- STAGE FINAL -
『天道是か非か』
今日は博麗神社の落成日。
そして幻想郷での私『
「準備は良いかしら?」
「万事オッケー」
「いつでもどうぞ」
「大丈夫です!」
「そう。なら行きましょうか。天人の魂胆を潰し、奴を亡き者にしてしまいましょう」
そうして主の作ったスキマを通り抜け、落成式へと乱入する。
「何!? 何!? 今は神社の落成式中よ?」
と、何やら壇上で騒ぐ、青髪の女の子。ふむ。
どうやら彼女が、今回の異変の首謀者と言う事らしい。
やれやれ、こちとら首謀者に何回間違われた事か、とかそう言う理由で彼女に怒って即座に攻撃してやっても良いのだが……何分、今は主様の御前である。自重自重。
第一、そんなに怒ってもないしね。間違われてもおかしくないのは私の態度が原因だし。
「だから壊れちゃいなよ」
そんな風にどうでもいい事を考えながらも、周囲を確認して状況を計る。
幻想郷を支える博麗神社、それも新生神社の落成式だからか異変に関わった人物だけでなく、人里からも何人か人間が来ているようだ。ちらほらと見知った顔がある。
……が、やはりこういった危険な道の奥にある神社に居る事が出来る者というのは、やっぱりそれなりに力があるか、それなりに人脈があるか、そのどちらかが大半になってしまう訳であって。
遠い所からわざわざご苦労様である。護衛がいなけりゃ本当に死んでいたかも知れないのに。
……まぁ、その護衛をしていたらしき慧音や早苗。彼女達が来ているとは思わなかったけどね。あと天魔もな。
流石に小野塚さんや……牡丹は来てないみたいだけど。
牡丹には今度、ちゃんとご挨拶に行かないとねぇ。
彼女の考え方は一体どうなっているか。死神となって変わったのか変わっていないのか。楽しみだよ。
さてさて、そんな二人の言葉の掛け合いに場の緊張感もだんだんと上がっていく。
視界を戻せば新しい博麗神社の目の前で、両者が向かい合っている。主様とその敵がボルテージをどんどん上げていくのにその従者は何をやっているのやら、と思わなくもない。
落成式に参加していた筈の人々や妖怪は、巻き込まれる事を恐れてか、いつの間にやらかなり後ろの方へと下がっていた。まぁ、ある意味当然といえば当然。
下がらないのは……やはり紅魔館に白玉楼、力のある強者……と言うか、怒った紫を見て楽しめる面子ばかりか。
「ちょっと紫!? 何なのよコレ!?」
「あやややや。これはこれは……」
「ふん、どうやら退屈なだけの落成式にはならないようだな。咲夜、ワインおかわり」
「まさか幽々子様……ここまで見通して?」
……それにしても、二人がアレほどまでに険悪ムードなのにも関わらず、実に自由気ままな幻想郷の住人である。
そう紫が宣言し、彼女二人を囲む結界が創られる。
私、藍、橙は戦う紫のスペルカードによって結界内に呼び出され、カードの効果が切れると同時に結界の外に出される。まぁ、他にも役目がそれぞれあるけど。
私達は彼女の戦いをアシストする、まさに式神や従者という訳だ。
あゝ嘆かわしや、と心にもない事を考えてみる。
「ちょ、ちょっと? どういう状況なのよ?」
私達が並び、結界の中を見ていると当然周りのヒト達が質問をしてくる。
霊夢が訊いてきたので、藍と少しばかりアイコンタクトを交わし、彼女に説明を任せる事にする。
「あの天人は、神社を再建する際に仕込みを入れたそうだ」
「仕込み? 何か術式を組み込んだって事?」
「奴は元々神社の家系でもあったからか、そういうのに詳しいのだろう……まぁ、そこは神様の方が詳しいんじゃないか?」
アイコンタクトを交わしてたった数秒で、その関係が崩壊するとはどういう事なのだろうか。
どうしてそこで藍は私の方を見るかなぁ……。
あれ? さっき『説明任せて良い?』『了解』的な目線を伝えあったよね? 全然伝わってないじゃないか? まだ何か恨まれているのだろうか。あ、いや、否定出来ないけど。
……絶対、まだ式神を付けられた状態での言葉遣いに慣れていない私を嘲笑おうとしているようにしか見えない……いや、そうとしか思えない……。
「は? 神様?」
「おいおい、詩菜って更に神様だったのか? どんだけ常軌を逸してるんだよ」
「……」
こっちもあったか……まさか知ってすら居ないとは……。
私が自ら神様だって教えた人物って、そんな少なかったっけ? いやまぁ、確かに教えた記憶は後ろの方に居るアリスぐらいしかないけどさ。
やれやれ。つい顔に手を当てて空を仰いでしまった。
あ、なんか藍が嘲笑ってる気がする。顔には出さず内心笑ってる気がする。ちくしょうめ。
……まぁ、いいさ。どうせバレると思ってたし。予定が早まったぐらいに思っておこう。
「はぁ……神様は否定しませんが、そこまでは詳しい事は知りません。そもそも私は、定住地を持たない神ですから」
「……なんで敬語?」
ああ……なんだろう。顔がやけに熱く感じてきたなぁ……。
面倒臭いったらありゃしない。
……いや、旅行の神様で八雲の式神となっている今の私は、敬語しか使えないと説明してしまえば良いだけの話なのに、変な気恥ずかしさがどうにも勝ってしまうだけなのに。あゝ嘆かわしや。
「今現在は私は式神なので。『八雲
「……式神になって、名前が変わるってのもねぇ」
「今更感が半端無いけどな。敬語じゃない時は何なんだって話にもなるし」
うるさいな。私だってそう思う……いやまぁ、詩菜から緋菜に変わった時はちょっと感動を覚えたけどさ。
でもま、なったものは仕方ないのである。
現在の私は八雲紫の式神である。そりゃあ多少は元来の式神とは色々と理屈が違うだろうけども、契約上は彼女の式神なのである。
「《式神『八雲藍』》!!」
そんな会話をしている最中に紫がスペルカードを使って藍を呼び出した。
会話の最中にも関わらず、藍が瞬間移動をして結界内にワープ。青髪の女の子に回転しながら突っ込んでいく。
そうして突然消えた藍にもさして驚かず、霊夢達は結界を一瞥して私へと会話を吹っ掛ける。
……だから、無理やり敬語になるんだから話し掛けないでっていうオーラを出してるつもりなんだけど、君達は気付かないかなぁ……?
いや、それとも気付かない振りをするのが幻想郷ルールとでも言う奴なのかい?
「とすると、お前も藍や橙みたいに呼び出されて攻撃するのか?」
「あんたが攻撃するってなるとねぇ……あの物理攻撃の威力は反則にも近いんじゃない?」
「……流石にそこまで一方的な事はしませんよ。紫様の顔の為にも、今の私は卑怯な事をしませんから」
「それは暗にいつも卑怯な事をしている、って事じゃないのか?」
「ノーコメントです」
それこそ、そいつはいつもの私、という事になるんだろうけどね。
まぁ、そんな事はどうでもいいのである。折角の式神状態なのだから、今までとは全然違う私で行こうじゃないの。
理解不能の面目躍如である。
そんな事を話して考えていると、遂に私も呼ばれる事になった。
「《式神『八雲緋菜』》!!」
カードの効果によって、私が何もしなくとも結界の中へと転送される。
橙が結界内を跳び回る。藍が敵に向かって突進。
じゃあ私は何をするのかって? 私はいつでも変則的。予想なんて斜め上どころか、
転送された場所は紫の約一m先の上、大体三mの高さの場所。
そのまま自由落下していく途中で、天人の子と一瞬視線があった。
驚きと、焦燥感と、若干の後悔と、戦闘の楽しみが少し。それらがミックスしたような瞳の色。
……まぁ、それでも今の私はやれる事をするだけである。憐れみをちょいと覚えるけど無視無視。どーでもいいね、今は。
式神なら式神らしく、与えられた命令を忠実にこなすだけってね。
地面へと降り立つ前に空間を圧縮、衝撃によって緋色玉を創り出す。
そしてそのまま片手に掴んだ緋色玉を地面に叩きつける。
ガギゴンッ、という音と共に、私を中心に地面が一挙に浮き上がって彼女を吹き飛ばす。
「ぐぅッ!?」
彼女が浮き上がった瞬間に、視界の端でレーザーらしきものが見えた所で意識がブレ、結界の外へとまた瞬間移動した事に気付く。少しばかり身体がグラつく。
……ん〜、何回も繰り返したら酔いそうだ。本当に。
「やっぱり強いじゃない」
「そうですか?」
「……いきなり声を掛けて、即座に反応を返してもその敬語は抜けないのね」
……いや、だから強制的に敬語っぽくなるんだって……。
四半刻もせぬ内に、彼女達の勝負は終わった。
勝者は、無論────と言うとアレだけど、八雲紫であった。
しかし、それでも地面に突き刺さった剣によって、神社の地面がありえない程に持ち上がったりして、二人の姿が全く見えなくなったりもした。
『異変』を起こすぐらいだから当然無いとおかしいと言えそうな力だけども、一般人にとっては異常としか言えない力だ。まぁ、私も自分の事を一般人とは言えないけど。
浮き上がった岩盤のような物のせいで辺り一帯が壊れそうになったので、そこは何とか衝撃でどうにかした。
どうにかしたというのは、剣が地面に突き刺さった事で持ち上げられる岩盤の範囲が、結界の中だけだったから良かった。
それに引っ張られる形で地面が浮き上がっていたから、他の部分を衝撃で削ぎ落としたり逆に衝撃が来ないようにしたりすれば良かったんだしね。
けれども考えて見るに、そんな事をせずに放置しておけば無駄な浪費はせずに済んだのかもと、思わなくもない。
まぁ、他にも人々が居たしね。周りの皆を助けた、と思う事にしよう。うん。
地面に倒れ伏している青髪の少女。
満身創痍で身体を起こす事すら上手くいかない彼女に向かって、紫がスペルカードを手に持って近付いていく。
その姿はどう見ても怒りに満ちた大賢者が、自分の神社に手を出した天人を処刑しようとしている風にしか見えなくて。
だからだろう。幻想郷に住む人間の守護者である、博霊の巫女が彼女を止めたのも。
「紫、そこまでよ」
「……貴女、自分の住居を壊されたのよ? 更にコイツは自分の物にしようとしているのよ?怒らないの?」
確かに、そこだけを見れば博麗の巫女が激怒するだろうとは思う。
でも紫……霊夢が言いたいのは多分、そこじゃないよ。
「それに対しての怒りはもう奴にぶつけたわ。仕組みについては今あんたが懲らしめた────私が言いたいのは、『弾幕ごっこで負ければ素直に引き下がる事』。それをあんたが忘れてるようだから言ってるのよ」
負けた者は勝った相手に対して報復や仕返しなどを考えてはいけない。
霊夢は、その反対の事を言いたいのだろう。
「勝負で対等に戦ったっていうのに、勝ったあんたが更に追撃してどうするのよ」
「大賢者ともあろうお方が、そんなんじゃあ形無しだぜ?」
更に魔理沙からの言葉の追撃。
……しかしながら、紫は別に青髪の子を追撃しようとはしてないんだなぁ。
ま、それを私が知っているのは事前に言われた『命令』があるからなんだけどね。
「……『緋菜』」
霊夢と魔理沙、更に周りからの視線さえも気にせず、私の名前を宣言する我が主様。
それに対して全く動けない青髪の子……ていうか、名前聞いてないような……。
まぁ、私は私の仕事をするだけ、ってコレも前に言ったっけな……それじゃあ、一つ言い換えて。
さてさて、私の眼はどれだけ紅く輝いているのやら。
「紫っ!!」
「紫様、『どれくらいまでやっても?』」
「……そうね。貴女の本気を見せなさい」
「承知」
「詩菜ッ! お前!!」
残念だが魔理沙。コレも仕事でね。式神なんで、命令には逆らえないさ。
さてさて……主様から『本気でやれ』と言われてしまったからには、能力を最大限活用しなければ。
式神として私に付いている《荒覇吐》の力を、最大限まで高める。
その状態で例によって両手を合わして柏手を打ち、能力を使って風や空間とかそこら辺のものを圧縮する。
大地の母は黄昏時に如何なるモノを喰らう? つってね。
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式神化した私の『緋色玉』によって、博麗神社は再び崩壊した。
しかもよりによって落成式の途中に壊れるなんてね。いやぁ〜。あ〜、嘆かわしや〜。
……まぁ、ふざけてないで、私は私の仕事をしないとね。
私が神社を崩壊させた事によって、新しい神社と天人のパスは真っ二つにされた。これで天人の企みは恐らくぶち壊された。
神社を持つ家系である彼女の、新しい住処を持とうとする陰謀は見事防がれた訳である。
神社崩壊を見届け、八雲一家は何も語らずに去っていった。私は残ったけどね。
紫も自分の大事なモノに手を出されたからあんなに怒ってたんだろうね。私に事情を話していた時はあんまり怒っていた素振りは見せなかったけど、実際に当の本人を目の前にするとああなっちゃったと。我が主殿は可愛い時は可愛いものだから許せんなぁ。
けど説明まで私達に任せるってのはなぁ……まぁ、主が面倒臭がる事をやるのは従者の仕事、って訳かね。
後片付けは任せたとばかりに藍の冷たいアイコンタクトが飛んできたし、仕方ない。後でうちのぬこでも持っていって自慢して喧嘩でも吹っ掛けてやろう。
さて……まずはどう、
「────アンタ、覚悟は出来てるでしょうねぇ?」
どうやって……からかいすぎた彼女の怒りを鎮めようかな。
ま、いつものように、やれやれのポーズを取って、いつものように、理解出来なさそうな意地の悪い笑みを浮かべる私にゃ、こういう役はピッタリだろう。
ああ、厄と言い換えても良いかもしれない。緋菜だけに。
残暑お見舞い申し上げます。(半年ぶり)
いや〜……遅れて申し訳ありませんでした。
更新を再開するとも言えない状態はまだ続いているのですが、失踪するつもりはございません。
ぽつぽつと続ける予定ではありますので、今後とも宜しくお願い致します。
あ、私の活動報告にて宣伝がございます。
誰も待ってないともっぱらの噂、『IFエンドその2』、完成致しました。
読んでやるよ、という方は諸注意を読んだ上で、もう、三度程、意志のご確認の程を、宜しくお願い致します。
誤字訂正 平成28年9月6日 午後10時51分
小町 → 小野塚さん