風雲の如く   作:楠乃

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 彼女は、狂言使いではあるが、狂言回しではない。



 一部とある書き方を真似ております。(多分アレは縦書きだから綺麗に読めるんだと思うけど)






起きもせず、起こさせもしない

 

 

 

 結局の所、彼女がどうしてそこまで謙遜し始めたのかが分からず、夕食は終わってしまった。

 ぬこもあれから全然帰ってこないので夕食は抜きにしてやった。更に、薄情者の文は居心地悪いのかすぐに帰ってしまった。

 私は彼女が晩酌用にお酒を持って来ていたのを知っていて、冷暗所にお酒を隠した事まで衝撃で理解してしまっているが、後で奴には知らせずに呑み干してしまおうと思う。

 持ち帰るのを忘れてしまう方が悪いのだよ、フフフ。

 

 まぁ、忘れてしまった理由も何となく察せるけどね。

 

 

 

 とか、まぁ、

 そういう事は置いといて。

 

 

 

「……止めないけど、マジ?」

「じょ、上等よ。やってやろうじゃない」

「いやぁ、そこまで熱意を求めた訳ではないんだけど……」

 

 どうしてこうなったのか、この天人様は泥臭い妖怪の家に、

 何故か、『泊まって』いこうとしているのだった。

 

 ……いや、別に良いけど……どうしてこうなったんだろう?

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 本当に、どうしてこうなったのか

 まぁ、流石にここまで来てようやく私にも彼女の状態がどんなものかが分かってきた。

 

 どうにも、私に訊かなければならない事がある。

 そして恐らく、それは私だけに訊くべき事で、誰かに聴かれてはマズイ。

 悪く言ってしまえば、新聞記者という側面を持つ天狗が近くにいてもらうと、非常にマズイ。

 

 恐らくは、私の事も含めて、様々な事が聴きたいのだろうと思う。

 でもってまぁ、あの宴会の時にそのきっかけとなるような小話と、私の正体のようなものに少し触れてしまったから、どうにも尻込みしてしまった、という感じなのかしら?

 

 

 

 とか、まぁ。

 

 うん。色々と推理を重ねている訳だけど、別にそれほど興味がある訳でもない。

 正直な気持ちを言ってしまえば、別にそこまでして彼女の真意を知ろうとは思ってないんだ。

 別に彼女がどう考えていて、どう行動するのかを見ているだけで面白いし、その予想が当たれば面白いかな、ぐらいにしか思ってないんだ。

 

 でも、だからってここまで深入りしてこようとは思ってない。

 

 というか普通、思わない。

 

 顔を動かして横を見れば、青い髪が見える。顔は見えない。

 ロングヘアーの髪が布団の上に広がっている光景は普通に絵になる。

 まぁ、そう言う私もその気になれば髪の毛を伸ばす事が出来るし、いつか伸ばそう。

 いつかというか、明日の朝にでも伸ばしてしまおう。よし決めた。うん。

 

 どうも目の前に居る彼女が我が家に来てから現実逃避をする傾向が著しく多くなっているような気がするが、それはそれで私の日頃の行いの結果だということにしておくべきような気がする。

 まぁ、それだけこの天人相手だと内面を直視しなければならないという事が多いんだろう。多分。別に嬉しくも何ともないけど。

 

 

 

 とかなんとか考えながら、比那名居天子の後ろ姿────というか、真向かいの布団で寝ている光景を眺めている私。

 いや、真向かいではないか。私は仰向けの状態で首だけ天子の方に少しだけ傾けて見ているだけだし、天子は完全に私に背を向けて寝ているのだから。真向かっている訳ではない。

 

 いや、それよりもさ?

 普通さ……他人の家に泊まる、って話になったら、客間とかに布団引いて寝るもんじゃない? それが家長の隣で寝るかい? 下手すりゃ娘も居るんですよ、この家には?

 優雅に友達の家でパジャマパーティーとか、そういう話なら分かるよ? けど流石にだね、娘がいる母親の私相手にだね、そういう年頃の女子がしそうな事はだね、些か何か間違っているような気がしてならないんだがね……?

 確かに私は先日、母娘で博麗神社に泊まったけども、あの時は病人以外は同じ部屋で寝ていたよ? 鬼は布団無しに寝てたけど。というか畳に直寝してたけど。

 あれ? 待てよ……私、って言うか、詩菜が志鳴徒だと知っている人物が居たらこの場面最悪になっちゃわないか? 彩目とかが今帰ってきたら私ヘタすると殺されかねなくね……?

 

 

 

 

 いや……まぁ、今回のこの事件はそれを私、詩菜側から強く拒否しなかった事も原因の一部だとは思うけどさ? 如何せんこの状況を責められても私にどうしろとって感じなんだけどなぁ……いや、まだ責められてもないけど。

 

 

 

 そんな事を考えながら、電気もない真っ暗な中で天人を見ていると、もぞもぞと動き出した。

 どうやら彼女も寝付けておらず、私からの視線を感じてしまっているらしい。

 

 まぁ……、

 

 

 

「寝物語でもする?」

「……何を話すってのよ」

「ん〜、そりゃあ天子がどうして私の家に来たのか、とか?」

「………………」

 

 どうにも寝付けないのは私も同じだ。

 異常と言ってしまう程に状況がおかしいという訳でもないけど、些かいつも通りとは言えない寝所でいつものように眠れる程、私も図太くない。

 

「まぁ、多分訊きたい事が一杯あるんだと思う。例えば、そうだね……今の私と、神社の宴会の時の私と、性格が違いすぎるんじゃないか、とかね」

「……」

 

 どうにも反応がつれない。いや、こんな近距離なら内心の衝撃もほとんど分かるんだけど、表に出てくる分が一切無いとそれはそれでつまらないもの。

 とは言え寝物語と銘打って話し出したのは私の方なのだし、私が長ったらしく話すべきだろう。

 

 多分。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

「んー、まぁ、話の展開は何となくで良いか。

 

「私は正直、情緒不安定でね。よく周りから躁鬱病のような人物、って言われてる。神社の時はお酒も入ってたし、気分の上がり下がりは特に激しかったね。

「とは言え、コレも今振り返ると、って話になるんだけど。

「天子と戦う前は、霊夢とちょいと喧嘩……って程でもないか。まぁ……多少はあまりよろしくない会話をした後だったもんだから、気分はそれなりに高くなくて寧ろ低かった方だし、酔った後であんな風に煽られちゃって、しかも私がそれを上手く煙に巻いちゃったもんだからねぇ、そりゃああの時はテンション上がるってもんでしょ。

「ま、多分私だけだろうけど?

 

「んで、こういう話をした所で、理解してくれるヒトなんて、ほとんど居ないけどね。

「そういう意味で、私を理解しようとしてこの家に来てるんだったら、それはそれで止めた方が良いよと、私からはそう言うしかない。私が言うのって感じもあるけど、私が言わないと天子も止まりそうにないし……コレも勘だけどさ。

「ん、ちょいと話がズレたか。

 

「そういう訳でも、いちいち過去の私と今の私を比較しても、そんなの無駄骨になると思うよ? っていうか、それは大体幻想郷の住民の殆どについても言えるけどさ。

「過去で殺し合った間柄だとかさ、誰かを妖怪化させたとかさ、他人を淵まで追い詰めたとか、さ……? その、過去の因縁はどうしようもないものがあるかもしれない。それでも、それを考えずに、一時(ひととき)だけでも、過ごせれる場所、過ごす事が出来る場所っていうのが、幻想郷じゃないかな、って。

「個人的な私の考えではあるけど、そういう(しがらみ)を解消するための、幻想郷独自の弾幕ごっこじゃないの? とか。あと宴会なんかもそうだと思ってるし。

「……そういう意味では、確かに紫の言う通りかも。私が元なのかも知れない。

「ま、そんなどうでもいい事は置いときましょう。

「聴きたいなら質問してね。答えるかどうかは分かんないけど。

 

「天子が紫の何を訊きたいか、は流石に分からない。

「けど、彼女に何か言われたんじゃないか、っていう予想は、多分当たってると思う。というか衝撃音で当たりなのは今よ〜く分かった。

「んー……そうだねぇ……何言われたかは知らないけど、まぁ、あのヒトもあのヒトで可愛らしい所もあるし、怒ってても誠意をちゃんと見せたら折れると思うよ? 許すかどうかは、流石に私でも分からないけど、ある程度は軟化すると思う。

「彼女、どうせ身内と幻想郷だけには甘いし。あ、これも私の主観だけどね?

 

「その彼女が良く言う台詞なんだけど、『幻想郷は全てを受け入れる』ってのがあってね。まぁ、その後大抵『それはそれは残酷な話ですわ』なんてよく繋いでるんだけどさ。

「異変を起こして、宴会も終わって、それで今遊びに出掛けられる程なら、幻想郷に受け入れられてるんだと思うよ?

「幻想郷が受け入れた……ま、付喪神的な意味じゃないんだけど。

「流石にブチ切れた紫が出掛ける度に呪ってくるとか、そういう事をするとか、ある訳がないと思うし、一応私も彼女の式神だし……彼女がここに居る事を知らない訳がないと思う。

「それでも何もしてこない、っていうのは向こうもある程度譲歩をしようって気になってるんじゃない? これも私の勘、だけどね。

 

「聴いているだろうけど、私の勘は良く当たるんだ。

「流石に巫女と比べられると、命中率はあっちの方に軍配が上がると思うけど。

「だから、あくまで一方的な決め付けとか、当てずっぽうに近いって言われたらそれまでになっちゃうんだけど、それでも言わせてもらうよ。

「何を怖がっているのかは、私でも分からない。

「でも、それは杞憂にすぎないよ。

「大丈夫。私は諦めない。

 

「ま、こういう所が私の理解不能っていう二つ名を顕著に現し始めているんだろうけどね。

「『Unintelligible』ってね。まぁ、これこそどうでもいいんだけどね。

 

「何にせよ、私を理解しようとして行動を起こそうとするのは君の良い所だと思うよ?

「いや、流石に逢うのが三回目の私が言ってしまう程、私は天子の事を知っている訳ではないけどね。それでも半日は我が家で向かい合ってたんだし、緊張していたみたいだけど分かってきた部分もあるとは思ってる。

「混乱してるから逢いに、行動しに来た。良い事じゃないの。

「まぁ、流石に退屈してたから異変を起こした、ってのは良い事と一概には言えないけれどね? それでも行動力はそこらの人間よりかはあると思うよ?

「ああ、これ外の世界での話ね?

 

「外の世界の話が聴きたいのなら、まぁ、話しても別に構わないけど、それを聴いて外に出たくなるとかはやめて欲しいかな。話しても別に構わないけど。

「幻想郷から出たいって輩は極少数でも常に居る訳だし、そういった意味も含めて外に出るのを教唆したかのような真似はしたくないし……ん〜、何と言えば良いかね。というか何処まで説明しても良いものやら、正直に言えば私にも分からないけど。

「まぁ、簡単に言っちゃえば紫の思惑とか色々あるから、私としてはそうやって外の世界に思いを馳せるのは、よろしくないかな、って感じかな。

「思い出話として何か聴きたい、って言うのなら、私としても話して楽しくない訳がないしね。

「そういうのなら大歓迎よ? 思い出話。まぁ、ロクな思い出ないけど。

 

「聴きたいならいつでも話すし、喧嘩売るならいつでも買うし。

「一応人里でも何でも屋紛いの事はやってるしね。暇ならいつでも来ればいいさ。

「好きにすれば良い。幻想郷じゃあどうせ皆やってる事だ。大丈夫だよ。

「何がとは言わないけどね。それを決めるのは私だし、君でもある」

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 一体何が大丈夫なのやら。

 自分の勘なのに、たまに分からない事があるから困ったものだ。好き勝手に考えを混ぜながら喋りだそうと思ったら本当に好き勝手に口と頭と勘が動き出すから困ったものだ。

 まぁ、良いんだけどね?

 ……っていうか、最近勘の調子もおかしいのよねぇ。

 勘というか、体調がおかしいというか。病気になる訳でもあるまいに。

 こちとら妖怪として生まれ変わってから一度も病気になった事のない、風の子元気な子の筈なんだけどねぇ。見た目が子供なのは否定しないけど、子供のつもりも一切無いのに。

 

 ま、それは今どうでもいいか。

 問題なのは、今もこちらを見ない天人様の内心である。

 

 ……どうやら私の言葉がスッと腑に落ちたのか、彼女の心音は床に入った時よりも格段に落ち着き始めている。

 心拍数は家に来た時に計った時よりも遅くなっていて、聴こえている側の私からするとそんなに遅かったのか、とも思うほどだ。

 だからどーだこーだ言う訳ではないんですがね。

 

 

 

「腑に落ちた?」

「……うん」

「ん、納得出来たのなら幸い」

 

 

 

 私は納得してないし! 腑に落ちてもないけどね!

 

 そんな事を思っている内に本当に天子の方は納得しきってしまったらしく、私が私の喋った事を改めて吟味している内に寝息をたてはじめた。

 ああ、そう……本当に納得しちゃったのね……いや、私としちゃあそれはそれで良いんだけど。

 こう……なんとも納得出来なくもない。腑に落ちぬ。

 

 まぁ、いいさ。折角泊まっているお客さんが寝静まったんだ。

 私も私で優雅に、そして怠惰に、自分の思考の坩堝へと嵌ってみようじゃないか。

 

 

 

 

 

 




 


 ソシャゲやり過ぎて小説が思うように進まない作者のアカウントと作品はこちらです(殴

 式が見たいが為にFGOやってみたいけど、7つは流石に無理。リアルが無理。




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