活動報告の「*21 アンケーぇぇ『風雲の如く』ぇぇト」からのお題消化。
まだ募集してるので物好きな方はどうぞ。
このタイトルを持ってくるのも実は伏線の一つだったんだよ(震え声
ぴょん、ぴょん、と、岩肌を蹴って、山を登っていく。
こういう山登りなんて、いつ以来だろうか。
この前天魔と出会った温泉の時は、ちゃんと道を歩いていたから、こういう本格的な……なんて言えば良いんだろう。クライムしないフリークライミングというのは随分久し振りな気が……何を言ってんだ私。クライムしないクライミングって。
まぁ、何はともあれ、新しく見繕ってくれた下駄の調子も良い。
天魔にまた『まぁた壊しおって……』とか言われちゃったけど。
要素が少なくなってしまった身体の調子も兼ねて、色々と運動をしている真っ最中な訳だけど、やはりどうもいつも以上に肉体が小さくなっている所為か、時たま力加減を間違えてしまう時がある。
力加減というか、届く筈のない出っ張りに脚とか手とかを引っ掛けられなかったりだとか。
ガッ、と二枚歯に岩を噛ませて、小さくなった身体のバランスを取って、もう一つ山の向こうの、更に濃霧の奥を見てみれば、珍しくもない、スーツ姿の天狗が一人佇んでいる。
……というか、まぁ、予定地、というか、探していた人物、というか。
再度尖った岩を下駄で叩いて、ピョンと跳び出す。
霧を衝撃で散らし、ほぼ垂直の壁を普通に蹴って走って、目的地へと向かう。
まぁ、目的地だ何だ言ってるけど、さして話す話題がある訳でもないのが困りどころ。
「……何しに来たんですか?」
「暇だから運動」
「はぁ? 大人しく散らばった粒子とか言うのでも探してきなさいよ……わざわざこんな所まで来るなんて」
「『こんな所』なんて言う辺り、師匠に染まってるなぁ、とか思わなくもない」
「
そして、溜息を吐いて、「……好きにしなさい。仕事の邪魔はしないでよね」と言っちゃう辺りが、文の甘さというか、私に対する甘さというか、天狗社会に対する帰依性の無さというか。
……まぁ、そういう風にしちゃったのは、師匠である私の所為でもあるのかもしれない。
だからと言って、今更どうこうできるものでもないけど。
何はともあれ、許可が降りたのだから彼女をじっと見ているとしよう。
ただ、何となく逢いたくなっただけだし────まぁ、霧が邪魔で見ようにも見えないけど。
さてさて、彼女の後ろにある岩壁に腰掛けて、
数十メートル空けて、ただ何もせずにボーっとしていよう。
天狗用のスーツを着ている文を見るのは、実は数回程度しか無い。
人里に忍び込んでいるのをチラリと見掛けた時と、この前天魔の家に行った時にすれ違った時ぐらい。
後は……天子の異変で文の家に行った時に、壁に掛かっていたのを見た時ぐらいか。
その時に確か、昔よく着ていた天狗装束が折り畳まれて隅に置いてあったのを見て、もうこれを着ることはないのかなー、なんて事を考えたのを覚えている。
現代と比べれば、というか、現代社会と遜色なさそうな天狗社会と比べてみても……まぁ、時代錯誤には違いない。多分。
というか、いつの時代の私から見ても破廉恥極まりない。と思う。
そこまで考えてみると、今のスーツはともかくとして、スカートとお揃いのシャツという姿は彼女にとってもなかなか気が抜けている状態の服装でもあったのかもしれない。
いや、仕事終わりで我が家に寄る時の服装もだいたいアレだし、あれも制服の一つなのかもしれない。
……ま、この前天魔の家に行った時に見たあいつの妻達は、例の天狗装束を着てたけどさ。
あれはあれで多分、天狗の街について詳しく知らないものに対しての良く分からないアピールなんだろなぁ。うーん、理解不能。
と、そこまで考えた所で、霧で後ろ姿が若干掠れて見える文が、羽団扇を取り出した。
クイッ、と上に動かしただけで、遠く離れた妖怪の山の裾部分で竜巻が起きたのが分かる。
規模としては……人を里まで吹き飛ばす程度か。で、着地に関しては知らん、と。
私の感知範囲内ではあるけれど、私がやろうと思ったら莫大な量の妖力か、大きな術式を扱わなければ届かないであろう遠い所に、彼女は軽い動作で竜巻を起こしている。
風そのものに対する技術でもここまで差ができてるかー、と悔しく思う反面、素晴らしい才能を持った奴を弟子にしちゃったなー、という鼻が高くなるような思いもある。天狗だけに。
仮にあの威力の竜巻を起こすとして、文が起こした位置を100としたら、私が同じ威力で再現するとしても、私の有効射程距離は30ぐらいが限界かなぁ。
それも、今の簡単そうに起こした竜巻を元に計算しただけだから、文の有効射程距離はもっとある計算になる。
……まぁ? 今の遠距離攻撃が実は彼女が見栄を張った結果の攻撃で、限界ギリギリの距離に最大限の攻撃をして、それを私に本気だと見せないようにしている。っていうのも可能性としてはあるけどねぇ? ふふふ。
そこまで考えた所で、羽団扇をショルダーバックに仕舞って先程と同じように腕組をして監視の体勢に戻る文。よく入るねそれ。河童製のバック?
────ん、いや。注意は逆に私へと向けてるのか。
「何を笑ったのよ?」
「おっと、失礼。弟子の成長が嬉しくてね」
「……何言ってるんだか」
そう言って、また注意を私から逸らして、何処かへと注意を向け始めた。こちらには一瞥もくれていない辺り、仕事は真面目にやっているらしい。
ふむ……てっきりスーツ姿だから、記事に書く内容を頭の中だけで整理しているのかと思っていたけど、今やっている仕事内容は山の哨戒任務らしい。
そうやって考えて見てみると、いつもの飾り付き赤頭襟を被っているようだ。ぼんやりとしか見えないけど。
人里でスーツスタイルの文を見た時は確か帽子だったような気がするから、やっぱり人里の情報収集の後に、哨戒任務にすぐ就いたのかな?
……文がそんな詰めたスケジューリングをするとはちょっと思えないんだけどなぁ……。
まぁ、若干機嫌が悪いのも、実はそこが原因だったりして?
仲が悪い知り合いに頼まれ事をされて、断りきれずに今の状況になったとか。
……んー、元より、私と出逢った時から天狗社会で爪弾きにあっていた彼女だしなぁ。
今でこそ表面上は天狗社会で暮らしているように見えるけど、内心は一体何を思っているやら。
まぁ、他人の心の内なんて能力者でもなきゃ読めないものだし、幾ら私が考えた所で結論は出ないんだけど、さ。
師匠だからって、弟子のすべてが分かる訳でなし。
家族だからって、娘の事をすべてを知っている訳でもなし。
だからと言って、何も行動しない、という訳にもいかないのがこういう問題の難しい所。
……でも、今は動く気になれないのが、私の実に怠惰な問題点。
参ったもんだ────この『参った』も深く問題として捉えていない所が根本的に、ほんっとうに、ダメな部分。
そして、そういうのも分かって尚、こうして後ろから文を見続けているだけ、っていう結果になっている……ってね。
思考が堂々巡りをし始めようとした所で、ふと思い付いたように文が振り返った。
霧が邪魔して彼女の顔、表情が見えない────と考えた所で一陣の風が拭き、私と文の間にあった霧だけが消えていく。
まぁ、向こうも似たような考えを持って、風で散らしてくれたらしい。
「どうしたの?」
「どっちかって言うと私の台詞よね、それ……」
霧の向こうに居た彼女は、私の問い掛けに呆れた顔をして居たけど……すぐにその顔を引き締めてきた。
「アンタ、何かあったの?」
ん〜……。
「……いや、ない訳じゃないけど、何かがあった、とは言えないかな」
「ふぅん? ま、鬱って訳でもなさそうだけど」
「ん、まぁね。何となくテンションは低い気はするけど、そこまでって訳でもないかな」
いつもの鬱、と呼べるほどに気分が落ちている訳でもないし、これから気分が落ちていくような感覚もない。まぁ、そんな事件が起これば別だろうけどさ。
だからまぁ、なんとなくだ。
何かそういう事件があった、という訳でもないけど、気分が悪くなるようなことはなかった、とも言えない。
う〜ん、複雑怪奇。
濁したような表現をする私に対して、彼女は改めて、眉を少し顰めてこちらを見てくる。
睨んでいるとも言えないような、怒っているとも言えないような、少し感情を滲ませたような感じの顔色。
「私だってこんな状態だし、何か起こすつもりは更々無いよ。本当に」
「……」
どちらかと言うと赤い、彼女の黒眼をジッと見て、宣言する。
幾ら何でも、こんな時に嘘は吐かないし、そも彼女に言った所で意味が無い。色んな意味で。
向こうから何かやって来ないかぎり、私としても面倒事は起こさないつもりだ。喧嘩は勿論、周囲に多大な迷惑が掛かるような事もしない予定だ。
私の実力も大分落ちてしまっているし、何か異変とかが起きるとしても、私は混じって遊ぶつもりはない。
遊ばざるを得ない状況なら……まぁ、話は別になってくるけどね?
そういう事を、言外に含んで宣言した。
文なら推し量って、理解せずとも納得はしてくれるだろう、と思って。
「……はぁ……」
まぁ、その願いとも言えない考えも伝わったのか、嘆息して再び彼女は前を向いて警戒をし始めた。
その溜息は、了承の意なのか、それとも諦観の意なのか。
どちらにせよ、結果は変わらないような気もする。
それが、私の言いたい事を理解してくれなかったとしても、だけどね。
そうして再び、私と彼女の間に霧が立ち込めていく。
スーツ姿の彼女が、またぼんやりとしか見えなくなった。
なんだっけ……『真実を知る事が全てじゃないんだ』だっけ。
いや、兄貴のお喋りに出てきた言葉だったかも。まぁ、兄貴がペルソナから取っただけ、って可能性もあるけど。
「────お願いだから……」
「ん?」
ふと、私の思考の合間を突いたように、彼女の口内から小さな呟きが聴こえた。
……つい反応してしまったけど、これ寧ろ聴かれたくないような──聴こえなかったふりをして欲しい──呟きなんじゃないだろうか。
「……あー……」
と、いうような予想を、困ったように『あ行発音による独自の健康法・その1』を四秒ぐらい続けた後に、赤い頭襟に隠れている部分をコリコリと掻いている様子を見ている分には、かなり正解に近かったようだ。
見えていない表情とか、今回は上手く隠れている耳とか、もしかするとアレなのかもしれない。
ん、んんー……こっちから誤魔化してあげるべきかしら……?
とか考えて、助太刀の言葉を考えている内に、彼女は彼女で次の結論を出したらしい。
「お願いだから、今度何かやる時は私とか、彩目に何か一言言ってからにしてちょうだい……勝手な心配するのも、疲れるから」
「………………あいあい」
まぁ……『言っても心配してくれるでしょ?』とか言って茶化してしまうのは、流石に問題だろう。多分。
それから、一時間ぐらい何も喋らない時間が過ぎ、交代の天狗が来た。
その天狗は私にえらくビビっていたから……まぁ、幻想郷が出来た後に生まれた天狗なのだと思う。鬼と一緒に鍛えていた世代にしては、妖力の量が少なすぎるから、そう判断したけど。
何を言う訳でもなく、私の家まで彼女は付いて来て、そしてそのまま夕御飯を食べていった。
彩目は今日も人里の方が忙しいのか、帰って来ていなかった。
帰って来ていたら多分、スーツの文に驚いたりするんだろうなぁ、とも思ったけど、まぁ、タイミングが悪いのだから仕方ない。
そのまま私の家にある文用のラフな格好になって、二人して静かな酒盛りをして、特に何もなかった一日は終わった。実に平和と言える一日だった。
……文が悪酔いして私に絡んでこなければな!! 半分セクハラ親父と化していたしな!
何で私よりも圧倒的に酒に強い筈の天狗が、こういう日に限って悪酔いするのかねぇ……?
「ぅ……うぅぅ……詩菜さん……お水……下さい……」
「……はぁ……ほら」
翌日、予想通り二日酔い状態になっている文を見ると、何故かデジャヴを覚えた。やれやれである。
まぁ……二人して謎の精神状態から乗り切ったみたいだから、これで良いんだろうけどさ?
とあるIFENDの伏線も実はあったり(どれとかどことかは言わないけど。