風雲の如く   作:楠乃

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 流石にね、幾ら私もね、例のアレがあったとしてもね、三ヶ月更新停止は不味いと思うのですよ。






行方

 

 

 

 翌日、予定通りの時刻に蹴ってきた文の攻撃を、予定通り反射した際の予定通りの彼女の叫び声で起きた。予定通り、非常に五月蝿かった。

 

 

 

 

 

 

「はい? 取材?」

「そう。神社の裏、突如として湧き出た温泉の取材、手伝わない?」

「……なんで私が」

 

 その作ってくれた朝食の時に、文がいきなりそんな事を言い出した。

 取材の手伝い、ねぇ……まぁ、興味が無い訳でもないんだけど。

 

「ていうか、私にそんな取材の手伝いをして良いの? 新聞にでも使うつもり?」

「別に……『文々。新聞』には使わないわよ。公平(フェア)じゃないとか色々言われるだろうし」

「じゃあなんで。私が霊夢と仲悪いの知ってるでしょうのに」

「……仲が悪いっていうか、アンタが良い態度をしないからでしょ……」

「まぁ、そうとも言う」

「自覚があるのに……まぁ、何を言ったって訊かないんでしょうけど」

「良くお分かりのようで」

「何年アンタと付き合ってると思ってるのよ」

 

 何はともあれ、博麗の巫女と仲が悪いって言っても、向こうが私の事を嫌っているだろうから、私の方からも近付かない、ってだけだしね。

 だからまぁ、そういう訳で神社にはあまり近付きたくない訳であって、紅魔館の地下でもし回収できなかったら、萃香に頼むっていう案を先延ばしにしていたのも、彼女が現れやすい位置が神社か又は天界のどちらか、という話だったからなのであって。

 

 まぁ、今それはどうでもいいか。

 絡まれなけりゃあ、私から彼女に何かをする予定もなし……予定があれば別なのはいつもの事なんだけど。

 

 

 

 そんな感じでお茶を濁し、なあなあで皿を洗うという用事を作って回答を避けていたのだけれど、そういう逃げも弟子の手(皿洗いの手伝い)によってあっという間に終わってしまった。

 やる事がなくなれば結局話し相手を顔を合わせるしかない訳であって、それでしかもその唯一の相手がこれから出掛けるとなれば、それはもう見送る訳しかない訳であって。

 

 ……まぁ、そんなどうでもいい考え事は置いといて。

 

「そういう訳で、手伝う気はないよ。別に手伝いたくない訳じゃないけど、色々と周りから言われるだろうし……何より私に得がない」

「まぁ、それもそうよね。了解」

 

 やっぱりそんなに積極的でもなかったらしく、私がそう断るとあっさりと引き下がった。

 ……ま、彼女には彼女なりの考え方があるんだろうし、何かあれば話すだろう。多分。

 

 

 

 あ。

 

「……湧き出た、だっけ?」

「ん? ええ、そう。間欠泉って言うのかしら。急に湧き出たらしいのよ」

「……ふぅん」

 

 まぁ……いいか。

 

「詳細が分かったら酒のつまみにでも教えてちょうだい」

「それで良いのね?」

「ん、まだどうでもいいかな」

「はいはい、それじゃあ分かったらね」

 

 そう言って、玄関から飛び去っていく彼女を見送った。

 飛んでいく方向は人里。神社とは方角が若干ずれている、って事は、事前に何か情報を掴みにでも行ったのか、それとも……昨日の話でも探りにでも行ったか。

 

 ふむ……さて、どうするかね。

 ぬこはまだ起きてこないし、彩目もこんな朝から帰ってくる訳がないし、文はついさっき出ていったし……天子は多分来ないと勘が囁くし、天魔はまぁ、別にどうでも良いとして。

 

 

 

 今日は何をしようか……。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

「お邪魔する」

「……いらっしゃい、志鳴徒君。久々だね」

「ん、暇つぶしに来た」

「出口はそっちだよ」

「商売する気ゼロか」

「買う気のないヒトに商品を勧めてどうするんだい」

「まぁ……ごもっと、も?」

 

 納得できるような、できないような……。

 

 何はともあれ、一年半ぶりぐらいに香霖堂に来てみた。

 相も変わらず店内にある物は外界にあるのが基本で、どれも幻想郷で果たして使えるか疑問なものばかりだ。果たして商売はきちんと出来ているのだろうか。いや出来てないんだろうなぁ……。

 

 こうして香霖堂に来るのも本当に久し振りで、この冬は出掛けるとしたら紅魔館という真逆の方角だし、それ以前ともなれば異変で慌ただしい時期となり、寄るとしても神社やその周辺だけという状態だった。

 まぁ、魔理沙宅とか、アリスの家とか、そういう目的地から途中で寄ろうと思えば寄ることも出来るような位置にも関わらず、香霖堂に一年半前から一度も寄らなかった理由としては……別に無い、というのが真相だが。

 

 

 

「それで、結局何をしに来たんだい? 君が何の用もなしに来るとは思えないが」

「……森近は変な所で勘が鋭いな」

「褒めているのかそれは」

「褒めてる」

「……そうかい……」

 

 まぁ、用がない訳じゃないのは本当の事で、実際は刀の様子を見に来た。

 

 森近の座るカウンターのすぐ横の棚の、一番下の段に入っていた白鞘の短刀を取る。

 鞘から刀身を出してみると、驚いた事に一切の錆がなかった。白木は保存に適しているとは知っていたけれど、五百年以上もほぼ完全なまま保存できるとは……。

 

 いや、まぁ、森近が気を使って手入れしてくれた、っていう可能性もあるか……いや、それにしたって五百年前だぞ……あの戦乱を超えて、ここまでの状態で残るかね……?

 

 そんな多少なりとも困惑しつつ、昔と変わらない状態である事に安心して、鞘へと戻して再度元の場所へと戻す。

 詩菜なら兎も角、志鳴徒が使うには些か小さすぎるし、実際の製作者である彩目が喚び出して使うような予定がある訳でもない。そもそも彩目がこの刀の存在を知っているかも怪しい。

 そもそもこの短刀を使う程に必要な訳でも忙しい訳でもない。使わないなら使わないで居た方が安心だしな。

 

 

 

 そうしてふと視線を店主に戻してみれば、怪訝そうな顔がこちらをじっと見ている。

 

「何か?」

「……そういえば、種族は何だっけ?」

「ほぼ答えだから言わない」

「……その言い方が既に答えじゃないか」

「さぁてね」

 

 とか何とか言い合いながら、適当に椅子を見繕ってカウンターへと肘を掛ける。

 別にあの刀を持ち帰る気はない、そう言外に匂わせると森近は、納得したようなしてないような、歯切れの悪そうな顔をした。

 

 まぁ、それでも何か言いたげだったので、スキマから適当にお茶請けを取り出してカウンターの上に置き、

 

「気にしない気にしない」

「……ま、君がそう言うならそうしておこう」

 

 そう言って、温かいお茶を出してくれた。

 実は雪が降る中、跳んで来たので非常にありがたかったりする。

 

 

 

 

 

 

 まぁ、暇をつぶしに来た訳ではあるが、だからと言って特段喋りたい話題がある訳でもなく、何をする訳でもなくお茶とお茶請けを摘みながら、商品を眺めたり窓の外を眺めたり、意味もなく森近を眺めてみたり。

 

「………………何か?」

「何も」

「……」

 

 ふと店の奥側にある窓を見れば、割られた箇所を新聞で覆っているのが見える。

 よくよく見なくとも、家では滅多に見ない『文々。新聞』だった。森近は購読しているのかね?

 

 その窓の二つほど手前にある棚に、蓄音機が置いてある。

 ……そう言えば、いつぞやのミスティアと一緒に歌った時、伴奏が欲しくなったのだった。

 あれは詩菜がやったことだから、志鳴徒の俺が調べてはいけないことだが……まぁ、その内に外の世界で何かしら調べるとしよう。

 幻想郷で何かしらの楽器でも探せば良いんだろうけど、迂闊な物を手に入れると付喪神とかあるからなぁ……。

 

 まぁ、それを言うならさっきの短刀だって、年数を経た古刀の一つであることには間違いないのだろうから、下手すりゃ付喪神が憑いていてもおかしくはないのかもしれない。

 ……いや、それだったら森近が何かしているか。もしくは博麗の巫女辺りが。

 魔理沙も霊夢も、割とここに訪れては暇つぶしをしているらしいからな。

 

 

 

 視線を戻すと、読んでいた本から顔を上げてこちらを見ていた森近と目が合う、

 

「何か?」

「……そう言えば」

 

 おお、あるのか、話題。

 てっきり色々と見ている俺を見て、何か言いたいけど言わないままにするかと思ったんだが。

 

 

 

「この前、神社で大きな騒動があったらしいね。なんでも神社が倒壊したとか」

「ああ、あったな」

「何回も倒壊したらしく、その内の一回は賢者の従者がやったとか」

「……ああ、詩菜の事か?」

 

 まぁ、詩菜というか、私というか。

 

「……随分とあっさりと認めるんだね?」

「認めるも認めないも、事実は事実だろ。その時俺は幻想郷に居なかったけど……それに、式神の契約自体は詩菜が結んだもので、俺はその力のおこぼれに与っているだけだし」

 

 という設定、ってだけなんだがな。

 実際紫がどのように設定しているかは、当の本人でもある俺も知らない訳であって……まぁ、正直に言えば別にどうでもいいけどさ。

 

 紫が何か考えて、式神化の術式の事前に策とか術式を挟み込んでいるとしたら、それが今日の今まで発動していないというのもおかしな話だし、仮に数百年後の今になってもまだ発動していない術式があるとしても、彼女がそこまで考えて仕込むという訳なのだから、別に深く考えた所で理解できる代物でもないということだろう。多分。

 

 

 

「……ていうか、詩菜と逢ったこと、あるのか? 話題を一切聴かないが」

「人里でならちょくちょく見るよ。喫茶店でいつも何か飲んでるのを見るね。この前も竹林近くの原っぱでボーッとしてたし」

「……何してんのアイツ」

「さぁ……?」

 

 うわぁ……見られてた……。

 幾ら自覚できなかったとは言え、これは何か、凄い恥ずかしい……いや、俺のことじゃないんだけど……。

 

 それにしても、あの喫茶店に居るところを見られていたのか。

 そう言われてみれば、森近に似たような衝撃も聴こえていたような気もしていたけど、こんな辺鄙な場所で店を構えている森近が、人里の端の方にある喫茶店の近くに居る訳がないと思い込んでしまっていた。

 

 ……まぁ、言われてみれば、人を襲って生きている妖怪でもない訳だし、人里で生活物資を買うのは必然……なのか?

 んん……ていうか、森近って、人間、だっけ……?

 

 あ、上手く隠してるけど妖力が若干あるな。彩目と同じく半妖って所か……はたまた、どこぞの喫茶店の店主のように上手く隠しているだけか。

 いや、あの親父程上手く隠してねぇな。それも隠しているつもりなら、って話になるけど。

 

 

 

 そしていつの間にか会話が途絶えた。

 森近は会話中にも本を読むという、中々高度な事をし始めたし、かく言う俺も相変わらず店舗内をジロジロと見ていた。

 

 ……そう言えばネリアが居ればあの電化製品の一部は動かせるんじゃないだろうか。

 いやでも、あの湖の妖精たちと逢うのはいつも詩菜だし、志鳴徒でしか来ない香霖堂に彼女達を持っていくのはかなり難しいんじゃないだろうか。

 

 ……まぁ、そんな事を画策するぐらいなら、ここで一つ買ってしまって家に持ち帰って、スキマ経由で『彼』の家から電気を貰えば、全てが解決するしその方が最も簡単なんだけどさ。

 

 

 

「……ちなみにそれ、さっきから何を読んでいるんだ?」

「これかい? ついこないだ無縁塚で拾った本だよ」

「いや、タイトルは?」

「『build with Programming』というタイトルらしい。外の世界にあるコンピューターへ、確実に命令文を与えるための参考書、と言った所かな」

「……へぇ」

「そういえば……君は最近まで外の世界に住んでいたんだったか。内容は分かるのかい?」

「……まぁ、分からなくはないと思うが……」

 

 まぁ……別に外の世界の知識だし、式神を持つこともなさそうな森近に真実を教えてもよいのだけど……めんどくさいから良いか。

 

 別に、多分常日頃から俺が使っている術式言語が、まさにそれと似たような感じだと思うんだけどなぁ……。

 とか思いつつ、身体を乗り出してカウンター越しに本を覗き見る。

 

 うん。やっぱりプログラミングの本か。

 一応式神というか、眷属のぬこに対して、こんないちいち細かい設定をして命令を下している訳でもないしなぁ。大体アイツなら普通に話しかければ通るし。

 

 流し読みをした感じ、どうやら学生用の教科書らしく、簡単なソースコードを書いてお手軽に遊びましょう、というような内容らしい。

 まぁ、開いている2ページ分しか情報がないものを、今この場で再現、なんてことは難しいが……出来ないことはない。

 

 とは言え、画面上に再現されるものを、いきなり術式で三次元に再現しようとなると、幾らか工夫が必要になってくる。

 マウスでオブジェクトを動かそう、っていうものを再現しようとすると、まずオブジェクトを三次元上で配置、その上で座標移動を強いる条件式、マウスのポインターの代わりが、術者の視線先か、それとも術式の源となる力の及ぶ範囲内なのか、それとも指先なのか手の上なのか……とまぁ、色々と考えなければならない。

 

 今すぐ森近の前で再現しても良いけれど、幾らかそれをするには本ごと貸していただきたい所。

 

「やろうと思えば出来なくはない」

「へぇ?」

「ただ、やるなら本を貸してくれ。あと再現するための時間」

「……いや、それなら良いよ。僕は理解したくて分かる君に貸す訳じゃないから」

「そうかい」

 

 それなら何故読み続けているのか、と思うのだけど………………まぁ、やっぱり森近もどこか変な人、という訳なのだろう。多分。

 ……今日だけで、『多分』を何回使ったかなぁ……。

 

 

 




 


 あと数話書けれたら、連続更新したい(予定は未定)

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