風雲の如く   作:楠乃

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 - STAGE 6 -
  『外道、是か否か』





東方緋想天 その14 ・外道、是か否か

 

 

 

「……あれ? なんだ、神社、直ってないじゃないの」

 

 と、空から飛んできた鈴仙(れいせん)優曇華院(うどんげいん)・イナバさんは言う。

 本日も女子学生のような服にウサギの耳、明らかに何か狙っているように見えるヒトである。

 まぁ、妖怪なんだけどね。妖獣なのか、月の民なのか、詳しい事は知らないけど。

 

 言われている通り、確かに神社はものの見事に崩壊しているし、参道はボロボロ。人気(ひとけ)どころか幽霊すらでそうな気配ではある。流石妖怪神社という訳だ。

 実際には妖怪達が階段の下で待機しているだけだけど。まぁ、巻き込まれたくない普通の人達は殆どが引いているだろうし、人気がないのは確かだろう。ヒト気はあるかもしれない。

 

 はてさて、そんなどうでもいい事は置いといて地面を蹴って音もなく鈴仙の背後へと着地。

 

「遅かったね鈴仙」

「あれ? 詩菜じゃな、うわわっ!?」

「おっと、もう追いつかれたか」

 

 倒壊した神社の向こうから飛んで来る御札を避けて、鈴仙のブラウスの襟を掴んで弾幕を避ける。

 

「くえっ、首が!?」

「ああ、ごめんごめん。こうでもしないと避けきれないかな、ってね!!」

 

 今度は大きな陰陽玉が飛んできた。

 やれやれ、普通に陰陽玉が飛んで来たならいい物を、スペルカードのように弾幕のような力が混ざっているから困る。

 そういうのは反射出来ないから困る。いや、やろうと思ったら出来るけど、酷い目に遭うからいやというだけなんだけど。

 

 そんな事を思いつつ鈴仙の首襟から手を離し、腰に手を回して今度は樹々の上へと跳び移る。

 実質、腰に片手を回してたとしても彼女の体重を支えきれないけど、まぁ、そこは両手を回す事で何とかカバー。

 

「ちょっと、なんなの!? なんで霊夢に攻撃を受けてるの!?」

「そりゃあ私が再建した神社を倒壊させたからねぇ。怒るのも当然でしょ」

「はい? 貴女が?」

「一応ちゃんとした理由はあるんだけど……まぁ、彼女の怒りが覚めるまでは攻撃に付き合うつもり」

「……」

「ま、そんな中でいきなり鈴仙が突っ込んできたから、説明と保護をしようと思ってね。魔理沙とかアリスなら階段の下に居るよ」

 

 一応この樹の上なら霊夢の姿が確認出来て、尚且つ私らの姿もまだ隠せてる。

 その内どうせ気付かれるけど、数秒は稼げる。

 

 ていうか、紫も後片付けを任せるというのなら式神ぐらい残してくれれば良いものを。

 アレなのかね。藍と違って遠隔で憑け続けるのが難しいのかね? 荒覇吐は。

 ま、なければないでどうにかして時間稼ぎをするんだけど。

 

「だから、速く逃げた方がいいよ?」

「……異常に細かく振動したり、やけにゆっくりと長かったり、いつも一定しない波長。狂ってるのか狂ってないのか、イマイチつかめないのよね、詩菜は」

「ん?」

「こっちの話。霊夢を止めて説明すればいいんでしょ? 手伝うわよ」

「……そう? それは有難いけど……ついてこれる?」

「う、スピードに関してはちょっと自信ないわ……」

「ま、誰だってそうだろうけどねぇ」

 

「見付けたわよ、そこね! 隠れるのは止めて正々堂々と勝負しなさい!!」

 

 予想以上に時間が稼げた。お陰で援護すら得られた。

 ……いや、別に援護自体は本当はいらないんだけどね。私が霊夢からの怒りを受け止めればいいだけだし。

 まぁ、今後の事も考えて、素早く霊夢に説明した方がいいか。

 それと同時に、彼女との関係も修復出来ればいいけどね!

 

「来たよ。無理だったら普通に逃げていいからね?」

「師匠の恩人なんでしょ? 私が助けるのは当然!!」

 

 樹の上から二人同時に、別々の方向へと飛び(跳び)出す。

 一人は空を飛び、一人は地面へ跳んでいく。

 

 私は地面を跳ねて、霊夢の撃つ誘導弾を避けていく。

 ……うん。やっぱり私がブチ切れた時よりも、誘導の精度が甘い。

 

 矢印のように隊形を組んだ真っ赤な御札が、私の方へと殺到する。

 その御札の隙間を潜り抜け、視界を上げた先には更に真赤な御札の陣形が三つも四つも見える。

 まぁ、地面にあたって破裂。更に御札が増えるとかはないようなので、単調に避けていくだけである。私から霊夢に向かって攻撃するつもりはない。

 

 攻撃してくれるのは、鈴仙だけである。

 

「なんであんたがそっちに居るのよ!!」

「霊夢さん、落ち着いて!! 一度話を聞きましょうよ!!」

「いやよ! そいつと話すと何から何までこんがらがってくるのよ!」

「た、確かにそうですけど!」

 

 ……ま、まぁ、鈴仙もそこまでは否定しきれなかったらしい。

 

 鈴仙の言葉も届かず、霊夢の攻撃は更にキツくなる。

 霊夢が空中で動きを止め、彼女自身を中心に結界が二重に出来て、黒白と赤白の二種類の御札の弾幕を撃ち続けて来る。あ、あともう一種類私狙いの白黒御札があるな。

 一枚目の結界に触れた御札は、二枚目の結界から『霊夢の方へと』飛んでいく。

 また一枚目の結界に当たると今度は二枚目の結界から出てくる。

 実にややこしい。見ているだけでも混乱してくる。更に私狙いの御札もあるもんだから、どれだけ御札を持ってるんだか。いやまぁ、霊力で構成された御札なのかもしれないけどさ。

 

 ……でもまぁ、どうせこっちに来るのは二回も結界を通った後だから、私の方へと来ている弾幕を避ければ良いだけかな?

 それを可能としているのが、鎌鼬という妖怪だからこそ出来る反射神経。

 まぁ……この前はそれで霊夢に怒られたんだけどね。

 

 因みに、私狙いの弾幕以外は全方位に飛んでいる為に、霊夢を挟んで反対側に居る鈴仙はたまったものではないと思う。現に叫びながら叫んでいるし。

 

「ぎゃあ!? ちょっと、待ああっ!?」

 

 耐え忍べ、鈴仙。

 速度はなくても、キミには空を飛ぶ技術があるじゃないか!!

 

 まぁ、つまりは放置である。耐久スペルだしね! しょうがないね!!

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 しばらく避け続け、鈴仙も何度か被弾していて苦痛の声を漏らしたりしていたが、そろそろ慣れ続けてうまく避けれるようになってきた頃になって、ようやくその二重の結界が消えた。

 霊夢のスペルカードとしての時間制限が来たのか、はたまた霊夢自身の気力が途絶えたか。

 

「……」

 

 それとも、あまりにも簡単そうに、

 言ってしまえば、暇そうに避ける私を見て、完全にブチ切れたか。

 

 

 

「……やめやめ。これ以上あんたを攻撃しても意味が無いわ」

「……そっか」

 

 どうやら、気力が途絶えてしまったようだ。

 いや、それとも鈴仙が霊夢の波長を何とか操ったのかな?

 

 まぁ、何にせよ彼女は攻撃を止めてくれた訳だ。

 

「ねぇ、霊夢」

「……何よ」

 

 あらら。もしかしたら疲れ果てて機嫌も治ってるかな? とか考えていたけども、そんな事は全然なさそうだね。

 疲れ果ててどうでもよくなっても好き嫌いは直らない、って事かね。

 

「色々と謝るよ。今回の事も前回の事も」

「……」

「私の家で卑怯な勝負、あの時もちゃんと謝ってなかったしね」

「……なによ、今更」

「今更、確かにね。言い訳にしか過ぎないけど前回も今回も、私は幻想郷の為に、ひいては私の知り合いの為に、私は行動したんだ」

 

 異変の解決。

 それは内容にもよるけど、幻想郷の住人の安全・平和を守るための行動。

 

 博麗神社の倒壊。

 これは我が主に命令されたからっていう最低な言い訳もあるけど、八雲紫という知り合いを助ける為の行動でもあり、博麗霊夢へと伸びようとする悪意ある繋がりを断ち切るという意味もあった。

 

 だからと言って、これらもすべて言い訳に過ぎず、やりたいようにやっただけでしょ? と(うそぶ)く自分も居るんだけどね。

 

「だから、悪かった。更に下衆な事を言わせてくれるのであれば、前の戦いで約束した私に出来る範囲でのお願いを二つに増やしても良い」

「……ほんと、下劣ね。神様のくせに」

「神様だからね。何処の世界の神様でも二面性以上の顔を持つよ?」

「ふん……」

 

 こういう所が天邪鬼とか言われるんだろうけど、どうにも癖になりつつある。

 

 

 

 そうしてしばらくの間、霊夢は腰に手を当て空を仰ぎ見て……溜め息を吐きながら、こっちを睨み付けた。

 

「……あんた、目的があって神社を壊したのよね」

「うん。そこで倒れてて、そろそろ起きそうな彼女の企みを潰す為に、神社を壊した」

 

 そう言って、丁度斜め右後ろの方向に倒れている青髪の天人を指差す。

 霊夢が彼女の方へと覗き見るのに合わせて私も後ろへと振り向くと、丁度彼女は立ち上がろうとしていた所だった。

 

「あ……私天人様に用があったの……あと、手を貸さなくても大丈夫……?」

「そう、頑張ってね鈴仙」

「うん? ……う、うん」

 

 そう言って鈴仙は天人の方へと向かった。

 まぁ、恐らく彼女等はまた戦い始めるのだろうけど、それも含めて応援の言葉を送ったんだけどね。

 

 

 

 鈴仙を見送り、霊夢へとまた顔を向ける。

 困惑したような感じの顔。納得したくもないけどしなければいけない、そんな不満を抱えたような表情だ。

 

 まぁ……私の所為だし、仕方ないかね。

 ……いかんなぁ。『どうでもいい』が口癖の筈なのに、最近は『仕方ない』ばっかりだ。

 

「私としては、このまま神社を私達に任せて再建させてくれるのを許してくれれば、とても嬉しい」

「……あんたが再建するの?」

「正確には、妖怪の山の皆、だけどね」

 

 そう言った瞬間、何処かからか強い妖気が集まってきた。

 いや、これは集まってきたと言うよりも、

 

 『萃まってきた』……って言うべきかね? それとも『蒐まってきた』?

 能力を使い、自分自身の密度を操り、土の下や雲の上、幻想郷全土に薄く広がる事が出来る、鬼のご登場である。

 

「やっほ詩菜」

「やぁ萃香、要石はどうだった? 多分無事な筈だけど」

「うん、無事だった。そしてちゃんと本物だった。地震に関してもキチンと抑えられてるみたいだったし」

「そりゃあ良かった」

 

 本気でやれと主様に言われてもね、それを壊しちゃあ元の木阿弥。いや、別に刺さった事で良くなった訳でもないし、元の状態が良いって訳もでもないけどね。

 

 そう彼女に返事した所で、未だに睨み合っているような状態の私と霊夢を見て、

 はぁ、と溜息を一つ。

 

「また喧嘩をしてるのかい? ヒトを怒らせるの、本当に得意だね」

「私だって好きで喧嘩してる訳じゃないっての」

「そりゃあ分かるけどさぁ……」

 

 そんな昔から私喧嘩してるかね……?

 ……幽香とか? 紫とか? 勇儀とか? 妹紅とか? 藍とか? 彩目……レミリア……チルノ……霊夢……。

 あ……結構多いかな……? ていうか、関わった人物のほとんど? あはは……。

 

 

 

「霊夢、私からもお願いするよ。神社は私等に任せてくれないかな?」

「……鬼である萃香は良いわ。でも、ソイツ(詩菜)は信用ならない。嘘を吐きすぎるから」

 

 わぁ、すっごい言われよう。

 でもって、何一つ否定出来ないもんね! なんてこったい。

 

「まぁ、確かにね」

 

 ほぅら!

 萃香ですらこう返すもんね!

 もうどうしようもないね!!

 また『仕方ない』を使っちゃってるね!! もう駄目だね!! わははは!!

 

 

 

 

 

 

 ……そんな風に、また変な方向に思考が飛びそうになりつつある時。

 

 萃香の続きの言葉が、私の思考を止めた。

 

 

 

「でも、詩菜は真っ正面から約束した事は破らないよ」

 

「……」

「互いに視線を合わせて、向かい合って真摯に誓った事は守りきる奴だ。それは鬼が約束するよ。それでも破る時は、他に大切な約束事があった時さ。もしくは破らざるをえない精神状態のどちらか。ま、長年の付き合いから言わせて貰うとね?

 

 だからこそ山の天狗達だって今もついてきてるんだし、鬼にも気に入られたのさ。

 信じられなくても、頼れるよ。詩菜は」

 

 

 

「………………はぁ……良い。分かったわよ。今回は萃香の説得に納得してあげるわ」

「うん! まぁ、それでも今回は、か」

「当たり前でしょ。私自身がそんな現場を見てないんだから。詩菜がちゃんと神社再建に尽力するなら、まぁ、少しは納得するけど」

「日頃からこんなフワフワした性格だしねぇ。本人も怨まれても仕方ないみたいに言うし、直そうとはしてるって言うんだけどさ?」

「直ってなけりゃ意味ないじゃない……まったく、忠告すら耳にしないとはこの事ね。馬耳東風かしら?」

「まぁ、詩菜だし……って、おーい?」

 

 

 

「……なんで顔真っ赤にして止まってんの?」

「さ、さぁ? 何か私達変な事を言ったかな?」

「そいつ以上に変な事なんてほとんど無いわよ」

 

 

 










 自ブログのIFエンドの警告文の方に、内容に合うであろうBGM(作業中に掛けてたとも言う)を表記してたんだけど、投稿した後にどうしてMB○A版の俯瞰風景を聴かなかったんだろうと思う。時既に遅し。

 それにしても話のストックがない。(なら何故更新した)

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