《指数えごっこ》挑戦者が現れた!
「え? じゃあ、萃香はあの『おまじない』解けたのか?」
「ええ? だってそこまで複雑な呪術式でもないじゃん。そこらの木葉天狗の子供たちがやってる弾幕ごっこの方がよっぽど難しいでしょ」
「……まぁ、教えたとは言え、人間の子供に理解できる指遊びだし」
チゲ鍋の最中、ようやく彩目が勇儀に慣れて、普通の会話が出来るようになった。
なったは良いけど、結局昔の話は一切せずに、私に関する近況の話ばっかりするのはどうなんだい君達。
良いけどさ……良いけど、目の前で私に対して三人であーだこーだ言うのはどうかと思うよ……? こちとら一四〇〇年も生きてるのに褒められ慣れてないんだぞ? くそう。何で喧嘩して入院してた相手からそんな褒められんといかんのだクソぅ。
まぁ、閑話休題。
いつの間にか話題は流れて、いつぞやに彩目に宿題として出した『おまじない』の話になった。
……うーん、そろそろこれ、名前を付けて、本当に術式言語にしても良いかな。
表現できるの十進数しか無いんだけどさ。
そしてそのおまじないをあっさり解いているという萃香に対して、これまた彩目が瞠目している。
妖術の鬼ですよ彼女。色んな意味で。そりゃあ解けるでしょ。
兎も角、そんな状態の彩目と萃香に対して、ちびちびと白菜と肉を食べてた勇儀が、これまた訝しげに問いかけてくる。
豪快に食べない辺りが違和感しか無いのは、まぁ、置いといて。
「……さっきから聴いてるけど、何の話だい?」
「大昔に私が思い付いたしょうもない遊びの話。こないだふと思い付いて彩目に問題として出したんだけど、未だに解けてないのよこの娘」
「いや、そう言うけどな……?」
「へぇ、どんな問題?」
確か萃香に話した時も、酒のつまみ程度に思い付いて話して、半日前後で解かれてた気がするんだけどなぁ……。
ま、勇儀もどういう風に解いていくか、気になるは気になる。
「萃香は口出ししないでよ?」
「しないしない。頭が良い悪い関係ない問題だし、ちょっかいを出す気にもならないよ」
「ん、それなら……」
まぁ、まずは目の前の人物から。
「例えば、《
「ほう」「それは分かる」
「じゃあ、《
「うん……うん」「それも分かる」
まーここで躓かれると寧ろ困る。
「えーと、『
「あれ、10じゃないの?」
「あー、まぁ、文字にもよるかな。数字の《4
「「???」」
おっと、いきなり高難易度問題を出題してしまったか……。
……いや、彩目は流石にそろそろ理解してよ、とすら思うけれど……。
「それじゃあ、そうだなぁ……さっきみたいに、色々混ざりすぎると難易度跳ね上がるけど、ある程度は混ざらないと例文にならないからなぁ……」
「《チゲ
「うん」「うん?」
「……同じ言葉なのに、この語尾の高さの違いよ……」
「まぁ、初めは理解しようがないと思うよ。私も」
「それは、そうかもだけどさぁ……ああ、《キムチ
「「……」」
遂に箸まで止まった彩目は無視しつつ、私と萃香はひょいひょいと肉を取っていく。
勇儀も完全に止まっている訳ではないが、その箸の進みからは先程よりも更に遅くなっている。
いやぁ、そんな考え込むような問題じゃないんだけどなぁ……。
本当に、それこそ歌いながらでも数えれる遊びなんだけどなぁ……。
というか、やっぱりちょっかい出してるじゃないか、萃香さぁん……。
「一つ、質問良いか?」
「ハイ勇儀さん」
「その『おまじない』って奴じゃ表現できないものはあるか?」
「基本的には日本語のみ。アラビア文字とかインドの文字とかは……まぁ、ローマ字として数えれば良いんじゃない? そもそもどういう体系なのか知らないから、どうとも言えないけど」
「それじゃあ、日本語であるなら、如何様にも数えられる?」
「《それじゃあ、》は13、《
《
「「……」」
わざわざ頑張って妖力を粒子状に展開した文字まで出して説明したのに、教え子たちは無反応である。
萃香だけは「ああ、ようやくそういうの出来るようになったんだ」と反応してくれる。
ようやくって何さ。ようやくだよ畜生。
そんな感じで萃香を睨んでいると、ふと指先で私が展開した妖力をふと指先で触れた。
次の瞬間には、触れた読点《、》が、私のコントロールを離れて、萃香の指先に引っ張られるように移動していく。
「このおまじないの嫌らしい所は、区切る部分を変えるだけで値が変わることだよね」
「だってそういう法則だし……」
萃香が指先を離すと、読点のコントロールが急に戻ってきた辺り、本当に術式の鬼というべきなのだろうか……。
まぁ、多分、能力の密と疎を操ったんだろうけどさ。
「……《それじゃあ》《、
「ん、《それじゃあ》は8、《、
《、
「ん?」「はぁ?」
「さっきの《キムチ
「それどういう意味さ」
「ひねくれてるって意味」
「失礼な……何もひねってないじゃん。数えてるだけだし」
「そのやり方がだよ」
こんなの、人間の10歳程度の時に思い付いた簡単な指遊びなのに……。
そんな子供が思い付くんだから、ひねくれている訳ないじゃないか。
……いや、そもそも、そんな時からひねくれていた、って事なのか……?
「……文字の順番にも関係しているのか?」
「順番って、そもそも始めから決まってるじゃん。《キムチ
まぁ、発案者の私からすれば、ちゃんちゃらおかしい。という所。
『あいうえお』と喋るのに、『お』から喋るのか? と訊かれているような気分だ。うん。今のは比喩表現が下手だと思うけれど。
「後は……《
「私の、《
「彩目の、《
「……いや、わからん」
「単純な足し算なのに……」
……ん、何か言ってて違和感が………………ああ!
「そういえば前回は、能力名にかぎ括弧付けてたっけね。
《『
《『
《『
「前回はそんな面倒なことしてたの?」
「彩目への例題だったから、分かりやすくかぎ括弧付けたんだよ。計算一気に面倒になるけど、ある意味分かりやすいかなって」
「それ、結局記号の意味が分かんなくて固定の値を足してるだけと勘違いされない?」
「多分されてる」
「……じゃあ意味ないじゃん」
「いや、そこは自力で一番気付いてほしい、っていうか、おまじないの法則の肝だし……」
そもそもこのおまじないを限りなく細分化しても、一番大きい値は3なのだから、かぎ括弧イコール11では決して無いんだけど……。
「……ちなみに訊くが」
「果たしてそれは『ちなみに』ではないと思うんだけど、ハイ彩目さん」
「そのかぎ括弧だけだったら、合計は幾つなんだ?」
「《『』》なら6」
「……」
「ちなみに、《『》は5」
「………………」
「更に言うなら、《』』》は6」
「あー、もう、わからんっ!!」
彩目が発狂しておられる。
それに比べて、勇儀は深く悩み見始めている。
……君たち、鍋をほとんど私達が食い切ってるんだけど、良いのかね?
いや、もうお腹いっぱいならそれはそれで良いんだけど……山の四天王二人が参加するって言うんで、結構な量作ったんだけど、これはまた翌日に持ち越しかなぁ……。
「ちなみに、何だが」
「だからそれは『ちなみに』ではないと思うだけど、ハイ勇儀さん」
「────私の奥義の、《三
「お?」
問題を出している身としては、解けかかっている相手を見るのが一番楽しいと思う。
「さっきの四天王と同じだね。算用数字なら14、漢数字なら10だ」
「ははーん、大体分かってきた。《1885》は6だろ? で、《1885年》なら11だ」
「大正解。でもなんでそんな数字?」
「あん? アンタと私が喧嘩した年だよ」
「……」
今更蒸し返すのは卑怯じゃないかなぁ……。
まぁ、なんやかんやで完全に理解したらしい勇儀が、怒涛の勢いで鍋を食べ切ってくれたお陰で、翌日に回すという事にはならなくなった。
明日また全員分の朝食を作らねばならない、というのは些か面倒ではあるけれど、まぁ、それは仕方ない。私が起こした事件でもある訳だからね。
……それにしたって、彩目はいつこれを解いてくれるのかなぁ……。
挑戦者はやられてしまった……!
ブログの方に挑戦者が来てくれたのですが、残念。不正解でした……。
という訳で、パッと書いてパッと更新。執筆時間多分3時間前後。
フハハハ、精々悩むんだな!!
あ、ちなみに前話より少し時間がさかのぼってます。具体的には家の増改築の話が出ていない頃合い。
2018/08/24 11:05
計算ミスを修正。