風雲の如く   作:楠乃

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『魔』に通じる道のり

 

 あれだけ格好良く……格好良いどころじゃないと思うけど、そんなことは置いといて、あんな気障な感じで図書室から出て行ったくせに、結局出口までの道程が分からず、通り掛かった咲夜に助けられている辺り、どうしようもないなぁ、と思う。

 

 というか、むしろどうしてこうも迷うのかが分からない……レミリアに言ったことじゃないけど、私自身は方向音痴でないし、その権能が私自身には適応されないとは言え、旅路については詳しい筈なんだけどねぇ……。

 咲夜の能力で広くしているって話だけど、時空間による拡張は本当に方向感覚を狂わしているのかね……それならそれで、紫のスキマでも迷いそうなものだけど、アレはアレで迷うもなにもないしなぁ。

 

 

 

 何はともあれ、紅魔館から咲夜と美鈴に見送られながら、妖怪の山────ではなく、

 少し方向を逸らして、魔法の森に向かう。

 

 まぁ、今日の主目的は地底での一件でお世話になった人への挨拶だ。

 

 もちろん、副目的もあるけどね。

 

 

 

 

 

 

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 本日も相変わらず霧で煙る湖を横目に、ぼんやりとしながら歩いていく。

 目的地は魔法の森のアリス、それから霧雨魔理沙店だ。

 

 まぁ、誘導したとは言え、魔女から教えてほしかったことも予想以上に収穫が出た。

 魔術観点からの封印術、刻印術、更にそれらの解法まで、今日は本当に勉強になっている。

 

 これでまだお昼すぎだというのだから恐ろしい、とばかりに太陽を見上げる。

 

 

 

 霧の湖で空なんて見上げてもロクに何も見えやしないけど────という私の予想は外れて、遥か上空で弾幕ごっこをしている何者かが居る。

 

 あまりにも上空過ぎて私の探知にも引っ掛からなかったほどだ。

 ……私の探知能力が落ちた、とは考えたくはない。

 

 

 

 歩きながら、またぼんやりと上空の弾幕ごっこを観察する。

 湖に住む妖精と誰かが遊んでいるのかとも思っていたけれど、それにしてはやけに威力が高そうに見える。

 

 いや、霧で正直何も見えないけれど、チルノが遊んでいるにしては気温の変化や空気の変化を感じないし、彼女があまり使用しないレーザーがたまに飛んでいたりする。

 あんまりにも朧気だし、気配を探ろうにも霧の影響なのかやけに鈍い。

 

 うーん、ここから衝撃を放ってソナー探知すれば誰なのか一発で分かるんだけど、間違いなく向こうにも探られたと分かるだろうし、喧嘩の最中に横槍をするのも、ねぇ……あ、喧嘩じゃなくてごっこ遊びか。

 

 

 

 まぁ、余波なんて到底届く筈のない距離だし、どうやら移動しながらやりあっているみたいで、私の進行方向とは重ならないみたいだ。

 ここは軽くスルーしておくのがベストだろう。

 ついこの間まで昏倒してたのだし、大人しくしてましょ。

 

 そんな大人しくしてるべきヒトは、魔女の全力を避け続けて逃げ切るなんてしないと思うがね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういう訳で、上空の弾幕ごっこを無視して、歩きながら魔術を起動させる。

 妖力で魔力を発生させ、生成された魔力を元に魔術式を起動する。

 起動させた魔術式、開発・解析・確認用の術式越しに、私にしか翻訳できない術式言語を立ち上げる。

 ……まぁ、多分紫や彩目とか天魔とかなら、多少読めるとは思うけど。

 

 

 

 何はともあれ、先程作り上げた《土金符『オプシディアンシール』》の解法魔術式を言語として起動する。

 さっきはほぼほぼ感覚として組んじゃったから、こうして文字列として認識すると発見が幾つも見付かるから開発は止められない。

 ……あ、あの解法の形状、黒曜石の形だったのか。単純なのかそうじゃないのか……。

 

 解析はそれぐらいにしておいて、今度はその対となる封印術式を言語として立ち上げる。

 これは、パチュリーが放っていたスペルそのままではなく、私が視た部分のみ、私が再現できる範囲で書いた術式だ。

 恐らく吸血鬼の腕力を完封してしまう本家ほどの効力はでないかもだけど、まぁ、解析出来た範囲で再現できる部分は全てできた。

 

 流石に実行はできないけどね。

 発動させても私の妖力、魔力だと本来の威力はでないし、まず弾幕としてあの黒い弾を作成できないのがなぁ……。

 

 そんなことも脳裏で思いつつ、知りたかった部分をピックアップしていき、新たに術式としてまとめ上げていく。

 弾幕の反射作用とか、別に知りたかった情報でもないけどそういう反射の法則もあるのか。鉱物も中々に面白いから困るんだよねぇ……興味を持ってしまう範囲が広くて困る。

 

 

 

 

 

 

 閑話休題。ようやく欲しかった術式が手に入った。

 いや、元々知っている術式ではあったけど、簡略化、かつ応用が効く新しい方程式が欲しくて、ようやく今日パチュリーから学ぶことが出来た。

 

 周囲を確認してみる。湖は既に離れて、見える範囲に魔法の森が見える。

 

 霧に遮られてないから、遠くから見ている者が居るなら見られてもおかしくはない位置。

 まぁ、そんな視線も感じないし、何かの衝撃も感じないし、監視は恐らくないだろう。こいしみたいな私の能力を無視できる奴なら無理だろうけど。

 

 いつぞや天子に見せた魔術式を起動。

 

 魔術式起動開始。

 効果作用範囲設定、具現化設定、作用位置設定。

 変換開始、作用開始、物理判定開始。

 魔術式継続設定、開始。

 

 

 

 周囲への探知、警戒術式を完全にオフにして、目の前に再現した20cmほどの人形を再現する。

 真緑色に輝く粒子で構成された、フィギュアが目の前に生成されると同時に、先程作り上げた術式を入力し、更新していく。

 

 今まで使用していた固定化のバージョンアップだ。

 うん……まぁ、今までよりかは、簡略化できた、かな?

 ……うん、恐らく自宅の結界運用しつつ作業ぐらいなら出来そう。

 

 

 

 ふと思いついて、いつぞやのように物理判定を付与し、重力判定のコメント化を解除してみる。

 

 途端にふよふよと浮いていたフィギュアは、重力に引かれて落下。

 地面に激突し、砕けたり霧散することなく、地面に足がまるごと突き刺さった。

 

 今までなら、1mほどの高さであっても粉砕されていた筈だ。

 それに物理判定の制御で演算の処理が止まり、術式そのものが霧散することもない。

 

 粒子の状態、ログを全て保存し終え、魔術そのものを全て終了してみれば、粒子は全て空気に溶けていき、土に深く穿たれた穴が残るだけとなった。

 

 

 

 うーん、予想以上の収穫になったかもしれない……。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 流石に術式を立ち上げて無警戒状態で魔法の森を歩くほど馬鹿じゃない。

 とは言え、脳内で妄想というの名の術式考案はしながら、のんびりと森を歩く。

 

 相も変わらず周囲は瘴気に溢れかえっていて、視界を遮らない程に魔の靄が掛かっている。

 時刻としてはまだお昼下がりな筈なのに、ジメジメとして薄暗くて、どこもかしこも陰鬱としている。

 

 まぁ、理性のなさそうな樹人が襲ってくるのはいつものことだから別にどうでもよくて、頭を木の(バット)で殴られた所で別に、その衝撃を無意識で全反射してしまえば、攻撃した樹人が粉々になる訳であって……うーん、実に黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)

 

 

 

 ……ふと、眼に当たりそうな木のムチを右手で反射した所で、目の前に上がった右手に気付く。

 

 魔法の森に住むアリスの魔術式と癒着した刻印が、私の右手の親指以外に埋め込まれている訳だけれど、果たして魔力を高めれる瘴気は、この右手の刻印にも効果はあるのだろうか?

 

 けれど、右手の指に注視して、ようやく見えるその無意識に作り出されている魔力の粒子は、別段魔法の森に居るからと言って何か変わった様子はない。

 

 ……さっきから腕をペシペシ叩いてくるつるのムチが非常に鬱陶しいので、掲げたままだった右手を勢い良く振り下ろし、風の刃で八つ裂きにして始末する。

 樹木に寄生してつるのムチを伸ばすだけの理性のない化け物花なんてただの的だ。

 

 

 

 まぁ、いつものように爪を立て、殺すつもりの攻撃をした所で刻印式には何の反応もない。

 

 

 

 うーん………………ああ、そもそも瘴気に触れてないからか。

 いや、普通に一切の反応がないだけかと思ってた。

 

 でっかい木の根っこを乗り越えつつ、右手をまっすぐ伸ばしてみる。

 自身を覆っていた、瘴気のみを弾き新鮮な空気のみを取り込む術式の範囲を調整し、右腕の肘より先を膜からはみ出るように調整する。

 

 

 

 以前、確か幻想郷に来てはじめての冬だから、約一年前ほどかな。

 魔理沙の家に向かう途中で、気まぐれに空気の膜を全部解除し、一気に瘴気を吸収したことがあった。

 たしかその時は猛烈なめまい、発汗、痙攣が起きて、後々に鬱な気分になるという症状まで起きたのを覚えている。

 

 肘から先に瘴気が触れただけで、徐々に毒に感染していくように末端から熱が奪い去られていくような感覚が這ってくる。

 雪や冷蔵庫に腕を突っ込んでいるような感覚的な寒さではなく、肉ごと持っていかれていくような冷たさが、腕の芯と外から同時にやってくるような、得も言われぬ凍える感覚。

 

 手首や前腕は寒さで震えが起き始めている────というのに、

 

 

 

 魔術式が埋め込まれている、人差し指、中指、薬指、小指、その指だけが異常な程に熱を放っている。

 正しくは、肉体に影響が起きるほどに魔力を発生する程に、魔術式が活性化している。

 周囲の瘴気を吸い取るかの如く、空気ごと取り込んでは指と爪の間から周囲に魔力を生み出し続けて、放出と吸収に耐えきれず、遂には小指の爪は割れ始めている。

 

 その爪を補修するように、粒子状の魔力が爪の形にまとまっていく。

 今まで肉体の修復としては一切使ってこなかった筈の魔力が、意識せずに回復へと使われていく。

 

 元々内側作用していた、妖怪としての回復作用も重なってか、割れた爪はいつものように回復し終わって、小指の修復が終わったと同時に、今度は薬指の爪がまた割れていく。

 

 痛い、と思うことはあっても、全く操作していないこの魔術式がどこまで作用していくのかが非常に気になって、そのまま右手を突き出したまま、アリスの家へとほぼ無心になって歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 


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