- STAGE 2 -
『容疑者のお手伝いさん』
はてさて、文の家を家宅捜索紛いの事をしてから、数日が過ぎた。
ただいま正午前、天気は竜巻である。依然として変わらない模様。天気だけに。
力のある者の身体から溢れ出ているように見える緋色の霧は日が過ぎる毎に濃くなっていくようにも見受けられる。やはり異変なのかな?
そういえば、私が文の家に言っている間に、彩目も何かしらの行動をしているらしく、神社を見てきたとか何とか。
……まぁ、相変わらず会話の量が少ない所為か、彩目がパチュリーに負けたとかで、あんまり詳しい内容は聴いていない。話しにくそうにしていたしね。
何にせよ、今日も我が家は竜巻警戒注意報発令である。
この天気は、テンションが上がるけども、実生活だと弊害が多すぎるのである。全く。
……まぁ、起こしているのはどうやら私らしいんだけどね。彩目曰く。
しかして、その彩目も今日は人里へと行っている為に、我が家には私一人だけであります。
さてさて、こんな天気でも我が家に寄ってくる文や、人里へと出掛ける彩目は良くやるなぁ、とか思ってみたり。
まぁ……どうやら私の方も一波乱ありそうな気もするけど。
「お邪魔しますわね」
「許可した覚えはないけどね。いらっしゃい咲夜」
「……いらっしゃいと言っている時点で許可してるんじゃないの?」
咲夜が何故か我が家に来た。ナイフを片手に持ったままで。危ないメイドだ。
居間で寝転がっている私と、その居間に面している庭に咲夜が降り立つ。明らかに私の態度はお客を出迎える態度ではない。
でもまぁ、面倒くさいし一時は敵対していた身である。どうこうする気はない。いやまぁ、これは後付の理由だけどね。結局は面倒くさいだけだし。
「まぁ、気にしない気にしない。それで、何の御用? ……そのナイフは、どういう意味なのかな?」
「少しばかりお嬢様の為に、手伝って欲しい事があるのよ」
「ほう」
それほど何かに苦労しているという顔、ではない表情で彼女が私に言う。
レミリアが私に何の用だろうか。咲夜の顔は寧ろ楽しげだけども。
「今回の異変、貴女は何か関係があるのかしら?」
「私? まぁ、ここの天気は多分、私が原因だろうけど」
「ここ? ……原因。それなら貴女も容疑者の一人ね」
容疑者?
……どうやらレミリアが異変に関して何かを感じて、咲夜を動かしたと。
あの御当主は自分から動くという事をしないのだろうか。まぁ、日中は動けないだろうから、今の時間帯は動くに動けないんだろうけど。
ナイフを構え、明らかに今から戦いましょうと誘う咲夜さん。
クイックイッと手招きする格好はいささかメイドらしくはないけど、彼女らしくはあって……って何言ってるんだ私は。
やれやれ……ま、楽しいお時間の始まりか。良いじゃないの、乗ってあげましょう。
「で? 前みたいに私と戦おうっての? 良いけどさ。また気絶させられちゃうよ?」
「それは実戦での話でしょう? 今回は弾幕ごっこよ」
「……へぇ」
そう言ってスペルカードを構えて自分に結界を張り、庭に出た私を含めた大きい結界を張る。
……どうやら、前に幽々子とやった格闘ありの弾幕ごっこを彼女はご所望らしい。
最近流行ってるのかね? どうでもいいけど。
「いいよ。私としてはここの流儀に参加出来ないってのは前から不満に思ってたし、そのルールをそちらから提案してくれるっていうのなら有難いしね」
「ふふ」
そう言って私も帯から扇子を取り出して、自分に結界を張る。術式は既に幽々子から教えて貰っているし、最適化も済んでいる。
カタン、と下駄を鳴らして位置を整える。右手に構えた扇子は咲夜を指す。
「前みたいに、返り討ちにしてあげるよ」
「そうはさせないわ。今度こそ私が勝つ」
「ふふん。そう言っていられるのも、今のうち」
術式を解除。竜巻を抑えていた能力を解除する。
場を仕切るのは私。私の気質『竜巻』だ。
「なっ!?」
いきなり咲夜の目の前に竜巻が発生し、彼女を吹き飛ばす。そのまま結界まで吹き飛ばされてぶつかり、地面へと落ちていく。
土に叩き付けられる前になんとか空中で受け身を取り、顔を上げる彼女。
その眼の前で竜巻が消え去り、その向こうの私と目が合った。
「……いきなりね」
「私じゃないよ。この天候は『勝手に起きた』ものさ。偶然さぁ」
彩目からほとんど聞いていない、とは言ったものの聴いていない部分はパチュリーや神社で何が起きたか、と言った部分で異変に関してはちゃんと話を聴いているのだ。
力のある者は気質で異常気象が起こる。
異常気象はその者の気質によって変わる。
気質は上へと集まっている。何が起こるかは不明。
これが今回の異変である。多分。あれ、何かおかしくないか?
まぁまぁ、勝手に起きて勝手に消えて行くこの竜巻。私だってちゃんとガードしなければ吹き飛ばされてしまう。私だって寧ろ邪魔に思うよ。
けれども、抑えようとすると今度は決闘の方に注意を向けれなくなる。それはダメでしょ。相手に失礼だしねぇ。
「はてさて、こんな天気の中だけれども、決闘の準備の方はよろしいかしら?」
「ッ……良いわよ。今日こそ勝ってみせる!」
「良いねぇ。掛かってきな!!」
十六夜咲夜はナイフ使いである。見た感じでは。
鋭い切れ味を持つ、あの銀製のナイフは私の能力『衝撃を操る程度の能力』では弾く事が出来ない。
まぁ、幽々子の時にこの決闘方法では衝撃を使った速攻は使わない、そう決めた訳だけども。
「ふっ!」
「ああもう、鬱陶しいなっ!」
次々と飛んでくるナイフを、避けたり扇子で弾いたりしていく。
結界や地面を反射して曲がったりするナイフ。いちいち奇抜な軌道を取るから反応が遅れてしまう。迂闊に防御をすると結界にダメージが入ってしまう。あぁ面倒。
もう遠距離は卑怯だよね。という事で地面を蹴って飛び上がり、壁を更に蹴って一気に咲夜に近付く。
近付こうとして、勝手に起きた竜巻に弾かれて無様に吹っ飛ぶ。
壁にぶつかる直前に能力発動。壁に軟着陸。垂直なのに軟着陸とはどういう事やら。
「……本当に、勝手に起きている事らしいわね」
「だから言ったじゃん。寧ろ私だって邪魔に思ってるよ!」
「ッ!!」
壁から落ちていき、地面に足の先が着いた瞬間に咲夜の元へと突っ込む。
それに気付いた彼女は瞬時にナイフを投げるも、まぁ、簡単に避ける。単純に真っ直ぐ飛ぶナイフだし、避けるのは簡単。
……難しいのは、結界にあたって反射するかどうかだけど、どうやら反射しない類の攻撃だったようで、咲夜の顔が一瞬だけ強張る。
大きい攻撃を一瞬でも喰らった者は、その攻撃に再度対峙した瞬間につい強張ってしまう。
何故なら他の者よりも『来る!!』と判断してしまい、心理的ダメージが大きいから。
はてさて……何処でそんな話を聴いたかは忘れてしまった。が、今回はそれに助けられたようだ。
「近寄ればこっちのものってね!!」
「くっ!」
近付いてガスガス殴る。無論、衝撃は適度に抑えているし、咲夜自身も防御用の結界を張っているし、あまりダメージは与えられていない。
扇子ではたき、振り下ろし、地に手を置いて軸にした蹴り。衝撃を使って体勢をジャンプするかのように立て直し、更に上段から扇子をナイフのように使って切り裂いていく。
結構な連続攻撃をしているにも関わらず、咲夜の顔は訝しげでちっとも耐えている風な顔ではない。まぁ、それはそうだ。
彼女の結界を破壊出来る程に威力・衝撃は強くない。
「……衝撃は使わないの? 」
「使っても良いけど、そしたら面白くないからね。縛りって奴さ」
投げかけられる疑問。彼女の疑問も当たり前っちゃあ当たり前。
まぁ、使ってはいるんだけどね。衝撃使わなかったら、私の軟な腕力じゃあ攻撃とは言えないし。
右手に持った扇子の突きをガードされた。その直後に咲夜が構えていた防御用の結界が消え去り、彼女もナイフを構えて突っ込んできた。
袈裟斬りを避け、続いて放たれる下からの切り裂きが顎に掠る。
少しばかりの距離を取り、双方同時に武器を構える。
「ナイフ勝負、って訳?」
「貴女のはナイフじゃないでしょ」
「私にとっちゃナイフとおんなじだよ」
鎌鼬の鎌って訳じゃないけど、衝撃使えばそれなりの斬撃が出来るしね。
今度は私から接近。
瞬時に彼女の懐に入り込み、横に扇子を薙ぐ。
が、そこにはもう彼女はいなかった。
「私も能力を使えるのよ?」
「チッ!」
即座に振り向き、次々と至近距離で放たれていたナイフをガードしていく。
様々な角度で飛んでくるナイフの群れ。幾つかは弾き返すも、幾つかは身体に当たってしまい、結界に大きなダメージが入ってしまった。
……それにしても、これで肉体にはダメージがないというもの何だかおかしな話である。
「何処の受け身技だっての!!」
「これも弾幕ごっこの一つよ?」
「答えになってないッ!!」
また距離を取った咲夜から、ナイフが投げられる。
身体を捻り、地面を蹴って跳び避け、全てをグレイズしていく。
……おお……遂に私もグレイズという単語を使えるとは。一生無いかと思っていたよ。飛べないから。
地面に足を叩き付け、衝撃を使って小石や土を浮き上がらせる。それらを避けている間に開いた扇子を使って、風を起こして咲夜に叩き付ける。
私なりの弾幕は、またしても突如として起きた竜巻に阻まれた。全部弾き飛ばされた。
「いい加減にしろよ!!」
「は、はは……」
……まぁ、いい。咲夜のナイフも弾いてくれたから、良かった事にしよう。彼女に苦笑されたのがちょっと気に喰わないけど。
また飛んでくるナイフ群。それらを避けてて咲夜に接近していくと、彼女がカードを一枚取り出して宣言するのが見えた。
スペルカードか、と認識した瞬間に一気に後ろへと下る。
「《幻符『殺人ドール』》!!」
彼女が宣言をすると、咲夜本人の周りに一気にナイフが散らばり、それらがクルクルとその場で周っている。
……明らかに、こっちを飛んできそうな雰囲気。嫌だ嫌だ。
まぁ、私だってそんな簡単に技を受けてあげるほど、お人好しではない。
「《風符『
袂からスペルカードを一枚取り出し、即座に術式を思い描いて発動させる。
どうせ使わないとか思って作らなかった過去の私を思い切りぶん殴ってやりたい。でも衝撃を使っちゃって結局意味が無いと思うけど。
私へと物凄いスピードで飛んでくるナイフの数々。それらが刺さる直前に、何とか私のスペカが発動する。
足元から私を取り囲むようにして一気に竜巻が形成され、ナイフ達がそれらに取り込まれていく。
「なっ!?」
「私は弾幕を撃てない質なんでね。利用させて貰うよ!!」
私が言葉を言い終えるのと同時に、竜巻が消え去って中に取り込まれたナイフ群が開放される。
それらはさっき、私の方へと飛んできた軌道を、そのまま鏡写しにしたかのように咲夜へと戻っていく。
……舞文曲筆の意味は『故意に言葉をもてあそび、事実を曲げて書く事』
たまに事実が胸に突き刺さるように、『
「くっ!!」
まぁ、全てがガードされてしまった。竜巻に取り込んでからのタイムラグがあるし、それは仕方ない。簡単に反応出来るしね。
でも威力は自分が撃ったものと相違ない。自分の言った言葉が自分に返ってくるスペルカードだ。
そして、これでお終い!!
「そこだ!!」
「なぁ!?」
ガードをしている最中に死角から一気に近付き、そのままナイフ共々に結界を殴り付ける!!
自分の攻撃をずっと耐えていた防御結界は脆くなっていて、そのまま私の攻撃により割れてしまい、遂に咲夜自身へと直接攻撃が入る。
パァン!! と音が鳴る。
そうして今回の弾幕ごっこの終りを示す、咲夜自身を守っていた結界が壊れる。
……ん〜、自分では衝撃を抑えていたつもりだったけど、まだ威力が高すぎたかな。ああもあっさり割れるとは。
吹き飛ばされた咲夜は結界へとぶつかり、地面へと落ちていく。
まぁ、そこまで鬼ではないので一気に近付いてスライディングして彼女をキャッチ。
「ほいっと」
「……私の負けね」
「そうかい。そりゃ良かった」
そう言って、咲夜が立って結界を解いた。
正直に言えば、彼女が今の攻撃は能力を使った卑怯な攻撃である、とか言うのなら再戦しても良いのだけれど……彼女が既に納得しているのならば、何も言うまい。
次戦って勝てるかも分からないしね。
「で? レミリアが私に手伝って貰いたい事って?」
「ああ……良いのよ? 手伝って貰わなくても。貴女は勝ったのだから」
「いんや、この異変について私も詳しく知りたいしね。行ってみて損はない。筈」
「やっぱりあくまで『筈』なのね……」
と、言う訳で、
紅魔館に行って来ます!!
私個人は「紫天」を応援します。流行れ!(どうでもいい。