- EXTRA STAGE 2 -
『大死一番』
牡丹の起こす天候、もとい、気質が具現化したことによる異常状態は、攻撃によるダメージが半減以下にする、というものだった。
……うん、こうして後から考えなおしてみても、意味が分からん天候だ。
まぁ、そんな原理を考え始めたら紫の天気雨とか、萃香の疎雨とかも意味不明だから、気にしないけどさ。
なんでまばらな雨が降っただけでスペルや技が巧く出たり、晴れてるのに雨が降ったりするだけで防御が巧く出来なくなったりするんだって話になっちゃう。
うん……何でなんだろう……私と文の気質ほど分かりやすくて効果も感じやすい奴で良いのに……。
何はともあれ、牡丹の事について、考えよう。
天子は帰っちゃったし、牡丹は牡丹で……私の膝で眠ってるし。
こういう所は昔と変わらないのか……それとも……?
▼▼▼▼▼▼
初めに見たのは、純白に輝いている牡丹だった。
まぁ、『
いや、
何にせよ、それほどまでに人間離れをしてしまった彼女を見るというのは、なんだか感慨深いものがあった。
初めて遭った時も、本気を出して私を粉砕しようとしていたけれど、あの時はあの時でやはり、人間の限界、というものが垣間見えていたような気がする。
ま、『人間の』というよりも、『人間である彼女の、限界』と言った方が正しいかもしれない。
「詩菜さん……貴女にこそ、見て欲しい……! 《尊属『拒絶の金槌』》!」
彼女は、そう言った。
そう言って、あの時と変わらない、巨大な金槌を私に振り下ろした。
石を砕く。を、対象を変えて、再現させる。
そのスペルカードの名前も、どんな思いで名付けたのか、私は事情を知っているから、何やら思うことも、ある。
けど、まぁ、勿論。
そんなストーリーの展開をされてしまったら、私としてもノリに乗らないといけないだろう。
「ハハ……甘い甘い! おいで! 年季の違いって奴を、魅せてあげる!」
「……砕かれなさい。妖怪……!!」
具現化した巨大な金槌は、拡大・巨大化した所で材質は元の金槌のままだ。
だから、鉄を壊さない程度の衝撃を何度も叩き込み、運動そのものを停止させれば、
そうあの時と変わらない事を考えて、まず一打、金属を殴った。
「────ッ!?」
能力、感覚、衝撃、勘、何もかもが予想とは大きくズレた反応を返してきた。
一撃、金槌に打った瞬間に、身体を翻して砕かれる場所から離脱。
その地面を蹴る際の衝撃すら、いつもより格段に反応が返ってこない。
結果、ギリギリの所で振り下ろされる金槌の範囲から逃げることができて、私は地面が砕かれた際の衝撃で結界の端まで吹き飛ばされることになった。
飛んでくる石礫を後ろに跳びながら必死に避け、自身を守る結界へのダメージを少なくし、完全に後退しきってしまった所で、彼女からの声が掛かる。
「『あの時の私と』……今の私は違う……!」
「……ふふ、ごめんごめん。ちょいと見くびりすぎていたかもね」
まぁ、『牡丹が相手ってことでちょいと力をセーブしすぎてたかな?』とか、あの瞬間には少し考えていた。無意識に手加減してたかも、とか思っていた。
当然、そんな事はなかったのだけど。
ここからようやく──ようやくと言うか、彼女と出会った時のような──謎解きが始まって、彼女との勝負が始まった。
初めは弱体化されるような何かの術に掛けられたのかと思った。
《尊属『拒絶の金槌』》……拒絶、と言うからには、こちらからの接触を妨害するかのような封印を掛ける、複合型のスペルなのかもしれない。
でもそれなら、地面を蹴る際の衝撃が変化しているのは、あまりにも効果範囲が広すぎではないか?
金槌が触れた範囲、というのなら私の拳に抵抗が掛かったというのも分かるけど、未だ金槌が宙に浮いていて、まさにこれから振り降ろされるというタイミングで、地面に対する衝撃が弱くなる作用が適応されたというのは、あまりにも卑怯すぎやしないだろうか。
そこまで考えた所で、二回目の金槌振り下ろしが来た。
鈍重そうな巨大金槌は、見た目に反して私の──衝撃が半減以下になっていると言え──回避行動を的確に追って狙い定め、素早く振り降ろされている。
思考はそのままで、これまたほぼ全力で回避行動。それでようやく金槌に直撃せずに済んだ。
金槌そのものの威力はとても強く、下手をすれば神社で紫と天子が戦った時のような、地面が浮上するかのような威力だ。ガンッと地面が砕き割れ、衝撃波が地面を伝わって私の脚を傷付けていく。
いや、結界があるから血は出ないんだけど……勝ち負けを決める結界にダメージが入るのは、あまりよろしくない。
地面を蹴り、いつものように壁へと着地をしようとして、衝撃が上手く返ってこずに、中途半端な距離を跳んだだけで終わった。まぁ、その時はそれで地面を伝う衝撃波は避ける事が出来たから良いとして、この異常状態にそろそろ慣れないと反撃にも移れやしない状況だった。
もう一度ジャンプをして後ろの結界に今度こそ移り、そして右手側の結界に移り、今度は反対側の結界と左手側の結界との天井四隅に張り付くことで、ようやく衝撃操作の感覚の勘を取り戻した。
やはり蹴る際に返して欲しい衝撃が、およそ半減ほどに低下してしまっていた。
地面からも、結界からも、返ってくる反応がどれも弱い、というか、鈍い、というか……。
そこで、ふと気が付いた。
私の拳や地面へ伝わる衝撃は半減以下になるのに、彼女の攻撃が半減していないのは何故だ?
地面を砕くほどの威力────石を砕く威力を拡大して私相手に使っているのだから、地面に対して扱えば床が割れる、というのは、まぁ、納得できる。
そもそもスペルカードの効果で、私の扱う衝撃、というか私以外に対する攻撃が半減するもの、というのも、原理が分からないが理解は出来る。
そこまで考えて、それでもやはり疑問点が残る……少し、威力が高すぎではないか?
私があの時、拳で止めて、回転かかと落としで砕いたあの金槌。
『あの時と比べて』、威力、耐久力、持続力、そのどれもが向上していた。
年月を積み重ねた私からしてみれば、些か成長度合いはかなり低いように感じるけれども、それでも彼女のあの金槌は成長をしている。
そして、それを理解して尚、私は『あの時と同じ展開になるように衝撃を調整し』金槌へと攻撃した。
その結果が、逃げまわる私、という図になっている。
能力の成長、精神の成長、再現した金槌そのものの品質向上、スキルのレベルアップ等……過去の技は色んな方法で昇華できるものでもある。
でも、あの『神代 牡丹』が、
《尊属『拒絶の金槌』》とまで名付けた、あのスペルカードを、
尊属を拒絶した、あの金槌から、物理的にも、精神的にも、成長させたりするだろうか?
牡丹と意思疎通をした時間は、日数で言えば一週間もない程だ。
けれど、それでも何となく予想できることはある。
親殺しの罪を背負い、彼岸で働くあの彼女ならば、あの金槌は絶対にあの頃から変わってない。
彼女ならば、成長をさせない。成長できても、しようとは思わない。
『あの時の私と、今の私は違う』?
それは、そうだろう。彼女は自分を乗り越えたから、今、私と向かい合えているんだろうから。
でも、『記録を再生する程度の能力』を持つ彼女は、私のように──トラウマを治さず持ち続けるように──決して自己の記録・記憶を改竄しようとはしないだろう。
そういう性格で、そういう能力、の筈。
覚え、認め、それでも尚、改めず、変えず、そして覚え続ける。
それならば、何故ああも高威力のまま、攻撃を続けられているのか?
あの経験から察するに、あの金槌の本質はただ砕くだけ。
衝撃を半減化させたり彼女の攻撃を高威力化させたり、そういう能力は付与されていない、筈。
彼女のスペルカードは、威力が半減されて尚、当時より少し強いとしか感じられない程しか、成長を許していない。と考えるべき。
それなら、この異常状態は、一体何が原因か。
牡丹から目を逸らし、真上を見上げれば、『黒い太陽』がこちらを弱く照らしている。
他に原因がない。牡丹の天候……彼女の言う通りならば、『大赦を引き起こす程度の天気』だったか。
『
日食という天変地異を起こし、天が定める法に従い、
ならばこれは、この天候による影響は、
『攻撃という罪が発生した瞬間に、軽減または消滅させ、攻撃を祓う天候』
罪がなければ、罰もない。
攻撃がなければ、ダメージもない。
地面に打つ
私が使ういつもの移動は、地面に打った衝撃と、それを跳ね返した衝撃を使った高速移動。
単純計算で攻撃力が半減すると考えても、それだけで私の移動に使う衝撃は四分の一しか使えない。
それでも、
それでも、私と彼女は実力を魅せ合わなければならない。
何故か、そう、強く想ってしまった。
いつぞやの、三船村での、文との決闘の時のように。
「ふふっ……! 《強芯『
まぁ、そうと決めたのなら行動はさっさと、だ。
回避行動を続けて、金槌を振り降ろさせない硬直状態は、もう終わり。
全力で方向転換をして、まっすぐに彼女へと向かい、スペルカードを宣言する。
右拳に現在扱える最大量の妖力と衝撃を込め、三度振り降ろされた金槌へと、おもいっきり拳をぶつける。
後の事をグダグダ考えるなんてどうでもいい、とばかりに本気を込めた、今の全力の一撃。
金槌が私を叩き、私の拳が金槌を叩いた。
金槌から伝わる衝撃のベクトルを正反対方向へと変換。それも変換していく途中から軽減・消滅していくのが分かった。
拳が鉄へとぶつかった瞬間のインパクトが、私の身体を伝って足先から地面へと逃げようとしていく────それも、能力で衝撃が逃げる方向を変えていく。
その結果。
金槌はぶつかった瞬間に、弾かれたように術者の牡丹へとの方向へと弾かれ、そのまま彼女の後ろへと吹き飛び、結界にぶつかると同時に霧散した。
私は『あの時』と同じように、彼女の能力を打ち破り、砕き返すことが出来なかった。
それが少し残念だった。
が、まだ勝負は終わっていない。
金槌を弾き返し、私は弾かれた際のベクトルすら反対方向へと動かした為に、金槌とほぼ同じスピードで牡丹に迫る結果となった。
私本来の移動スピード、それよりも素早く牡丹に迫り、続く左拳の二撃目。
如何に衝撃が半減以下になっていたとしても、私の反射神経や肉体に備わる機能が衰えた訳じゃない。
確実に、牡丹へ突き刺さる。
そう確信して、それだけの自信も持ったまま彼女に迫って、
「《冥官『浄頗梨審判 ─鼬塚詩菜─』》」
牡丹とは
私の身体が完全に停止し、そして金槌が結界にぶつかり、霧散していく。
「……ハハハ、強くなったね。牡丹」
そう言い切った直後に、私の顔に、左拳が突き刺さった。
多分、──というか絶対──彼女のスペルカード、金槌を弾き返した時の衝撃を右拳から吸収し、私の顔面に放った際にまとめて返したのだろう。私の衝撃処理能力を超えた、圧倒的な物理の暴力。
更に、結界へのダメージより、私を吹き飛ばす方を優先してくれたのも助かった。そうでなければ、今回の弾幕ごっこはここで終わっていた。
結界端まで吹き飛ばされた所でようやく脚が地面に着き、後数センチで壁に触れるという所でようやく衝撃を地面に全て流せた。
その時点で、私を護る結界の状態は後もう一回、殴られたり弾幕を受ければ、終了、という所。
────牡丹に与えたダメージは、無いに等しい、詰みに近い状態。
視界を上げて、『二人』へ立ち向かう。
「まさか、『私そのもの』を
不敵な笑みを浮かべ、真紅に輝く瞳を持った、
『私』が、牡丹の前に立ち、私を挑発していた。
それでも────つい、笑ってしまった。
天候:『日食』
『大赦を引き起こす程度の天気』
太陽と地球の間に月が入って、太陽が隠されて見える現象
『全てのダメージが半減以下になる』
サブタイトルはこっちが正解だと思ったので修整。
何かぴったりな曲ないかなーと探してみたけど、コレだ、と言うものがない(´・ω・`)
デ○サマのボスバトルとか、洞窟○語のラストバトルとか、バトルオブ○オとか、アトル○ドラゴンとか、○3Fの闇とか、The ○eaper, named Phoenixとか、色々聴いてる(つもり)だけどしっくり来るのがない。残念。どれも良い曲だけど。