風雲の如く   作:楠乃

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東方緋想天 その8

 

 

 

 咲夜、レミリア、フラン(?)、妖夢、との連戦、そして小野塚さんから牡丹の情報を得て、その次の日。

 ってか翌日。我が家は相変わらずの竜巻日和。

 

 まぁ、牡丹に逢いに行こうかとも思ったけども、こんな天気で逢いに行っても迷惑かなぁとも思うので、今日は何もせずに自宅へと引き篭もりの日。

 こうして居間でお茶を注いで何ともなしに頬杖をついて外を眺める状態。何にもなし。

 

 

 

 本日は竜巻と一緒に雨雲さんも来ておられる。

 気質が天候を変えてしまうのは分かっていたけども、もしかすると普通の天候も実は働いていて、更にそれを気質が上書き……と言った感じに本当はなっているのかもしれない。と考えてみたり。

 何にせよ、本日の天候は雨と竜巻が混ざって暴風雨と雷雨がごっちゃになった状態という訳である。

 

 いやはや、竜巻はともかくとして雷雨まで起きちゃうとは。

 それだけ私の気質が荒れてるって事かねぇ? まぁ、否定出来ないけどさ。

 

 

 

 ……しっかし、暇だ。

 昨日は色々と戦ったし、ある意味退屈とは無縁の一日と言えたけども、本日ばかりは流石に暇と言える。言えてしまう。

 だって、今日は朝から彩目も出掛けたし文は取材に行ってしまったし、午前中は本当に何もしなかったもんね。

 

 あ〜、暇だ暇だ。

 普通は暇の部分が『忙しい』に変わってる筈なのにね。あ〜、忙しい忙しいって。

 だけどもこれだもの。妖怪ってのは基本暇なのである。忙しい時もあるけどね。

 って事は、人間は忙しいから寿命が短いのかしらねぇ? いやでも幻想郷の人間よりも外の世界の人間の方が寿命は長いしなぁ……?

 あれか? 娯楽があるかどうかなのかな? それなら外の世界の方が寿命が長いのは説明出来るけど……それだと妖怪が長生きってのが説明出来ないような……?

 

 まぁ、いっか。

 どうせくだらない妄想。原因は何者にも説明出来ずに、結果だけが残るってか。何処のスタンド攻撃だよ。ったく。

 

 

 

 ……そうだ。気質の完全操作の実験でもしてみようじゃないの。

 幽々子は完全に気質を操っていた。それはこの異変について詳しく知った、今なら分かる。

 彼女は『この気質を使って』と言っていたからね……まぁ、後は勘だけど。

 勘っていうか……幽々子の言動と行動? あと彼女から立ち上がっていた緋色の霧がおかしかった事とか?

 

 今まで戦ったヒト達はみな、バラバラに霧が浮き上がっていた。けども今思い返してみると幽々子のはそれが整然としていたような気がする。

 ……まぁ、それを言うなら、彩目なんか全くと言っていいほどその霧が出てないんだけどね。本人曰く『お前よりも落ち着いているからじゃないか?』とか言っていたけど……。

 

 まぁ、そんな事よりも異常気象を抑える実験である。

 彩目の話を全面的に信じるとして、落ち着けば気質の放出は抑えれるらしいのだ。

 

 

 

 どうすれば私は気質放出を抑えれるほど、落ち着ける事が出来るのか?

 簡単な事である。鬱な気分になればいいのである。まる。

 

 ……そんな時に誰かが来れば、その人は嫌な気分で帰る事になるかもしれないけど。

 まぁ、その時はなんとか気分をあげよう。境界を何とか弄ったりして。

 その境界を弄る行動に辿りつけれるかどうかが、鬱状態での課題なんだけれど、ね……。

 

 

 

 

 

 

 ……と、言う訳で、鬱状態再び。

 境界を操って欝になった瞬間に天候を制御していた能力が勝手に解除されるのだから、我ながら酷いものである。

 まぁ、別に思考自体はいつも通りっちゃあいつも通りなんだけどね。

 行動がそれに伴わないっていうか……ま、そんな事はどうでもいいか。

 

 居間のいつもの私の席に座り、正座する。

 呼吸を落ち着け、背筋を伸ばし、左手はおわんを持つように構え、右手はその上に乗せる。指はそれぞれの脚の付け根に置き、親指は爪の先だけを合わせる。

 両手を構えた所で、これじゃあ結跏(けっか)趺坐(ふざ)の方が良いのではないかと考えて、足を再度組み直す。

 

 

 

 良い感じに足が痺れてきた所で、眼を閉じて顎を引き、呼吸を更に静かに、ゆっくりと行う。

 何も考えず、とは行かなくても、辺りの状況を探る感じに心を鎮める。

 自分を見ずに、辺りの状況だけを静かに受け止める。

 

 ザァーと雨と暴風が吹き荒れ、近くの樹木の枝を竜巻が吹き飛ばすバキリという音。

 それらがだんだんと静まっていく。

 

 元より、鬱になっただけでも嵐は微妙に収まったのだから、それはそれで当たり前なのかな……?

 

 

 

 泰然自若。

 まず落ち着きなさい。

 そして物事に動じない心を持ちなさい。

 身も心も安らかになりなさい。

 そして何も変化せず、全てにおいて不動の精神を持つのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔し……」

 

 ……誰か来たようである。

 まぁ、声と彼女が無意識に放っている衝撃で、誰かなんてとっくに分かっているのだけれど。

 

 これは紅魔館のメイド、十六夜咲夜だね。

 というか、この家を知っているのってかなり少ないような気がする……霊夢とか魔理沙も知らないだろうし、異変解決組というか人間で知っているのって咲夜だけじゃないかな? あ、妖夢は半人半霊として除外するとしての話だけど。

 ……まぁ、何にせよ、もてなさ……なくても良いような気がしてきた。

 

 いや、これは欝だからそう判断してるだけだから戻さないと、境界を操る能力発動させて……。

 

 

 

 ………………うし、戻った。

 結跏趺坐を解いて、お茶を一口飲んでからようやく声を掛ける。

 

「いらっしゃい、咲……どうかした?」

「……い、いえ、何も見なかった事にするわ……」

「?」

 

 何故咲夜がああも焦ったような顔をしているのかが分からないけど……あ、私の鬱状態を見たからか?

 そんな私、変な状態だったのかな……?

 ……座禅を組んでたからか。

 

「まぁ、いいや。それで昨日に引き続き私に何の御用でしょうか?」

「ええと……コホン。貴女、異変について何か知っているようだったわね?」

「ん? ん、ん〜……まぁ、知ってるっちゃあ知らなくもないけど……」

 

 異変を起こしたのは誰かとかは知らないよ?

 どういう事が起きているのか、とかなら説明出来ると思うけど。

 

 大体、昨日は容疑者を捕まえに来た癖に。

 無罪放免として開放された筈なのに、もう一度捕まえて話しあおうかって? それはまた冤罪という奴じゃないかなぁ、と思わなくもない。

 

「またレミリアからの命令で私を捕まえようっての?」

「いいえ、今回はお嬢様は関係ないの。私の意思でここに来たわ」

「ほぉ」

「因みに目的地は山の上」

「……物凄い寄り道してない?」

 

 そもそも私の家は山の裏手である。人里から見て、だけど。

 幻想郷の外れに位置すると言ってもおかしくない私の家に来るのだったら、守矢神社にでも向かった方が早いというのに。

 

「山に人間が立ち入るのは禁止されてるじゃない。だから貴女の力で問題なく入れないかと思って来てみたのよ」

「……へぇ」

 

 なにやら、随分と信頼されているようで。

 そういう奴じゃないってのにねぇ。

 

「そんな私は権力を持ってないよ。持つ気もない」

「そうなの? いつぞや天狗の新聞で『あの方が帰ってきた!? 鬼のような裏方大将』って記事があったけど……違う方だったの」

「……それ、もしかして文の新聞じゃないよねぇ……?」

「私に殺気を向けられても困ります。あれは確か貴女をレミリアお嬢様が呼び出した時に、情報収集として集めた天狗の新聞の一つだったわ」

「……ああ、そう……」

 

 あ……何だか頭痛がしてきた……。

 まだ、その呼び名続いてるんだ……。

 となるとどうせ『鬼の裏四天王』とか中二臭い呼び名も残ってたりするんだろうなぁ……。

 

 ……いやさぁ? 確かにあの大天狗三人とかなら今でも何かしらの命令を下したら従ってくれると思うよ?

 でも流石に今の妖怪の山だと、ちゃんとした指揮系統や社会の基礎が出来てるんだし、そう上手く行かないって………………多分。

 

 新聞の話を聴いたから、一気に私も天狗達の事を信じれなくなっちゃったじゃないか。

 

「……はぁ……いいよ、勝手に入りな」

「あら。良いのね?」

「もう良いよ。好きにしな……でも、天狗達を止める事は私にも出来ないからね?」

 

 私だって『妖怪の山』の住人である。規則を思い切り破る事はしない。

 ただでさえ、彩目は半人半妖で此処らに住む事に物凄く反対された事だってあったのだ。その事態を解決してくれたのは天魔だけど。

 この家が境界線上に建っているからこそ、色々と許可を貰ったような物なのだ。

 

 集団で反対されるというのは、中々に大きなダメージを貰う事になる。肉体的にも精神的にもね。

 

 

 

「そう、残念」

「……んじゃまぁ、ちょっとした加護でも上げましょうかね」

 

 でもまぁ、規則は破る為にある。という格言もある事だし、少しばかり助けてあげようかね。

 色々と気が変わった。

 

「最後に訊くけど、妖怪の山に用事がある訳じゃあないんだよね? 山は通過点なんだよね?」

「ええ」

「……オッケー」

 

 咲夜から動揺する衝撃音は聴こえない。本当に本当のようだし、加護を授けるとしましょうか。

 ようやく足のしびれも治ったので、立ち上がって居間に面している庭に降り、彼女の左手を取って両手で握る。

 出来れば頭に手を置きたかったけど……如何せん身長が足りない。残念。誠に残念。

 

 神力を使い、咲夜本人に加護を授ける。

 いやはや、祝詞もどきを告げるのも久し振りだな。

 

「──汝が八衢へ至ろうとも、我が加護により迷い路を開かん──」

「……何よそれ」

「酷いなぁ。折角私が助けてあげようって行動してるのに」

 

 まぁ、祝詞って言うのは人間からで、風雨の神が祝詞を言うのはおかしいと思うけどね。

 何にせよ、旅の神からの祝福ってだけである。

 

 掴んでいた手を離し、また私は居間へと上がる。

 ……すると、思い出したかのように竜巻が再び起こり始める。

 

 そういえば、結跏趺坐してから今の今まで竜巻が起きなかったんだよね。

 いやはや、実験は大成功かな? まぁ、行動してても竜巻が起こらないようにしないと意味は無いと思うけどねぇ。

 

 ()(かく)

 

「行くならどうぞ」

「……良いのね?」

「妨害はされると思うけどね」

「加護を与えてくれたんじゃないの?」

「与えたよ? そういう類の奴じゃないってだけ」

 

 わざわざ私がやりましたよ、なんてバレちゃうような加護は与えないっての。

 

 私が咲夜に与えた加護は、道に迷ったり壁にぶつかったりしても私の加護で道を開く、ってだけだしね。

 彼女が出遭う障害が何かにも依るけれど、私が手助けしたとはバレない筈……多分だけど。

 

「ま、行くならさっさと行くこった。ここに天狗が来ないって訳でもないし、見付かったらまずいでしょ?」

「……貴女の言い方だとそれほど問題がないように聴こえるのだけど?」

「そりゃあここが境界線の上だし、言い訳も出来るしね」

 

 まぁ、もし何か言われてもまだ何とか出来る。衝撃を使った催眠術もどきがあるからね。

 卑怯だよねーコレ。うん。

 

「ほらほら、目的があるんでしょ? 妖怪の山には用が無いのなら私が止める理由もない。行きなさい」

「そう、ありがとう」

「あ、私が手助けしたと他の妖怪に言わないように」

「? 分かったわ」

 

 そう言って、咲夜が空を駆けて山の方へと登っていく。

 流石にそこは口止めをする。誰かさんとは違って私は物事を隠すのである。大抵がバレるけど。誰かさんのように。

 

 う〜ん、それにしても羨ましい……あんなに自由に飛べるとは……。

 

 

 

 さて……また座禅を組みますかね。

 

 

 

 




 


 おお、寒い寒い……。
 作中では夏ですが、作者の私の部屋の温度は14℃。うう、何という羨ま。(なにか違う)

 誤字訂正 平成28年9月6日 午後10時50分
 小町 → 小野塚さん

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