- STAGE 5 -
『驕る者にも負けず』
「……出掛けてくる。留守は任せる」
「ん、了解」
彩目はそう言って、出掛けていった。
……まぁ、あんな話をした後だし、私と普通に会話を再開というのは難しいだろう……他人事みたいに語ってるけど、当事者というかそうさせたのは私である。
むしろ……そんな風に話せる私がおかしくて、そう語る資格なんて私には無い筈なんだろうけどね。
何にせよ今日は二十四時間の内、まだ八分の三もある。つまりは現在午後三時。
天候はいつものように荒れている。まぁ、今日は風も少し弱くて雨も降っていないから、風が強い日としか思わないぐらいの天気。とは言え私が頑張って竜巻の発生を抑えていれば、の話だけどね。
こうして誰も居なくなった我が家で一人縁側に腰掛けている私だけれども、理由のない勘が私に何かを告げているのでこのままの姿勢で待つ。
ぬこも何か感じているのか、今日はずっと私の部屋の奥の方で丸まったままだし。
つまりは、今日の異変はまだ終わっていない。って事。
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「アンタなら知ってるでしょ? あの捻くれ者の家を」
「あやややや。知ってはいますが……また色々と驚く事になりますよ?」
「……妖怪になんて驚かないって言いたいけど、アイツのやる事ならそう言われても納得しそうなのはなんでかしらね……」
「しかし、異変解決にあのヒトは関係無いと思うのですが?」
「アンタが庇うなんてむしろ余計に怪しいわよ。良いからさっさと教えなさい!!」
「はぁ。そういう事なら方向は反対方向ですよ? あの方達の家は山の裏手の境界線上にあるので」
「え?」
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さて、と……!
ようやくお待ちかねの人間が到着、ってな。
また適当にスキマから引っ張りだしてきた本を読んでいた顔を上げ、瞬時に後帯から扇子を取り出して開き、飛んできた弾幕を弾く。
やれやれ、随分とまぁ好戦的だ事。
「いきなりだねぇ? 霊夢」
「如何にも貴女が好みそうな異変じゃない。疑うのは当然でしょ?」
「……そうかねぇ?」
異変解決者。巫女で妖怪退治者の『
何者にも縛られず、自由で幻想郷で最も強いと言われる人物。
上空から降りてくる紅白の服を身に纏った少女。
既にお祓い棒、というか御幣を持って反対の手の指には御札が何回か挟まっている。
それにしても警戒し過ぎだろ、ってぐらいの攻撃態勢だけど……そんなに私が疑わしいかねぇ?
「頼まれでもしない限り天候を変えたりなんかしないっての。大体紫の式神でも一応あるんだからそんな事しないって」
「ふぅん? 何でいきなり紫が出てくるの? ……何で神社が倒壊した事を知ってるのよ。地震が起こったのは私の神社付近だけでそれも今日の朝なのに。余計怪しくなったわね」
「あ〜、知ってるのは否定しないけど……そりゃあアンタ衝撃を扱えるのに察知出来ないのはそりゃ能力的にどうなのよって話で……」
「じゃあ逆にどうして教えたり助けてくれなかったの?」
「いやいや、察知しようにも衝撃が私の元に来ないと駄目だし、幾ら衝撃を操れるからってその後の二次災害は私だってどうしようもない」
あれ? 至極まともな事を言ってるよね私?
なんで逆に霊夢の怒りのボルテージが上がってるのさ。
「いいわ、話していてもしょうがないようね。私と戦ってハッキリさせましょう」
「えー……何? 戦って勝った方が正しい歴史を刻むって奴? 私はそういうのあんまりお気に召さないんだけどなぁ……」
……やれやれ。
いったい今日だけで『やれやれ』とか『まったく』とかって言葉を何回使った事やら。
まぁ、いい。別に戦闘狂じゃないと否定するつもりもないし、正々堂々と勝負すると言うのは面白いと思うしね。
読んでいた本をスキマに落とし、とりあえず扇子も縁側に置いて庭に降りる。
戦うのは良いとして、霊夢には一つ言っておくべき事があると思う。
「こんな事を言うと自意識過剰に見えるだろうけどさ? 前回みたいになるとか思わないの? 確か肋骨とか結構折ってたよね? あんな傷をまた受けるとか、考えないの?」
「……」
前回……紫と霊夢と魔理沙が起こした、私を怒らせようとした時みたいに。
あんな真似をした私が言う事ではないと思うけども、あれは普通トラウマになるようなものだと思うんだけどねぇ。
「……少なくとも、今の冷静なアンタだったらそんな事はしないでしょ」
「おやおや、こりゃまた随分と高く買ってもらえちゃったようで……」
まぁ、確かにそこまでやる気はないしね。ああいうのは私だって嫌だ。
腕を真っ直ぐ上に伸ばして横に倒し、そこから様々な角度にまげて関節を鳴らしていき、最後に背中で掌を合わせて合掌して肩甲骨を鳴らす。うむ、実に気持ちが良い。
……まぁ、向かい合わせに立つ霊夢は気持ち悪そうな顔をして私を見ているけどね。
「一体何処を鳴らしているのよアンタは……」
「ふふ、まぁまぁ。単なる私の癖ってだけですよ。お気になさらず」
「もう遅いわ」
「でしょうね。さて……」
先程霊夢が何の警告もなしに撃った弾幕を防いだ扇子を縁側から拾い、その手を真っ直ぐ彼女に伸ばして戦闘意欲を示してみる。
本日の扇子の模様はプラスチックのような白い黄色の骨に、扇面は古びた印象を受ける褪せた緑色の和紙が貼られている。人里の職人作である。いやはや中々に良い職人が幻想郷にも居た訳だ。
……まぁ、今はそんな事、どうでもいい。
「私は神社を倒壊させたり、気象を操ったりしてない。異変とは無関係だ……って言っても聴かないでしょ?」
「当たり前でしょ。疑いのある奴の言う事を信じるなんて、バカのする事じゃない」
「……ははっ、そう言えるのは霊夢が何処までも宙に浮けれるからじゃないかなッ!!」
言葉を切り、それと同時に霊夢へと伸ばしていた左手を勢い良く下ろし一歩前へと進む。
その時に踏み出た右足を始点に辺り一帯へと結界を張る。無理矢理に場をセッティングしてやる。
我が家を含まずに私と霊夢を含んだ結界が周囲に張られる。それと同時に私が抑えていた竜巻の発生の封印も解けて、一気に風が強くなった。
いつも通りの弾幕ごっこなんかしていたら、霊夢相手だと尚更負けるのが目に見えているからね。
とは言え、私がセッティングしたこのルールだと今度は私が有利になりすぎるんだけど……まぁ、そこは私の駆け引きテクニックがどれほど霊夢に適用出来るか、だ。
「格闘メインの弾幕ごっこ。今流行っているらしいルールで勝負」
「良いわよ。相手の結界に一定量の攻撃を加えて粉砕、でしょ? けどそのルールだとアンタが有利過ぎない?」
「だろうね。もちろんそれについてはこちらも手加減や縛りを入れても構わない」
「あら、条件は私が付けて良いの? じゃあアンタは攻撃をしちゃダメ」
「それはもう勝負じゃないでしょ。一定時間避け続けたら勝ちってなら分かるけどさ」
「それこそ勝負にならないじゃない。アンタの動きを追って撃つなんてどれだけ難しいか。そもそも速すぎるのよアンタ。もしかしてホントは天狗なんじゃない?」
「これが天狗じゃなくて鎌鼬なんですよね。ていうか、それを打ち破る程の誘導弾幕を撃って私を負かしたのは誰でしたかねぇ……?」
「うっ……あ、あの時は別よ! アンタだって正気じゃなかったじゃない!!」
「まぁね。んじゃあ逆にこうしようか。私がスペルカードだけで霊夢を攻撃するから、それを規定時間まで逃げ切るか打ち破るかしたら、霊夢の勝ち」
「ふぅん? それじゃあ他のと何も変わらないわね。それにその技が物理攻撃だった場合、私の結界が粉々でしょ? ダメよそんなの卑怯よ」
「どの口が言うのやら……」
「なにか言ったかしら?」
「いいや何も。で? じゃあどうするってのさ?」
「そうねぇ……アンタは能力使用禁止ってのは? もちろん鎌鼬特有の技術とかは使っていいわよ」
「それだと私は何も出来ないよ? ただでさえ日常生活ですら能力頼りになりかけてるからね」
「何で自慢気なのよ……ああ、もう、何一つとして決まらないじゃない」
「もういいじゃん。私がスペルカードだけの攻撃で。そこから私が物理攻撃系を使わなければいいだけの話でしょ」
「アンタが信用出来ないから話が堂々巡りになってるんじゃない」
「じゃあ信用してよ」
「犯人かもしれないのに? 無理よ」
「話を堂々巡りにしてるのは霊夢なんじゃないかなぁ……分かった分かった。今度何かしてあげるから」
「例えば?」
「あ、それには喰い付くんだ……そうだね。今は思い付かないから霊夢が何か頼みたいって時に何かしてあげよう。まぁ、当然私に出来る範囲でだけど」
「それは勝負をする為の条件であって、勝負後の命令って訳じゃないのね? それならいいわよ」
「……うん、もう、それで良いよ」
あれ? これ明らかに駆け引き失敗してないか?
……まぁ、いっか。
というか、霊夢とグダグダと話している内に戦い前の準備がもうめんどくさくなっただけである。まる。
別に、私の目論見自体は別の所にあるしね。
やれやれ。霊夢と戦うってのに、戦う前からどうしてこんなに疲れた感じにならないといけないのやら……。
……まぁ、そんな事を考えている私だが、実はそれほど勝とうという意思はない。
通してしまったら山の面子が、とかは考えてもないし、彼女が異変を解決するというのなら私がそれを止める理由はない。それこそ異変を解決しているのなら山の中なんてどうぞご自由に、って感じである。
既に咲夜や魔理沙も上に行ってしまったが、天候の異変がまだ終わっていない状態なのだから異変自体は終結していないのだろう。
では何故戦うのか。答えは簡単、喧嘩を売られたから。そして私自身が喧嘩を好んでいるから、だ。
勝つか負けるかどうかは、重要じゃないけどね。その後の目的が達成できるかどうか、だ。
……まぁ、これだから私は嫌われるんだろうけど。
「いざ勝負」
「ふん、望むところよ」
右足を地面から浮かし、即座に地面に叩き付ける。それを素早く見抜き、霊夢が地面へ足を叩き付ける前に私へと御札を放つ。
けれども既に彼女は一手遅れている。弾幕が私へと到達する前に足裏は地面にぶつかり、その衝撃を操って一気に弾幕の危険地域から離脱する。
結界の天井へと到達し、更にそこから衝突時の衝撃で結界の四隅へと移動する。
さぁさぁ、逃げてばっかりじゃあ面白くない。面白くしたいというのならまず自分から面白くしなければ。
「《扇風『
《扇風『
一枚の葉が落ちるのを見て秋が近い事に気付く様から、わずかな前兆や現象から物事の本質や衰亡を察する事
あ、そろそろ鬱注意です。まだ軽いと思うけど。