みんな大好きあのシスターズ登場の話だぞ☆
「ん?」
新しい家の見取りを決めていく話も一段落し、そろそろ日付も変わる頃合いになった時に、ふと違和感を覚えた。
「どうした?」
勇儀からの問いに答えず、炬燵から立ち上がって縁側へと続く障子を開く。
当然外は一面の雪で、深夜遅くという事もあり光源は見当たらず、そして『彼女』の後ろにある、遠くの空に星が瞬いている。
それよりも手前に居る、帽子を被った、同じ身長くらいの女の子が一人。
「こんにちわ! 貴女が例の『鬼ごろし』さん?」
「……こんばんわ。そっちは最近あんまり名乗ってないけど、私が詩菜で間違いないよ?」
黄色のリボンを巻いた黒地のハット。その下から覗く緑がかった髪。
黄色い服に花の図柄が入ったスカートに、身体に絡まる管と、その途中にある閉じた瞳。
口調とその佇まいは、年相応の少女らしい雰囲気を表している。
手は後ろの腰で組み、目線の位置が同じの私に対して、少し屈んで上目遣いをしている辺り、その行動は狙っているんじゃないかとも思う。
ただ、身体に巻き付くその異形。
そして、何よりも、その瞳。
焦点は合っていても、何も映していないかのような、瞳。
それが、酷く、何処かで見たことのあるような気がして、まじまじと見てしまった。
何処かで見たような、退廃的で、無機質で、透明で、うつろな瞳。
私は、何処かで『コレ』を視たことがある。
それも、つい最近────いや、何処かで、良く見ていた、ような……?
「────どうしたの?」
「! ……いや、なんでもないよ。それで……」
「お? こいしじゃないか」
一体何の用?
そう続けようとした所で、上から覗き込む形で勇儀が入ってきた。
名前を知っている、って事は……。
「あっ、勇儀のおねーさんだ」
「知り合い?」
「ああ、地底にある地霊殿の主人の、その妹だ」
「へぇ……まぁ、とりあえず、中に入りなよ」
私に用があるみたいだし、寒い外で話をするのもアレだろう。
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私の家にある炬燵は、それなりに大きいサイズだ。
まぁ、元より天魔や彩目が入ることも考えて河童達に作ってもらった暖房器具なのだから、成人女性以上の勇儀に彩目が入った所で、そこまで狭くなる訳ではない。
ただそれは四人目までの話であって、正方形の辺の一つに一人が限界というだけであって……五人目のその『こいし』さんとやらが入るとなると、どうしても誰かが窮屈な気分を味合わなければならない。
具体的には、右側に座る萃香と勇儀が。
「勇儀ぃ、この手はなんだ?」
「すまん。抱きやすくてな?」
「あっはっはっ……あぁん?」
具体的には、萃香が勇儀に後ろから抱えられる形で、膝に座っている。
私と彩目は家主な訳であって、こいしが話したい相手は私であるのだから、対面はこいしと私だし、彩目は体格的にも相席には出来ないだろう。
……青筋浮かべた萃香の手によって、自分を抱いている勇儀の腕をミチミチ言わせているのは、気にしないでおこうと思う。
肉が断裂してる音がしてるのに、それを笑って無視してる勇儀も勇儀だけどさぁ……。
まぁ、まだどうでもいいか。
彩目が『大丈夫かアレ』みたいなスゴイ視線を飛ばしてくるけど、知らん。
無視だ無視。
「それで? 私に用があるみたいだけど」
「そう! 私は『
「あー……神奈子の事かな……?」
そのこめいじとやらは、ハキハキとした喋り方をする割には、その瞳の色は変わらず何も映していないように見える。
何と言うか、その瞳だけがやけに、既視感を覚える。
……やけに、というか、絶対に何処かで見たことのある瞳だ。
私はこの眼を、いつかに見たことがある。
それを思い出せない。覚えていないのが……何か、胸をざわつかせる。
「────どうしたの? さっきから私をじっと見ちゃって。見惚れちゃった?」
「……いんや……何処かで逢った事、ない?」
「あれ、『鬼ごろし』とか呼ばれているのに私なんかをナンパしちゃうの? 随分と訊いた話と違うね?」
「……いや、そんなつもりは更々無いんだけどさ」
確かにそんな誘い文句もあるかもしれないけど、そんな気はこれっぽっちもない……いや、そんな眼を持った古明地の雰囲気は私的にはレベル高くて、好みと言えば好みなんだけどさ?
だからその『こいつマジか』とか『流石は理解不能』とか、そういう眼で見るな鬼ども。
娘も震えるレベルで動揺すんなし。
「……まぁ、いいか。私も逢った記憶はないし」
「じゃあ本当にナンパ?」
「そんなつもりは更々無いよお嬢さん。ご用件は何かな?」
「ふぅん? じゃあ家令さんは知ってる? 私のお姉ちゃんの、そのペットにとんでもない力を宿した、っていう話」
「……いいや」
家令て……とか思いつつ、否定の言葉を返す。
正直私は、神奈子、諏訪子とはあまり逢わない。
故に、彼女達が何をしているか、文や天魔経由でしか滅多に知らないし、聴く事もほとんどない。
私と彼女達が住んでいる場所が、それぞれ山の麓とてっぺん近く、というのもあるし────何よりも、山の中で言えば神の役職が少なからず被っている、というのもある。
神奈子の持つ能力は『乾を創造する程度の能力』、天を操り、山坂と湖そのものを意味する。
私は『風雨と旅の神』、人の歩む道を指し示す塞神。
まぁ、少なからず属性として『風神』というのは被っている訳だ。
互いに良き関係では居たいけれど、神としては互いに無関係で居たい。そう考えると、まぁ、近付く訳にもいかない……妹紅とは、違う理由であまり逢いに行けない。
何はともあれ、そんな訳で逢おうともそれほど思わないし、行動範囲も重なったりもしないため、逢う機会なんてそれこそ幻想郷に越してきてからは年に数回程度だ。
とは言え、昔は共に住んでいた事もあるし、旧知の仲ということで性格というのも良く知っている。
そう言う類の友人でもある。いや友神かな? どうでもいいけど。
まぁ、そんな訳で、私が思うことはただ一つ。
……あの神達は、何をやってんの?
「まぁ……あの二柱とはそれなりに古い付き合いだし、やりそうな事ではあるけど、それで?」
「それでね家令さん。この間、話を付けに行こうと思ったんだけど、結局逢えなかったの」
「へえ」
いつまで家令さんと呼び続けるんだろう……と思わなくもない。
まぁ……一緒に住んでいた時から、あの二柱はそれなりに行動力の高い御仁だったのは覚えている。
新しいもの好きというのもあるし、試したがりというのも分かる。神殿を留守にして信仰集めというのも昔は多々あった。
その信仰してくれている民のために、という行動の優先度も間違えない、本当の神だ。
少なくとも、私のような中途半端な存在ではない────と言うか、寧ろ、私なんかと比べることも失礼だろう。多分。
「そしたらその神様に逢いに来たっていう魔女達と逢ってね! 弾幕ごっこ、びっくりするぐらい面白かった!」
「魔女達……魔理沙かな? ……ん、魔女『達』?」
「ん〜、変な人形があって、そこから声が聴こえてくるの。魔法がどうたら、って」
「あ、あー……なるほど」
……んん? それじゃあ、わざわざ山の上に行った時も、紅魔館から通信していたの?
パチュリーなら兎も角、アリスは一緒に行動しそうなもんだけど……。
それを言うなら、にとりも自分が住んでる山だろうに、と思わなくもない。
まぁ、どこぞの巫女のような高位妖怪がバックアップをしていた訳ではないようだし、古明地相手に弾幕ごっことかで遊んでいたのだろう。多分。
……飛べない私にとって、弾幕ごっこが面白かっただなんて、『ふーん、それで?』という反応でオシマイなんだけどさ。
それにしたって、古明地の姉のペットに力を与える、ねぇ……。
「まぁ……他人に力を与えるなんて事なら、私も今までにも何回かやった事はあるけれど」
「へえ! ねえねえ。私のペットにも出来る?」
「いんやぁ、難しいんじゃない? その古明地のお姉さんのペットがどれだけの力を持ったかも分かりゃあしないけど、私が与えるような力はそんな直接な力じゃあないし……」
────それこそ、彩目みたいに、文字通り『直接』与えでもしない限り。
流石にその後の言葉を言うつもりはないけど、私がどういう言葉を濁したのか、当の本人が少しだけ俯いたのが、視界の端に見えた。
……まぁ、娘との関係性に後悔はあるけれど、やり直したいとは思わない。
なるようになったし、今のこの関係が良いんだから。
とは言え、そんな内心を初めて逢う他人に言うつもりはない。
付き合いが長い鬼達二人には、彩目の行動に気が付いたのか、少し不思議がっているようだけれど、こんな事を鬼に言うつもりもない。
娘と、親子の話だ。部外者に話す事じゃあない。
彩目や鬼達に何も気付かなかった振りをして、そのまま話を続ける。
あんな話をした所で、意味がない。
「『私』という神が授けるのは、自分が選んだ旅路が、少しでも自分で納得できるよう、運と少しの先見の明を持たせる程度だよ」
「えぇ〜? じゃあ超火力とか再現できたりしない?」
「……私自身がある程度の火力持ってるけど、流石に他人に与えたりはしないよ」
緋色玉ぐらいなら貸すけど、取り扱いに関しては貸した本人に任せる。自爆しようが破滅しようが知らない。
事実、結構昔に天狗で自滅した奴が過去に何人か居るけどね。
それ以外で何か他人に貸せるものなんて、多分私は持っていない。
あくまで私が出来ることは、私が出来る範囲で手を貸す程度の、裏方か、参謀程度だ。多分。
そう私が内心納得したのに気付いたのか、向かい側で座る古明地はやけに不満そうな顔を浮かべてぶーぶー言い始めた。
「ちぇ〜、折角来たのに、何も得られないなんて、残念」
「……」
そう言う表情は残念そうな色をしているんだけど、ねぇ……。
……瞳の色は、何も変わってないんだよね。何も感じていないかのような、そんな色。
………………なるほど。
────私が妹紅から逃げ出して、永琳と輝夜とも別れて、酷い精神状態で旅してた時に見た、自分の顔に、瞳だけがそっくりだ。
ああ、何処かで見たような気がしていたのも当然だ。
私が鬱の時の瞳と、そっくりなのだから。
「……こいしさん、だっけ?」
「呼び捨てでいいよー、私も詩菜、って呼ぶし」
「そう────ちなみに、こいしは何の妖怪?」
「私? 私は妖怪『
「……へぇ」
心の読めない覚り妖怪なんて、アイデンティティのないような状態だろう。
多分、本当に存在意義すらあやふやにしないといけない、『訳』があったんだろう。
どうしようもない、向かい合うこともままならないような、そんな事態が。
その瞳を知っていて、自覚している私は、多分、手を貸すどころか、知ろうと近付いただけでも、影響を受けてしまいそうな……無機質で、何も映らなすぎている眼だ。
天子が私という妖怪に対して、致命的な攻撃方法を持っていると言えるなら────この子は多分、私という存在に対して、鏡のように相反する存在、なのかもしれない。
多分、近くて、似ていて、それでも、近付き過ぎちゃダメな存在だ。
「やっぱり────さっきから私ばっかり見てるね? 本当に惚れちゃった?」
「……見た目だけなら好みなのは本当だけど」
「「ええっ」!?」
まぁ、自滅するような甘い罠に誘われちゃうのも私よねぇ?
多分感想は『違う、そうじゃない。だが、良いぞもっとやれ』とかになるに違いない()