風雲の如く   作:楠乃

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饋還/昔の続き

 

 

 

 

 

 

 予想通りというか何と言うか、帰ってみれば彩目にはグチグチ言われ続け、ぬこにはぬこで何とも言えない眼で見られ続けて、天魔には逢った直後に「またか」と言われた。失礼な。

 

 それで文は、あの地底で何かがあったのか、微妙な笑顔を顔に浮かべつつ、「おかえり」と言っただけだった。

 

 ……それ以降はいつもの態度に戻ったので、まぁ……私が勇儀と戦っている時に、何かあったんだろう。多分。

 触れて欲しくなさそうな感じがしたから、それについて私から何かを言うつもりはなかった。

 

 

 

 それから更に数日が経ってから、私とぬこしかいない時に、萃香に連れられて勇儀が家に来た。

 

 表面上は回復しきったらしいけれど、実際にはまだまだ本調子ではないらしく、快気祝いのつもりで酒を勧めると酷く迷って、それから内臓系への怪我を理由に飲酒を断ってきた。

 マジで……? と私を驚かせたので、私が感じた衝撃がどれだけのものだったか。

 

 まぁ、萃香はそれを尻目にガバガバと呑み始めて、炬燵の下で勇儀に蹴られていた。

 ……鬼の膂力で、炬燵内部で蹴り合いは非常に止めて欲しい。

 全部何とか無力化したけどさ。

 

 そんな感じで、居間の炬燵で三人、適当に昔話を咲かせていた所に彩目が帰ってきた時は、それはもう、盛大に彼女は顔を引き攣らせていた。

 私と勇儀の喧嘩の一因は、彩目と文の喧嘩でもあるのだから、そりゃあまぁ……自宅で団欒してたら、荷物を床に落とすぐらいの動揺は仕方ないだろうとは思う。うん。

 そんな事は忘れてしまった、とでも言うかのように大声で笑いながら「おう彩目! 久しいねぇ。元気だったかい?」なんて言う勇儀も鬼だよねぇ……色んな意味で。

 

 それから彩目が落ち着くのを待ちながら、彼女と共にチゲ鍋を作って食べた。

 勇儀の「いやぁ、久々に食うと美味いねぇ。詩菜の料理」なんて言っていたけど、香辛料は酒よりも刺激物なんじゃないだろうかと、思わなくもない。

 それでも一度決めた事は守りたいらしく、夕食が終わった後に私が酒とツマミを晩酌として出しても、ツマミを時たま食べるだけにしている辺り、無駄に律儀なのも変わっていないらしい。

 

 

 

 そのタイミングになって、ようやく勇儀と私が約束した、家の増築の話が出てきた。

 ……正直に言えば、妹紅のことが直後にあった所為で、完全に忘れていた。

 彩目にも当然話していない訳であって、「初めて聞いたんだが……?」と睨まれたのは、まぁ……ご愛嬌ということで。

 

 何はともあれ、家主である私の意向に従うらしく────というか、彩目も部屋数が足りないとは思っていたらしく、反対する気は一切無いらしい。

 そんな風に話が進めば、当然新しい家の間取りの話にだんだんと進んでいく。

 

 何処からか彩目が取り出したかなり大きめの紙に、勇儀が非常に綺麗な線を躊躇いなく描いていく。

 勇儀が引いていく線はどれもまっすぐで、いつの間にか真上から見た家の、平面図が精緻に描かれていた。

 酔ってない鬼、スゴイ。

 

 そんな風に驚いている私と彩目を置いて、鬼二人は当然のようにこの部屋がアレであの部屋がコレで、と決めていく。

 図面を覗き込めば、恐らく今現在の間取りの、およそ1.5倍の大きさであろう図面が広がっている。配置や壁、柱の位置的に、どうやらこの家を元に作るらしい。

 

 まぁ、私としては、近頃この家に人が寄ることも多くなったのだし、客室を増やし、もっと人が入れるようにしたかった。

 出来れば、三人は同時に泊まれるぐらいが希望だったのだけれど……。

 

 ……例えスケールが狂っていたとしても、恐らくこの広さはもっと要求しても軽く収めれる面積があるのではないだろうか。

 そう考えつつも粗方主要施設の位置が(勝手に)決まった所で、鬼達が楽しげに言ってくる。

 

 「さぁ、ここからどうする?」と、訊いてくる。

 ……まぁ、ここで乗らなきゃ、『鬼ごろし』の名が廃る。関係ないけど。

 

 

 

 それでは元の要求通り、数人が同時に泊まれるぐらいの客間が欲しいと伝える。内部で別室に分けれる仕切り戸があれば更に良いかな、と伝えればサッとラインが引かれていく。

 その隣の鬼は、彼女は彼女で違う紙に、今度は真横から見た断面図をパッパッ、と描いていく。

 彼女を見て勇儀がシュッと横断するように平面図に線を書いて、端に『甲』『乙』と書けば、それをちらりと見た萃香が紙の端に同じように『甲』『乙』を書いて詳細を書いていく……。

 

 ……君たち、そういう時ののコンビネーション、凄いよね。

 もっと違う時にも発揮すべきだと私思う。

 

 これまた適当に見える手の動きで、二人が非常に滑らかできれいな線を書いていく。

 本当に酔っているのか? とすら思う。酔ってる鬼スゴイ。てかそれ、いつもの萃香じゃない?

 

 そこまで見ていた所で、今度は彩目から「文の部屋はどうだ?」という提案があった。

 昔から師弟の関係とは言え、文も半同棲状態な訳だし、なるほど。どうせなら彼女の部屋も欲しい。

 というかもう、既に客間は半分以上彼女の部屋と化しつつある。天子とかは未だに私の部屋を使おうとするからねぇ……何故か。

 そう伝えれば、何故か萃香は分かっているとでも言うかのように声を出さずに笑いつつ、客間とはまた違うつもりの部屋はポンポンと描いていく。元あるスペースを潰さないままで、無理なく部屋の間仕切りをサッと決めていく。

 ……こいつ、本当に萃香か……?

 

 

 

 それからは、彩目と二人で必要なものを思い付くまま提案していった。

 

 詩菜の部屋と志鳴徒の部屋で、私の部屋が二つぐらい欲しい。誤魔化し用に。

 そう言うと、非常に呆れた視線がぬこも含め、四つも飛んできた。

 自分自身に言う嘘じゃなくて、人生を彩るための嘘なんだから、そこらは多めに見てよ。と甘えようとしたら鬼の二人から蹴られた。無効化したけど、理不尽な。

 

 まぁ、炬燵の上に広げられた手書きとは思えない精度の家設計図に、萃香のペンを奪って無理矢理私の部屋を二つ捩じ込んでしまえば、────諦めたように溜め息を三つ吐かれたけど────何とか容認して貰えた。

 さぁて、誤魔化す用に色々と私物を増やさにゃねぇ……と呟いたら、「酷い悪党顔してる」とぬこに言われた。

 萃香が何故かツボに入って爆笑してる。炬燵内部で脛を蹴った。

 「イッタぁ!?」と叫んでるが、知らん。

 

 あと「天魔の部屋はどうする? 隣に作っておこうかい? 勿論いつでも壁は壊せるようにしておくから」とかニヤニヤしながら訊かれたので、「要らないんですけど?」とか笑顔で言い切って、勇儀の爪のみを蹴りぬいた。

 「ひぎッぃ!?」と勇儀らしくない悲鳴を上げていた。ざまぁみろ。

 

 

 

 あらかた家の構造、設計が決まった所で、勇儀から「そういえば、普通に増改築で良いのかい?」と訊かれた。

 寧ろ普通以外に一体何があるのかが気になったけれど、普通の増改築をするつもりだ。

 

 私としては今ある雰囲気や空気感のままで、もう少し客が入っても大丈夫な感じにしたい、という希望ということを伝えると、「……変わったねぇ」と、しみじみと呟かれた。萃香も頷いてるし、彩目も苦笑いしてくる。

 ……今の会話でそんな実感する部分あったかねぇ……?

 

 そんな謎の空気になってしまった所で、慌てたように彩目が「それじゃあ荷物はどうする? それまで何処に住む?」という疑問点を出してきた。

 そこはまぁ、考えていなかった、というのが本音で、「何とかする」と答えると、また呆れたように溜め息を吐かれた。本当に行き当たりばっかりなのは、仕方ない。

 

 とは言え、私が出来そうな事と言ったら、スキマを使った物件まるごと移動か、もしくは内部の荷物をスキマに保存、引っ越しというぐらいだ。

 ……正直な所、今の紫に何か頼み事をするのは嫌な予感がするので、あまりしたくはない。

 

 彩目からの代替案としては、彩目が人里に泊まる時のように母親殿もこちらに来るか? という案も出た。

 勇儀は、地底に来るか?

 そして萃香は、神社に来るか? と。

 ………………何をそんなに競い合ってるんだ君達は。

 

 まず人里は妹紅に逢いそうでパス。

 彩目だけなら多分あの場所で数週間ぐらいは保つだろうけれど……今の私は、ちとヤバイ。

 

 それから神社は、多分霊夢が許さないだろう。

 そう返せば「まあまあ、そうかも知れないけどさ?」なんて萃香は苦笑していた。彩目もこれには引き攣った顔をしていた。

 

 下手すりゃ本気で命まで狙われかねない所に泊まるのは、流石にどうかと思う。

 そんな会話をしていた私達を見る勇儀は、(ああ、コイツまた嫌われてんだな……)って納得して同情するような顔をしていた。

 不愉快である。

 

 最後に勇儀。私としても、地底に引っ込んでしまった旧知の鬼に会いたいとは思うけれど、地底に泊まるとなると少し尻込みしてしまう。

 鬼の大群に襲われ負けたことは何度かあるので、それの再挑戦というのもしてみたい気はするけども……いや、あの千切って投げても効果がない徒労感と恐怖は二度と味わいたくないな。

 

 

 

 そういう訳で、泊まる場所についても考えておくとだけ返しておく。

 とは言えその気になれば泊めてくれそうな人や場所は幾つもあるのだから、そこらを転々としても良い気もする。

 紅魔館とか、魔理沙宅とか、文宅とか。

 まぁ……最終手段としては天魔宅か。ああ、貞淑の危機……。

 ………………いや、こんな事をナチュラルに考えるから、勇儀とかにいじられるのだという事も、分かっちゃあいるんだけどさ。

 

 

 

 何はともあれ、荷物の移動に関してはスキマを活用するしかないだろう。アレほど都合の良い能力もないのだから。

 

 まぁ、勇儀達によるリフォームがどれくらい掛かるかによって、その保存期間も変わる。

 意地悪げに、「当然、依頼主の希望よりも早く仕上げてくれるよね?」と問い掛けてみれば、二人揃って「「当然!」」と返してくれた。

 ……こういう所がチョロいんだよなぁ、鬼。とか思ったのは内緒。

 

 

 

 

 

 




 自ブログでアンケートしてます(アレをアンケートと呼ぶのは間違ってると思うけど)




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