風雲の如く   作:楠乃

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 - STAGE 4 -
  『うつろふ竜巻』





東方緋想天 その6 ・うつろふ竜巻

 

 

 

 そんなこんなで、フランちゃんと遊んでおります。

 

「……」

「……」

 

 トランプを構え、フランの伸ばす手が掴むのは果たしてジョーカーか、スペードのエースか。

 ゴクリ、と喉の音が地下室に響き渡る。

 私の持つ二枚のカードがプルプルと小刻みに揺れる。向こうではフランの額から汗が一滴垂れていく。

 

「……これッ!!」

「どチクショウ!?」

「やったの!? 勝った、勝ったよ!!」

 

 と言う訳で、ババ抜き勝負、あっさりと負けました。乙。

 

 以上。閑話休題。

 

 

 

「ねぇねぇ! 次何やる?」

「ん〜、そうだねぇ……」

 

 と、フランと遊ぶ地下室。

 まぁ、手加減を知らない吸血鬼の部屋という事もあってか、なんだか血の匂いがする。

 別に気分が悪くなったり嫌な感じにはならないけれども、何となく違和感を覚えたりはする。どうでもいいと言える位にしか感じないけどさ。

 そんな部屋の広さは、結構な広さ……っていうか、レミリアの部屋と同じ間取りじゃないこれ?

 妹なのにそれでいいのか姉よ。まぁ、紅魔館のヒエラルキーがどんな状態なのか私は知らないけどさ。

 少なくとも、前世の『私』だったら兄貴の方が部屋は大きかった。散らかっていたから狭く感じていたけど。

 

 

 

 まぁ、今はどうでもいい事である。

 今は兎に角、

 

「ねぇ、詩菜〜? お姉様とやった弾幕ごっこ、私にもやってよー!」

「そんな事したら私が死ぬからダメ!!」

 

 この妹様を何とかせねば……!!

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 さてさて、そんなこんなでフランと遊び尽くしたので自宅に帰る事とする。太陽が出ている時間だってのにこの吸血鬼の姉妹はいつまで経っても元気だ。徹夜でもする気なのかしらん?

 

 地下室から出て、まぁ、一応はレミリアにも挨拶して帰るかと思って大図書館にまた戻る。

 ……何回か道に迷いそうになりつつも、なんとか到着。

 

 

 

 大きな扉を開け、そこから見えた物は妖夢がレミリアに倒される所だった。

 結界が砕けて、決闘が終わる、正にその瞬間に私は扉を開けたようだ。

 

 本棚に寄りかかって座り込む妖夢の姿。

 う〜む、まさかレミリアが妖夢に勝つとはねぇ……いや、勝てないと思っていたとかじゃないんだけど、刀と爪の対決は鬼の勝ちなのか、とか考えちゃうよね。

 

「こんな事して何の得が……おや?」

「こんな事……? って詩菜さん?」

「やっほー」

 

 妖夢も剣を使う以上、こういうルール方式だと強いと思っていたんだけど……負けちゃうとは。

 まぁ、妖夢も半分は人間だし、純粋な吸血鬼に格闘で勝とうっていうのが間違いなのかね?

 いやでも彼女も異変を起こすぐらいだし、それなりに実力ある筈だしな……。

 

 ……いや、まぁ、こういう事もある。って言う事なのかな?

 

「どうして此処に……?」

「ん? 多分妖夢とおんなじだよ? 咲夜に拉致されてきた」

「ああ……いや、私はパーティーがあるからとか言われて無理矢理」

「何度も言うが、甘い言葉に気をつけよう」

 

 ……要は、騙されてきたのね……。

 幽々子もそれには気付いていて、かつ止めなかったのかな? 勘だけど。

 

「あ〜、乱入者がいきなり入ってきたが、尋問を続けよう」

「んん? 私は拉致されて来たから、どっちかって言うと乱入者よりも容疑者の一人なんじゃないの?」

「指摘するのはそこなんですか……?」

 

 事実は時に残酷である。うむ。

 

「君は天気をおかしくしてどうする気なんだ?」

「天気? あー……雪の事ですか?」

「え? 雪?」

 

 ……ああ、幽々子はそういえば雪を降らせてたなぁ。

 今だから分かるけど、幽々子の気質が雪だったって事なのか。

 

 うん? ……でも幽々子は『降らせている』って言っていたような……?

 でも私とか文の気質を見る限り、勝手に起きるのが今回の異変だったんじゃ……。

 

「あれって幽々子の気質なんじゃないの?」

「え? 気質?」

「……やはり幽々子様が何かしたんですね……」

「ねぇ、何の話?」

「私達二人はそれなりに異変の調査をしていてね。協力してくれない?」

「あ、はい。分かりました」

「勝手に話が進んでいる……」

 

 とかまぁ、あろう事か現在地である紅魔館の主を差し置いて、異変解決への協力態勢が完成するという事態。

 いつもの事以下略。

 

 

 

 そうそう。妖夢と久々に逢ったんだし、ちょっとお願いごとでもしようかな。

 

「ねぇねぇ妖夢さんよ。此処らで一戦しない?」

「……はい?」

「いやさ? 前に逢った時に色々と情けない姿見せちゃったじゃない?」

 

 あの時はレミリアとのいざこざで参っていた時期だったかな。

 はは、奇しくもあの時は正反対な状態なんだけどね。今は。

 

「ああ……そういえば」

「……ふふ。まぁ、そういう事でね」

「ん? 何の話?」

 

 それもまぁ、妖夢も分かったらしくてレミリアに視線を向ける。

 レミリアは私と妖夢が逢った時期がいつか分からないから、疑問の表情。まぁ、当然ですよね。

 

 そういう事で妖夢と一つ戦わないか? という事である。相変わらずの意味不明な脈絡。

 

「……まぁ、別に良いですけど」

「おお、そりゃ良かった」

「ちょっと、勝手にここを使わないでよ」

 

 ……それは、是非ともパチュリーに聴かせてやりたい一言だ。

 彼女がそもそもここを使っていたのだというのに……オヨヨヨ……。

 

 ま、彼女の言う事も一理ある。主の前で許可もなしにいきなり決闘というのは、些か不躾である。うん。多分。

 

「んじゃ、屋上を使って良いかな? それなら文句無いでしょ。そこならレミリアは来れないだろうし」

「あの、その追加の言葉は要らなかったのでは……?」

「……腹が立ったけど、事実だし、ね。ほら、さっさと行きなさい」

「あいよー」

「し、失礼しました……」

 

 という訳で、レミリアの前から去る事とする。

 まー、目的であったお別れは済んだしねー。いやはや愉快なり愉快なり♪

 

 そんな事を考えてニヤニヤしていたら、どうやらその思惑をレミリアに見抜かれてしまった模様。

 

「……《神槍『スピア・ザ・グングニル』》!!」

「あぶな!? 何するのさ!? 死ぬかと思ったじゃん!!」

「自分の行動を振り返れ!! あと貴様がそんな事で死ぬか!!」

「酷くない!? 一度はそのスペルで死に掛けたんだよ!?」

「逃げただろうがその時は!! もう一発喰らえ!!」

「あわらば!? 二回も投げる!?」

「どうせ避けるだろう?」

「そうだけどさ!!」

「……もう良い。行け。さっさと行け!」

「お邪魔しました〜♪」

「もういっちょグングニル!!」

「完全に回避!! 二度ある事は三度ある!!」

「四度目死ねぇ!!」

「どゆことなぼぁ!? 完全に殺す気じゃないか!! 今頭思いっきり狙ったでしょ!?」

「頭なくなっても貴様なら生きてそうだ」

「否定はしない!!」

 

「……はは、は……」

 

 そんな感じで、紅魔館から退出する事になったのであった。まる。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 さてさて、妖夢との再戦である。

 時計台とは言え、レミリアが来れないという事はそれつまり屋外という事であって、

 要は、今現在の天候は『竜巻』だという事である。まる。

 

「……酷い天気ですね」

「まぁね」

 

 私が意図的にでは無いとは言え、私の気質によって起きた、起こしてしまったものだ。

 ……これでもうちょっと、私に被害がなければ最高なんだけどねぇ。竜巻の発生位置がこれまたランダムなんだなぁ。

 

 何処を見ても赤い屋敷、紅魔館。それは勿論時計台も赤いという事。ああもう目に悪い。

 まぁ、それほど鮮やかじゃないから良いんだけどさ。私はだけど。

 

 とかまぁ、そんな事は置いといて、

 妖夢との再戦である。

 

「準備はいい?」

「そちらこそ」

 

 辺りに結界を張り、自分にも結界を張り、準備は整った。

 既に妖夢も刀を抜いて構えている。あれは多分長刀の方かな? 名前は思い出せないけど。

 かくいう私も、扇子を抜いて戦う準備は出来ている。

 扇子が武器にならないなんて、何処の誰が言ったんだい?

 

「さて……前回は色々と怪我もしてたけど、今回はそうは行かないよ」

「そうですか? 私も貴女と同じで成長してますよ」

「なら、それを見せてみな!」

「言われずとも!」

 

 とは言え、今回のルールは異変にそった方式なので、そこまで本気って訳でもないけどね。

 

 

 

 無言でいきなり扇子を横へと振り、暴風を妖夢に叩き付ける。

 一つの塊となって飛んでいく暴風を空を飛んで回避し、彼女がこちらへと近付いて来ながら刀を振り、その軌跡からは青い弾幕が放たれる。

 無論私も高速移動で避け、こっちからも妖夢に近付く。

 

「前回は弾幕で負けた感じになったけどね! そうは行かないよ!!」

「くっ!!」

 

 私が近付くのを見て急遽飛ぶ方向を変えて私から離れる妖夢。

 けれども、その飛翔さえ地面を跳ぶ私からすれば遅すぎる。

 

 地面を駆け抜けて瞬時に妖夢を追い越し、そしてジャンプし彼女の目の前へと現れる。

 

「なっ!?」

「遅いよ」

 

 そのまま扇子で妖夢を叩き付けて、地面へと落とす。

 私のその反動で天井へと辿り着き、そこから衝撃反射で一気に降り立つ。

 

 そして地面へと降り立った瞬間に竜巻が出来、私を吹き飛ばす。

 

 もうやだこの竜巻。うんざりだよチクショウ!

 

「げほっ、どうしてこう思い通りにならないかねこの竜巻は!」

「し、知りませんよ!?」

 

 とか言いながら、ちゃっかり斬りかかる妖夢も中々に酷いと思う。

 まぁ、試合中だし仕方ないね。とか思いつつちゃんと防御はする。当たり前だよね。

 

 彼女はどちらかと言うと脇構えだ。正直に言えば剣術について詳しくはないけど。

 刀身は下に向けて切先は後ろ。身体は半身になり、自然体で繰り出される打撃と刀のコンボ。

 ……しっかし、いつもならこの柄を使っての打撃なんかは、カウンターで思いっ切り吹き飛ばす所なんだけどねぇ。

 まぁ、ルールに則って、卑怯な能力使用はあんまりしないけどさ。

 

 一撃目、二撃目と打撃を防ぎ、三撃目四撃目の斬撃も全て扇子で防ぎきる。

 妖夢の長刀とは違って、私の武器は扇子だ。小型で軽いから簡単に防げるし、能力で弾き飛ばされる事も無いと来た。そりゃアンタ使うってもんでしょうよ。

 まぁ、このルールが設定されていなかったら、この扇子ごと今頃バッサリと斬られているかもしれないけどね。いやそこまで妖力を込めないって事はないか。

 

「くっ!」

「格闘で私に勝とうなんざ百年早い!!」

「ぐあっ!?」

 

 五撃目も完全に受け流し、カウンターで裏拳を妖夢に叩きこむ。

 そのまま吹き飛び結界にぶつかる、という所で妖夢が体勢を立て直した。

 ……いいねぇ、空を飛べるのって。羨ましす。

 

「……流石に、武術では貴女に敵いませんか」

「彩目に勝ってからそういう事は言うんだね。まぁ、彩目も武術は全て自己流らしいんだけど」

 

 彼女の能力は『刃物を操る程度の能力』であって、その刃物を使った技とかは操れないんだよね。そこが彼女の弱点というか、何というか。

 とは言え彼女も既に千年生きている。そんな弱点も克服しているだろう。多分。

 

「ま、そんなお話は置いといて」

「詩菜さんから始めたんでしょうに……」

「まぁまぁ、それよりも今は戦闘中、ってね!」

「ッ!」

 

 言葉と共に妖夢に突っ込む。同時に竜巻がこことぞばかりに二つも発生し、私の視界と進路を塞ぐ。

 けれども流石にさっきので竜巻への警戒はしてあった。そのまま速度は落とさずに竜巻の間をすり抜けて妖夢へと迫る。

 が、彼女もそれを予想していたのか、全身に目に見える程の力を溜めていた。スペルカード宣言だ。

 

 すぐさま逃げようとして、すぐ傍に竜巻が押し迫っている事に気付く。

 上空に逃げる事もほんの一瞬考えたが、その後は竜巻に直撃する事が目に見えている。

 ッ、逃げ場がない!!

 

「──ッ!!」

「《人符『現世斬』》」

 

 瞬くする間もなく、一気に斬り裂かれて真上へと吹き飛ぶ。

 

「ガッ……くっ!」

 

 地面へと落ちて体勢を立て直しながらも状態の確認。

 結界は……大丈夫、今のがこの戦いでの二回目のダメージだったのが幸いした。結構な威力でかなり不安が残る状態に結界が陥ってしまったけど、まだ平気。

 無論その間に妖夢への警戒も怠らない。

 

「まだ終わっていませんよ。戦闘は」

「分かってるよ。大体そんな隙は見せてないつもりだよッ!」

「っと!」

 

 扇子を使い、また暴風を生み出して妖夢に飛ばす。まぁ、当たる事はないだろう。単なる牽制だ。

 予想通り、それらを全て回避したり防御したりして受け流していく妖夢。

 

 まだまだ、私の戦いはこれからだ。衝撃を使って跳び回りながら後退していく。

 充分に妖夢との距離が開いた事を確認してから、スペルカード宣言する。

 

 久し振りの、空間圧縮砲撃だ。

 

「《圧縮『ベクターキャノン』》!!」

 

 右手に構えた扇子を真っ直ぐ妖夢へと伸ばす。

 そして身体中の妖力をその扇子の先へと集めていく。

 グッと地面に足を押し付けて、吹き飛ばされないように足を開く。

 先へと集めた妖力を、能力を使って衝撃に依る圧縮を行う。

 

 私に集まる妖力に危機感を抱き、グッと構える妖夢。もう一つの刀も取り出して完全に受身の態勢。

 ……ふふっ、私の攻撃をそんな二刀流で捌ききれるかな?

 

「終わりだッ!!」

「がっ!?」

 

 ビームとは、発射されてから避けるなんて事は出来ない。

 それすなわち、捌ききる以前に照準さえ完全にあっていれば、もう当たるという事は確定している。

 

 と、言う訳で、

 

「私の勝ちってね」

「くはっ……」

 

 一瞬にして結界の端から端までを突き抜けた圧縮砲。

 私の妖力の色でもある、その真赤な砲撃は照準を間違う事なく妖夢に当たり、彼女を吹き飛ばして更にその衝撃で辺りの結界を砕いた。

 

 

 

 ……う〜ん、やっぱりこのスペカは反則だなぁ。発動から発射までの遅さが弱点だけど、発射した後が速すぎ強すぎ。ロマン技はロマン技にすぎないかな。調整しないとなぁ……。

 

 

 

 ……というか、妖夢大丈夫かな?

 

 

 

 


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