風雲の如く   作:楠乃

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 え~、『他の東方二次小説には無い設定を!!』と意気込み過ぎた様な気がしてなりません。
 と、言いますか。色々なサイトに投稿されてある全ての小説を読んだ訳でもないので、恐らくどこかと被っているだろうなぁ………。

 まぁ、面白ければ良いのですよ。作者も、読者も。
 それで尚且つ、設定や基本が守られれば良いのですよ。
 …守られてないかもしれないけど。



 それでは、この作品のコンセプトとも言える重要なターニングポイント編。
 ある意味これにて、プロローグは終了です。
 どうぞ。


風雲の生まれる場所

 

 

 遂に、遂にやってきた。

 《百寿》という大台、人間卒業とも言える、人ならざるものの年齢が。

 

 今日で、この世界に来て、人間の時の年齢を入れずに、100歳になった。

 弱小妖怪の目標、とも言われる到達点を五体満足で百歳超えに、私は辿り着いた。

 妖怪ランク『付喪神』『九十九神』である。嘘だけど。

 

 

 

「光陰、矢の如し…だね。まさしく」

「妖怪じゃからな」

「…それだけで説明になっちゃうもんねぇ」

「元人間じゃろうが今は妖怪じゃ。感覚は儂らと変わらんわい」

 

 ほんと、なんてこったい。

 

 まぁ……御目出度い事なのか解らないけど、少なくとも現在誕生日を祝う習慣は無いみたいだ。

 

 それにしても100歳だよ。100歳で未だに身長が小中学生レベルだよ。一センチ位しか伸びてないよ。

 妖力もそれなりにあるようになったけど、それでも量・質共に平均だよ。

 ていうか時代が解らないよ。江戸とか平安とか有名所って感じじゃないもの。

 私はどうやらとんでもない存在になって、とんでもない世界に来てしまったようだと今更にして驚愕するよチクショウ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなグダグダと考えながら、天魔と意味もなく交わしていると、いきなり部屋の空中に線が引かれる。その両端にはリボン。

 …ああ、また来たのね。と思った時には、既に彼女は姿を表している。まさに神出鬼没。

 

「百歳おめでとう~。お祝いに来たわよ~♪」

 

 …訂正、この時代には誕生日をお祝いをする妖怪は、居るようだ。

 

 ていうか、さ……?

 

「……今更だけど、八雲にこの家の場所、教えたっけ? そして誕生日も」

「そこのてんちゃんから♪」

 

 そっか。てんちゃんか。なら仕方無いね。

 仕方無いっていうか、これは折檻が必要だね?

 

「おっけーてんちゃん、歯ァ食いしばりな。全力でぶん殴るよ」

「ちょっと待てぃ!? 儂がそんな事を話すと思っておるのか!? これは其奴の嘘じゃ!! というかてんちゃん言うな!!」

「…や~く~も~さぁ~ん~?」

「まぁまぁ。今日はパーッと騒いじゃいましょ♪」

「……まぁ、いっか」

「良いのか!?」

「楽しけりゃ良いよ。ねぇ八雲さん?」

「そうそう。ふふふ」

「「うふふふふふふ」」

「…お主ら、実は仲が良くないか…?」

 

 気のせいだよ。全く誰がこんな奴と……。

 全く、胡散臭い私と、誰がこんな胡散臭い奴と。

 

「そうと決まれば移動しましょ! 幽香の家に!」

「ええ~? …その事を幽香は知ってるの?」

 

 まぁ……別にいいけどさ……?

 誕生日にボコボコにされたくは無いんだけど?

 

「料理を作ってくれてるわよ」

「ん……ん~、どうだろ」

「儂に訊くのか…? ……何にせよ、お主を祝う話じゃ。無下にも出来ぬじゃろ?」

「いや、まぁ…そうだけど……」

「なら断る理由もあるまい?何をそんなに悩んでおるのじゃ?」

「…そっか。そう…だよね」

「しかし儂はここを離れる訳にはいかぬのでな……フム、少々待っておれ」

 

 そう言って天魔は私の家から出ていった。

 私みたいな中級妖怪の為にわざわざ住処を空ける (しかも誕生祝いというふざけた理由) という事が長にあってはならない。

 ……いや、まぁ…理由もなく私の家に来てる辺り、それも守られてないような気も……。

 

 

 

「ほれ、鬼の酒じゃ」

「へぇ、随分と凄いものを持っているわね?」

「ちょいとな。ま、これを持っていけ」

「や、祝い品どうもありがと」

「ふん」

 

 そう言って数分待っていると、持ってきてくれたのはかなり大きい瓢箪。

 チャプンチャプンと音がして、ほのかに良い匂いが……。

 しかし鬼なんていつ出逢ったのかね? 天魔は。どうでもいいけどさ。

 

「ほら、スキマを開くわよ」

「外で開きな。戸締りあるんだから。ほら、天魔も。家の鍵を閉めるから」

「フム、まぁ楽しんでこい」

「行って来まーす!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつものスキマ(?)を通って幽香の『太陽の畑』の家にやってきた。

 地面へと降り立ち、視線を上げれば幽香が家の前で待っている。スキマの気配でも探れるのかね彼女は?

 

 微笑を浮かべつつ、玄関を開けてこちらへと手招きする幽香。

 

「いらっしゃい」

「お邪魔しまーす…」

「ほらほら、入った入った♪」

 

 紫に押されながら家の中に入る。

 ……なんか、凄いテンション上がってない? 上がるのって、普通私じゃない?

 いや……良いけどさ…。

 

 部屋につき、椅子に座らせられる。

 目の前のテーブルには、大量の美味しそうな料理と温かいハーブティー。

 ハーブティーは、例の妖力回復剤かな。前のとはちょっと香りが変わってる気がするけど、多分そうだろう。勘だけど。

 となると、料理も全部そんな感じなのかな?

 

 …こんな量を三人で食い切れと?

 

「あらま…随分と用意したわね?」

「ええ…私も作り過ぎたと思ってるわ」

「……これ、全部、私の為に?」

「まぁ。そうね。兎も角おめでとう、ね」

「あ、はい、ありがとうございます」

「もっと嬉しそうな顔をしなさいよ…」

 

 ここまで皆に祝われると、逆に『ドッキリでした』の方が納得しちゃうような気がする……。

 いや、嬉しいっちゃあ嬉しいんだけどね……?

 

 

 

「ま、冷めない内に食べましょ」

「そうね……これ…食べて太る量よね」

「…ちょっと……言わないでよ」

 

 太るとかそんなのはどうでもいいので、私はなんだか暗い二人を置いて、さっさと頂くとしますか♪

 

「いただきまーす♪」

「「……」」

「…なんでそんな睨むのさ?」

「この前モテる云々の話を私にしたのは誰だったかしら…?」

「わたしゃ良いんですよ。旅をすれば痩せるどころか飢えるし」

 

 それに身体は女でも、そういう事に興味はない。

 前の身体の場合は…ちょっと違うと思うけど……。

 

「そういう問題じゃないわよね? しかも『飢える』って……」

「ちゃんと妖怪のお仕事もしてますって!! 全国行脚は辛いんですよ? …あ、この山菜美味しい」

「そう言ってくれると嬉しいわ…でも人間を守る仕事も、貴女はこなしているでしょう?」

「うっ、それも確かに継続してやってるけどさ…」

 

 神力の為には必要不可欠な手順なんですよ……。

 

 

 

 ……おー? 流石は幽香の料理、妖力がバンバンみなぎってくるよ。

 

「詩菜ちゃんもそれなりに可愛い容姿をしているから、人気は高いのに……もったいないわねぇ…」

「…え? ……誰からの人気?」

 

 人気? 人気ってなんぞ?

 ……予想なんてついてない。ついてないったらついてない。

 

「貴女が良く行っている神社があるじゃない?」

「…ハァ、貴女はまたそういう所に通ってるのね……」

「う…妖怪らしく無いですよ、どーせ……というかあそこからの人気ですかぁ…」

「後は助けられた妖怪たちから、かしらね?」

 

 嬉しくはない…事もないかな?

 まぁ……こんな私を嫌う奴等も絶対居るんだし。

 好んでくれる連中が居る事は嬉しいよね。

 

 

 

 はてさて、な~んか幽香の視線が厳しいぞ~?

 

「……貴女、本当に妖怪なの?」

「何で? って散々言われてるか……」

「貴女の行動、思想、全てが人間らしすぎる」

「…妖力あるじゃん。幽香のお茶で妖力は回復してるよ?」

「そんなの、人間が身に付けようとすればいくらでも付けれるわ」

「あ、そうなんですか……」

 

 いかんな。幽香が私を疑い始めちゃった。

 むぅ……折角のパーティーだって言うのに。

 

「言いなさい。貴女は本当に妖怪として生まれたの?」

 

 この世界には妖怪として命を受けました。

 『この世界には』……ね。

 

「そりゃそうでしょ」

「……顔は、嘘をついてないわね」

「ポーカーフェイスさ」

「「……」」

 

 一触即発の雰囲気。もう食事をする雰囲気ではない。

 私が嘘をついているかどうかを、幽香は神経を尖らせて見極めようとし、

 幽香が出逢った時のように睨んでくるのを、私は素知らぬ顔で受け流しこちらからも笑みを返す。

 

 そんな、食事会とかいう雰囲気じゃねーよ、という空気を少しだけ和ませてくれたのが、紫だった。

 

「ま、まぁ! 幽香も落ち着きなさいよ! ほら、食べましょ?」

「いつになく慌ててるね~。どうしたの?」

「そうね。貴女らしくもないわよ?」

 

 その声にちゃんと返事を返す私達。

 視線は決して互いから動かさず、相手を睨み、睨み返し、顔は全く動かさずに口だけで反応を返す。

 

 その状態の私達に、紫も遂に怒りだした。

 

「だったら睨み合うのを止めなさい! 私は友人たちが歪み合うのを見たくないのよ!!」

 

 彼女の切羽詰まったようか声。

 

 まぁ、その気持ちは解るよ。

 ただ、今は人間だったって事を貴女達に言う時じゃないと思ってるから。

 

 

 

 ……ふむ…っていうか、

 

 

 

「私は『友人』の部類に入ってるんだね?」

 

 視線を幽香から離して、焦っている紫を見る事にする。

 私が視線を外したからか、それとも紫の言葉尻を捉えたからか、

 何にせよ幽香も睨むのを止めてくれたみたいで、私にかかっていたチリチリした感触は消えた。

 

「そうねぇ。貴女は始めに彼女を式神にしようとしてなかったかしら?」

「え? …あっ!! いえ、そのッ!!」

「…私なんかより、こういう可愛い方が良いと思うんだけどねぇ。見ていて微笑ましい」

 

 茹で蛸のように真っ赤になっていくのを見るのは……うん、とても愉快で面白い。

 

「そうね。可愛らしいわよ? 紫」

「からかわないでよッ!!」

「おおぅ、なんて男を何人か落としそうな台詞と表情」

「ほんと。さしもの私でも少しドキッとしたわ」

「く、くうぅうぅぅ~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はからずも紫の機転(?)で場は和んだ。

 けれどいつか、幽香は私に色々と訊いてくるに違いない。それは紫もそうだと思う。

 私は色々と妖怪にしてはおかしい部分がありすぎるのだ。

 

 

 

 まぁ、閑話休題。

 お楽しみはここからさ♪

 

「ご馳走様でした♪」

「…ふぃ~……もう、無理だ…」

「あんなに食べるからよ…」

「その量を作ったヒトは誰でしたかねぇ?」

「…ハイハイ、私が悪かったわよ」

「じゃあ、てんちゃんからのお土産のお酒を開けるわよ? 良いかしら詩菜?」

「どうぞ開けちゃって~」

「鬼の酒だったわよね。味はどうなのかしら?」

「ん…美味しいわ~」

「…ほんとね……詩菜は?」

「食い過ぎで腹がヤバイからちょっと待ってて……」

 

 気持ち悪い……おのれ幽香、罠だったのか…。

 

「そんな訳ないじゃない…」

「……また読まれた」

「さっきのポーカーフェイスが崩れてるわよ、あれは見事だったわ」

「どうも……ううぅ…」

「…ちょっと大丈夫?」

「……幽香の料理で補った妖力が、限界を越えて苦しめてるのかしら?」

「そんな事って、あるの?」

 

 生まれながらにして大妖怪のアンタ等には解らないかもなぁオイ!?

 

「いやいや…むしろそれと、年をとる事による妖力の、増加を待ってたのさ……おぇ」

 

 椅子から降りて、外に向かう。

 よろけつつも、壁にぶつかりつつも、這ってでも、我武者羅に。

 

「じゃあ歩けるような状態じゃないじゃない貴女!?」

 

 ハイハイ。無視無視。

 さて、そろそろフィナーレといきますか。

 あんな妖怪かどうかと云々の話をした後で、こういう事をやるから幽香に疑われてるのに……。

 友人に晴れてなれた紫の機転が台無しだよ。全く……。

 

 でも、まぁ、私は一度自分が面白そう。って決めた事に妥協はしない! そう決めたのさ。

 決めたのだ。だから、やる。

 

「妖力が貯まりすぎたのなら、妖力をウプ…使いまくれば良いんだよ…!」

「それは確かにそうかも知れないわ! でも貴女にそれほどの事が…!」

 

 出来るとは思えない。って? 舐められちゃったもんだね。

 私は想像が大好きな、元人間の妄想野郎だったんだよ?

 この計画は既に何十年も前から計画してたんだ。もう待てない。

 

 

 

 家から飛び出し、風になって空に浮く。

 

 思い出せ。自分が初めて生き物を殺した時の事を。

 思い出せ。鎌鼬だと自分を認めた時を。

 思い出せ。あの時の五月蝿い声を。

 造り出せ。自分を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 詩菜ちゃん……いえ、詩菜は確かに幽香の言う通り、人間らしかった。らし過ぎた。

 

 私が望んでいる世界は兎も角としてよ?

 人間を心から助けようとしているのだもの。

 

 私は周りから『心が読めない』『胡散臭い』と言われたりしているけれど、私にはあの子の方が理解不能だわ。

 

 

 

 今だって、貴女が何を考え、何をしようとしているのか……全く見当もつかない。

 

 貴女は幽香の料理で妖力が限界を越えるのを待っていた。それと100歳という妖力が増大する機会を、待っていた。

 そんな限界を突破した力を抑える為に、身体は今も悲鳴をあげて、普通は動けない筈なのに。

 どうして、何をしようとしているの?

 

 …考えるしか、今は出来そうにないわね。

 既に詩菜は扉を開けて出ていこうとしている。

 

 周りの時間が遅くなっていく。体感時間が縮まり、頭が活性化していく。

 

 今日の会話中に、何か目印となるような物はあったか?

 

 『何故私が幽香の家に誘いに来た時、行く事を悩んだのか』

 『モテる云々の話をした時、詩菜は私は良い。と言ったのは何故か』

 『幽香が詩菜に妖怪かどうか、訊いた時の詩菜の様子』

 『あの料理をどうしてああなるまで食べたのか』

 

 今日までの会話で何かヒントとなるような会話、仕草みたいなのはあったか?

 

 『どうしてそんなに妖力と神力を、貯めようとしたのか』

 『何故人間を護る為に妖怪と敵対したりしているのか』

 『妖怪にも関わらず、どうして神と仲が良いのか』

 『日毎に変わるテンションの差は一体何故か』

 『どうして能力の制御が出来なくなる程、食事をとらなかったのか』

 『私のスキマを見て、どうしてあそこまで驚いた顔をしたのか』

 『相手を喰う訳でもないのに、どうしてあそこまでのパフォーマンスを入れて料理をしたのか』

 

 出逢った時に遡ってみて、今の状況に助けとなるような点はないか?

 

 『幽香の持ち込んだ花の名前を何故知っていたのか』

 『私たちの服装を見て驚いたのは良いけど、どうして見慣れているような雰囲気なのか』

 『日本にはここだけしかない筈なのに、どうして栽培方法を知っていたのか』

 『あの時何故左腕がなかったのか』

 『何故あの場面で、いきなりその腕を治したのか』

 『私の途方もない夢物語を聞いて、どうしてあんなあっさりと賛成出来たのか』

 

 

 

 ……これ以上探すとなると、それこそ無限に出てきそうだわね。

 

 考えている間も、少しずつ時は流れていく。

 

 詩菜は空に跳び、風に溶けていく。こうなるともう視認は出来なくなる。

 けど溢れ出ている妖力で位置は判るけど、それも妖力が無くなれば分からなくなってしまう。

 

 だからその前に、早く思い付いて彼女を止めなければ……。

 

 

 

 止めなければ……何をすると言うのだろう?

 彼女を止めて、どうするの?

 妖力の量が限界を突破しても身体に激痛が走るだけで、妖力が無くなれば別に悪影響はない筈よ。

 それなのに、どうして私は焦っているの? 別にこんなのよくある状況…じゃないけど、何も悪い事は起きない筈よ!

 

 なんで…?

 なんで貴女は…詩菜は、私をこんなに不安にさせるの……?

 

 

 

 考えが、止まる。

 頭が動きを、やめる。

 時間が、動き出す。

 

 

 

 詩菜は空中のある程度の高さで上昇をやめ、空中に止まったようだ。

 

「詩菜! 何をするつもりよ!?」

 

 幽香が名前を呼ぶも、返事は無い。聴こえない。

 だけど、彼女の妖力は留まる所を知らず、更に溢れ流れ出ている。

 

 先程までは晴れていた天気も、詩菜の妖力か能力の暴走か、雲が空を覆い、強い風が花を揺らしている。

 幽香が名付けた『太陽の畑』は荒れに荒れてしまっている。

 

「紫!! どうすればいいの!?」

「分からないわよ!? 彼女が何をしようとしてるかも!!」

「くっ…!!」

「…あれは!?」

 

 

 

 瞬間、今まで溢れ出て無駄に流されていた妖力が一気に凝集された。

 高密度の妖力、それと共に一気に放出された神力。二つが混ざっていく。

 

 あれは…初めて幽香と戦った時に見せた、肉体の超再生…?

 いえ、使っている量が半端じゃない量になっているし、あの量だとそれこそ本当に、肉体を丸ごと再生するかの量……。

 

 ……まさか、それが初めからの目的だった…?

 そういえばあの子が妖怪を『料理』とか言って切り刻んでいる時に、自分の肉体を儚んでいたような……まさか、それなの…!?

 自身の肉体を基礎から変えるなんて、そんなの無茶な事よ!?

 獣人や妖獣はただでさえ肉体に比重を置いてるのに、そんな事をしたら精神を保てずに消め…つ……。

 

 

 

 …彼女は本当に妖獣や獣人なの…?

 

 再び、時間が凝縮されたように重くなっていく。

 

 詩菜は一度として、私たちに動物のような姿を見せた事がない。

 妖怪『鎌鼬』なら、獣人や妖獣の部類に入る筈。

 けれど私が見た事あるのは、今のような『風』の状態だけ。

 本人が『風』と言っているのだし、彼女の嘘かも知れないけれど、あの状態しか彼女は変化出来ないと考えると……彼女はやはり妖獣等の部類には入らない…?

 

 となると、詩菜は『種族としての妖怪』という訳なの?

 それなら、今やっていると思われる肉体の改造は、比較的安全・大丈夫だと思う。

 私たち『一人一種族の妖怪』は、肉体より精神に比重が偏っている為、たとえ身体がばらばらになっても、そう簡単に死んだりはしないし、悪く言えばなかなか死なない。

 逆に言えば、精神が冒されると私たちはあっさりやられる。

 ……まぁ、そんな話は今は良いわ。要は詩菜は『種族としての妖怪』の部類に入っているという事よ。

 …けれど、そうすると妖怪の種族が『鎌鼬』ではおかしくなって来る筈…。

 

 …そもそも『鎌鼬』はつむじ風に乗って現れ、鎌のような両手の爪で人に切りつける妖怪。主として『三人』で活動する筈よ…?

 詩菜は一人で旅をしているし、詩菜のような鎌鼬も見たことがないわ…。

 

 ああ! もう何がなんだか、解らなくなってきたわよ!!

 

 

 

「紫!! あれ!」

「えっ?」

 

 いきなりかけられた声で、私の周りの時間が再び加速する。

 隣の幽香が指差すのは、空中にある深緋色を更に暗くした様な色の珠。

 あれは…あそこに詩菜がいる!?

 

「……紫、突っ込んで詩菜を引っこ抜くべき…?」

 

 幽香が訊いてきた。けれど私にはどうすればいいのかわからない。

 下手に突っ込んで、詩菜の肉体の再生…は私の予想なんだけど、それを邪魔してしまえば彼女は止められるかも知れない。

 けれど、それは……。

 

「…いえ、このまま様子を見ましょう……私達に今出来る事は…ないわ」

「……分かったわ。待ちましょう、彼女を」

 

 私には、どうすることも出来ない。

 そう。そういう事なのよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちが見守る中、『珠』は更に凝縮していき、

 最後には小さく萎み、小さな光になって、詩菜の胸元に吸い込まれて行った。

 何かを吸収した詩菜は、フッと身体の支えを失い、地面に落ち始めた。

 

「ッッ!!」

 

 ……後から考えてみれば、彼女の下にスキマを開いて安全な処にゆっくりと下ろせば良かったわね。

 無我夢中で私は空を駆け、詩菜を受け止めようと必死だった。

 

 危うくも受け止めた詩菜に、表面上は変化がなかった。

 探ってみると、妖力・神力は既に空になっている。

 けれど、妖力の質は明らかに、ついさっきまでの詩菜とは比べ物にならない程、上がっている。

 

「詩菜! 大丈夫なの!? 詩菜!!」

「落ち着いて紫、気絶しているだけよ」

「……」

「まず彼女を私の部屋に運びましょう。何が起きたのかは彼女に直接、聞きましょう」

「……そうね。ごめんなさい、取り乱しちゃって」

「いいわよ……さ、運びましょう」

「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別に大した事は考えてなかった。

 精々が肉体をちょいと弄くって、このロリコン体型からおさらばしよう、と思ってただけだった。

 それが結果的に、八雲や幽香を心配させてしまいあまつさえ暫くの間、幽香の家に泊まる事となってしまった。

 

 無論、次の日に目覚めてから、二人にこっぴどく叱られた。

 そしてこの後、紫からの告げ口により天魔にもきっちり絞られると言う。ああ……なんて無情。

 

 

 

「で、何でこんな事をしようとしたのよ?」

「……その、ちょいと…肉体改造を…」

「…呆れた…本当に肉体の超再生の応用をしてたのね…」

「あれ? なんで紫分かったの?」

「前に見た事あるから。よ」

「あの時も私、言わなかったかしら? 『無茶な力の使い方をすると、いつか自爆する』って」

「…いや、むしろその言葉で思いついたと言」

「なんですって?」

「スミマセン!!」

「ハァ…全く、何がやりたかったのやら……」

 

 何がやりたかったのかって?

 フフン、妖力の質が上がったのは単なる副産物だったのさ!

 

「……ん~、一度見せた方が良いかと」

「え? 質を上げようとしただけじゃないの?」

「いんや。もっと別の理由があるよ? ……で、それの発動の為にハーブティーを御願いしたいのですが…」

「……またがぶ飲みする気じゃ、ないでしょうねぇ…?」

 

 こわぁぁ……。

 

「いえ、一杯だけで十分です。それぐらいの消費で済む様に、色々と配線を変えたので」

 

 要は、某境界の魔術回路的な物を弄くったのだ。

 肉体を一度完全に融かし、配線に邪魔な部分を取り除き、私が今からやろうとしている事のタネを仕込んでおく。回路の中にあった血栓的な物も取り除き、流通出来る速度も向上させた。

 結果、質が向上、一度に操れる力の量も大幅に上がったという訳。

 

 いや~…自分の肉体を自分で剥がして、精神力だけで弄くるなんて…もう痛いったらありゃしないの……。

 

「…本当に、一杯だけで十分なのね?」

「ええ」

「分かったわ」

 

 

 

 暫くして、幽香は温かいハーブティーを持ってきてくれた。

 ……毎度思うんだけど、どうやって温めたりしてるんだろう…?

 

 まぁ、今はどうでもいいか…。

 

「や、有難う御座います」

「…また暴走なんかしたりしないでよ…」

「ハハハ、まぁ狂わない限り大丈夫ですよ」

「…そ、う? …まぁ、いいわ。早くしなさい」

「ん~、美味しい!」

 

 狂う、ね……。

 あの子どうしてんだろ?

 

「それで、教えてくれるのよね? あんな事をした理由を」

「ええ、勿論……ただ、ですねぇ…」

「…何よ?」

「如何せん初めてな物で、上手くいくかどうか分かりません。なんでちょいと外でやろうかと」

「…私の部屋を汚さない様に…?」

「ちょっと…大量出血するかも、って事?」

「まぁ、ハイ。そうです」

「……分かったわ。もう一人で立てるわよね?」

「あ、はい…よっと」

「……不安だわね…」

 

 多少身体に気だるさが残っているけど、こんなの旅の道中に比べればなんて事はない。

 さぁて、やりますか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで幽香の自宅裏なう。

 

「ここなら花に飛ぶ事も無いだろうし、大丈夫よ」

「やばかったらすぐに言うのよ?」

「……ヘヘ」

 

 何だか二人見てると、笑えて来たよ。

 なんか……ねぇ?

 

「…何よ? いきなり笑い始めて」

「いやぁ…なんだか二人とも私のお姉ちゃんみたいだなぁ、って」

「「……」」

 

 そう言うと、二人して顔を合わせ、二人共同時に苦笑を浮かべる。

 

「…まぁ、私もなんだかそんな感じがするわね」

「…そうね、色々と手が掛かり過ぎる妹。って感じかしら」

「うぐっ…」

 

 ……悪かったね、色々と迷惑を掛けて。

 

「ほら、さっさとしなさい……看てて上げるから」

「うん、じゃ、掛け言葉は…『まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!』」

「「……はい!?」」

 

 

 

 肉体を風に戻し、消滅させる。

 意識を『切り替え』肉体をイメージする。

 自身の可能性の一つで、私が望んで掴んだ物。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガチン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 型に歯車が入って、いつもとは違う部分が動き始める。

 

 ……よし…目蓋を上げよう。多分成功。

 視線の先には驚愕、どころか愕然、喫驚、驚倒、驚天動地の百面相を二人が見せてくれている。

 うむ、実に面白い。

 

「あ、貴方…」

「どうかな? 自分じゃいまいち良く分かんないんだけどさ?」

「なんで…」

 

「「なんで男になってるのよ!!?」」

 

 え? 駄目?

 ようやく人間時代の格好に戻れたんだぜ?

 わざわざ自分の脳みそに手刀突っ込んで弄くったかいがあったってもんだ。ハッハッハ。

 『妹みたいな存在』という『ふざけた幻想』を『ぶち壊して』やったぜ。

 略して『いげぶ』!!

 ハッハッハ…あ~、つまらねぇ……。

 

 

 

 しかし、顔で一発で男と分かる顔になってるのか。そりゃ大成功。

 

「お~、よくよく見たら着物も体格に合ってるなぁ……流石、俺の妖力が混じってるだけあるわ」

「「………………………」」

「…なんだい、まだ絶句したまんまかい…お~い、戻って来い」

「……そっ、それが…貴方の肉体改造…?」

「そういう事♪ どうだい?」

 

 鏡が無いんだよなぁ。

 後でチルノの居る湖で確認するとして、今は二人からどんな顔か感想を訊いて見よう。

 

「…顔は微妙ね、垂れ眼の細目……美顔って感じには、程遠いわ」

「体格も筋肉質というより……痩せ型ね。腕もひょろいわね~」

「うぐっ……」

「「二枚目(ハンサム)には到底見えない」」

「……いいんだよ! それで!!」

 

 目立たない生活をこの二つの姿で過ごすんだい!!

 

「ま、何はともあれ貴方に何も無くて良かったわ」

「そうね」

「ん、良好良好……なら」

 

 

 

 再度、風に戻ってイメージする。

 流石に100年過ごした姿。先程よりも数段早く終わった。

 

 

 

「…よし! 戻るのも大丈夫だね」

「……貴女にとって…」

「ん? 何か言った?」

「…貴女にとって、どちらが本当に姿なの?」

 

 なんだ、そんな事?

 そんなの、即答してあげるよ。

 

「両方♪ 両方とも私……まぁ、でも区別する為にも、もう一つ名前を付けるかなぁ?」

「…両方、って……それに名前…?」

「女の子は妖怪、男の子は人間。ってイメージかしら?」

「おっ、幽香分かってんじゃん」

「フフ、昨日の食事の話もこれに関連してると考えると、それしかないじゃない♪」

 

 ……あれはあれでまた違う話のつもりだったんだけど…まぁ、いいか。

 

 昨日の険悪さも忘れ、幽香と談笑(?)しながら、家に入ろうとする。

 そこへ紫が声をかけてきた。

 

「なんで幽香は平然としていられるのよ!?」

「……ん~、詩菜だから?」

「あ、それで片付けるんですか」

「もう何も驚かないわよ、こんな常識外の生命体」

「酷くない!? それ!?」

「何よ、私に常識を捨てさせたのは貴女でしょう?」

「理不尽過ぎる!! 横暴だ!!」

 

 そんな言い合いをしてると、紫が近付いてきた。

 

「そうね。まぁ、この子だものね」

「この人もか!?」

「さ、三人で例のお酒。飲み明かしましょう」

「そうね。そういえばほっといたままだったわ」

「放置!? あ、ちょっと待ってよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、審判の日。

 ……天狗の里。

 

「さて、八雲から何か『存分に叱ってやって』と言われたのじゃが…どういう事なのじゃ?」

 

 はてさて、ここが一番の悩み所だ。

 彼は『詩菜』を好いてくれている。

 どう、返せば良いものか…。

 

「天魔『本当に私達が納得出来る様な答えが見つかるまで』って約束したよね?」

「……その様子は、見付かったのか…しかし、八雲が叱れとどう繋がるのじゃ?」

 

 

 

 変化。男の子。

 

 

 

「お初にお目にかかる『私達が納得した答え』にして男の子Ver『詩菜』であります」

「………………………」

「……あれ? 天魔さん? …天魔? 天魔!? てっ、てんまぁあぁぁー!!? くっ、口から何か魂のような白い物がッ!? オイッ! しっかりしろ!? 死ぬなぁあぁあーー!!」

 

 

 

 


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