「ハァ~…」
疲れた……看病とはなんて疲れるものか……。
毎回毎回、変な事故にあう私を看病していた天魔や幽香は凄いもんだよ…ホント。
藤原氏の陰謀兼宴会。の翌日。
結局、流れに任せて酒を掻っ込み酔い潰れた俺と藤原氏は、妹紅に後片付けから俺等の始末まで任せてしまう、そんなダメな調子で朝を迎えた。
「父上もしっかりしてください!」
「はいはい…」
「ハイは一回!」
「…はい……」
こうしてみると、どっちが親か分からないな…。
父親は二日酔いの頭痛で立場が弱くなっているし……。
俺? 能力で吹き飛ばしてます。頭に響く衝撃を取り除く!!
これこそ能力の使い道だと思うんだ。うん。
「…すまんが、わしは仕事があるのでな……あとは頼む…」
「へいへい。りょーかーい」
「……不安じゃ」
「二日酔いに苦しんでる藤原氏に言われたくはない」
俺だって同じだぜ? 弟子に何か教えろったってねぇ……?
天狗三人組は基本放置だったし、彩目も彩目で最近逢ったばっかだし……あれ? 特に何もしてないな俺…?
ま、まぁ! 妹紅で挽回すれば良いのだ!! うん!
……考えてもどうすりゃいいのか分からん。
ここはまず親睦(?)を深めて、それから考えるとしよう。
「さて妹紅や」
「なんでしょうか?」
「……どうしようか?」
「…はい?」
「今まで俺は弟子なんて基本放置しかしていなかったし、愛娘っぽいのはどっかに出掛けたし……ぶっちゃけ何かを教えた事なんてない」
「弟子を持ってた事も娘が居た事も初耳なんですが……」
「弟子というか舎弟だな、あれは。そして娘ではないが……養子という訳でもないな」
「…そこらは、私も似たような感じですね」
「ふぅん? まぁ、俺もそこまで深くは聞かん。重い話なんて単に疲れるだけだ。で、だな? まずは俺は何をしたら良いと思うよ?」
「……それはやはり師匠が考えるべきなのでは…?」
「能力なかったら単なるヒトだよ、俺は」
「…師匠の能力は『衝撃を操る程度の能力』ですよね?」
「おお、会話が広がった。俺の能力か? そうだな」
「私を追う事が出来たのは、その能力で追ったからですか? やけに私の位置をハッキリと捉えていたようですが……」
「ああ、床を叩く『衝撃』音を追った」
「では、私に気付いたのは何が切っ掛けでした?」
「ん? ん~……気配というか匂いというか勘というか…まぁ、そこら辺の第六感だな」
「そ、そんなので気付いたのですか……」
第六感なんて嘘だがな。
妖怪で人間の匂いに気付いたなんか言えるかバカヤロー。
「はい? 何か言いましたか?」
「いや何も。それはそうと妹紅はどうなんだ? あれほどの技術はそうそう持てないと思うんだが?」
「…私もなんとなく。としか言えませんね…」
「そっか…才能かねぇ」
「……」
「……」
「……話、きれちまったなぁ」
「……そうですね。むしろ初対面では良い方かと思いますよ」
「…案外、冷静なんだな?」
「…まぁ、慣れてますから」
「大変そうだな、色々と…」
「貴方も大変そうですね…」
「「……」」
会話が続かん!!
いかん。この調子だと仲良くなれずに一年が経っちまう!
向こうも同じか、必死に頭を回転させて考えてるように見える。
ヤバいヤバい……マジヤバ……ッ!?
何処かで自分の仕掛けた術式が破られるのを感じる。
それと同時に『緋色玉』に仕掛けておいた、術者に発動場所を教える仕掛けが俺にその位置を知らせてくれる。
つまり、『緋色玉』が発動した。
……彩目の一大事だな。こりゃ。
やれやれ…嫌な感じだねぇ。
「悪い、用事が出来ちまった」
「え…?」
「どうやら家族が危うい、らしい……すまんな。一回目の授業すら師匠らしく振る舞えないとは」
「…娘さん、ですよね……私と歳は近いですか?」
「ん? ……まぁ、雰囲気は」
既に人間の平均寿命なんてとっくの昔に越しているがな。
身長も、この時代の平均男性より数十センチほど高いがな。
口調ですら男っぽい感じ……あれ? 全然似てなくね?
何で俺、似ているって言っちゃったんだ?
……まぁ、いっか。
「大切な家族、でしょう? そちらの方を優先してください」
「…良いのか?」
「ふふ、まだまだ一年後は先の話です……帰ってきて、私に師匠のお話を聴かせて下さい」
「すまんッ!!」
良い子や……!! 涙出てきた…! 嘘だけど……!
屋敷を飛び出し『緋色玉』が爆裂した方へ向かう。
彩目の気配は掴めないが、爆発した所の近くにいる筈だ。
元々都の端の方にあったこの屋敷。道をゆく人も少ない。だから高速で跳ぶ。明らかに人が出せる速度ではない勢いで跳んでいく。
そして都が見えなくなった所で、久々に全速力…!!
ジャンプして木に着地、足場にして木々を渡り抜ける。
……大きな身体だと、通り抜け辛い…!
変化、詩菜。
身体はやっぱこっちの方がやりやすいんだよねぇ……まぁ、別にどうでもいいんだけどさ。
狭い木と木の間を通り抜け、しなりやすい竹林の中を跳び抜け、草原は地面を滑るように走り抜け、目的地に向かう。
爆発跡が見えた…!
既に発動から一時間は経っている。通りすがりの野良妖怪に気絶した彩目が襲われている可能性もある。もっと急がなければならない。
そんな焦りとは裏腹に、冷静に状況を見ている自分も居る。
……ん~、やっぱ威力が強すぎたかな……軒並み吹っ飛ばされてるし…。
ここまで来れば彩目の気配も分かる。
地面を蹴って大きくジャンプし、そうやって上空から探すとすぐに見付ける事が出来た。
「彩目ッ!?」
「……」
すぐさま彩目の状態を確認する為に近付く。
呼吸は荒い。しかし外傷で深いものはないみたいだ。ただ吹き飛んできた石礫とかの小さな切り傷が多い。
骨・内臓、折れているのもないみたい。痣は酷いけど。
辺りを見渡し、近くに脅威となるような妖怪もいない。周囲の妖怪は全員吹き飛んだのかな…?
服装もめちゃくちゃだし、何度も転がったのか全身泥だらけだし……やれやれ。
「何はともあれ、運ばないとね……よっと」
彩目を背負う。奇しくも彼女と和解した時と同じ様に。
向かうは新居になった天狗の里近くの自宅。
安心して寝られる場所が必要だ。
「ハァ~…」
疲れた……看病とはなんて疲れるものか……。
毎回毎回、変な事故にあう私を看病していた天魔や幽香は凄いもんだよ…ホント。
彩目は既に眠っている。
さっきまで起きていたけど、能力で眠らせてあげた。
それにしても『刃物を操る程度の能力』って……明らかに私の天敵じゃん!
刃物は斬撃で『衝撃』じゃないから司れない……反射出来ない…。
…名前からすると何処かの使い魔みたいなガンダルーフかと思ったけど、見た感じは何処かのエミヤか、金ぴか王か、何処かのカミガカリのヘカトンケイルか?
何にせよ、かなり使える能力になる。私の予想通りなら無限に刃物を作れるからね。
後は…彩目の能力に対する認識力が重要ってとこかな?
彩目も彩目で放っておくのもなぁ、ダメな気がするけど……彼女の安全の為にも京には呼べないから、無理なんどけどね…。
妹紅に見せる活躍話も、この調子じゃ出来なさそうだなぁ……そもそも指名手配犯だしね。
私も寝るか……むしろ眠くなってきた…。
まだまだ陽は高いけど、全力ダッシュは久々だったしなぁ……少しばかり疲れた。
「んー……おやすみ」
ちょいと寝させていただこう…。
「オイ、起きろ。もう朝だぞ」
「…朝……ッうえっ!?」
飛び起きた。そりゃもう神速の勢いで。
外を見ると、さっき見た太陽の位置が下がっている。東の方向に。
「あちゃあ…寝過ぎたかぁ……」
「…いつ寝たんだ?」
「彩目が寝た後に」
「……」
あれ? なんか呆れられてる?
まぁ……いいや。
都に帰るのが遅くなるだけだし、やり方が分からない妹紅の修行も考える時間が出来たと考えるべきでしょ? うん。逃避とも言える。
「それはそうと、どうだい? 傷は?」
「…いや、痛まないから分からないんだが? 補助してるだろ?」
「…よく私が能力で補助をしてるのが分かったね……んじゃ解除するよ?」
気付かないだろ。って思ってたんだけど、どうやら少しばかり見くびりすぎたかな?
能力を解除。彼女の身体に掛かる衝撃を抑えていたのをやめる。
「…ツツ、流石に痛いな…」
「当たり前でしょ。私だって三日ぐらい寝たんだから」
「……誤爆でもしたのか?」
「初めて使った時にね…ハハハ」
「…そんな物を渡すなよ…」
「でも、助かったでしょ? ……ああ、能力あったっけ」
「…自覚しないで使えるか、あんなもの……補助、やはりしてくれないか? 辛い」
「そりゃそうでしょ。ほいよ」
また衝撃を抑えてあげる。完全には消さない。
そういえば……私はまだ本当は頭痛がしているんだろうなぁ。二日酔い……。
あ、そうだ。
「…ちょいと相談事なんだけど」
「……お前が?」
「…その認識、酷くない?」
悩み事なさそうに見えてたの? 眼科行く?
「ちょっとした依頼でさ? 師匠になって欲しい。っていうのを引き受けたんだけどさ」
「…ああ、志鳴徒でか」
「そうそう。それでどーも『教える』って事に慣れてない私は、その子にどうしたら良いと思う?」
「……いつも通りで良いんじゃないか?」
「いつも通りで、って……」
「お前が私に妖力の練習をしろと言ったのと同じだ。思った事を言えば良い」
はぁー、なるほどねぇ……。
あれは必要だと思ったから言ったんだけど、そういう風に妹紅に言えば良いのかな…?
……ん?
「もしかしてさ、彩目って弟子を持った事…あるの?」
「いや…私の妖怪退治の師匠が言っていた」
「そっか……ちょいと安心」
「…先を越された。とでも?」
「へっへっへ」
「オッサンの笑い方だ」
「いきなり酷くない!? ねぇ!? 変な笑い方した私が悪いのかも知れないけどさぁ!?」
「フフ……私は大丈夫だ。傷が治るまでは暫く此処にいるから。能力について考えてもみたいしな。師匠の依頼を頑張ってくれ……その依頼を放っといてわざわざ此処に来たのだろう?」
「…なんで分かったし」
「表情に出るんだよ、貴様は」
「……まぁ、確かに一日目から投げ出して来たのはヤバいよね」
「(よりにもよって一日目からか…) ……ま、まぁ、心配は有難いが私は大丈夫だ。依頼をしてこい」
「ん、補助の効果は多分一日が限度だから、夜には戻るよ」
「ああ、行ってらっしゃい」
「…ハハ」
行ってらっしゃい、ね。
彩目に詩菜の状態で言われたのは初めてだな…。
…うん、嬉しい。
「…なんだ、いきなり笑いだして?」
「いんや。行ってくるよ」
志鳴徒に変化して、妹紅の居る屋敷へ来た。
……来たのは、いいが……。
「で? お主は依頼をほっぽり出しおって、何をしておったのじゃ?」
鬼が居た。
むしろ阿修羅が、屋敷に居た。
後ろの妹紅は『説明したけどわかってくれなかった。ごめんなさい!』という意味らしきのボディランゲージーをしている。
ていうかその意味じゃなかったら俺は泣く。嘘だけど、精神的に泣く。
「い、いや! 藤原殿! これには深い訳があってだな!?」
「ほぉう? 初日から依頼よりも大切な事があったのか?」
「あ、ああ!! ちょいと家族が危機に直面してな!?」
「む? 家族? お主に家族は居らぬじゃろ? 彩目とか言う奴と同棲していたのは聴いた事はあるが」
「何で知ってる!?」
「……噂をあまり舐めない方がよいぞ?」
「また噂かよ……」
「で? 家族とは誰の事じゃ? あん?」
「いやその、ほら! 娘が居てな!?」
「ほぉう? 娘が居たのか? その身形で娘とは……やるのぅ」
墓穴掘ったぁぁー!?
藤原氏に娘が居るからなんとか同情してもらおうと考えて言った事が完全に裏目に出たよチクショウ!!
ていうかアンタ等と一緒にすんな!!
血は繋がっている可能性はあるが、最近まで憎しみの極地でしたよアイツ!?
ていうかオイ! 妹紅も何頬を赤くしてんだ!?
「ハ、ハハ…いえ、養子みたいなものですよ」
「何にせよ、お主の娘か。見てみたいものじゃのう? …わしの娘よりも優先させる辺り、尚可愛いものと見える」
やめてくれーッ!! アイツ今指名手配中!!
「ま、まぁ…本人の怪我が治ってアイツの同意が貰えましたら……ね?」
「言ったな? よし決定ぃ!!」
や っ て し ま っ た。
はしゃぐ藤原に横で崩れ落ちた俺。
こ、こいつ!! 何とかせねば……!!
と、憎々しげに藤原を見る俺の肩に手を置いた妹紅は言いました。
それはもう、心から同情するという喋り方で。
「父上はこういう事には滅法記憶力が強いので…どうしようもないかと」
「……衝撃で記憶飛ばしても良い?」
「…出来るのなら」
という事なので、やってみた。
寧ろ、やってやる。
「藤原ァ!! まずはテメェのその幻想をぶち壊す!!」
「はっはっは! かかってこい!!」
「ッ!? テッメェ!! なんで避けれる!?」
「わしに不可能はない!!」
「どこの天魔だキサマはァ!!?」
「第六天魔王にわしはなる!!」
「今度は海賊王か!? オイ逃げんな!?」
「だが断る!!」
「なんでもありかキサマ!!?」
「わしは先程から思った事しか言っておらん!!」
「もはや能力か!? 一回調査するから降りてこい!!」
「そんな事を言ってどうせわしに何かする気じゃろ!! そんなのは喰らわぬぞ!! わしは新世界の神になる!!」
「させるかァァ!! 喰らえ『衝撃刃』ァ!!」
「一般人に何をする!?」
「どの口がそんな事を言うんだテメェ!!」
「この口」
「妹紅、殺して良いかな?」
「…死ななそうにありませんけどね」
「もこうぅぅ!?」
「よっしゃ!! 『ガルーラ』ァァ!!」
「竜巻か!?」
「吹き飛べェェ!!」
「むひょ!? 屋根が削られていきよる!? あぶなっ!」
「…『あぶなっ!』で避けただと……!?」
「ふわはははっ!! そんなものか志鳴徒ォ!?」
「うるせぇ!? 何も使わずに空中後ろ捻り回転なんてしてる奴に言われたくないわ!!」
「フハハハハ!! どうした若いの!? 嫌われ者はやはりそれだけの力しか持たぬ者なのかの!?」
「ぶっ殺す!!」
「おお、怖い怖い」
「……私はどうしたらいいのでしょうか…?」