風雲の如く   作:楠乃

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東方緋想天 その21

 

 

 

 私が小さくなって、数日が経った。

 とりあえず、体調そのものは回復した。妖力もまぁ、この体格当時の量まで順当に回復した。

 気怠さもある程度はなくなったし、数日が経った今では自覚すら出来なくなってる。良い事かどうかは分からないけど。

 

 まぁ、その体格の変化に気付く奴は気付くし、気付かない奴は気付かなかった。

 例として挙げるなら、文や天魔、天子は気付いたし、ふらりと立ち寄ってくれた椛やにとりは気付かなかった。

 小さくなった翌日に逢ったネリアは一切気付かなかったし、その前日にあったルーミアは一瞬で気付いたし。

 気付いたけれど反応しなかった、というのなら、つい先日夕食をいただきに来た紫と藍が挙げれる。まぁ、あの二人は多分幽香の家を見ていたとかだろうけど……夕食だけ食べてさっさと帰っていった辺り、やっぱり私の体調を確認しに来ただけのような気もする。

 彩目が人里に泊まる日に、橙を除いた八雲一家で来たって事は、何やらまた不穏な事情があったとしてもおかしくはないけどね。

 

 ……あ、そうか。私が発狂するのが分かるような術式があるのなら、私の肉体変化が分かるような術式もあって当然……なのかな?

 となると紫はともかく、彩目にはそういう事での隠し事ができないと……うわぁ……。

 

 いや、まぁ、何て言うか……彩目相手なら、良いっちゃ良いんだけど……。

 

 

 

 そして、今日も一日が始まって、朝日を拝んでやろうと布団から立ち上がろうと瞬間に、

 

 

 

 

 

 

「────おはよう!」

「ニ゛ャア!?」

「……天子ぃぃ!!」

「うわっ、ちょっ何よ彩目!? せっかく起こしてあげたのに!?」

「起こすにもやり方というのがあるだろうが!!」

 

 

 

「……」

 

 超、局地的な地震によって、一家全員が起こされた。

 迷惑極まりない。

 

 ……何て言うか、ものの見事に彼女、いつも通りになったね。

 良い事……なのかしらねぇ。

 

 まぁ、いつも通り、迷惑を掛けて遊びに来た天子の相手でもしてやろう。

 

 

 

 朝食の後でな!

 

 

 

 

 

 

 私が朝食を作っている間、ずっと彩目が天子に対して説教をしていた。

 正座をした天子に対して頭上から怒鳴る彩目という図にも笑えたけど、一番笑えるのはその彩目に隠れて痺れているであろう足先をぴしぴし叩いているぬこだった。

 それに対して、全然痺れてない様子で後ろ手に弄び返す天子。

 説教中なのに、何やってんの君等。

 

 まぁ、そんな私も笑い声を彩目に届かせて中断させたりしないけどね。

 

 

 

 何はともあれ、実家で朝食すら食べずにこっちに来たというのだから、彼女の分も用意せねばなるまい。

 

「ほら、彩目もそこら辺にして。朝食できたよ」

「……次やったらもっと怒るからな?」

「ハイハイ」

「はぁ、やれやれ……」

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 プリプリと怒ったまま、彩目は人里へと出掛けて行った。

 何やらまた面倒事でも起きてるらしく、今日明日は帰ってこないらしい。二日も泊まり込みとは珍しい……訳でもないか。

 私の方が外泊多いだけで、誰も居ない日もあるくらいだしね。

 

 まぁ、何にせよ、彩目は出掛けてしまった。

 

「私も何処かに出掛けようかと思ってたんだけどね」

「……その身体で?」

「ん、その為に出掛けよう、って話」

 

 そもそも、早期に回収しなければならない、って話でもあるしね。

 その割には、数日間のんびりしちゃう、ってのが実に良く私を表してるよね!

 

 神社にでも行って、萃香の力で私を集めれないかなぁ、とか考えてたんだけど、来客が居るならまた今度にしよう。

 

「……いいの?」

「いいのいいの。どうせ……まぁ、良いのよ」

「え、何? なに茶を濁したのよ?」

「キニシナーイキニシナーイ」

 

 どうせ年月喰えば元通りになると思うし、なんて言ったって私の成り立ちを根本的に理解してないと言ったって分からないだろうからね。

 別に、そのやり方もやろうって気にならないのが、なんとも言えないけど。

 

 

 

 

 

 

 まぁ、

 

「君とは違う来客が来ちゃったしね」

「え?」

「どうする? ついでに逢ってく?」

 

 性格の相性は別に悪くないとは思う。

 何処までも眼の前のその先へ突っ走っていく天人と、理想と現実をただひたすら追う旅人ならぬヒト。

 まぁ……最後に逢ったのは九世紀ぐらい前だから、性格変わってるかもだけど。

 

 いや、性格云々の前に種族的に敵同士なのかな? 死神じゃないって話だったと思うんだけど……まぁ、逢えば分かるか。

 天子にとっては、『逢う』というよりも、寧ろ『遭う』の間違いなのかもしれないけど。

 

「……誰?」

「ん、逢ってからのお楽しみ」

 

 そう言って、私が縁側に座って誰かを待つ体勢になると、天子もしばらく迷ってから隣へと座った。

 いつぞやのように、そわそわとしているのは懐かしくもあり、なんだか笑みが湧いてくるけど……さてさて、私が浮かべているこの微笑みは柔らかい笑みか、はたまた、悪巧みのしたり顔か。

 

 

 

 ふふん、果たして平穏に終わるかしら?

 

 

 

「────ッ、詩菜!? アンタ!?」

「なに驚いてんのさ。私を誰だと思ってるの?」

 

 かの、『理解不能の鎌鼬』ですよ?

 いやぁ、別に私を放っておいて決闘とか始めるのなら、止めるけどね。

 

 私達の元へと歩いてくる影が、ようやく視界の中に入った。

 だんだんと大きくなっていくその姿は、やっぱりあの時と変わらず小さいままで、成長していないという事はやはり、人ではなくなったんだなと思った。

 まぁ、人に失望した、というか、理解しようとしてくれる相手に恵まれなかった人生に嫌気が差した彼女が人生をやめて、あれからどのように生きて、どう変わったのか。

 

 視てみたい。

 この気持ちが、果たして私個人のものなのか、それとも神様としての気質なのか、はたまた別の何かに影響されているのか、分からないけれど、その生き方を、視てみたい。

 

 ……少し、スイッチが入りそうだ。

 

 

 

 

 

 

「やぁ、久しぶり。『神代(こうしろ) 牡丹(ぼたん)』、825年ぶり」

「……お久し振り、です……詩菜さん………………ちっちゃくなりました?」

「あ、分かる?」

 

 神代 牡丹。

 相も変わらず黒い服を着ている。口調は何故か敬語になってるけど。

 昔見た時は、穴を開けた真っ黒なボロ布を頭から被って、それで全身を隠していたけれど、今では黒を貴重とした浴衣のような服を着ている。

 

 ただやはり無彩色系の、灰より濃い色合いの物しか着ていないようだ。

 まぁ、小汚い印象は全くと言っていい程なくなったから、良い事なんだろう。多分。

 身長はあの時と何も変わっていない。むしろ私の方が縮んでいるのだから、逢っていない間に何があったのやら、という感じなんだろう。

 

「牡丹は、変わってないねぇ」

「……私は、変わらないよ……変わろうとも思わないし」

「うんうん。そういう所も変わってないねぇ」

「そう、かな……」

 

 私の目の前で止まり、私が声を掛けるまでキッと細められていた眼が、今の会話でようやくほころんだ。

 『記録』と詩菜が違う、とか考えていたのかね? 私の声を聴いて正否を決めるってのは、どうなんだろうとは思うけど……さてさて、そこまで成長していたのかしらね?

 

 

 

「……」

 

 横で天子が腕を組みながら、ただジッと牡丹を見ている。

 技量を見ているのか、それとも何かを視ているのか……まぁ、どうでもいい。

 

「こっち、たまたま今日遊びに来てた天人の『比那名居(ひなない) 天子(てんし)』さん。そっち、昔の知り合いの『神代 牡丹』ちゃん。種族はなんだっけ?」

「『死神』かな。よろしく、『天人』さん」

「……ええ、よろしく」

 

 黄泉へ誘う死神が手を差し出して、寿命を延ばす為に撃退し続けている天人がそれに手を伸ばし、共に握手をしている。

 いやぁ、感動的なシーンだね。

 

 それを横から見てニヤニヤしていると、一秒と経たずにどちらからともなく握手を終わらせて、どちらからともなく私を見て、二人して呆れたような顔をし始めた。

 私はこういうヒトだと、共通の認識が生まれたらしい。

 また見合わせて、二人ほぼ同時に溜息を吐いている。いやぁ、善き哉善き哉。

 

 

 

 

 

 

 ────まぁ、天子が居たのは、非常に好都合だったかもしれない。

 

 下駄を履いて、縁側から下りる。

 

 ────さてさて、牡丹と別れた時に、どういう会話を交わしたっけ?

 

 バッ、と身を翻して、家の方へと振り返る。

 

 ────今の私は間違いなく、少し紅くなっているんだろう。

 

 縁側に座ったまま呆けている天子を見て、

 

 ────でも、大丈夫。まだ、弾幕ごっこ。これからも、弾幕ごっこ。

 

 臨戦態勢、とばかりに全身に霊力を滾らせた牡丹を見て、

 

 

 

 ……持っていなかった、限りなく薄かった顔の表情が。

 

 今は、人間の活力、生への欲とも言えそうな、

 それでいて彼女らしく、それでもまだ、酷く薄い、『獰猛な笑み』が浮かんでいる。

 

 

 

「約束はなんだっけ?」

「約束はしてないよ……強くなったから、見せに来ただけ……!」

「それもそうだった。んじゃあ、見せてみなよ! この私に!!」

 

 ダン、と脚を地面に叩きつけて、結界を張る。いつものように、広さは30メートルくらい。

 

 ようやく調子の戻った天子が気を利かせて、結界の中に渦巻く気質を具現化してくれた。

 私が思っていた事を言わずとも実行してくれて、良い空気の読み方を覚え始めたようだ。誰のお陰かしらね。

 

 

 

 そして、いつものように、風が竜巻として、うずまき始め────ない。

 

 

 

 私の気質が天候となって具現化せず……次第に周囲が暗くなってきた。

 

 自分の粒子が少なくなったから、表に出る気質も少なくなった……?

 私の気質が表に出ないなんて……これは、雲を呼び寄せるタイプの天候……?

 

 そう考えて、チラリと上を見て────驚きで、一瞬、思考が停止した。

 

 

 

「……私の気質は、『大赦を引き起こす程度の天気』」

 

 

 

 いやぁ……天子がオーロラを出す気質って聴いた時も驚いちゃったけど、さ……。

 この私が、驚いちゃったけどさ……。

 

「これが、私の力……!」

「え……?」

「ハッ────」

 

 

 

 つい、笑ってしまった。

 

「────ハ、ハハハッ、なるほどね! 『日食』か!!」

 

 

 

 どういう原理かは一切分からないけど、緋想の剣によって集められた気質が、天をも動かしたらしい。

 頭上で輝いていた筈の太陽に丸い影が重なって、周囲がどんどんと暗くなっていく。

 その中で、私が居る結界の中で、牡丹の身体が霊力によって強く輝いている。

 

 服や雰囲気とは相反するように────過去を振り切って前へ進むかのように、強く、白く、輝いていく。

 

 そして、完全に太陽が姿を消した所で、彼女の頭上に、いつか見た能力が、出現した。

 

 

 

「詩菜さん……貴女にこそ、見て欲しい……! 《尊属『拒絶の金槌』》!」

 

 

 

 




 
 牡丹がようやく再登場。ナガカッタ……。



 Twitterにて一次創作のアンケートっぽい投票をしてます。興味があればどうぞ。というかお願いしますm(_ _)m

 尚、残り時間は5時間です(平成28年9月24日 午後5時16分)



 誤字修整 平成28年9月24日午後10時33分
 止まる → 泊まる

 タイトル修整 平成28年10月10日午後2時25分
 サブタイトルを次回に

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