風雲の如く   作:楠乃

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東方緋想天 その18

 

 

 

 魔理沙と彩目の所に戻ってみれば、娘の方は眉を顰めているし、普通の魔法使いの方はニヤニヤとしている。

 何だね君たち、何か文句でもあるのかね。

 それとも何かね。私のあの終わらせ方に文句でもあるのかね?

 

「いやぁ、あの『理解不能の鎌鼬』が宴会を考えてちゃんと引くなんてなぁ。こりゃあ竜巻でも起きるんじゃないか?」

「今すぐ魔理沙の目の前に起こしてあげようかね?」

「わわっ!?」

 

 起こしてあげようかね? とか言いつつ実際に彼女のすぐ隣に竜巻を起こしてやり、彼女曰く『自前で持ってきたお酒』とやらを奪取する。

 ついでに渡していたコップも回収し、トクトクと注いで呑んで──────幻想郷の少女達はこんな物を日常的に呑んでるのか。大丈夫なのかコレ。

 

 私がつい顰め面をしていると、つい先程まで竜巻を起こした事に抗議していた少女が一転して爆笑している。

 お酒の力を借りたからかもしれないけれど、良くもまぁ、そこまで簡単に機嫌がコロコロ変わるね……。

 幾ら自称躁鬱病の私でも、そんな一瞬で気分が上がったり下がったりしないぞ。多分。

 

 

 

 そして喉元、というか顔や頭に上がってくる酒気に、ほぅっ、と一息付いていると、今度は彩目が声を掛けてきた。

 

「……もっと不機嫌かと思っていたが、そうでもないんだな」

「ん? どういう事?」

「いや、何て言うべきだろうな。宴会そのものに乗り気でないと思っていたんだ」

「ああ。いやまぁ、当事者、っていうか主催者から直に誘われたらね。楽しまない方が彼女に怒られそうじゃん」

「まぁ、そうかもな」

 

 恐らくは、マナーとかそういう話になる前に、そういう性格だという事で。

 互いに苦笑した所で、ようやく腹の虫が収まったのか、魔理沙が私の腕から瓶を奪って自分のコップに酒を注ぎ足していく。なみなみと注いで……おっとっと、とか言いながら零れていくのを慌てて口で受け止めている。オッサンのビールか。

 

 それにしても良く呑む。間近で見ていた萃香は特にそう思っていたけど、こんなに強い酒を呑むと知っちゃったら幻想郷全員を変な目で見そうだ。特に人間。

 いやまぁ、妖怪の酒好きは昔から知ってはいたんだけどねぇ……前、博麗神社に泊まった時にも酒を、ってあれは私が現代から持ち込んだ物だったか。

 ……大丈夫か、幻想郷の少女達。

 

 

 

 

 

 

 そんな要らぬであろう心配をしている内に、魔理沙は天子を連れて宴会の何処かへ行ってしまった。

 私へ焚き上げた戦闘意欲が急に萎んだからか、何をしていいのか分からないまま私を睨んでいた天子を助けようと、彼女は総領娘様の手を引いて、愉しげに笑う人妖の宴の中へと消えていったのだった……。

 

 ……と、無駄に彼女の行動に理由と微笑ましい背景を追加してみたけど、あの酒で赤くなった魔理沙の顔を見る限り、何処か違う場所で今の私達の戦いをネタに笑い合おうという感じなのだと思う。

 巧く間柄を取り持つねぇ、と思いつつ、変な所で捻くれてないねぇ、とも思う。

 ま、それが彼女の良い所なのだろう。等と酒の勢いで邪推してみる。

 

 それにしても捻くれているのは私も同じなのに、どうして私の場合は良い所として言われないのだろうか?

 という事を隣の彩目に相談してみるも、返ってくるのは呆れ返ってものも言えない。と言ったような顔の娘。

 

「……なんだ、酔ってるのか?」

「いや、わりと普通に相談してるけど」

「そうか……」

「え、なに、そのまだ気付いてなかったのか、みたいな視線」

 

 失礼な娘である。母親をそんな目で見るとは。

 酔っているのは彩目の方なんじゃなかろうか。

 

「ま、人の振り見て我が振り直せ。としか言えないな……」

「なんだって、私ほど自分を見ている妖怪も居まい」

「ああ、うん、いや、そうかもしれないが、そうじゃなくてだな……」

「それじゃあ人の振り見てくる。そうだ天魔の所へ行こう」

「いやむしろそっちはお前とは方向性が真逆すぎて、見習われると逆にこっちが対応に困るというか……」

 

 知ってる。

 アドバイスとは時と場合と相手を選んでからにしよう。

 今回娘に教えるべき教訓はコレだな。うん。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 とか、いつものように彩目から逃げ出して、宴会の様子を娘でも見るかのように遠くから見詰めている天魔の隣に座る。

 親父かお前は、とツッコミをしてやろうかとも思ったけど、実際に妻は多いし娘や息子は天狗の中に大勢居る事を思い出した。もはやここまで来るとリア充というレベルじゃあない。

 けれども憧れも一切出来ないのは何故であろう……まぁ、いいか。

 

「爆発しろ」

「いきなりなんじゃ」

「何となく」

「……いつもの事か」

「Exactly」

 

 私が格好付けてその通りでございます。と喋ると呆れた顔をして、酒枡に酒を注いでいく。

 『枡酒』とは、また古風な呑み方を……いや、幻想郷に古いも新しいもないとは思うけど。

 

 折角なので、そのまま呑み切った様子の四角い漆枡を奪い、天魔専用の馬鹿でかい徳利も奪い、枡の中に使っていたガラスを入れて『盛っ切り酒』スタイルとやらをやってみる。

 

 うーん……天魔の、何升入るか分からないデカさの黒内朱の漆枡に、私の使っていた小さいガラスはあんまりバランスが合わないなぁ。

 妙に可愛さというか、図太さがあるというか……まぁ、映えるっちゃあ映えているんだけど。

 

 ……あ。

 

「しまった」

「お、おう。どうしたのじゃ?」

「酒が強くないのにこんなに注いで、呑める訳がなかった」

「……」

 

 さっきの彩目と同様に、残念な物を見る目で天魔が見てくる。やめろ。

 やっぱり私も何やかんやで酔っているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 仕方ないのでそれは天魔に渡して、スキマ経由で使ってなさそうなコップを神社の台所から取ってくる。

 横で間接チッスだとか無駄に古そうな言葉で喚いている変態は、ふるふると触れる直前に肘打ちで肋骨を折っておいた。盛大にこぼしてくれてザマァ、と言う他ない。ざまぁ。

 

 まぁ、よくよく見てみればそのこぼれた酒も下の酒枡だけに落ちるよう動かないようにしてるし、折った骨も気合を入れて元の位置に動かしたり、数日程度で治したりするのだろう。おのれ化け物め。

 そんな事を思いつつ、結局天魔が呑んでいた徳利から酒を注いで呑んでいるという。

 天狗の酒はキツすぎて私にゃ駄目だ、と言ったのはさてついさっきだったような気もする。いや、あれは鬼だったかな? まぁ、どうでもいいけど。

 

 ……二口三口呑んでから、身体中が一気にのぼせていくような感覚に陥る。

 

「うぃ……やっぱり強い」

「じゃからやめた方が良いというのに……」

「やめろ……頭を撫でるな」

「真っ赤な顔で何も抵抗せずに言われてもの……逆に照れ隠しにしか見えんぞ?」

「セイッ!」

「ほぐっ!? だ、ぐ、じゃからと言って……折れた箇所をもう一度殴るのは酷くないかの……?」

「どうせ治るでしょ」

「ぐぐぐ……」

 

 私の即答に対しての唸り声なのか、それとも二重に折れた所の二重の痛みで唸っているのか……ま、どちらでもさして興味はないので放っておく事にする。

 

 しばらく天魔の隣で宴会を眺めていると、弾幕ごっこが起き始めた。

 時々聴こえてくる音から察するにどうやら宴会の催し物の一つらしいけど、神社の完成披露宴で暴れるってのはちょっとどうなのかな、と思わなくもない。

 

 宙に浮かぶ幾つもの人形と七色の魔法群。

 あんなにも綺麗な弾幕と魔術を魅せられると簡単な物でも良いから習ってみたいものだと思う。

 見知らぬ物は覚えたくなる。本来の私の気質なのか、それとも旅の神としての気質なのか、どうでもいいけど。

 まぁ、今度暇な時にでも人形遣いの義手の対価の支払の時に話してみよう。もしくは吸血鬼の所の図書館か。どちらにせよ今戦っている二人なのだし、案外話はあっさり済みそうな気もしないでもない。

 

 

 

「……混ざらぬのか?」

「ん? なんで?」

 

 隣から何やら意味深な問い掛けが来た。

 混ざらないのか、って何の話よ。ていうか傷はもう治ったのか早いなオイ。

 

「眩しそうに見ておるから、てっきり混ざりたいのかと思っての」

「あたしゃ子供か……」

「儂から見ればどいつもこいつも子供よ」

「ああそうおじいちゃん」

「……相も変わらず儂をジジイ扱いしよって。外の世界から帰ってきても変わらぬ」

「出逢った時からジジイ扱いしてなかったっけ……?」

「いや? これまでで儂にジジイと、お主が言った事はないと思うぞ?」

「ああ、ごめん。全部心の声だったや」

「……それはそれで傷付くのじゃが……」

「それよりも私は今までの会話を全部覚えてるてんちゃんの方がキモイと思います」

「ぐっ……す、好きな人との会話は印象深くなるものじゃろ?」

「そうね」

「そ、そうじゃろ? じゃろう!?」

「1400年も恋をしてるものね。そりゃあ恋心も熟されて記憶も……ごめん、美化しようとしてみたけどやっぱりキモい」

「珍しく素直じゃと思ったら……儂、泣いて良いかの?」

「泣き上戸は勘弁かなぁ」

「むぅ……」

「……そういうのは嫁とか、山とか実家でやって頂戴」

「お、じゃあお主の家でなら甘えても良いのか?」

「誰がそう言った」

「みぐぉっ!? 予備、動作なしで、い、いきなりとは卑怯な……」

 

 三度目の正直として三度とも同じ箇所に衝撃を与えてやった。ざまーみろ。仏の顔も三度まで? 私道祖神なんで分かんないです。

 

 

 

 とか言う、内容のない、むしろ頭の中にすら入っていなさそうなどうでもいい会話、もとい漫才をしていると、宴会の向こう側から視線を感じる。

 天魔の酒をようやく飲み干した所で感じている視線の先を見ると、どうやら元は吸血鬼のようだ。

 レミリアが非常に驚いたような顔でこちらを見ている。

 

 ……あ、なんか嫌な予感。

 

 天子と戦う直前に見た時のカリスマが一切なくて、周囲を気にせずただ素の顔でこっちを見て驚いているのが、凄く嫌な予感をさせてくる。

 

「ん……どうした?」

「嫌な予感がする」

「……お主の直感はなかなか外れぬからの。どういう勘なのじゃ?」

「……もう一度殴って良い?」

「………………それでお主のいやな予感が回避出来るのなら、体を張ろう」

 

 やだ、イケメン。爺なのに。玄孫とか手を出しちゃう程ハッスルしてるのに。幾ら三親等外で愛があってもどうなの。いや、ある意味アレだけどさ……。

 ……いやまて、その前に二回目の骨折よりも回復速度早くないか……?

 

 あ、でも凄い渋面になってる。さては四度目の骨折と私の好感度を天秤に掛けたな?

 

 

 

 

 でもまぁ、どうせ殴った所で回避出来そうにないので、天魔の横から大きな徳利を奪って呑んで気にしない事にする。

 

 ……どうしてこう、こういう時に限っててんちゃんの向こう側に目的の物があるのかね。そしてどうしてこう、わざわざ膝の上を越えるように私も動いて取るのかね。何て言うか、こう、見せ付ける的な動きをしているのかね私?

 

 あ〜、うん、気にしないんだった。キニシナイキニシナーイ。

 

「……酔っておるのか?」

「酔ってはいるけど、誘っちゃいないよ」

「お、おう……そこで言うのはどうなのじゃ……?」

 

 そのまま酒をコップに注ぎ、徳利を置いてから両手で持って、ジッと水面を見詰める。

 

 神社からの明かりと、夜空に広がる七色と七曜の魔法が広がり、少し欠けた小望月が、ゆらゆらと揺れる酒に映っている。

 

 

 

 ……これまた嫌な物を思い出してしまった。

 そうねぇ……その内何とかしなきゃ、とは思うけどねぇ……。

 

 

 

 一気にテンションが落ちたのが分かったのか、天魔もゆっくりと酒の味と香りを楽しむようにのんびりと呑み始めた。

 どうやらこの宴会はとことん私に付き合うようだ。

 ……いや、もしかすると私も天魔も、動くつもりがないからこうなっているだけなのかもしれない。

 

 ま……どっちにしても変わらない。

 どうせこの後の問題も、これから向かい合うべき問題も、今悩んでもどうしようもない。

 

 

 

 そう考えて、

 

 あ、めんどくさいと思って、

 

 コップに入った天狗の酒をイッキ飲みして、

 

「……──────」

「お、うおっうぅ!? どうしたッ!?」

 

 たまには天魔に甘えて潰れるとしよう。

 めんどくさいし、なぁなぁで、今の問題は何とかなるでしょう。

 これからの問題は、何とかしてみせないと、いけないけれども。

 

 

 




 


 明らかにこれはIFエンドの影響を受けただろ、というような文章。
 ええそうです。アレを書き終えた後に作り始めました。

 ……という事は、神社建立から数年ぐらい経ってるのか……。
 いやぁ、恐ろしい(他人事



 平成30年5月7日 午前0時22分
 家庭状況を修整。

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