 ……詩菜がこれを見た時は『風情だねぇ』とか何とか言っていたが、やはり普通の人は変な天気だと言うと思うのだが……。

 

「……晴天時に雪が風に舞うようにちらちらと降ること。その気質は『風花(かざはな)』ね」

「かざはな?」

「そう。実に珍しい気質ね」

 

 そう言って、パチュリーはいきなり魔法を放ってきた。燃え盛る炎の玉が真っ直ぐこちらへと飛んでくる。

 とは言え、私も臨戦態勢のままで向き合っていたのだ。これぐらい回避するのは苦でもない。

 

「ルールは?」

「カード三枚。体力制。格闘ありね」

「……なぁ、霊夢」

「何よ」

 

 魔理沙とパチュリーの戦いの音が聴こえていた時に、もしやとは思っていたんだが……。

 

「最近、格闘ありのルールが流行っているのか?」

「みたいよ? この前も幽々子と戦ったもの。そこの魔女ともね」

 

 幽々子……ん? 幽々子?

 そういえば、詩菜も幽々子と戦ったとか言っていたような……。

 

「そこ!!」

「おわっ!? もう始まっていたのか!?」

「当たり前。宣言をした時から決闘はもう始まっているのよ?」

「初耳だがな!」

 

 飛んでくる火の玉を飛んで避け、残りの追尾してくる炎弾を全て刀で切り裂いていく。決闘が始まっているのならば、今の行為は違反だが、こちらはまだ弾幕ごっこで格闘有り用の身を守る結界すら張っていないのだ。勘弁してもらいたい。

 そうして結界を張り終えると、ようやく私達を囲むように結界が張られる。パチュリーがそんな事をしている素振りは全くなかったから、恐らくは霊夢が張ったのだろう。

 それなら強度はお墨付きだ。心置きなく戦う事が出来る。

 

 

 

 そう思った時に、パチュリーから意外な事を訊かれた。

 

「……貴女、今迷っている事があるの?」

「なに?」

「気質は、その人の今の状態を表す……貴女は今、歩みを止めている」

「……」 

 

 言葉を返せない。

 確かに私は、詩菜と話す事に躊躇いを感じている。それは妹紅にもだ。

 

「歩みを止め、空を見上げ、途方に暮れる……なるほど、だからこんなに幻想的な気質なのかしらね」

「今は……そんな事は、どうでもいいだろう」

 

 今、それは関係ない。今は異変に関する話をすべき時だ。

 

「そうね。でも、今この場には大事な事よ?」

「……?」

「今この場を治めているのは貴女の気質。貴女の気質『風花』を言い換えるとしたら、それは『歩みを止める程度の天気』」

 

 そう言って、彼女はこちらへと歩こうとする。

 が、どうもその動きがやけに不自然に見える。異様に遅い。

 

 まさかと思って、私も足を動かそうとする。が、やけに重たく感じる。

 何かの術が掛かっている雰囲気もない。何故かやけに重くて動かしづらい。これでは走る事も出来なさそうだ。

 

「これが、貴女の起こす気質の効果」

「……歩みを止める、か」

 

 なるほど。だが、飛ぶ事は出来る。

 飛翔すると先程まで足に感じていた重量感がすっと消えていった。そして地に落ちると感じるこの重さ。

 どうやら地上でのみ、この呪いのような気質は発動するようだ。

 

「この弾幕ごっこのルールと被さった為に起こった現象、のようだな」

「そうみたいね」

 

 結界の中と、異変の副作用が作用しあって何やら特殊な状況になっているらしい。

 

 ……まぁ、いい。

 これは私の問題で、たとえ今この場に影響を与えたとしても、異変が解決したとしても、私の心の内が納得しなければ治らない。

 だから、今この事を考えるのは、よそう。

 

 今は、向かい合っているこの魔法使いをどうにかするべきなのだから。

 

「よろしいかしら」

「……ふん、さっきは不意打ちをしただろうに。今になって訊くのか?」

「それとこれとは話が別よ」

「やれやれ……」

 

 

 


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