風雲の如く   作:楠乃

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 - STAGE 3 -
  『疑わしき者は罰せよ』





東方緋想天 その4 ・疑わしき者は罰せよ

 

 

 

 紅魔館に到着。

 相変わらずの天気、竜巻日和だけどな!!

 

「あれ? 咲夜さん、と詩菜さん?」

「やっほう美鈴。咲夜さんに誘拐されてきましたよ」

「……ハイ?」

 

 まぁ、そんな美鈴を意味もなく混乱させつつ、紅魔館に入っていく。

 ……後ろで咲夜が慌てて美鈴に説明している声が聞こえる。むふふふふ。

 

 

 

 そして一人で屋敷内に入る。妖精達が起こす異変以来のお邪魔しますかな?

 相も変わらずの目に優しくない内装。外からの見た目とは比べ物にならない程の中の広さ。せっせと掃除をする妖精に遊んでいる妖精達。どうやら紅魔館は何も変わっていない様子。

 良きかな良きかな。

 

「はぁ……美鈴に何を吹き込もうとしているのよ」

「え? 事実でしょ?」

「いや、まぁ、否定は出来ないけど……」

「ならオッケーじゃん」

「良くないわよ……風評被害っていうものがあr」

「で、レミリアは何処?」

「聴きなさいよ」

 

 まぁ、そんな風に咲夜からの愚痴をのらりくらりと躱しつつ、紅魔館の奥の方へと入っていく。

 

 

 

 そんな道中でも暇なものは暇な訳で、適当に会話をする。

 

「そういえば、咲夜の事を初めて聴いたのが幽々子からだったっけな」

「へぇ、あの大食い姫が?」

「あぁ……やっぱり皆そういう認識なんだ……」

「宴会で一番厄介なのはあの人でしょう」

「いやまぁ、そうだろうけどさ」

「で、あの人は何か言っていたかしら? この前は『死人に口無し、という言葉はあの世にはない』なんて言っていたけど」

「そんな事を言ってたの? え〜っと、確か……そう、あの時は幽々子と妖夢に手品を見せた時かな? その時に『何処かのメイド長みたいね』って。大分前の話だけど」

「ああ……そういえば何回か宴会でタネなし手品をやったわね。その時の事を覚えていたのかしら」

「ふぅん、時止めのマジックですか」

「単に能力を使った手品よ」

「まぁ、私も似たようなのだよ。能力を使った手品」

「あら、そんな器用な能力だったかしら?」

「あれ? 話してなかったっけ? 『衝撃を操る程度の能力』」

「そうだった。思い出したわ」

「根本的に驚かすような性質の能力だしね。手品には打って付け」

「私だってそうよ。時間を操るもの」

「なんで競うような感じなのよ……」

「え?」

「え?」

「……」

「……まぁ、いっか」

「その台詞は私のだと思うのだけど……」

「気にしない気にしない。で、レミリアの所はまだ?」

「貴女が道に迷わずに図書館まで行けるというのなら、ここで即座に道案内を辞める所なのだけれど」

「スイマセン案内して下さい」

「素直でよろしい。こっちよ」

 

 

 

 そんな風に意味もない会話みたいなものを繰り広げている内に、ようやく目的地である大図書館に到着。

 目的地が図書館であるという事を聴いたのはついさっきである訳なのだが……ここに居るのはパチュリーと小悪魔だけじゃなかったっけ?

 

 まぁ、ここに案内するって事はレミリアとパチュリーが協力して異変解決しようとしているのかな?

 とりあえず、入りますか。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          疑わしき者は罰せよ

                    - STAGE 3 -

 

      「まずは一人目。随分と早くに来たわね」

 

      「あれ? レミリアだけ……って咲夜居ないし!?」

 

 

                   竜巻の鎌鼬

                         詩菜

                            (Sina)

 

     「……これはまた一番疑わしいのが来たねぇ。咲夜グッジョブ」

 

     「疑わしいって……

      いやまぁ、幻想郷に来てから何も異変を起こしていない奴が

      疑わしいって言うのなら、そうかも知れないけどさぁ……」

 

     「おや、随分とあっさりと自分の犯した罪を認めるのだね?」

      少しは嘘を付いたりはしないのかね?」

 

     「……ああ、なるほど。犯人探しごっこ(暇潰し)か」

 

     「さぁ、言いたまえ! 自分の犯した罪の全てを!!」

 

     「良いねぇ。それはそれで面白そうじゃないの!」

 

 

 

 

 

 

 とかまぁ、そんな茶番は(参加はするけども)置いといて、

 レミリアってこんな性格だったっけな……? とか言う事も置いといて、

 

 真面目な話をしよう。決闘の準備として結界が既に張られているけど、まだ決める事がある。

 

「約束の本気での決闘、という事で良いのかな? それとも異変中という事で、格闘ありの弾幕ごっこをご所望なのかな?」

「……ふふ、そうね。デザートは明日に回しましょう。今は異変中。弾幕ごっこよ」

 

 あらま。てっきり本気バトルを今からするのかと。

 まぁ、別にいいけどね。

 

 

 

 さてさて、弾幕ごっこをするのならそれはそれで、戦う前に言わなければならない事がある。

 

「そっか。弾幕ごっこね」

「ええ。やり方は分かる? 教えてあげてもいいわよ。その身体にじっくりと」

「それは結構。もう何戦もしてるしね。私が言いたいのはさ? 普通に私と戦うの? って事」

「……」

 

 自慢に聴こえてしまうだろうけど、私は能力の関係上、どうしてもこのルールだと勝ってしまう。

 結界なんて、本体にダメージを与えないように衝撃を操った上で、本気で思いっきりぶん殴ればいいのだ。そんなの私にとっては霞みを殴るのと何も変わらないに等しい。

 だからこそルール変更を申し出る。今のルールはあまりにも私に有利過ぎる。

 こんなルールだと私に勝てるのは本気モード(殺し合い)での紫か幽香ぐらいじゃない? 多分。

 いや、本気だったらルールも何もないけどさ。

 

「レミリアなら格闘ありで、しかもこのルールが適応されるというのなら、私がどれだけ有利過ぎるか分かってるでしょ? 一度戦ったのなら」

「……そうね。狭い結界内。自身の結界に入ったダメージで勝敗が決まり、弾幕から格闘まで何でも使って良し。しかもスペルカードも使って良い……衝撃を操れる貴女に、負ける要素は殆どない」

「でしょ? ……まぁ、自慢みたいになるけどさ。だからルール変更しない? って話」

「……一応、その変える部分の内容を聴きましょう。話はそれからね」

「オッケー」

 

 私が思っているだけで、案外そうでもないかもしれないけれども、とりあえずこの戦いを平等な試合レベルまで引き落とすルール変更点。

 

 ・私、詩菜からは通常攻撃をしない。

 ・私からの攻撃は、全てスペルカードのみ。

  スペルカードを使った攻撃のみをする。

 ・そのスペルカードを規定された枚数分攻略されたら、私の負け。

 ・私の結界が壊されたらスペルカードも終了。

  これをスペルカードの耐久力とし、これで一枚攻略とする。

 

 以上が、私が変更したい部分。

 相手には何の変更点もない。あくまでこの変更は『私の弱体化』がメインだから。

 

 ……う〜ん、いつの間にか『私の弱体化がメイン』なんて言えるぐらいに強くなってるのか私は……。

 いやはや、なんとも人外な存在に……って、前もこんな風に振り返ったような……?

 

 

 

「……いいでしょう。その試合形式、認めるわ」

「そう? 案外正々堂々と勝負しろとか言うかと思ってたんだけど」

「流石に一度あんな目に遭ってるもの。貴女の実力は充分に知っているわよ」

 

 と、苦笑するレミリアお嬢様。

 ……まぁ、あの時は今思い返しても、我ながら何してるんだろうなぁ、って感じだしね。

 

「カードは何枚? そっちが決めていいよ」

「あらそう? じゃあ二枚で」

「少ないね。それでもいいの?」

「お楽しみがあるでしょう? その時まで取っとくのよ」

「ふふ、なるほど」

 

「さて、その方式でやるとしましょう。準備はよろしいかしら? 鎌鼬」

「準備なんてとっくに出来てるさ。この後のデザート用にもね? 吸血鬼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開始の合図はいつも唐突に。

 レミリアとの戦いもこれで三回目なのだけれど、いっつも突然始まるんだよねぇ。いや別にそれが不満って訳でもないけどさ?

 一回目はレミリアから、いきなりスペルカード宣言で始まり。

 二回目は私から、いきなり超高速でぶん殴る。

 

 三回目の今回は、共に真後ろの結界へと跳んで距離を取るという事から始まった。

 互いに意思疎通した訳でもないのに、このコンビネーション。互いに視線を合わせ、苦笑する。

 

 ……ほんと、当初出逢った時とは考えられない程の関係性だこと。

 

 

 

 苦笑いをしながらでも、決して相手からは目を離さない。勝負はもう始まっている。

 

「《速符『兵貴(へいき)神速(しんそく)』》!!」

 

 腰の帯からスペルカードを取り出し、宣言をする。今度はちゃんとカードも作ってあるので一安心である。

 やはり即座に作って契約っていうのはね。ちょっと無理があるよ。うん。

 

 兵貴神速……まぁ、意味は『兵は神速を貴ぶ』と同じで、要は『戦争において、兵は何事も迅速に』って事である。

 いやはや、最近スペルカードを作る事が多くなってきたけど、こんな時に彼の家で『四字熟語辞典』を熟読しておいて本当に良かったよ。ネーミングセンス無いからね私。

 

 宣言と同時に、足の先から頭の天辺、指の先まで緋色の霧が纏わり付く。

 期せずして今回の異変で起きていた現象を再現した訳だ。上空へと上がっていく、自分の気質と同じ様に。

 まぁ、元から私の妖力の色が緋色って言う事もあったんだけどね。

 

「……そういえば、貴女の妖力はそんな色だったわね」

「ん? うん」

「フフフ……どうやら複雑な縁という事もあるものね」

「?」

「私の姓を忘れた? 『Scarlet(スカーレット)』よ」

「……なるほどね。緋色繋がりって訳か」

 

 ははは、スッゴイ皮肉だ事。

 ……まぁ、今はこうして話せるんだから、別に皮肉でもないか。

 

「ま、そんな話は今はいいでしょ。戦いは既に始まっている、でしょ!」

「そうね。行くわよ!!」

 

 そう言っておいて、私に接近せずに弾幕を撃ってくる。

 それを見ると、来いよ! 弾幕なんて捨てて掛かって来い!! と言いたくなる。言わないけどさ。

 まぁ、その判断は正解である。恐らく。

 

 目の前へと迫って来た、小さく尖った真っ赤な弾幕。それが幾つも飛んできている。

 それを、全てグレイズして避けきる。無論私は地に足を付けたままである。仙人的な意味ではない。

 

「なっ!?」

「『兵貴神速』……まぁ、単に私の速度を上げるってだけのスペカだよ」

「ただでさえ速いのにそれ以上速くなってどうするのよ!?」

「おっと、素早い吸血鬼がそれ言っちゃう?」

「天狗ですらそう言うわよ!!」

 

 そうかなぁ……。

 少なくとも、三船村で見た文の『幻想風靡』よりかは遅いと思うんだけどねぇ。

 ……まぁ、あれを例に出すのはダメか。私だってアレよりも超高速の世界なんて体験した事ないし。

 

「ほらほら、どうしたの? 幾ら何でも私だってちゃんと弱点を設定してるさ。見付けてご覧」

「挑発とは余裕ね。良いわ、その弱点見付けてやるわよ!!」

 

 そう言って、バカスカと弾幕を放つレミリア。

 等身大もある真っ赤なコウモリの弾幕、使い魔が私を追ってくる弾幕。

 けれども、それらは一向に当たりはしない。まだまだ余裕だね。

 

 さて……、

 

「そろそろ、こちらからも攻撃するよ!!」

「っ!?」

 

 今まで攻撃が来てそれを避けた時だけレミリアに近付いて来たのを、ゆっくりと歩き始めて近付く。

 それだけで一気に風景が流れ、もう目の前にはレミリアがいた。

 ……とは言え、私だってそこまで反射神経のレベルを上げてないから、いきなりの事でちょっと驚く。まぁ、そんな衝撃は無意識に無効化しちゃうのだけれど。

 

 腕を上げて、突きを放つ。ただそれだけ。能力すらも発動させてない。生身の拳。

 それでも速さは尋常じゃない。速さ×質量=威力とはいつぞやのお話。

 瞬時に張られたレミリアのガード、結界を打ち壊して腹へと腕を突っ込み、彼女諸共吹き飛ばす。

 

「ガアッ!?」

「あたた……やっぱ能力を使わないのは無茶だったか」

 

 そのままレミリアが壁にぶち当たり、地面に落ちたのを確認し、ついでに彼女の結界がまだ壊れていないのを確認してから、右腕の様子を確かめる。

 

 まぁ、予想通り折れてる。折れてるっていうか、破裂?

 肩から先の骨は粉々だね。骨なのか何か分からないモノが思いっ切り出てるし。

 私自身を守っていた結界も、今ので結構なダメージを負っただろう。まさに諸刃の剣。

 ……ま、そんな馬鹿げた思考は放棄して、見苦しい部分は爪でちょん切っておいて、妖力にて回復開始、っと。

 

「ケホケホッ……相変わらず、無茶をするわね」

「まぁね、いつでもどこでも私は『物は試し』だよ。言うなれば行き当たりばったり、さ」

「ふん、いいだろう。私も力を抜きすぎていたみたいだ。本気で行く」

「何を今更。来なさいよ吸血鬼」

 

 使えなくなった右腕を下げ、左手を上に向けてクイクイと手招きする。挑発といえばこれだよね。

 レミリアは今度こそ本気で来るらしく、それには対応せずに無言で掛かって来た。

 

 

 

 物怖じせずに私へと接近戦を仕掛けてきたレミリア。それは正解。

 この状態、ガードしようにもスペルカードの特性上、如何せん肉体の反応が良すぎるために、全然防御が上手く出来ない。全くと言って良い程に。

 その為、さっきまで相手に近付いたのはそれが弱点だという事を隠す為の引っ掛けだったんだけど……まぁ、思い切り逆に作用しちゃったみたいで。

 

 吸血鬼の鋭い爪に反応してガードしようとしても、あんまりにも自分の腕が上がるスピードが速すぎて止めるべき所で止めれず、そのまま爪が身体に入ってしまう。

 なんとか連続攻撃をガードし、残った左手で掌打をレミリアに打つ。

 また余りにも速過ぎる攻撃で、レミリアが吹っ飛んでいく。結界は大丈夫か。まぁ、今ので二撃目だし、そうそう割らないように調整してるし……大丈夫、だよね?

 

「くっ、本当に馬鹿げた速さと威力ね!」

「ま、それが取り柄ですしー?」

「舐められてるのが腹立つ……!!」

 

 いや、だって……ねぇ?

 

 そう返そうとして、レミリアがカードを取り出すのが見えた。

 すわスペルカードかと思いきや、彼女が宣言したのはこれまた違ったカードだった。

 

「《運命『ミゼラブルフェイト』》!!」

「おお? おおぅ!?」

 

 スペルカード宣言の直後に、チェーンのような物が一気に私の方へと飛んで来た。

 まぁ、それもグレイズして避ける。が、

 

(ッ!? 力が奪い取られた!?)

 

 一気に力を持っていかれる感覚。それに気を取られて、先程グレイズしたのとは違うチェーンがまた私の方へと向かってきた。

 反応してチェーンの下へと伏せる。しかしその避け方が悪かったのか、その紅く先が楔形の鎖は軌道を変えて私へと突き刺さる。

 横へ跳んで避けようとした所で別の鎖が邪魔をした。自ら突っ込む形でそのまま鎖に突き刺さり、結界を破壊して私を吹き飛ばす。

 パキン!!

 

「むぎゅ!?」

「これでようやく一枚、ね」

 

 吹き飛ばされ、結界にぶつけられる。そのぶつかるダメージは無効化出来ても、結界破壊のダメージはちゃんと私に入っている訳であって。

 あ〜……イタタ。

 

 立ち上がって顔を上げる。レミリアのスペルカードも終了し、チェーンが消えていく。とは言え、私のダメージが消える訳でもない。当たり前だけど。

 

 

 

 身体の調子の確認中……うむ。右腕以外はなんともなし。まだまだ戦える。

 

「さて、二戦目行きましょうか」

「了解。私もちょいと強いの行くよ!!」

 

 

 

 二枚目。

 はてさて、どうなるやら。

 

 

 







 試合続行不可の判定は、妖怪の場合だと、難解になる。
 実力もそうだし、本人の意気込みによって体調は簡単に変わってしまうからだ。
(妖怪の精神、意気込みそのものを変えるのは難しいが)



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