- EXTRA STAGE 1 -
『雷雲招集』
活動報告(ていうかTwitter)でのアンケートからのお題消化。
まだ募集してるので物好きな方はどうぞ。
結局ルーミアが帰ったのは翌日の朝になってからだった。
……あんの宵闇の悪女め。私が怒られるのをずっと見て笑い転げてやがった。
後でぶん殴りたいのはやまやまだけど、その更に後が怖いのでやめておく。
あの雰囲気が常時出せる、って知ったら……そりゃあ、ねぇ……?
そして、一晩寝てみても、体の調子は特に悪くなったりもせず。
それどころか、この所ずっと続いていた寝起きの悪さがなくなった程に、今日は気持ちよく起きることが出来た。
まぁ……原理を考えてみたら、道理も通る、という奴……なのかな?
昨日は確か、器と水で現在の状況を考えてみていたけれど、空気に触れている水面から蒸発する量を妖力の常時消費量として考えてみると、器である肉体を小さくして自身の構成に使う妖力、或いは大気に触れている面積を少なくすれば水の常時蒸発量は少なくなるじゃないか……みたいな?
いや、この設定が物理学上正しいのかどうかは知らないけどさ。
超回復してからは、表面張力ギリギリの状態で更に足してこぼれていたのを、身体を小さくする事でようやく通常状態に持ってこれていた、と。
まぁ、妖力の回復スピードは紅魔館での争いの前と変わってないみたいだし……結局、許容量がかなり小さくなった、って感じかな。
それに、だるさが完全になくなった訳でもない。
身体が小さくなる感覚なんて──志鳴徒から詩菜への変化を除けば──普通、あっちゃいけない感覚だろうし。
そんな訳で、紅魔館での争いから久しく、彩目よりも早く起きることが出来た今日この頃。
旅の神だってのに、朝日と共に起床できないのは如何せんどうなのかと思っていた所で、まぁ、それもそれで自分が勝手にそう考えているだけで、実際旅人がそうかって言われると肯定も否定もしづらい部分がある訳であって、まぁ、それはそれで、結局どうでもいい訳なのだけれど。
何にせよ久々に早起き出来たし、家族の為に朝食でも作るとしよう。
最近全く起きれなくて、ご飯も全部彩目に準備されちゃってたからね。
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「こ、こんにちわ……?」
「────……んん? んあ……おはよう……ネリア……」
「もうお昼ですけど……」
うあ……寝てた、か……。
驚く娘を尻目に朝食作って食べて、心配そうに何度も大丈夫なのかと言ってくる彩目を無理やり人里への仕事に送り出して、結局いつものように縁側でぼうっとしてしまった。
そうしたら、またいつの間にか寝てしまったらしい。
心配してくれた娘に何の言い訳も出来なくなっちゃったな。
気配探知用の結界も張らず、いつもの周囲に対する警戒網も作動せず。
ネリアがここに来て起こしてくれなかったら危なかったかもしれない。色んな意味で。
「……ん? ネリア?」
「詩菜さん……まだ寝惚けてるんですか?」
「いや……珍しい客人だな、と」
頭をもう一度振って覚醒し、視線を上げてみれば金色に輝く薄い一対の羽が見えてくる。
相も変わらず綺麗な姿だこと。
柱にもたれていた筈の身体を床から起こし、ようやく畳の上で立ち上がって庭を見てみれば、彼女の言う通り、もうお昼時らしい。
南から降り注いでいる日光は室内に居た私には当たらないけど、起こしてくれた彼女をいつまでも外に立ちっぱなしにして、日光に当て続ける訳にもいかないだろう。
ていうか、一応教え子と教師の関係でもある彩目に、そんな事をさせてる場面を見られたらま〜た怒られてしまう。
……ん、あれ? 私親だよな……一応……?
「まぁ、上がって、中で休んでなよ。ちょっと顔洗ってくるから」
「あ、はい。お邪魔します……」
さてさて、ネリアが一人で来るとは珍しい。
何か相談事でもあるのかしら?
何にせよ、この目脂をさっさと取ってしまいましょ〜。
▼▼▼▼▼▼
何はともあれ顔を洗い、居間へ戻ってみればチョコンと座っているネリア。
顔を洗うついでに用意したお茶を彼女の前に置いて、私も対面へと座る。
「それで、何か用でもあった?」
「あ、いえ……」
「……ないんだ」
チルノとかが訪れたとしたなら、本当にたまたま寄ったんだろうなぁ、で終わらせちゃうんだけど……ネリア、もとい妖精ちゃんが用もなしに私の所に来るとは思えないんだけどなぁ……。
いや、まぁ、妖精ちゃん、もとい『ネリア』と知り合ってから、一年にも満たないぐらいの日数しか経ってないんだけどさ。
とかぼんやりと考えていると、今度はおずおずとネリアから話し掛けられた。
「……なんとなくふらふらと動いてたら、民家が見えて、で、少し覗いてみたら、詩菜さんが寝……んん、居たので声を掛けてみたら……って感じで」
「ふぅん? ……ああ、妖精的な勘に従って動いたら、ここに来ちゃった、って感じ?」
「あ、はい。そんな感じで……何で分かったんですか?」
「勘」
「……ああ、ハイ」
あ、その眼差しすっごい懐かしい。
幻想郷が出来る前に良く見てきてた顔に、凄い近い。本人なんだけどさ。
まぁ、何にせよ、私の家に惹かれて来た、と。
となると、まぁ、答えは一つしかないかなぁ。
「ネリアネリア。人差し指出してみて」
「はい?」
「これを……こうじゃ」
「ッぴぃっ!?」
バチリ! と、
ネリアの人差し指と私の人差し指がくっつきそうになった瞬間に、部屋中に聞こえるぐらいにはでかい静電気の音が鳴った。
まだまだお昼で太陽が出ている今、秋とはいえ静電気が眼に見えて放電したということは、やっぱりそれだけ静電気を貯めこんでたんだろうなぁ、とか考えつつ。
……静電気の妖精が、静電気でそんなにビビってどうする、と涙目になっているネリアを呆れて見てしまう。
「ネリア……」
「なっ、何するんですかいきなり!? 酷いです!!」
「……うん、ごめんね……?」
こう、慌てたことも涙目になってることも隠さずに怒ってくる、っていうのがどれだけビックリしたか、っていうのを如実に表してる気がするぐらいの剣幕だった。
うん、まぁ、なんていうか……呆れてしまって申し訳ない……。
バチリと電気が当たってしまった左手の人差し指をブンブンと振り回しては、息を吹き掛けて痛みを和らげようとしている。
まぁ、割と静電気を溜め込みやすい性質の私のせいでそうなった、というのは分かるんだけど……。
「……そんなに痛い?」
「痛いですよ!?」
「いや、私痛いと思った事ないし……静電気自体はしょっちゅう起きるんだけどね」
さっきだって、顔を洗う際に蛇口を動かす時だけで一度バチンと来たぐらいだ。
だからと言って、腕を急に動かして避けようとなんてしない。別に痛くもないし、能力で驚きもしないし。
昔からこの季節になる度に、蛇口から流れてくる水に指を近付けるだけで、その水流の軌道がすごい勢いで曲がるぐらいには、私は静電気が溜まりやすい。
「ええ……? 普通、驚きません?」
「生憎普通じゃないんでね」
一応普通だった人間時代でも、驚きはしても痛みはなかったような気がする。
それをただ天然だとか、鈍感だとか言われるのは我慢ならないけどね。
それにしたって、静電気の妖精が静電気に驚いちゃあ駄目でしょうに。
いや、能力が静電気に関するってだけで、静電気に関する妖精じゃないのかもしれないけどさ。
……それを確認しようとしても、今のネリアの頭じゃ答えは出ないんだろうなぁ……異変の時とか、考えもしないような事を予測できるぐらいに場の力が高まってないと無理なんだろう。多分。
ん、場の力、か。
「そういえばネリア、今年の夏はどうだった?」
「どうだった、って……何の話ですか?」
「あ、起きてないのかな……なんか変な天気とかにならなかった?」
「あー、チルノちゃんが行く先々で冬にしてましたよ」
「……」
やべぇなチルノ。
能力がそのまま気質になった、としても冬にしてたって……幽々子と似たような感じかな?
にしたって、真夏に冬にしてたって……いや、どんな状態なのか見てないからどうとも言えないけどさ?
「ネリアは? 何かなかったの?」
「え、うーん……そういえば、今年の夏は雷を良く見てた気がします」
「おお、そうなんだ」
「でも、それよりチルノちゃんから出てた冷気が寒くて寒くて……」
「ふふふ。まぁ、彼女は、ねぇ」
他人の天候、気質を上書きできる、か。
チルノも大概、妖精にしてはかなり強い方だと思うんだけどね。妖怪って言っても良いぐらいだと思う。
ま……これは彼女に殺されかけたから、言える事なのかもしれないけど、さ。
それを言うなら今までに私が相手にして殺されかけた奴なんてほぼ全員幻想郷にいるような……んん?
む。
「……どうかしたんですか? 難しい顔、してますけど……」
「いや……ちょっと嫌なことを思い出しただけ」
あれからどれだけ年数が経ってると思ってるんだ私。諦めが悪いにも程があるぞ。
もうとっくに封印内で朽ち果ててる。
まぁ……いいさ。
思い出した所で、どうしようもない。
いつぞやの私と『彼』と話した時と同じだ。結論なんて無い。結果と『それから』しか、無いんだから。
気分を切り替えよう。
雷、か。
能力と同じ、または似たような現象を引き起こす……って事は、それだけ気質に表れやすい性格、ってことなのか。それとも妖精だから気象現象と存在が直結しているのか。
まぁ、それを言うなら私も竜巻だとか、文の風雨も能力と密接なものになっている。
けどそれなら私から見て我の強い方であろう霊夢や天子が、私の天気で上書きできてしまう、っていうのは、なんだかモヤモヤとするような話になってしまう。
結論が私の方が我が強い、って事になってしまうじゃあないか。
合ってるだろうけどさ。
「そういや、雷は起こせた?」
「えぇ!? いやいや、無理ですよ!!」
「んん? 今年の夏で雷雲を引き寄せたってことは、それだけの資質があるって事なんだと思うんだけどなぁ」
「そんな、無理ですよ……」
「んじゃま、練習してみようか。ハイここに極小の粒が何億と集まっています。見えるでしょうか?」
「なにか始まってる……」
「見えるでしょうか?」
「ひぇ……ん、んんー……なんだろう。何か、小さいのが動いているのは分かります」
「お、感知は出来るんだね。それじゃあこの粒子を少しずつ動かしていきます。ハイ注目」
「お、おおー………………詩菜さん、そういうのも出来るんですね」
「ん? 出来るって?」
「あ、いや。ヒトに教える、っていうか……ちゃんと教える、っていうか」
「……」
……うん。いつぞやの妖夢の時と同じなんだけど……それ馬鹿にしてるようにも聴こえる文章……いや、良いけどさ……。
結局、彩目が帰ってくるまで、ネリアに科学のタネを教えていたけれど、やはり理解してもらえなかった。
前に紅魔館で会った時も、一応教えてたんだけどねぇ……やはり詳細を覚えきれなかったらしく、話自体は興味深げに聞いていても、理論としては理解できてないんだろう。
異変の時なら別なんだろうけど……ソレを期待しちゃ駄目だろう。限度ってものがある。
ネリアも雷を自力で完全再現できたら、弱い妖怪を圧倒できちゃうぐらいには強いと思うんだけどなぁ。
緋想天の異変は終わったと言ったな。
半分ぐらいは嘘だ()
天候:『雷雲』
『雷を呼び寄せる程度の天気』
雲と雲との間、あるいは雲と地上との間の放電によって、光と音を発生する自然現象
『全ての射撃の速度が上昇し、飛距離が半分以下になる』