とぼとぼと歩いている間に川を見つけて、服や身体を洗い終えている頃には、もう身体中の傷は塞がりかけていた。
……水で洗うと染みるけど、菌とかの汚れも怖いし、とりあえず身体を洗っておこう。
妖怪なんだから、別に病気とかは平気じゃない?と思いついたのは、すでに洗った後だよ!チクショウ!
…洗った服に着替えて、最後に顔を洗う。
水面に自分の顔が反射して見える。流れがそれなりに強いのは反射して見えるのは何故かと考えてみれば、結論は妖怪の動体視力しか思い付かないけれど……まぁ、いいや。
……顔はロリ確定。素直に可愛いと思った自分が悲しくなってくる。
髪の毛は黒で、長さは首ぐらいある。今は水面を覗き込んでいるから顔に掛かっている。
その顔にある眼は暗い赤……というかどちらかと言うと、暗い緋色?兎に角人間の眼ではないのは確かだ。
まぁ…これも妖怪化の影響かな……。
閑話休題。
一回言ってみたかった、けど本当にこんな状況で使うとは思わなかった。というかこんな状況に自分が陥るとは思わなかったで御座る。
これからこの危険な時代(?)を生きていく為には、自分の事を良く知った方が生き残れる…と思う。
よくある漫画みたいな?そんな感じで。
よくある『この先生きのこるには』的な?関係ないけど。
…まぁ、そういう訳で能力についての私の考察を考えて深めていこうと思う。というか、そうする。
まず、『衝撃』とはそもそもどんな物なのか?
そう訊かれたとして私が瞬時に思い付くのは、瞬間的に物体にかかる急激な圧力や、心のかかる負荷、風とかを想像する。
……最後のはゲームの話だけどね。
そういう風に考えてみると、『鎌鼬』に『衝撃を操る程度の能力』はかなり相性がいいのでは?と思う。
という訳で、実験をしてみる。
そこらに落ちている小石を拾う。大きさは(小さな)私の握り拳ほど位だ。
ちょっと移動して、普通に上に投げてみる。当然、地面に落ちる。当たり前の重力法則だ
地面には小石よりも少し小さいぐらいの凹みが出来る。これも当然。まぁ、移動して選んだ地面が砂地だから、跡が目に見えるだけかも知れないけど。
もう一度、先程と同じ石を拾い、同じようにして上に投げる。
ここで投げる前の小石に、能力を発動させてみる。
『この石が物体に与える衝撃を増幅する』
すると地面に落ちるまで、石には何も変化は無い。
なのに、地面には先程の5倍程の穴が出来た。周りに砂が吹っ飛び、自分の足に掛かるほどの威力に。そういえば裸足だった。
逆に衝撃を無効化する事で、砂地に吸い付くように小石を着地させることにも成功した。
「…まぁ、これは木から落ちて実証済みだけどね!!」
…言ってみて虚しくなった。叫んでも虚しくなっただけだった。
次に、ゲームのあの能力を使ってみる。
イメージは竜巻・真空・暴風。
「『ガルダイン』!」
……何も起こらず。
「…『ガルーラ』」
…同じく、何も起こらず。
「……『ガル』?」
竜巻が発生、かなり小さいが。
「……だめだこりゃ」
結論、能力の研鑽を自分に課す。予想以上に自分の能力が弱過ぎる。というか使い物にならないと言っても良い。
あの妖怪の大群に勝てたのは、運が良かったからかそれとも相手が弱かったからか。
どちらにせよ、自分を鍛えないとね。死にたくないし。自分すら巻き込めない竜巻なんて単なる
…そもそも、殺し合いなんて嫌だけど。
後は心に対する衝撃は………今度出遭った妖怪にでも試してみよう。
強かったら逃げるけどね。そんなのには能力も効かないだろうし。
……でも、どうなんだろうね。
あの狼みたいな怪物を殺しちゃった時点で、そういう殺害嫌悪感とかはもう薄れちゃってるのかな……。
まぁ、そんな暗い話は後でウダウダと考える事にして。
移動方法も考えてみた。それは移動する時に、能力を使って簡単にしてみる、というもの。
イメージは一方○行。ていうか『衝撃』って、ほぼベクトルじゃない?鎌鼬って事であのプラズマみたいな事も出来るんだし。
……まぁ、別に関係ないか。熱量とか電気量とかは操れないんだし。どうでもいいか。
話がずれたけど、移動の話。
まずはジャンプしてみる。そして着地した瞬間に能力を発動。
『足にかかる衝撃を全て任意の方向に跳ね返す』
ありえない程の速度で私が上昇する。それと同時に地面は陥没。まぁ、それだけ衝撃があったって事なんだろうね。
次に近くの木の幹を足場にして踏む。今度も能力を発動する。
更に『自身以外に衝撃の余波を与えない』という条件を付けて跳んでみる。
某忍者の如く、木々を走り回れぇ!!
「ふはははははンギャぽむっ!?」
と、スピードを出し過ぎて大木に体当たりしてしまった。
あまりの速さに状況が認識出来なかった。まさに自業自得。
けれども、勝手に発動した能力のおかげで私は無傷。多少木片で引っ掻き傷は出来たけど、それも無視出来るようなレベル。
寧ろ、音の衝撃で獣が来ないかの方が心配だったけど…大丈夫かな?
…もっとちゃんとしたイメージで、尚且つ言語にしてイメージせずとも発動するように、能力を発動させるのも今後の課題の一つだね。
ちょうど日も暮れてきたし、さっきの衝突で出来た木の洞で過ごすとしよう。
しっかし、自分の突進でここまで大きな洞が出来るって…。
……妖怪スペック…マジあり得ない…。
年月が大分過ぎた。
転生してから今日で、ちょうど十年って所かな?
なんで今日で十年だと分かるかと言うと『鎌鼬』だからだと思う。
わたくし『鎌鼬』は暦に関係ある妖怪。どうしてかは知らないけど。
鎌鼬による傷を負った際には、古い暦を黒焼きにして傷口につけると治る。
古い暦を塗ると何故治るかは解らないけど、そういう事なんだろうね。
他にも、暦を踏むと『鎌鼬』に遭う…とか。
…妖怪について何で詳しいかと言うと……まぁ、ゲーム脳、乙としか言えないけどね!
……そんな事はどうでもいい。どうでもいのだ。うむ。
この十年、何をしていたかと言うと、特に目的も無く山々に篭もって能力の研鑽・身体能力の向上。
よくある漫画の修行と言う奴をやっていた。
初めて倒した時の狼のような異形たちがわんさかと出る。
LEVEL上げじゃぁぁ!!ヒャッハー!!
まぁ、そんな至極どうでもいい事も置いといて、
近くに村みたいなところもあった。
……が、近付いただけで「妖怪だ!!」と襲われてしまったので、泣く泣くその場を後にした。
『妖怪にも良い奴と悪い奴がいるんだぞぅ!!』と、泣き言を叫んでも当然の如く無視。デスヨネー。
仕方なく山に篭もってました。ここずっと。この十年ほど。
腹が減った時は村からちょっと失敬するけどね!
次。色々と能力についても解ってきた……と思う。思ってるだけかもしれないけど。
まず『鎌鼬』としての能力。
相手を切り裂く手から延びる爪や刃。
切れ味は最高。村人の銅剣とか鉄剣なんて簡単に斬り裂けられる。
物体に触れている時に、斬るか斬らないかのスイッチも自分で調節出来る。
風を集めて、竜巻みたいなことも出来た。これは『鎌鼬』+『能力』でかなりの高威力になったみたい。
……某螺旋丸に近い様な事も『頑張れば』出来るかもしれない。
けどもし出来たら自分で制御できるか自信がない、のでパス。無茶な事はしない。場合によれば、だけどね。
さらに私自身が『風』みたいになる事も出来た。
というか『鎌鼬』の本当の姿はこちらだと思う。
…私がこの世界に生まれた時に、何故透明だったのかって言う理由が『コレ』なんだろうね。
『風』状態の時は、何でもすり抜けられる。大抵の物は通り抜けられる。
けど、妖力とかが使われていると、すり抜けられないのが弱点かな?
風になると透明になる。けど透明になった後でも、妖怪には簡単に気付かれた。
透明の意味が無いなぁ…人間には簡単に通用したんだけどね。
流石は視覚情報にほぼ頼っている人類である。私も元はそうなんだけどね。
次に『衝撃を操る程度の能力』について。
『程度』の意味が未だによく分からないけど……まぁ、それはどうでもいい。能力には特に影響がないようだし。当たり前か。
自身にかかる身体への瞬間的負荷、力は自由に操れる。
逆に、じわじわと締め付けるような力や、貫通・斬撃には対抗できない。捕まって尚且つそれが爪で斬れなければ終わりである。
打撃や風は、普通に操る事が出来る。この辺りはまんまペ○ソナみたいな感じだなぁ…。
ちなみに自分以外に対して能力を掛ける事は出来るけど、簡単な命令しか出来ない。
例えば、人間の両足に『衝撃全反射』を掛けてみる。
人間がそれなりに高いところから飛び降りると、上に吹っ飛んで着地を一生出来なくなる。
足から着地すればまた飛び上がり、足以外で着地しようとすると全身打ち付けることになって死亡。多分その場合、血塗れになった身体が足を軸に何度も宙を舞うだろう。うわ、グロっ。
能力を操っている私だからこそ、自分に対しては微妙・絶妙な力加減が出来るが、私以外が対象になる匙加減が一切分からなくなる。
実験台になってくれた人間さんはちゃんと下ろしてあげた所、訳が解らず呆然としていた。まぁ、当たり前だよね。
実験台とはいえ、自分は妖怪。風の状態で村に近付いてこっそり実験。何気に楽しかったのは秘密である。
話は唐突に変わるのだけれども。
私はいくら現妖怪だとしても、元人間として『人間』は殺したくない。
妖怪としての考え方としたら甘っちょろい考え方なんだろうけど……ね。
そして『妖力』だ。妖怪である私も持つ力である。
黒い煙みたいな感じに見える。良く観察してみれば紅くも見える。眼の色と同じなのかな?
身体に纏えば、色々と身体能力が向上する。回復にも使える。
というか、私はもっぱら回復にしか使わない。消費すれば精神的に疲れるからね。
妖怪は肉体を基本としないからかな?
この力『妖力』を巧い事隠したりする事で、人間には『妖怪』だとばれない。
……まぁ、この赤い眼で一発でばれるんだけどね…。
…前髪伸ばしたいなぁ……。
この十年……一回も髪の毛が伸びた感じがしないのは、果たして私が妖怪だからだろうか……。
次、『霊力』
人間が纏う白っぽい煙。人間ならば誰しもが持っている…と思う。多分使えるヒトによって色が違ったりする。
妖怪である私には使えない。そして人間でこの力に気付いている人は、集落に居なかった。
だから妖力と比べてどれだけ強いかは分からない。というか調べようが無い。
使える人が居ないんだもん。仕方ないよね。
能力関係についてはこんな感じかな?
十年という月日は結構な長さになる。人間にしてみれば、の話だけど。
妖怪にとっては短い。人間みたいに短命じゃないし、長生きしようとすればいくらでも出来る。
まぁ、長命なのは解るけどさ……。
十年経っても身長が全然伸びないのは何で?
絶望した!!自分の肉体に絶望したッ!!
…次、行こ。
こういう風に簡単に考えが、切り替えられる点としても妖怪は凄いと思う。
服は和服。黒っぽい紺色の着物。和服は生前(?)から好きだから別に良しとしよう。寧ろ嬉しいね。
妖怪パワーか何か知らないが、破けても『妖力』を籠めてあげると修復していく、とんでもない自己修復作用付き。
それ以前に、私が故意に破ろうとしない限り、本当に滅多に破れない。とても頑丈。この十年でなんだか物凄い愛着が湧いた、不思議な一品。
疑問に思えば物凄い気味が悪い服なのだが、十年たった今になってはどうでもよくなった。いいのか私。いいのだ私。
髪の毛が黒で長さは肩まである。
着物・赤い眼・ショートカットの髪・幼女…。
なんだこれ……何なんだよ私……。
あの男性だった頃の『私』は一体何処に……。
そんな感じで十年間は山に篭もっていた。
十年経った記念日として、この山から出て私は旅に出た。
理由?無いよ、そんなの。単に記念日だから、としかいいようがないね。
人生なんてそんなものだよ。
まぁ、これは私の考え方だけどね。