これにて緋想天の異変は終わりっ!
瞼を開いてみれば、最近見た天井。
見た、と言うか、作った、と言うか。
どうやら私の家に運ばれたり天魔に連れ去られたりはせずに、博麗神社に運ばれたようだ。
少しばかり顔を動かしてみれば、青みがかかった障子戸が見える。
付近から音もせず、特に美味しそうな匂いもしない。どうやら完全に宴会は終わったらしい。
布団をめくり────どうやら霊夢の服でも借りたのか、私の物ではない寝間着を着ている事に気付きつつ、立ち上がる。サイズ合ってないな。若干でかい。
となると、その際に私の服はひん剥かれたのか、少しばかり恥ずかしい────益体もない事を考えながら、障子戸を開けて外の様子を見てみる。
どうやらいつものように太陽と同時に起床した模様。東の空から太陽が上がり始めている。
宴会の跡は……まぁ、そういう風に見れば宴会の跡かな? というような跡がチラホラと。宴会に慣れれば後片付けにも慣れる、って訳かね。
太陽を浴び、大きく背伸びした所でようやくの二日酔いが登場。貧血のような立ち眩みのような……どうにもこの頭に血がのぼっていくような感覚は好きになれない。
弾幕ごっこで隙あれば逆さまになりたがる妖怪だって居るというのに。いやまぁ関係ないけど。
さて、と……。
向こうの部屋で寝ている誰かさん達の為に、軽く朝食でも作るとしますかね。
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スキマを使い、外の世界の誰かさんの冷蔵庫から幾らか材料をぬす……もとい、引っ張り出して朝食を作りましょう。
まずは適当にご飯。白米や玄米、というか米が神社の中で見付からなかったのは私の物探しの能力値が低かっただけと思いたい。それか宴会で使い切ったか、そのどちらかに違いない。うん。
しじみの味噌汁。いやぁ、誰かさんの冷蔵庫に砂抜きが終わったしじみがあって助かった。後で違う物でも入れておこう。風神の湖で採れたヤマメとか。
ほうれん草のおひたし。野菜以外はスキマ経由なのが何とも言えない。幻想の味と現実の調味料って合うのかね? いや、私の家でも良く組み合わせてるけど。
目玉焼き。さてさて、この神社に居る人は一体何をかけるか見物だ。こういう議題に詳しく突っ込もうとすると焼き方とかにまで拘る人とか居るけどね。
因みに我が家は蒸し焼き型。私が醤油。彩目が七味。文はそもそも食べない。まぁ、どうでもいいか。
納豆。嫌いな人が多いと子供の時に教わった気がするけど、本当に大嫌い、匂いが無理、近付けないで、って人は見た事ない気がする。なお外のパック製品の模様。
きゅうり。ほぼ生。1分ほど茹でただけ。現代の子供の野菜の好き嫌いは意味が分からん、と人間の子供の時の私が言ってた。
白米、味噌汁、おひたし、目玉焼き、納豆、茹で野菜。
一汁三菜、ならぬ、一汁四菜。
栄養は知らん。野菜を摂るという自覚が大事。多分。
そして後半に行くにつれて面倒になってくるのが見た目で分かる。
さて、そろそろ日も上がってきたし、皆を起こすとするかね。
霊夢に萃香、彩目を順に起こしていく。
ここの住人っぽい霊夢と萃香はまぁ良いとして、彩目は私の付き添いかね? わざわざ泊まってまで付き添わなくても良いのに。
しかも夜が明けてみれば、酔い潰れた私よりも酷い二日酔いなんだから、これこそまさにミイラ取りがミイラに、だ。
まぁまぁ、二日酔いに合わせてしじみにしたのは正解だったかもね。
それにしても人数が予想よりもちょっと少なかった。
魔理沙とか、もしかすると天子とかも泊まるかもなぁ、と思っていたから結構な人数分用意しちゃってたんだよねぇ……。
「……これ、アナタが全部用意したの?」
「あれ、霊夢の前で料理作った事なかったっけ? あ、アレは魔理沙か」
「昔から詩菜は自分の飯は自分で用意してるよ。天魔の家に泊まった時なんて手伝ってた位だし」
「……へぇ」
萃香が何か言っているけれど、あれは天魔の家で出された食事はあまり食べたくないというだけで、いや、こう言うと何か嫌な言い方になるけれど、こう、嫁宣言されてる奴の家に泊まった時に、どんな物を出されるか分かんないという理由があって、いや、これもあの奴の嫁さんが信用出来ないという訳じゃなくて、私のスキを突いて変な薬でもあのバカが入れないかと言う不安があって、実際に一回私のご飯に惚れ薬を仕込もうとした所に直面してからアイツの飯は食べないように警戒していた結果がたまたま萃香というか鬼達の視界に入ってしまったからなんだけども、って何でこう言い訳がましい事を切実に語らなければいけないんだ。
ちょっと遠い目をしている内に、霊夢が微妙な眼で見てきていた。
何さ、その『予想外な事が普通に見えてきた』ような眼は。
そんな視線はいいから食器とか運ぶの手伝いなさい。台所高いから私は台を使わないと届かないんだ。
「……天狗の一番上の天狗が何人も嫁を拵えているのは知っていたけど……アンタもその一人なの?」
「 」
「1436年の片思いを受けている途中ですわ」
「 」
きゅうりを詰めた大皿を運んでいる途中で、霊夢の言葉に転びそうになった。具体的には足を見事に捻った。
体勢を立て直し、たたらを踏んでる所で、いきなり紫の乱入で完全にコケた。
なお飛んでいった大皿はスキマから現れた藍が何事も無く回収していた。そして私を睨むのも忘れない。ナイス。
……いや、状況は何一つとして良くないけど!
「あ〜……あのね? 天魔とは昔からの馴染みだから気を許してるだけで、向こうからの一方通行で私は何とも想ってないよ。あくまで友人」
「そのわりには……随分と心を許してたように見えるけどねぇ」
「ムダムダ、こういうのは周りが何を言っても詩菜は動かないよ。ある意味お似合いなのに」
「萃香はちょっと黙っててくれない? ていうか取り皿だけでも運びなさい。立て。そして朝からお酒呑むな」
「中々一線超えないのよねぇ。天魔の方も受け入れない限りは無理強いはしないって言うし……アドバイスも使ってくれないし」
「紫もご飯食べてくならスキマ使うなりで手伝いなさい。料理余らなくて済むから良いけど。立って動きなさい。そしてアイツに何を教えた? オイ藍は何故私を更に睨む?」
「……詩菜が恋愛なんて、って想像すら出来ないけど、まぁ、見た目だけなら普通の女の子なのよね。天狗に膝枕されてたし」
「やめて酔い潰れた後の私の話だよねそれ聞きたくない自業自得だと分かってても聞きたくないあーあーああー」
「うっさい」
「……この様子だと朝食はいつ始まるんだ……?」
彩目のぼそっと呟いた声が聞こえたのは、恐らく私だけなんだろうなぁ、とか思いつつ、私に不利な情報を提供する声を能力で奪っていく。はいこの話題終了。衝撃禁止。
……おいこら紫、私の能力に借りた私の能力で対抗するな。
そんなにも恋バナしたいのか年齢不詳。こんな(私にとって)重い話は昼下がりにでもやりなさい。出来れば私の居ない所で。いや、まずそもそもして欲しくもないけど。
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結局、紫と藍が増えたから朝食が余りすぎる事はなくなった。
代わりに私と天魔の話で終始会話が盛り上がってたけどな!!
まぁ、そんな事はどうでもいい。
私があんな所で色々と諦めてふて寝したせいだし。
けど後で天魔は殴っておこう。気分的に。
色々と台無しな朝食が終わり、紫達がスキマで帰っていくのと同時に私達母娘もスキマで自宅へと辿り着いた。
何があったにせよ、これにて異変も完全に終了という訳だ
「やれやれ、やっぱり生半可に異変に関わるもんじゃない」
「ま、元は妖怪が異変を起こし、人間が解決するものだしな」
「それにしたって今回はちと参加人数が大きすぎだっての……ま、ルールがルールだけに特殊だったのってのもあるかもしれないけどさ」
そんな事を娘に愚痴りつつ、昨日からヤカンに溜めてあったお茶を捨て、新たに水を入れてコンロに掛ける。
鍋敷きと湯呑みを二人分、居間に持っていけば彩目が「ああ、ありがとう」と言いつつ、神社に持っていったらしい空の瓶と食器を風呂敷から広げて片付け始めていく。
座布団を敷き、ようやく一息をついてから彩目が気を利かせて障子戸を開く。
竜巻や突風が起きる事もない、平和な青空と光景が広がっている。
「まぁ……我が家のこういう風景を見て、異変終了を感じるってのもおかしな話かね」
「……さぁな。趣きがあって良いんじゃないか」
趣き、ねぇ……。
西行寺幽々子、十六夜咲夜、
まぁ、霊夢だけは二回も戦って……二回目は、あれは戦いというよりも説得と言った方が近いかな。あれはカウントしないでおくとして。
計六回も戦った訳だ。内容を考えると、異変の調査として戦ったのは半分もないような気がする。大体が遊び半分とか、丁度そこに居たからとか、そんなのばっかな気がする。
後半に行くにつれて私の真面目加減も薄れていってるもんね。
幽々子、向こうの作戦勝ち。
咲夜、普通に勝利。
レミリア、普通に負け。
妖夢、普通に勝ち。
霊夢、作戦的敗北。
天子、降参。
……ナンダコレ。
まぁ、結果的に人間が異変の原因を撃退し、裏の水面下で行われていた事には妖怪の賢者さんがとっちめてオシマイ。と。
中々綺麗な形として終わってはいるのかねぇ……?
「個人的にはもうちょい綺麗に締めたかったかなぁ……」
「綺麗にって……そもそもいつもこんな感じだろう。異変はいつもいつの間にか終わってるものじゃないか?」
「ん〜、そう?」
「……というか、そもそも母親殿は異変に関わった事があったか?」
「………………ないね」
ぼそっと呟いた事に対して、片付けを終えたらしい彩目が座りながら答えてきた。
そういえば私が幻想郷に来たのもちょうど一年前で、それまでに大きな異変と呼べそうなものも特に起きてないのだった。まぁ、文の新聞に乗るぐらいに大きいのだったらチルノの起こした異変っぽいのがあるか。
でも、結局アレも私が倒れた後には何事もなかったかのようになっていたし、チルノ自身に覚えはあってもあの時のような性格、考え方にはなってないようだったしなぁ。一番近くに居た紅魔館のメンバーも、季節外れの雪ぐらいにしか感じてなかった、とか言ってたし、実際私も湖に近付いてから知った程度だし。
え、じゃあ、なに?
こんなものなの? 異変。
「………………なんだ、その顔は」
「たいへんわたくしはふまんです」
「私に言うなよ……ほら、お湯湧いたぞ」
「お茶の用意するのって大抵家長だと思うんだけどなぁ……」
「そう言いつついつも率先してやってるじゃないか」
「そりゃあね」
「……やれやれ」
何やら推薦文が描かれた模様。ありがとうございます。m(_ _)m
さて、年明けまで残り18時間ぐらいですが、皆さん良いお年をー。