感想で『冬の陣があるなら夏の陣もあるんですね、わかります。(え?ない? 』というのがあったけれど、その通りに私が書く訳ないじゃないか。アッハッハッハ
あ、グロ注意です。あと鬱と狂気注意。
つまりいつもどおりですね!()
私は生まれつき、生まれながらにして『力』を持っていた。
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どこぞの姉妹の神様が幻想郷の木々を染めていると知ったのはつい先日の事。
そんな季節が始まりそうな今日このごろ、ぬこに芸を教えるだけで一日が終わるのだった。
……こう考えてみると、些か何もない一日だったような気もしなくもないけど、まぁ、一応はこの猫も私の初めての式神──というか、眷族というか──のようなものなんだし、ちゃんと色々な物事や術を教えなくてはならぬ、という使命感もなきにしもあらずな訳であって。
その割には半分弟子で、半分娘で、半分仇だった彩目に対して、何か特殊な事を教えたという記憶はあんまり無かったりする。いやぁ、娘の成長が物凄いものでねぇ……。
……親子の縁なんて、後から着いてきちゃったものだし……仕方ないと言うか、何と言うか。
うーむ……と考え事をしている私に気付いたのか、左脛の辺りをてしてしと叩いてくるぬこ。
はいはい、気付いたからその辺にしておきなさい。私の後ろで彩目が睨んできてるからねー? まぁ、睨まれている原因は私がぬこに円周率を100桁教えるとか言う、何にも役に立たない芸を教えているからだろうけど。
まぁまぁ、鎌鼬の式神に猫が付く、というのも些か奇妙な話だと思わなくもない。ネコ目イタチ科の下にネコ目ネコ科が付くってのも、妙な気はする。いや別にだからと言ってどうという事はないけど。
それを言うなら一応は式神仲間の藍はネコ目イヌ科だし、その
「……」
「にゃあ」
「いきなりどうした」
「………………楽しいか、母親殿」
「にゃむ」
「楽しいらしい」
「………………そうか……」
居間からその様子を眺めていた彩目は心底複雑そうな表情でこちらを眺めている。何なんだろう。そんなに猫好きなら彩目自身で何か教えれば良いのに。
折角人里で悪ガキ共の良い先生となっているという噂がある位なんだから、寧ろ是非ともその手腕というものが見たいぐらいだったのに。
いや、でも悪ガキと同じような対応されるとこっちもなんか、なんか、アレだな。腹立つな。
じゃあ……いいか。いいや。遠慮しておこう。
「……まぁ、いいさ。日も暮れてきたが夕食はどうする?」
「にゃぁ」
「いつもので頼む」
「………………いつまで続ける気だ」
「ハイハイ、んじゃあ適当に作りますかね」
冷蔵庫みて~、冷凍室みて~、うむ。
今日はお手軽青椒肉絲丼にしよう。
「彩目、ピーマン、って言うか野菜全部切っておいてくれる?」
「に、にゃあ……」
……。
「………………彩目………………恥ずかしいならしなくても……」
「わぁぁ!! 言うな、言わないでくれ!! と言うかなんで寧ろ真顔で出来るんだ貴様は!?」
「慣れです」
「……くそう」
だからそれで説得されてしまうのも……まぁ、いいさ。これも慣れだ。
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夜中に、眼が覚めた。
眼が覚めた、と言うよりかは、
『発狂』した、と言った方が正しい。
「ヅッ────ぅ!!」
視界にあるモノ全てが血で塗り潰されていくような感覚。
同時に、何もかも壊してしまいたい欲求が出てくる。
自分自身すら爪で掻き切って皮膚の下にあるモノ全てを取り除きたくなって、世界が嫌になる。
眼球の奥から顎の下まで、中身にあるモノを取り除いてしまいたい。
胸元から直に手を刺して、肩甲骨を表から抉り取ってやりたい。
手首から指先までの皮膚を、乱暴に引き剥がして爪諸共剥がしてやりたい。
脚の筋肉を取り除いて大腿骨をへし折りたい。耳元をガリガリと掻いて脳漿を吹き溢してやりたい。首を千切って頚椎を握り潰したい。両腕をそのまま両腕で引き抜きたい。肋骨を背骨から左右に切り離したい。腕を交差して背中から腹まで肉を抉りたい。
脹脛を喰い千切りたい。指を全て裏返したい。顔を溶かしたい。脳を両手で潰したい。
身近にある物を全て、手の届かない何処か宇宙の果てへとブチ飛ばしてやりたい。
五感に働きかけるもの全てが鬱陶しい。自分が居る世界が鬱陶しい。
見えるのがうるさい。匂ってくるのがウルサイ。聴こえるのが煩い。触れるモノが五月蝿い。
柱と壁がある事にイライラする。畳の香りを忌々しく感じる。血流と衣擦れの音が歯痒くて気持ち悪い。両手の甲に感じる空気の流れに苛立ちを覚える。何処からともなく聴こえるモスキート音が癇に障る。視界の端で必ず見える顔の一部に吐き気を感じる。
うるさい
苛々する
煩わしい
忌々しい
ウザい
胸糞悪い
喧しい
耳障り
鬱陶しい
感覚の全てが五月蝿い。
黙れ。
黙れッ!!
「────う、るさいっ!! ッ!?」
ガリガリと頭を掻き毟って、血が付いて異様に伸びた爪を振り払って、部屋の壁を斬った。
感覚的には家をまるごと一刀両断したつもりだったけど、
「────いきなり夜中にどうした? 詩菜」
「ギッ!!」
寝間着のまま、両刀を構えた誰かが爪を抑えていた。
急いで来たのか、その寝間着は乱れているし、額に玉のような汗が浮かんでいる。息は整ってない、髪もまとめてない。二刀とも同じ長刀で、受け流しも出来ずに真っ向からぶつけたから完全に刃が欠けてしまっている。
その、どれもが、また、喧しい。
……うるさい。
ウルサイッ!!
「ああああ゛あ゛あ゛ア゛ア゛アァ!!」
「チッ!」
左手の爪を耳に突っ込んで掻き毟りながら、競り合っていた右の爪を返し、今度は最高速で敵の頭を狙う。
最警戒をしていた敵も即座に刃物を創造して、反応してきた。
折れかけていた二つの長刀を消滅させ、右手に長刀、左手に短刀をと創造し直し、自身を狙う右手へ突き刺して、そのまま壁へ縫い止めやがった。
更にその右腕を長刀が切り落とそうと腕を振り上げた。
斬ってくれるよりかは、目の前の存在の方が五月蝿い。
煩わしいだけの痛みなんか無視できる。
振り下ろす直前で何故か若干動きが鈍った所を狙い、右手が手首から指先まで割けるように縫い止められた短刀から引っこ抜いた所で、
首に、敵が左手に持っていた長刀が、刺さった。
私の行動に反応するかのように、迷いを絶ち切ったかのように────躊躇なく、左手に長刀を創造して、首に突き刺さしてきた。
そんなもの、と真ん中から裂けたままの右手で刃を掴んで抜こうとして、
息をつく間もなく、右手の長刀で右腕が飛び、
それなら、と左爪で裂いてやろうとして動いた瞬間には、腹を蹴られてそのまま押し倒され、
空中に現れた短刀が、両肩にそれぞれ一本ずつ、両太腿と両足首の関節部分に一本ずつ、
最後に左掌を持っていた長刀で、畳に留めるように刃物で刺され、
畳に頭がぶつかった瞬間に首に刺さった刀を更に捻り込まれ、力尽くで身体の自由を奪われた。
刃物は骨を砕いて、筋まで断ち切ったのか、片手両足は非常に動きにくくて、
てき、に、完全に床へと縫い留められた。
「
「っ、が……」
呼吸が止まり、血を吐いて、少しばかり頭が鈍った所で、首に刺さった刀を握ったまま押し倒してきた、 の顔がようやく見えた。
辛そうな────泣きそうな……そんな表情の、
「ぇ……カッ……ぃ、ひとみのいろは?」
「……紅い。黒くはないが、真紅に近いな」
「づぅ、ぁ、だろうね………………おーえい、だいじょうぶ」
「……」
さっきまで発狂してた奴の言葉を、鵜呑みにするなんて。
と、少しばかり思うぐらいだけども、彩目はゆっくりと立ち上がり、私の身体に刺さっていたまち針も全て消し去ってくれた。
ゆっくりと深呼吸しながら、全身の回復に力を当てる。脚も肩も、筋や骨まで砕かれてる。
腕は単純に輪切りにされただけとは言え、肘から先を生やすのにはそれなりに集中が必要だ。
まだ五月蝿く感じては居る。衝撃が聴こえているけど、それは後回し。
これだけの傷を治すには少し時間が掛かる────でも、ゆっくりしてる時間はあまりない。
「あ゛……あてられた」
「……どういう事だ?」
「ごほっ、私にむかって……『狂気』を飛ばしてきてる奴が居る」
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幾ら私が情緒不安定であったとしても、少しばかりの睡眠からふと起床しただけで発狂してしまう程、精神はおかしくない、筈だ。
……まぁ、自分の精神状態を、『おかしくない、筈だ』としか言えない時点でお察しな気もするけどね。
庭に出てみたが、異常が起きているのは私の家だけのようで、表面上はまだ、山も静かだ。
迂闊に音を探ろうとすれば、まだ飛んできている狂気の波に引っ張られそうだ。幻想郷中の反応を探ってみたい所だけど、そんな事をしている場合じゃない。
数十分もすればこれぐらいの傷は治せる。妖力はもちろん減るし、右手首の欠損は流石に神力を使わないと無理だけど。
何にせよ、日付が変わった頃合いに、狂気の衝撃を狙って飛ばして来ている奴が居る。
それも、呪いのように、ピンポイントで『詩菜』という存在を狙って。
この対象がもし『志鳴徒』だとしたら、恐らく強制的に変化させられたかもしれないレベルで、怨み辛みのような意志を私に向かって飛ばして来ている。
コレほどまでに強烈な意志をぶつけられておいて、何もしない訳にもいかない。売られた喧嘩は買うのが、一応は私の流儀だ。
だからという訳ではないけど、出来ればこの問題は私一人で解決したい。
「だが、もしその相手に近付いたらまた引っ張られてしまうかも……!」
「間違いなく、引っ張られるだろうね。この距離で引き込む程の狂気だ。近付けば近付く程、私の中で泥のように呪いが溜まっていくだろうさ」
「それならっ!」
「この距離で私が狂う程の波を飛ばして来てるんだ。私が引き込まれやすい質とはいえ、その道中、他の妖怪や人間に当たってない訳がない。発信源は兎も角、幻想郷中で狂気を受けやすい妖怪、妖獣はどれだけ居ると思う? そいつらが人里や縄張り、自分の住む場を荒らさないと何故言える?」
「っ!」
少しばかり強い言い方をしてしまったけれど、人間側へと立とうとしてる彩目にとって、私だけに構っているのは、あまりよろしくないのが、当然の、普通の筈なんだ。
今の所、意思の方向が私だけに向いているから、まだ陣営への挑発とは捉えられないと思う。
けれどもこのまま私が無視してしまうと、もしかしなくとも『山』が動くかもしれない。
それは、非常に、マズイ。
「彩目、人里で警戒。可能なら慧音と協力して、ッ……周囲への言伝と沈静化をお願い」
「……今、また受けたな?」
「これくらいなら戻せる、近付いた場合は……まぁ、方向性を絞って何とかする」
「はぁ……頼むぞ?」
こうも連続して呪いを飛ばせる事に驚く。事前に態勢が出来てれば耐えられるけど、やれやれ……そんな恨まれる事したかね……?
ま、何にせよ向かえば話も見えてくるだろう。
「ぬこ。お前は私と違って耐性がある。天魔の所……いや、文の所に直接行って止めてきて」
「どうやって?」
「『私に売られた喧嘩、勝手に盗るんじゃない』」
「了解した」
ぬこは弱い私が名付けただけだったからか、それとも妖獣のトップとも言えそうな九尾の前でも眠り続けれる胆力の持ち主だったからか、狂気の衝撃にもケロリと耐えていた。
私の血のような真紅と違って、ぬこの瞳は赤銅色から何も変わってない。変化がない。
実に羨ましい限、釐鏖d ■、l。
「────……はぁ……」
ビギリ、と爪が伸びた。
反射的に拳を握り込んで、手の甲まで爪を貫通させる痛みで正気を保たせる。
【……紫】
血が垂れた事に彩目が気付かないよう、垂れた血をぬこが舐めないよう、袖の中に手を引っ込める。
一瞬だけ発狂したのは既にバレていて、両者ともに心配げな表情を向けられたけどね。
そんな無駄な隠し事をした所で彼女に声を掛ける。
幾ら冬が近いからといって、まだこの時期に眠っているという事はなかろう。
それに一時的にとは言え、少なくとも娘だと判断出来ない程に発狂した私だ。向こうも彩目と同じく感知して見張っているぐらいはしている筈。
【……手出しは無用、かしら?】
【良く分かってるじゃん】
【貴女に何千年付き合ってると思っているのよ】
【感謝の極み、ってね……まぁ、止まれなくなったと判断したら、スキマにでも封じちゃって】
その前にケリを付けるつもりではあるけれど、ね。
【……好きになさい】
【どうも】
「それじゃ、行動開始」
「あっ、おい!?」
彩目の声を聴こえない振りをして無視し、そのまま湖の方へと跳び出す。
視界の端でぬこが木々の枝を跳び跳ねて消えていくのが見えた。家からは溜息の後に飛翔し始めた彩目の
良かった。
家族愛への恨みの反動で、理性あるまま攻撃しなくて。
秋の陣自体は全部書き終わっているのですが、それが現在ほぼ全てのストック分になるので、GWが終わったらまた更新ストップになるかもです……。
……まぁ、新年度ですしね、私の方も色々と忙しくなる訳なので……すみませんm(_ _)m